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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第116号

◆技術のおもて側、生活のうら側 2018年3月29日 第116号

 

こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。

このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。

“石”から紙やプラスチックの代替品を作り出す、革新的新素材

(はじめに)

○紙の歴史は長く、古くは紀元前3000年代の古代エジプト文明にまでさかのぼる。水草のパピルスを原料に、茎の中心部を薄く切ったものを材料としていた。近代以降は、木材を粉砕し、化学処理して作られるパルプを原料にして、高品質な紙の大量生産が可能となった。このように、これまで人類は、大量の植物体と大量の水を材料に紙を生産、消費してきた。

○今この紙の原料が、大きく変わる可能性があることをご存じだろうか? 今回は、日本や世界の各地に十分な埋蔵量がある“石灰石”を主成分とする紙やプラスチックを開発し、製造・販売を行っている株式会社TBM(本社:東京都中央区銀座)を紹介する。

 

(設立までの経緯)

○代表取締役の山崎敦義氏が、2008年に台湾のメーカーからストーンペーパーの販売権を獲得し、日本で輸入販売を開始したことが株式会社TBM創業のきっかけとなった。当時、森林伐採をはじめとした環境への関心が企業においても高まりつつあり、エコ商品やリサイクル商品が注目されていたことから、ストーンペーパーも大きな商売になるのではないかと考えたからだ。ストーンペーパーは耐水性や耐久性に優れることから、屋外用の広告などでの用途を見込んだ。

○引き合いは予想を超えるものであったという。しかしながら、実際に販売を始めてみると、価格が高い、紙の表面が白い粉で汚れている、厚みが一定でなく印刷できない、紙としては重いなどのクレームが頻発した。これらの問題を解決するため台湾のメーカーにクレームの内容や改善策について何度も働きかけを行ったが、全く受け入れられなかったそうだ。

○品質に問題はあるものの、引き合いも強く、環境にも優しいことから、将来的な需要が十分に見込める可能性のある素材と考え、山崎氏自身が「石の紙」の開発を行うことを一大決意した。

 

(LIMEX(ライメックス)の開発、製造)

○会社設立は2011年。紙の代替品として、薄く、均質で、軽いことが求められるが、重量の重い石を使っているため、かなりの試行錯誤が必要であった。元日本製紙専務取締役の角氏(現TBM取締役会長)の指導を仰ぎ、材料である石灰石とポリオレフィン樹脂を混ぜるときの条件や製造方法を独自に確立し、ようやく厚さの均一化や軽量化に成功。紙やプラスチックの代替品となり得る全く新しい素材を生み出すことに成功した。商品名は「LIMEX(ライメックス)」と名付けられた。主成分である石灰石(Limestone)と無限の可能性を表す「X」が名前の由来である。

○LIMEXの製造工程は次のとおりである。まず、(1)粉砕した石灰石、樹脂を均一に混ぜ合わせる、(2)これを機械である程度の薄さで押し出し、(3)さらに薄く均一に引き延ばす際にごく小さな空隙が素材の中にできるように延伸、(4)最後にコート剤等で塗工し、裁断する。

○2015年に、経済産業省の事業も活用し、宮城県白石市に第一プラント(生産量:6,000トン/年)を稼働。製造当初は、粉砕した石灰石の粉末が表面に付着するなど品質がなかなか安定しなかったそうだが、1年程度かけて課題をクリア。2016年からLIMEXの販売を開始した。このプラントで使用している石灰石は隣県の福島県産である。

○さらに、2020年までには、年間30,000トンの生産が可能な第二プラントを宮城県多賀城市に建設予定だ。

 

(LIMEXの特徴)

○LIMEXの特徴は、なんと言っても日本でも自給可能で、世界的にも十分な資源があり、安価に入手可能な石灰石を主成分(6~8割)としていることである。さらに、製造の際に水をほとんど必要とせず、普通紙を1トン作るのに水約100トン(さらに約20本の木)が必要なのに対して、LIMEXの場合は水の消費量をこれより約98%も削減できる。

○また、LIMEXはプラスチック製品の代替としても利用可能であり、主成分の6~8割が石灰石であるため、石油由来樹脂の大幅な削減にもつながる。リサイクルも半永久的に可能であり、紙として利用したLIMEXから、お椀やカップなどプラスチック製品の代替として価値を向上させたアップサイクルも可能だ。環境面、資源面からもきわめて優れた素材といえる。

○紙の代替となるLIMEXのシートは、高い耐久性や耐水性、強度を持ち、重量も上質紙と同程度にまで改良されている。本格的な量産体制が整えば通常のコート紙並の価格で供給可能という。

 

(新たな価値の創造)

○LIMEXは、現在、紙の代替として名刺やメニュー表、電車の室内ポスター、各種パンフレットなどに、またプラスチックの代替としてクリアファイル、生活用品などに利用され、約2000社の企業との取引実績がある。

○さらに、紙やプラスチックの代替となるLIMEXの活用をより一層広めていくため、各業界の企業との連携によるオープンイノベーションも推進している。例えば、床材や自動車部品、食品包装、クロスなどへの活用に向けて共同で研究開発を続けている。

 

(社会への貢献)

○貴重な水や木材資源をほとんど使わず、紙やプラスチックの代替製品を作ることが可能なLIMEXは、用途が非常に広いことに加え、石油の使用量を削減し、水資源の少ない地域や国においてとりわけ有望なテクノロジーでもある。すでに300社を超える海外企業からも引き合いがあり、サウジアラビアなどとは具体的な提携の話も進んでいる。今後は、製品のラインナップの拡充とともに、LIMEXの海外での販売と需要の開拓を行い、世界に向けたプラント輸出を計画しているという。

○フランスやEUなどでのプラスチック使用の規制強化の動きや、海を汚すプラスチックゴミの問題が大きくなる中、持続可能な社会の実現に向けて、今後ますます「石からできた」LIMEXが注目されていくことであろう。

 

<<取材協力>>

株式会社TBM
代表取締役 山崎 敦義
執行役員 コーポレート・コミュニケーション本部 笹木 隆之
株式会社TBMホームページ https://tb-m.com/外部リンク

技術のおもて側、生活のうら側

発行:経済産業省産業技術環境局総務課 執筆/担当 松本賢英、松本智佐子
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