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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第114号

◆技術のおもて側、生活のうら側 2018年1月25日 第114号

 こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
 このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
 

【より快適に、より見やすく、レンズに磨きをかける企業】

 福井県鯖江市といえば「眼鏡フレーム」の産地として有名であり、国産の眼鏡フレームの実に9割以上を生産している。他方で、眼鏡の町である鯖江市は、眼鏡フレームだけでなく、「眼鏡用のレンズ」で高い技術力を有する企業も存在する。

 今回は、「視力矯正用の高屈折偏光レンズ(薄くて軽量なサングラス)」などを開発・製造している「株式会社ホプニック研究所」を紹介する。
 同社は、プラスチックレンズ用の樹脂開発を目的とした試験研究所として1988年に設立。当初は大手の眼鏡レンズメーカーからの依頼により、レンズの物性評価などを行っていた。
 その後、プラスチックレンズの製造を開始し、大手レンズメーカーへのOEM供給を行うようになった。眼鏡用レンズのメーカーは、福井県と愛知県に集中していたことから、原料調達なども行いやすい環境にあったという。
 しかしながらその後、中国や韓国などで低価格なプラスチックレンズが生産されるようになったことから、差別化を図るとともに、小規模研究所の特性を活かすため、ニッチな分野であるが大手レンズメーカーが開発を行っていなかった「視力矯正用の高屈折偏光レンズ」の開発に着手し、生産を開始した。
 視力矯正用の偏光レンズは、日本ではまだまだ需要が少ないニッチな分野であるが、欧米特にアメリカでは比較的大きな需要があるという。

 偏光レンズの製造工程は次のようである。
  1. まず、円形の眼鏡レンズのような球面を持つ2枚のガラス型を1cm程度の隙間をあけて重ね合わせ、その外周を特殊なガスケットで固定する。
  2. 次に、ガラス型の隙間に特殊な樹脂を流し込む。矯正用偏光レンズの場合、流し込む高屈折率のプラスチック樹脂は2種類で、その樹脂の間にごく薄い偏光フィルムを挟み込む。
  3. その後、温度調節したオーブン内に置き、硬化させた後、外側の型枠のガラス型を取り外し、なかに残った偏光レンズを取り出して、洗浄。
  4. その後、もう一度オーブンで硬化させる。おおむね以上のような工程で偏光レンズが出来上がる。
 薄い偏光フィルムを2種類の樹脂で均一に空隙などのむらがなく、かつしっかりと密着させるためには、樹脂の種類や硬化させる際の温度、時間などの条件を見極める必要がある。また、高屈性率のレンズとなるよう、同社では独自で樹脂の開発も行っている。これらの製造方法に関する技術は特許を取得し、権利の保護に努めている。
 こうして生産された同社の高屈折偏光レンズは、他社に比べて薄くて軽いことから、その技術力と品質が認められ、海外有名ブランドのサングラスにも採用されている。従業員40名程度の中小企業でありながら、この分野では世界シェアトップクラスの地位を築くまでに至っている。

 また、昨年からは、矯正用偏光レンズだけでなく、「ネオコントラスト™」という商品を開発し、インターネット等での直接販売も開始した。同社としては、これまでの事業者向けの生産・供給から、初めて消費者へ直接販売する新たな取り組みとなっている。
 この「ネオコントラスト™」は、580nm付近の黄色の波長をピンポイントでカットする特殊染料をレンズに練り込み、色彩感を向上させつつも、まぶしさを最大限に抑えた高機能レンズである。
 中高年者は紫外線などの影響により、加齢とともに目の水晶体が黄色に変色し、これにより黄色光が強くなりすぎて色の識別能力が低下するという。580nm付近のイエローライトをカットすることによって、赤色や緑色が鮮明に視覚できるようになり、よりクリアな色覚が得られるそうだ。
 アウトドアやスポーツ、ドライブのほか、明るい場所での文字の判別や作業が行いやすくなるなど、日常生活のあらゆるシーンに幅広く対応可能となっている。さらに、白内障や白内障の術後の光が眩しく見える患者向けとしても開発をさらに進めている。ネオコントラスト™の開発に際しては、クラウドファンディングにより資金募集をしたところ、当初の目標を上回る資金が集まったそうだ。

 この他にも同社は、調光レンズ(紫外線により変色するレンズ)や弱視、老眼用の手元の文字などが見やすく疲れにくいドーム型レンズなどの開発、販売も行っている。いずれも、ニッチな分野ではあるが、必要とする人にとって利用価値の非常に高いレンズである。

 ものの見え方や見にくさは人によって多種多様であり、自分に合ったレンズを探し求めている人は多い。小規模であることできめ細やかな研究開発ができる利点を活かして、マーケットは小さくとも、様々な理由で視力や見え方で困っている人たちの求めるレンズの開発にこれからも挑戦し続けてほしい。  

取材協力

株式会社 ホプニック研究所
代表取締役 高木 俊治
取締役 経営企画室長 高木 朗彦
営業部 課長 市村 茂
株式会社 ホプニック研究所ウェブサイト 〈外部リンク〉

技術のおもて側、生活のうら側

発行:経済産業省産業技術環境局総務課 執筆/担当 松本賢英、松本智佐子
〒100-8901東京都千代田区霞が関1-3-1
電話:03-3501-1511(代表)

最終更新日:2018年2月27日
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