- 政策について
- 政策一覧
- 経済産業
- 技術革新の促進・環境整備
- 産業技術政策全般/イノベーション政策
- 産業技術メールマガジン
- 産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第111号
産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第111号
◆技術のおもて側、生活のうら側 2017年9月28日 第111号
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
「味の見える化」で、広がる世界
開発の経緯
- 味覚は人それぞれといわれるが、味を客観的に判断し、数値化するセンサーが実用化されていることをご存じだろうか。
- 神奈川県厚木市に本社がある(株)インテリジェントセンサーテクノロジーが、この「味覚センサー」の開発・販売を行っている。
- 味を客観的に判断するのは不可能といわれていたが、1980年代に九州大学大学院の都甲潔主幹教授が味の測定研究を開始。都甲教授は、味を構成する物質を測るのではなく、味そのものを測るという概念を構築し研究に取り組んだという。
- 同じ頃、情報通信機器事業などを行うアンリツ(株)でニューロンネットワークの研究に従事していた、(株)インテリジェントセンサーテクノロジーの池崎社長が中心となり、1989年に九州大学とアンリツ(株)が共同研究を開始。その後、池崎社長がアンリツ(株)から独立し、事業を買い取る形で、(株)インテリジェントセンサーテクノロジーを2002年に設立した。
センサーの仕組み
- 味に関係する物質は膨大な種類が存在するとされ、それらを定量的に調べるにはかなりの時間と労力がかかる上、味覚としての複合的な判断が難しい。そこで、味そのものを測定するため、ヒトの味細胞を模倣した人工の脂質膜の開発をスタートさせた。
- ヒトの舌に反応する味には、「酸味」「塩味」「苦味」「渋味」「旨味」「甘味」があるが、例えば「苦味」や「酸味」はごく薄い濃度でもヒトの舌は敏感に反応する。一方で、「旨味」「塩味」はそれよりももっと濃い濃度でないと察知しない。毒の信号の「苦味」や腐敗の信号の「酸味」には少量でも舌は認知し、体にとって大切な「旨味」「塩味」は高濃度でないと認知しにくくなっている。かつてヒトが厳しい自然条件下で生きていくために取得した能力といえよう。
- こうした性質とそれぞれの味の疎水性・親水性の違いを利用し、特定の味だけに反応する脂質膜を作成。そして、その電圧変化のパターンを測定することで、味の数値化に成功した。
- さらに食品を食べた後の余韻である「後味」も測れるように改良した。対象となる食品を液状化し、遠心分離にかけた上澄み液を最初にセンサーで測定したのが「先味」。その後、センサーを軽く洗った後にセンサーが反応したのが「後味」となる。
- 後味には、味の「キレ」に関係する「苦味」「渋味」と、「コク」に関係する「旨味」がある。これが測定できることで、よりヒトの感じる味覚に近いデータが収集できるようになり、味覚センサーの実用度がアップしたという。
- このセンサーは、ヒトの舌を模倣しているため、例えば苦いコーヒーに砂糖を入れると苦さが薄れるというヒトに特有の現象も忠実に測定が可能となっている。このような特性も利用し、苦味を感じにくい飲みやすい新薬の開発などにも応用されている。
活用事例
- こうして、世界で初めてとなる「味覚センサー」の実用化に成功。現在までにのべ400台以上が食品・飲料メーカー、製薬会社、研究機関、大学などで利活用されている。そのうち海外へは50台程度輸出しており、主な輸出先は中国となっている。
- 味覚センサーの導入により、食品メーカー等では、味の安定化や、原料を変えた際の味の同一化、試作品製造の効率化、商品開発や製造コストの低減が可能となっている。
- 例えば、あるコーヒー飲料販売業者は、味の同一化を図りつつ、できるだけ低コストで調達できた様々な産地・銘柄のコーヒー豆をブレンドする作業に味覚センサーを活用。コスト削減と作業の効率化につなげている。
- また、ある菓子メーカーでは、味覚センサーの味分析技術を活かし、通常品に負けない味わいの低糖質のどら焼きの開発に成功するなど、健康食や介護食、病院食などへの活用も大いに期待されるようになっている。
- この他にも、味覚センサーで分析することにより、コーヒーチェーン店やコンビニごとのコーヒーの苦味や酸味の違い、東南アジアと日本のカップラーメンの旨味や塩味の違いなどが、数値としてその特長をはっきりと把握することができる。これらの分析結果を踏まえることで、これまでにない特長を際立たせた食品の開発や、地域の嗜好に合わせた味の調整など、戦略的な商品開発やマーケティングが可能だ。
最後に
- 同社の味覚センサーの今後の開発目標は、「人工甘味料」や「辛味」の測定を可能にすることだという。また、膨大なデータの収集・解析結果を活用したコンサルティング活動や、農作物の最適栽培管理手法の確立など農業現場への活用も検討しているという。
- 味を数値化し、「見える化」することによって、食品・飲料業界だけなく製薬、肥料、飼料、食品工場や農業現場などにおいても戦略的な生産・開発が可能となっており、健康増進や地方創生にまでつながることも期待される。「味の見える化」がもたらすインパクトは、想像以上に大きく、既存のビジネスモデルを大きく変えていくかもしれない。
取材協力
株式会社 インテリジェントセンサーテクノロジー
代表取締役社長 池崎 秀和
取締役 ソリューションサービス部部長 荒谷 和博
株式会社 インテリジェントセンサーテクノロジー(外部リンク)
<参考> 日本貿易振興機構(ジェトロ)味覚嗜好性調査(2014年3月)(外部リンク)
技術のおもて側、生活のうら側
発行:経済産業省産業技術環境局総務課 執筆/担当 松本賢英、松本智佐子
〒100-8901東京都千代田区霞が関1-3-1
電話:03-3501-1511(代表)
お問合せ先
本ぺージに対するご意見、ご質問は、産業技術環境局 総務課
電話:03-3501-1773 FAX:03-3501-7908 までお寄せ下さい。
最終更新日:2017年10月4日