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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第120号
◆技術のおもて側、生活のうら側 2018年7月26日 第120号
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
劣化のきざしを素早くキャッチ! ホタルの光の1万分の1の明るさも逃さず検出
- 都会ではまず見る機会が無くなったが、夏の夜空に浮かぶ淡い蛍の光の、実に1万分の1の明るさを検出できる測定装置が開発され、様々な産業分野で活用されている。
- 物質は古くなると表面が酸化し、その酸化物が壊れることで、微弱な光を発する。つまり、あらゆる物質は常に目に見えない微弱な光を発しているわけである。このわずかな光を測定することができると、物質の劣化に関する様々な情報を読み解くことが可能となる。今回は、この微弱な光を、世界でもっとも高感度に検出できる測定器を開発、販売している、仙台市に本社を構える東北電子産業株式会社を紹介する。
- 創業は1968年、家電製品の販売からスタートしたが、10年後の1978年に転機が訪れる。「これからは光の時代」と同社の近隣にある東北大学の先生からの助言があり、レーザや電子計測器の設計、製造に取組みはじめた。
- 当時としてはあまり例のない産学連携による研究開発により、オイルショックによる経営状況の悪化も乗り越え、1980年には第1号機となる「極微弱光計測装置(商品名:ケミルミネッセンスアナライザー)」の開発、販売に成功した。
- ケミルミネッセンスとは「化学発光」ともいわれ、物質が酸化する際に生じる酸化物が、その後分解されることによって生じる微弱な光エネルギーのことである。物質は、空気や熱などに触れると直後から劣化が始まり、表面に酸化物が生成される。東北電子産業株式会社が開発したケミルミネッセンスアナライザーは、この生成された酸化物を計測装置の試料室内で強制的に加熱分解し、そこから発生する微弱な光を世界最高水準で測定することが可能だ。
- 従来法では、数ヶ月~数年程度を経て、酸化が一定程度進まないと劣化の状況が評価できなかったが、この測定装置は新品からわずか数時間後の劣化状況を捉えることが可能である。この測定装置を用いることにより、企業や研究機関などが行う、(1)劣化に要する試験期間の短縮や、(2)素材開発期間の短縮、(3)素材の品質・性能の向上、(4)不良、故障の原因究明、などを大きく進めることができるようになる。(参照:https://cl.tei-c.com/
)
- 測定方法も非常にシンプルで、特別な試薬なども必要としない。測定したい試料を直径5cmもしくは2cmの試料台にセットし、測定装置に入れるだけである。測定装置内で、劣化により生じた試料の酸化物を高温(350℃まで加熱可能)で強制的に加熱分解させ、このとき発生する微弱光を光電子倍増管で増幅させて検出する。
- ケミルミネッセンスアナライザーは、劣化状況を数値化して測定できるだけでなく、試料のどの部分がどの程度劣化しているか、あるいは、種類や濃度の違う酸化防止剤を施した複数のサンプルの劣化度合いの差異も同時に、発光画像により可視的に測定もできる。
- ケミルミネッセンスアナライザーの開発に当たっては、高感度で微弱な光を検出するため、試料を出し入れする引き出し型の試料室を完全に遮光することや、試料と関係の無い光電子を検出しないよう光電子倍増管をマイナス25℃まで冷やすなど、同社ならではの優れた技術が多く詰まっている。
- 開発当初は、極微弱な光を測定する装置を開発することに専念し、この技術がどのような産業分野に活用できるか特段深く考えていなかったという。装置が開発できて最初に測定したのが「古くなったインスタントラーメン」であった。インスタントラーメンの表面を覆う油が酸化し、その酸化物が分解する際に発するわずかな光を測定することで、劣化のスピードやその状態を把握することができた。
- 食品分野だけでなく、人間の血液や薬品、化粧品など様々な物質の劣化評価にも使われているが、自動車の塗装開発の例では、かつては長時間紫外線などにあてて劣化の評価を行わざるを得なかったのが、ごく初期の段階で劣化の状況を検出できるようになったことで、研究に必要な時間が大幅に短縮され、塗装技術や耐久性の向上に大いに貢献ができた。最近では、自動車部品のバンパーや樹脂、タイヤなどのプラスチック類の開発にケミルミネッセンスアナライザーが多く使われている。
- 同社がこの分野の計測装置で、現在に至るまで長年ほぼ独占状態でいられたのは、(1)東北大学との産学連携に当初から取り組めたこと、(2)ニッチな市場で大企業の参入がなかったこと、(3)検出の際の条件設定のノウハウやこれまでのデータ蓄積により、検出したデータの持つ意味を様々な観点から解析することができること、(4)解析結果を企業に詳細に説明し、希望に応じた技術提案に努めたこと、にある。
- 実際、測定依頼のあった企業には、まずはサンプル試料のデータを計測し、そこから得られる解析結果やより詳細な結果を導き出すための計測条件等について、ディスカッションを重ね、ケミルミネッセンスアナライザーのより有効な活用方法について提案した上で販売している。
- また、同社が提案した「プラスチックに含まれる過酸化物の微弱発光の高感度測定方法」はJIS(日本工業規格)に認定もされている(H30年1月公示)。これにより、同社の開発したケミルミネッセンスアナライザーを用いた測定方法や結果に対する対外的な評価や信頼度がさらに大きく高まったという。
- これまでに450台以上、大手メーカーや大学、公設試験場などへの導入実績があり、海外へも50台程度輸出している(台湾、韓国、オーストラリア、アメリカ、EUなど)。同社では、さらなる海外市場の開拓を目指して戦略を練っているところだ。
- 高性能な測定装置というハードと、30年以上にわたる測定に関するノウハウの蓄積という他社には真似できない強みを武器に、オンリーワンの技術でこれからも世界のものづくりに貢献し続けてほしい。
<<取材協力>>
東北電子産業株式会社 代表取締役 山田 理恵
東北電子産業株式会社 ホームページ https://www.tei-c.com/
技術のおもて側、生活のうら側
発行:経済産業省産業技術環境局総務課 執筆/担当 松本賢英、松本智佐子
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