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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第110号

◆技術のおもて側、生活のうら側 2017年8月31日 第110号

こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。

 【配管内清掃工具から生まれた「超」技術の数々】

はじめに

  • 今回は、富山県を拠点に、洗浄機械からナノ素材開発まで、画期的な技術開発を続ける「株式会社スギノマシン」を紹介する。
  • 今から約80年前の1936年、「株式会社スギノマシン」の前身となる「杉野クリーナー製作所」が大阪で創業。ボイラーや熱交換器などのチューブ内に付着したさびやゴミを除去する配管内清掃工具(チューブクリーナー)を開発・製造・販売する会社としてスタートした。ポンプによって空気あるいは水に圧力をかけ、チューブクリーナーの先端のヘッドを回転させることにより汚れを除去する工具である。その後、第2界大戦による空襲激化により、創業者の生まれ故郷である富山県魚津市に本社を移転し、現在に至っている。 
  • スギノマシンは、この技術を出発点として、(1)「高圧水」による切断、洗浄、粉砕の技術、(2)「「空気圧」による穴あけ、ねじ立て、加工などの削る技術のほか、(3)金属をローラで押し、滑らかに仕上げる「鏡面加工技術」や、(4)原子力発電所における「検査・保全・補修ロボット技術」、の開発へと発展を遂げている。その活用分野は多岐にわたり、自動車、航空機、医薬品、化粧品、建設、電子機器、食品、エネルギーなど様々な生産現場で革新を起こしている。
  • チューブクリーナーを原点とした技術は、「切る」「削る」「洗う」「磨く」「砕く」「ほぐす」の「超」技術へと拡がり、同社の強みを確固たるものとしている。

高圧水技術

  • 高圧水技術については、さらにいくつかの技術へと進化を続けている。
  • 1つは、機械部品などの加工の際に発生したバリや切りくずを高圧水によって洗浄、除去する技術である。
  • 水を2,500気圧程度まで加圧し、噴射することによって、切りくずを除去する。また水中で噴射することによってキャビテーション(圧力差によって液体に気泡が発生する現象)を発生させ、この気泡が消滅する際の衝撃も洗浄・バリ取りに活用している。
  • 同社が製造する高圧水洗浄装置は、自動車のエンジンやトランスミッションなどの洗浄に使われており、世界の主要自動車メーカーのほぼ全てにこの装置を納入している。以前は新車を購入すると、しばらくの間はならし運転をしてオイルにエンジン内部のゴミを出させる必要があったが、同社の高圧水洗浄装置が普及するようになり、こうした問題も今ではほとんどなくなっている。メンテナンスフリーの自動車生産を支えているといえよう。
  • 2つめは、ウォータージェットカッターである。水圧を最高6,000気圧まで加圧し、直径0.1mmのノズルから噴射することにより、水を鋭利な刃物として利用する技術である。加圧水の速度は音速の約3倍にもなるという。
  • ウォータージェットによる切断加工には、超高圧水だけを利用する場合と、超高圧水に研磨剤を混入させて切断する場合がある。超高圧水だけの場合は、ゴムやナイロン、紙、布などの柔らかい素材を切断するのに向いている。また、水しか含まれていないため、「ます寿司」のような食品の切断加工にも利用可能だ。
  • 他方、研磨剤を混入させた場合には、金属やガラス、石などの硬い素材の切断加工が可能となる。具体的には、自動車のアンダーボディや内装材、航空機のウィング、ビルや橋脚など鉄筋コンクリートなどの切断加工に利用されている。
  • ウォータージェットによる切断は、(1)加工時に熱の発生が少ない、(2)粉じんが発生しない、(3)複雑な形状の切断加工が可能、(4)切断加工面の変形や熱影響が少ない、などの優れた特長を持つ。
  • 3つめは、ウォータージェットを用いた湿式粉砕装置の開発である。
  • 物質はより小さくすることで、その物質特有の性質を引き出すことができ、様々な分野で革新をもたらすと期待されている。しかしながら、一般的に、物質を超微粒子化するために、機械的な力で押しつぶすか、高速かく拌する方法がとられているのだが、機械自身の摩耗粉の混入や処理時間の長さなどの課題があるという。
  • 同社では、この問題に対して、ウォータージェットの技術を応用し、超高圧水流に原料を混ぜ、その水流同士を斜向衝突させることにより原料を粉砕する方式を開発した。不純物のない均一な微粒子の製造が可能なため、化粧品の乳液やUVカット剤、医薬品、電子部品、カラープリンターの色材などの高いクリーン性が求められる製品に活用されている。

バイオマスナノファイバーへの挑戦

  • このように、チューブクリーナーを原点とした技術が、様々な事業分野で活用されるようになり、同社が取引する企業数や業種も非常に多岐にわたるようになった。このため、景気の状況に大きく左右されない安定した経営を築くことができるようになり、実に創業以来80年間赤字となったことがないそうだ。ただし、リーマンショックの際には、あらゆる業種で景気が落ち込んだため、赤字になりかけたという。そこで、同社が持つ技術を活かした新たな分野への挑戦として2008年頃から素材分野への取組を開始。目をつけたのが、「セルロース・キチン・キトサンナノファイバー」であった。
  • 「セルロースナノファイバー」とは、木材などを構成する繊維をナノサイズ(1mmの百万分の1)にまで細かく解きほぐすことで得られる物質のことである。軽量、高強度、高弾力性、安定性などの特長を持つとともに、生物資源であることから環境負荷が小さいことも注目を集めており、国内外で研究開発や利用拡大に向けた取組が活発に進められている。
  • セルロースナノファイバーを製造する技術は、大きく分けて物理的な方法と化学的な方法があり、既にいくつかの基本的な技術が確立されている。スギノマシンでは、同社製の湿式粉砕装置を用いてセルロースを細分化する方法を確立した。触媒や薬品を一切使用しない、水だけを用いた環境に優しく、安全性の高い方法である。
  • このナノファイバーは、鋼鉄の5分の1と軽量ながら、鋼鉄の5倍の強度を持ち、工業製品や建材などの分野での利用が期待されているほか、キチン・キトサンナノファイバーは、その生体適合性を活かして、化学、化粧、医療、食品などの分野での活用が進んでいる。
  • これまでの機械装置の開発・販売から、材料ビジネス分野へと新たな挑戦を続けている。

最後に

  • 同社は、「グローカルニッチリーダー」を経営戦略に掲げている。富山県というローカルに拠点をおいた企業でありながら、グローバルにビジネスを展開し、ニッチな分野で世界をリードすることを標榜している。
  • 技術のプロ集団として、活躍できる未知の領域に常にチャレンジし、その可能性を追求、開花させ続けている。
  • 80周年の節目である2016年に行ったCI(コーポレート・アイデンティティ)刷新活動では、企業ロゴも新たにし、「SUGINO」の「I」を「!」に置き換え「SUG!NO」とした。これからも技術を通じて驚きや感動、そして期待を超えた価値を創造し、今後も私たちの生活や社会に新しい「!」を与えてくれることを期待したい。

取材協力

 株式会社 スギノマシン
 常務執行役員 経営企画本部長 杉野 岳
 業務管理本部 法務・広報部 広報グループ 浅賀 祐紀
 株式会社 スギノマシンウェブサイト(外部リンク)

技術のおもて側、生活のうら側

発行:経済産業省産業技術環境局総務課 執筆/担当 松本賢英、松本智佐子
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