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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第121号
◆技術のおもて側、生活のうら側 2018年8月30日 第121号
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
第4次産業革命時代に差をつける?バイタルセンシングができる電気を伝えるシルク
人工知能(AI)やIoT等の新技術のよる第4次産業革命においては、データが競争力の源泉になっています。特に、今後は、ネット上のサイバーデータではなく、実社会のリアルデータを価値ある形で活用することが重要です。
今回は、実社会のリアルデータの収集に何役をもかってしまいそうな、電気を通すシルクを開発した企業(エーアイシルク。宮城県仙台市)をご紹介します。
1.エーアイシルクとは?
エーアイシルクは、東北大学発のベンチャー企業で、2015年に創業しました。天然由来シルクを用いて、繊維自体に電導性を持たせたシルク(フレキシブルシルク電極)を開発した会社です。
もともと、東北大学で開発された技術で、東北地域の企業に技術を使ってもらうことを考えていましたが、慎重な地域性からか、当初は技術を利用してもらう企業が見つからず、同社の岡野社長が起業をしました。
(編集長コメント:このシルクを触ってみましたが、手触りは、シルクそのもの!)
肌触りが良くて着け心地が良いので長時間利用でき、従来電極のように電解質ペーストを使用するのではなくシルク自体に非常に高い導電率を持たせる加工(化学重合)をしてあるので(抵抗値が低い。同様の他商品と比べた感度が非常に高く、100Ω/sq以下。)、安全・快適、医療や健康分野におけるウェアラブルセンシングに大変向いています。インクジェットプリンターのような液の噴射技術によりシルクに印刷して糸状製造できるので、複雑な形状加工ができますし、製造 したシルクをウェアに貼り付けることもできます。
2.今は、どのような開発をされているのでしょうか?
同社は、NEDOの支援事業に採択され、独自で技術の機能強化をして従来の電導性向上(10倍)、コスト1/10を実現できるような重合試薬を開発しました。オリジナル技術は量産に向かなかったので、様々な条件でトライアルアンドエラーを繰り返し、同社独自の量産技術を開発するまでに3年かかりました。
現在は、ラボに量産試作機を設置し、量産技術の開発をしています。具体的には、量産の際に、環境条件が変わっても品質レベルを一定にするために、折り方と糸の太さ等をいかに調整するのかなどの開発を化学、繊維メーカーのクラレと進めています。
(編集長コメント:ラボで見せていただいた量産用試作機は、思ったよりもシンプルな作りで、細長いシルク束を延ばした状態のシルクにインクを噴射できるような装置でした。岡野社長は、このシンプルな装置で、簡単に量産できるようにすることも開発のポイントだとおっしゃっていました。)
3.今後、どのような事業展開を考えられていますか?
フレキシブルシルクを用いたウェアラブルセンシングの用途としては、農業や自動車など、とても幅広いですが、今、同社がフォーカスしているのは、健康・スポーツ、医療・ヘルスケアです。これらは、今後伸びるといわれている分野です。特に、2020年のオリンピックに向けたニーズが高まっており、アシックスとも昨年12月に業務提携をして、筋肉の動きを測定したり、筋肉を鍛えるためのサポートできるようなウェアを開発しています。
この他にも、医薬関係の会社から健康・未病関係(ヘルスケア)で共同したいという話もきている等、大変多くの企業から反響がありますし、農業関係では、農研機構(農業関係の国の研究開発独立行政法人)のシルクの研究者とシルクに面白い特性を出せないか(高強度化、高機能化)というような研究の話も進めています。
更に、海外展開に向けても動いています。一昨年のウェアラブルEXPOでは、アメリカや欧州、中国向けなど海外ニーズの話があり、商社と検討しています。また、ジムトンプソンなども有名なシルクの本場タイとも、今年5月にNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)とタイ国家イノベーション庁(NIA)の支援を受けスタートアップタイランドに出展やCEBIT ASEAN Thailandへの出展というJETROの支援制度の活用(量産化のためのシルクの安価供給)を検討しています。
4. スタートアップ、オープンイノベーションの成功の秘訣は何でしょうか?
スタートアップフェーズが徐々に軌道に乗りつつあります(実際上は、もっと早く売り上げを立てることを目標にしていたので、今後は、利益が確保できるようてこ入れが必要だと思っています)。
材料系スタートアップはお金がかかり立ち上げが厳しいのですが、良いタイミングでの復興庁の復興庁の平成27年度「被災地域企業新事業ハンズオン支援事業」、NEDOの「研究開発型ベンチャー支援事業/シード期の研究開発型ベンチャーに対する事業化支援」や「研究開発型ベンチャー支援事業/企業間連携スタートアップに対する事業化支援」などのスタートアップ向け支援事業のサポートがありがたかったです。
特に思い出に残っているのは、設立直後にアメリカのシリコンバレーにあるベンチャーキャピタルのDraper Nexus で事業計画を2ヶ月間アメリカに滞在してシリコンバレーの現状を体感しながら、四六時中相談と立案を繰り返し行って事業の方向性を決めたことや、2016年(創業半年!)のウェアラブルEXPOへの初展示会出展やイノベーションリターダズサミットなどのビジネスマッチング(特にVIP向けの説明会)へのサポートです。これらが契機になり、メディア・HPへの露出増、知名度向上につながり、大手化学メーカーとの共同開発にも繋がるなどの大きなステップアップができました。今年は、JETROに支援いただき、シリコンバレーにも行きます。新しい人脈が増え、さらなる事業展開に繋げられるのではないかと期待しています。
また、オープンイノベーションの観点からは、東北で地域連携コーディネーターをしていたので、どこに、必要なリソース(人材、資金等)があるか、コーディネーターで培っていた知識をうまく利用できたのではないかと思います。経産省東北経産局、復興支援をしている復興庁、宮城県、仙台市の特区支援、銀行、農研機構など様々なプレイヤーから、適切な人・知識・資金を紹介いただくことができたことはポイントでした。
5.今後の抱負は?
企業家としては、日本の技術が従来から比べると落ちてきているといわれている中で、日本を元気にするようなベンチャーを作りたいと思っています。一昔までは、世界のトップ企業に名を連ねる日本企業がありましたが、これらが減ってきているのを悔しく思っています。日本にも先端的な技術を持ったベンチャーがあるということを世界にアピールできるような会社を作っていきたいです。
<取材協力>
エーアイシルク株式会社 代表取締役 岡野秀生
エーアイシルク株式会社ホームページ http://www.ai-silk.com/
技術のおもて側、生活のうら側
発行:経済産業省産業技術環境局総務課 執筆/担当 小宮恵理子、松本智佐子
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