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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第115号
◆技術のおもて側、生活のうら側 2018年2月22日 第115号
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
〇「フェイクファー」、聞いたことがあるでしょうか?女性の方は知っている方も多いかもしれません。化学繊維のファー(毛皮)のことを、「フェイクファー(偽物の毛皮)」あるいは最近では「エコファー」とよんでいる。最近、日本のフェイクファーが世界からも注目されているという。
〇今回は、和歌山県橋本市の旧高野口町にある、フェイクファーで注目を集める「株式会社岡田織物」を紹介する。
〇旧高野口町は140年ほど前からパイル織物の生産を続けている世界有数の産地である。パイル織物は、タオルや毛布だけでなく、ベルベットや車用のシート生地に使われるなど素材として幅広く活用されている。昭和の時代には、防寒用ジャンパーの裏地として使われることも多かったそうだ。
〇岡田織物は、岡田代表取締役が祖父の代から続いていたパイル生地製造の会社を整理し、平成3年に新たに設立。従業員3名の小さな会社である。平成に入るとフリースがブームとなり、ジャンパーの裏地の需要が減少するとともに、中国からも安い裏地が輸入されるようになった。このため、岡田織物は100%婦人衣料用のフェイクファーの生地に特化した生産を行うこととした。フェイクファーとパイル生地の製造方法は基本的に同じであり、これまでの技術を活かした再チャレンジでもある。
〇フェイクファーの生産にあたっては、本物の毛皮の真似だけを追求せず、お客様の要望に応じて様々な質感、色、デザインに対応できることを目指しているという。現在では、常時400~500種類の生地をストックするとともに、要望に応じて短期間で試作品をつくり、提案できるようにしている。
〇フェイクファーの製造方法は次のとおりである。フェイクファーは、数種類の異なる性質のアクリル繊維を1本によりあわせ、その糸をもとにして生地が作られている。この糸の中に縮みやすい繊維が混ぜられており、染色する事で糸全体が縮む。この縮んだ糸を何回もブラッシングすることで縮みやすい繊維は短いうぶ毛状となる。こうして、繊維の下部は柔軟性や保温性に優れつつ、ふわふわとした肌ざわりの生地(フェイクファー)となる。ブラッシングの際のスピードや強度の加減が品質を決めるという。同社のフェイクファーは毛が抜けにくく、押しつぶしても元の形状に戻りやすいなどの点が高く評価されており、品質に関するクレームも少ない。
〇また、大手化学繊維メーカーが有していた技術を掘り起こし、より天然の毛皮(ファー)に近い風合いを出すことにも成功。天然の毛皮の毛は、根元が太く、毛先が細くなっており、柔らかさと弾力性を生み出している。従来の化学繊維では同じ太さの繊維しか作ることができず、天然の毛皮に近い風合いを出すことが困難であった。
〇そこで岡田織物では、大手化学繊維メーカーの開発したY字型断面の繊維の毛先を、独自の技術により3つに分割することで毛先と根元の太さを変化させ、天然の毛皮が持つ毛先の柔らかさと膨らみのある立毛性を併せ持ったフェイクファーの生産を可能にした。実際に触ってみると、きわめてソフトな手触りで、従来のフェイクファーのイメージを大きく変えるものである。さらに、太陽光を熱エネルギーに変化させ、帯電防止機能も兼ね備えたアクリル繊維で作った「発熱ファー」も同じ化学繊維メーカーと共同開発している。
〇このように、日本の有する素材をもとに、機能性と繊細な風合いを表現することができるフェイクファーを生み出すことに成功し、世界からも注目を浴びるようになった。
〇また、動物愛護意識の高まりを背景に、昨年、高級ブランドのグッチがファー・フリー宣言(本物の毛皮を使わない)を表明するなど、フェイクファーに対してファッションブランド業界からの注目も大きくなっている。
〇岡田織物は2002年にはじめて海外の展示会に出品したが、当時は海外ブランドからは全く相手にされなかったそうだ。その後、改良を重ね、数百点に及ぶサンプルを作り、10年かかってようやくグッチやルイヴィトン、プラダなど海外の高級ブランドにも採用され、その品質の高さが認められるようになった。
〇現在のファッション業界は、商品の販売サイクルが以前に比べてかなり短くなっているという。このため、フェイクファーについても、年によって顕著なブームはないものの、年間を通して安定した需要が続いている。一方で、商品の販売サイクルが短いため、流行を見越し、じっくりと生地から目利きできる業界関係者が非常に少なくなってきているらしい。
〇このため、同社では生地メーカーの枠を超え、手間と技術の要する裁断の作業を自ら始めるとともに、仕上げ加工や染色、縫製、刺繍などの各工程を請け負う地元企業をコーディネートしたOEM製品の企画・販売を行っている。これにより、品質管理の徹底やコスト低減、納期の短縮などが可能となるほか、ファッション関係者に対して新たなデザインのフェイクファーの提案も行えるようになった。繊維の街としての特徴を生かした、地域を巻き込んだオール・メイド・イン・ジャパンのフェイクファー生産の取り組みである。
〇また、ファッションのサイクルが短くなったことから、通年の作業に空きが生じるようになってきたため、インターネットによるオーダーメイドのオリジナル商品の販売も手掛けるようになった。
〇岡田代表取締役に、今後のフェイクファー生産への展望を聞いてみた。「まずは一般の消費者に広く興味をもってもらいたい。展示販売などを通じて触れてもらうことで、フェイクファーを使うきっかけを作っていければと考えている。現在のファッション業界の販売サイクルはあまりに短く、ついていけないことも多いが、自分たちのスタイルで企画、販売を行っていきたい。このため、生地生産、加工、裁断、海外展開などあらゆることに挑戦し、いくつものチャンネルをもって、世界から評価されるフェイクファーを提案し、送り届けたい。」
〇「リアル」を超えた、新たな「フェイクファー」の世界を、小さな町の小さな企業からこれからもどんどん送り出してくれることを大いに期待したい。
本ぺージに対するご意見、ご質問は、産業技術環境局 総務課
電話:03-3501-1773 FAX:03-3501-7908 までお寄せ下さい。
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
「フェイク」が「リアル」を超えた、新たなファー
〇今回は、和歌山県橋本市の旧高野口町にある、フェイクファーで注目を集める「株式会社岡田織物」を紹介する。
〇旧高野口町は140年ほど前からパイル織物の生産を続けている世界有数の産地である。パイル織物は、タオルや毛布だけでなく、ベルベットや車用のシート生地に使われるなど素材として幅広く活用されている。昭和の時代には、防寒用ジャンパーの裏地として使われることも多かったそうだ。
〇岡田織物は、岡田代表取締役が祖父の代から続いていたパイル生地製造の会社を整理し、平成3年に新たに設立。従業員3名の小さな会社である。平成に入るとフリースがブームとなり、ジャンパーの裏地の需要が減少するとともに、中国からも安い裏地が輸入されるようになった。このため、岡田織物は100%婦人衣料用のフェイクファーの生地に特化した生産を行うこととした。フェイクファーとパイル生地の製造方法は基本的に同じであり、これまでの技術を活かした再チャレンジでもある。
〇フェイクファーの生産にあたっては、本物の毛皮の真似だけを追求せず、お客様の要望に応じて様々な質感、色、デザインに対応できることを目指しているという。現在では、常時400~500種類の生地をストックするとともに、要望に応じて短期間で試作品をつくり、提案できるようにしている。
〇フェイクファーの製造方法は次のとおりである。フェイクファーは、数種類の異なる性質のアクリル繊維を1本によりあわせ、その糸をもとにして生地が作られている。この糸の中に縮みやすい繊維が混ぜられており、染色する事で糸全体が縮む。この縮んだ糸を何回もブラッシングすることで縮みやすい繊維は短いうぶ毛状となる。こうして、繊維の下部は柔軟性や保温性に優れつつ、ふわふわとした肌ざわりの生地(フェイクファー)となる。ブラッシングの際のスピードや強度の加減が品質を決めるという。同社のフェイクファーは毛が抜けにくく、押しつぶしても元の形状に戻りやすいなどの点が高く評価されており、品質に関するクレームも少ない。
〇また、大手化学繊維メーカーが有していた技術を掘り起こし、より天然の毛皮(ファー)に近い風合いを出すことにも成功。天然の毛皮の毛は、根元が太く、毛先が細くなっており、柔らかさと弾力性を生み出している。従来の化学繊維では同じ太さの繊維しか作ることができず、天然の毛皮に近い風合いを出すことが困難であった。
〇そこで岡田織物では、大手化学繊維メーカーの開発したY字型断面の繊維の毛先を、独自の技術により3つに分割することで毛先と根元の太さを変化させ、天然の毛皮が持つ毛先の柔らかさと膨らみのある立毛性を併せ持ったフェイクファーの生産を可能にした。実際に触ってみると、きわめてソフトな手触りで、従来のフェイクファーのイメージを大きく変えるものである。さらに、太陽光を熱エネルギーに変化させ、帯電防止機能も兼ね備えたアクリル繊維で作った「発熱ファー」も同じ化学繊維メーカーと共同開発している。
〇このように、日本の有する素材をもとに、機能性と繊細な風合いを表現することができるフェイクファーを生み出すことに成功し、世界からも注目を浴びるようになった。
〇また、動物愛護意識の高まりを背景に、昨年、高級ブランドのグッチがファー・フリー宣言(本物の毛皮を使わない)を表明するなど、フェイクファーに対してファッションブランド業界からの注目も大きくなっている。
〇現在のファッション業界は、商品の販売サイクルが以前に比べてかなり短くなっているという。このため、フェイクファーについても、年によって顕著なブームはないものの、年間を通して安定した需要が続いている。一方で、商品の販売サイクルが短いため、流行を見越し、じっくりと生地から目利きできる業界関係者が非常に少なくなってきているらしい。
〇このため、同社では生地メーカーの枠を超え、手間と技術の要する裁断の作業を自ら始めるとともに、仕上げ加工や染色、縫製、刺繍などの各工程を請け負う地元企業をコーディネートしたOEM製品の企画・販売を行っている。これにより、品質管理の徹底やコスト低減、納期の短縮などが可能となるほか、ファッション関係者に対して新たなデザインのフェイクファーの提案も行えるようになった。繊維の街としての特徴を生かした、地域を巻き込んだオール・メイド・イン・ジャパンのフェイクファー生産の取り組みである。
〇また、ファッションのサイクルが短くなったことから、通年の作業に空きが生じるようになってきたため、インターネットによるオーダーメイドのオリジナル商品の販売も手掛けるようになった。
〇岡田代表取締役に、今後のフェイクファー生産への展望を聞いてみた。「まずは一般の消費者に広く興味をもってもらいたい。展示販売などを通じて触れてもらうことで、フェイクファーを使うきっかけを作っていければと考えている。現在のファッション業界の販売サイクルはあまりに短く、ついていけないことも多いが、自分たちのスタイルで企画、販売を行っていきたい。このため、生地生産、加工、裁断、海外展開などあらゆることに挑戦し、いくつものチャンネルをもって、世界から評価されるフェイクファーを提案し、送り届けたい。」
〇「リアル」を超えた、新たな「フェイクファー」の世界を、小さな町の小さな企業からこれからもどんどん送り出してくれることを大いに期待したい。
技術のおもて側、生活のうら側
発行:経済産業省産業技術環境局総務課 執筆/担当 松本賢英、松本智佐子
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