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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第118号
◆技術のおもて側、生活のうら側 2018年5月31日 第118号
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
ステンレスをカラーに、新たな価値を創造する企業
- ステンレスは非常にさびにくく、加工性や強度も併せ持つ優れた素材であることから、生活のあらゆるところで使われている。そしてイメージするのは、その独特のシルバー色であろう。渋くてきれいな色ではあるが、使う場面によっては冷たい印象を受けることもあるし、かといって様々な色に塗装されたステンレス製品を目にすることもまずない。色のバリエーションは乏しい。
- ステンレスは表面の状態の特性から、塗装による色づけを行ってもはがれやすく、耐久性や紫外線による色劣化などが問題となるため、ほとんど実用化されていない。
- 今回は、そんな特性をもつステンレスを、独自に開発した技術により、様々な色に発色させることに成功したメッキ加工業の「株式会社アサヒメッキ」(鳥取市)を紹介する。
- ステンレスの表面は、含有されているクロム(Cr)が酸素と結びつき、「不動態皮膜」と呼ばれる1~3nm程度のごく薄い酸化皮膜を形成している。この不動態皮膜が外部の腐食要因から素地を守っている反面、塗装が密着しにくく、はがれやすい原因となっている。
- そこで株式会社アサヒメッキでは、メッキ加工の下請けとしてだけでなく、オンリーワンの技術で攻めの経営が展開できる革新的な技術課題として、ステンレス発色にチャレンジした。技術開発にあたっては、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の補助金(平成27年度)を活用し、国立研究開発法人産業技術総合研究所および地方独立行政法人鳥取県産業技術センターと共同で開発を行った。
- ステンレスは、光の一部が酸化皮膜の表面で反射し、さらにその他の光が酸化皮膜の表面を通り抜けステンレスの表面で反射するという、2通りの光の反射の違いにより「干渉色」が表れる。この原理を利用することで、塗装によらないステンレスの発色が可能となる。
- ステンレスの酸化皮膜の厚さは1~3nmとごく薄いが、この透明な皮膜の厚さを化学的に酸化させることにより、様々な厚さの不動態皮膜を作ることで、ステンレスの表面が様々な色に発色したように見える。
- これまでにもステンレスの発色技術はあったが、色ムラやロット間の色のばらつきが生じやすく、事業化には大きなハードルがあったという。数nm程度のごくわずかな膜厚の違いにより色が変化してしまうため、膜厚の均一性やロット間のばらつきをなくすことが非常に難しい。同社では、特殊な溶液による化学反応の安定化や膜厚を均一にするための微妙な調整を確実に行えるようにし、nm単位でのわずかな変動をコントロールすることができるようになった。この技術の確立により、塗装色のように均一な色彩と、ロット間による色のばらつきを解消した。さらに、膜厚が最大で300nmと厚くなることで耐食性も約2倍となった。
- 基本カラーは茶、青、黄、赤、緑の5色で、さらに光沢度制御により鏡面光沢、光沢、半光沢での発色も可能とするなど色の幅もかなり広いのが特徴である。国内外で特許を出願中である。さらに、経済産業省の新創造型標準化制度を活用し、色調(色ムラ)の評価に関する試験方法や性能基準の標準化(JIS規格化)も進めている。
- ステンレスの発色技術に関する研究開発の成果により、28年度から事業化を順次進めているが、すでに各業種からの引き合いや問い合わせも多いという。用途としては、例えば、色彩化によるデザイン性の向上が期待される自動車の内装や住宅用エクステリアなどの建築材料、あるいは道具や工具の色彩化による識別性、視認性の向上による効果が期待される医療器具・機器などへの活用が期待されているが、思いもつかなかった用途への提案も多く寄せられているという。眼鏡のフレームや電子タバコの部品など具体的な相談も受けている。一方で、現在の設備では多くの受注に対応できないため、現在、本社隣に量産、自動化できる設備を新設中であり、来年秋頃には完成予定だそうだ。
- ステンレスはシルバーであるという固定概念や価値観を変えるべく、チャレンジを続けている。
- このステンレス発色技術以外にも、同社では、人体に有害なフッ素の使用を完全に排除した鋳造系素材に適応するアルミ表面処理技術も新たに開発。環境負荷抑制や作業環境の改善だけでなく、工程の短縮によるコストダウンも可能としている。また、中国地方で最大となる電解研磨用の大型処理槽も備え持つ。これらにより遠距離を含む積極的な販路の展開も可能となった。
- さらに、ステンレス発色技術に特化した需要の拡大・PRや製品の受注を引き受ける新しい別会社「オロル株式会社」も設立したばかりである。『オロル』とはフランス語で『オーロラ』の意味であり、商品イメージとも合致する。
- メッキ業界は、輸送にかかるコスト等を勘案し、近郊の地域商圏のユーザーからの依頼による「待ちの営業、業務体制」が多く、また付加価値の余り高くない表面処理が多いことなどからコスト的には厳しい環境にあるという。このため、株式会社アサヒメッキでは、オンリーワン技術や差別化、サービスの強化により、「攻めの営業」に転換できる経営改革に果敢に取り組んでいる。技術革新により、これまでの固定観念にとらわれない新たな価値を持つ製品を生み出し、金属表面加工のオンリーワン企業への挑戦を続けている。
<<取材協力>>
株式会社アサヒメッキ
専務取締役 木下 敦之
技術部部長 川見 和嘉
株式会社アサヒメッキホームページ http://www.asahimekki.jp/

技術のおもて側、生活のうら側
発行:経済産業省産業技術環境局総務課 執筆/担当 松本賢英、松本智佐子
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