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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第122号

◆技術のおもて側、生活のうら側 2018年11月6日 第122号

 

こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。

このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。

日本の超小型衛星技術で地球データをまるごとサイバー化

 今回は、地球のデータを宇宙から高精度に収集できる衛星技術をご紹介します。
この衛星技術を開発したのは、北海道大学の高橋幸弘教授らで、2017年9月、この技術を実用化・サービス化するベンチャー企業、株式会社ポーラスター・スペースを立ち上げました。
(同社は、まだ6人の会社ですが、2017年、リバネスという企業の日本最大級のビジネスプランコンテスト第4回アグリテックグランプリにて最優秀賞を受賞)。
フィリピン政府との共同研究等、これまで4機の超小型衛星にメインとなる観測装置を搭載して打ち上げており、今年度も、新たに3機(フィリピン、ベトナム等)の打ち上げを予定しています(10月29日にフィリピンの2号機の打ち上げに成功しました)。来年には、衛星情報を用いた農業ソリューションを提供するビジネスの開始を予定しているそうです。

 

〇現在の宇宙開発の状況について教えてください。


 宇宙開発は、これまでは国の威信をかけて行うという側面が強かったのですが、日本でも、民間企業がロケットを打ち上げるという話題が上るように、民間企業も参入し、盛り上がりはじめています。
 2014年には、超小型衛星の年間打ち上げが、世界で年100機を超えました(2012年頃はその半数以下)し、SCIENCE誌の同年の10大ブレークスルーの一つは超小型衛星でした。日本では、超小型衛星は実験段階というイメージで取り上げられることが多いのですが、世界ではすでに実用フェーズに入ったというのが常識であり、その意味で日本は非常に出遅れていると感じます。
 また、今後、地球/地上の実利用データ収集・解析が重要になってきており、グローバル企業もビジネスに踏み出してきています。衛星データを、いかに地球規模で収集・活用していくかで、最先端の学術研究だけでなく、産業競争力や食糧安全保障の面でも差がつきます。
 また、それらは、災害、気候変動、農林水産業、大気・海洋・河川・土壌汚染などの地球規模の課題にも大きく貢献できるのです。

 

〇ポーラスター・スペース社の超小型衛星の特徴を教えてください。


 一般にイメージされる人工衛星は、非常に重く、高価です。JAXAの小惑星探査機「はやぶさ」など、中型なもの(500kg程度)でも200億円、大きいものは数トンを超え(例えば「みどり」は約3.5トン)、700億を超える場合もあります。また、計画から打ち上げまでの期間も、通常10年以上かかるため、衛星に搭載する装置は打ち上げよりも10年以上前の技術を使用することになります。
 一方、北海道大学が東北大学と開発している超小型衛星は、重量50kg程度、打上げ費用込みで5億円程度です。最短1年半程度で開発を完了して打ち上げることができるので、最新型の技術を用いたセンサーを搭載することができます。そうした最先端技術に支えられた新規性の高い収集情報を行い、それらを用いたサービスを展開することが可能になります(後述)。
 もちろん、大型衛星は搭載する観測装置の電力、サイズ、重量の制約が小さく、通信速度も速いので大量のデータを地上に送れるというメリットがあります。双方の強みを組み合わせて、効率的な利用方法を構築していくことが大切です。

 

〇衛星技術による地球データの収集・活用可能性は未知数に感じます。何故、まだまだ十分活用されていないのでしょうか。


 通常の衛星データは、衛星自体が高価というのもありますが、(1)殆どの低軌道衛星の観測頻度が低い(あるスポットの観測が10数日に1度程度)、(2)推定される情報(例えば作物の収量予測)の信頼性が低いという課題があり、その克服が必要です。
 北海道大学・東北大学は、これらを解決できる最新観測装置を備えた超小型衛星を開発し、またそれらを活かす衛星運用技術を確立してきました。
 具体的には、(1)ネットさえ繋がっていればパソコンを用いて1人で衛星を操作することができます。撮影したい方向にカメラが向くように衛星本体の姿勢を変えることで、1台の衛星でも、世界の任意の場所を1日に昼夜それぞれ1~2回ほど撮影することができます(オンディマンド運用。実質的にカバーできる範囲が通常の衛星の10倍以上です)。
 さらに、(2)搭載しているスペクトルカメラは数百のバンド(波長)で撮影することができますが、これは現時点では圧倒的に世界最多です(殆ど衛星は3~5バンド)。つまり、農作物などの肉眼で確認できないような微妙な色合いを、計測することができます。こうした詳細なスペクトル計測から、より信頼性の高い地上情報を推定することが可能です。
 例えば、私たちのグループで開発したフィリピンの超小型衛星を用いて特定の複数波長における撮影を行い、それを解析することで、フィリピンにおけるバナナの病気の分布を宇宙から推定することに成功しています。
 また、同種のスペクトルカメラをドローンに搭載して計測、機械学習による解析をすることで、通常のリモートセンシングによる植生指数では判別が全くできないオイルパームの病気の同定に成功しています。

 

〇今後の研究や、事業展開としては、どのようなものをお考えでしょうか


 いまポーラスター・スペース社では、農作物や土壌などのスペクトルデータを簡便に取得できるハンディな装置を開発しており、年内にもそれらを用いたビジネスを開始する予定です。月あたり1万円程度の負担で、作物などをご自分で撮影するだけで、病害虫の疑い、水や肥料の過不足、収量予測、たんぱく質含有量などの情報を、その場で得ることができるというサービスです。そこで得られたデータは、超小型衛星やドローンによる、広域サービスのための基礎資料としても活用されます。
   現在、米国のグローバル大企業などが、地球規模で衛星観測データを収集・解析し、それを用いたビジネスを大規模に展開しようとしています。食料や環境に関わる地球情報の独占に繋がるのではないかと心配しています。
 近い将来、国際的な産官学の連携で常時超小型衛星50機程度を運用し、日本主導で宇宙利用の国際連携の枠組み作りを進めたいと考えています。そこでは取得されたデータを共有するだけでなく、観測依頼を、国を超えて出すことができ、得られたデータを地球規模の社会課題の解決等にもつなげたいです。私たちの進める国際的な超小型衛星利用のフレームは、世界随一の即時性に優れた高頻度観測を、低負担で実現できます。この8年ほど、こうした目的を実現するためのアジア・マイクロサテライト・コンソーシアムの設立・参加を、北海道大学からアジア各国に呼びかけきて、現在9か国(フィリピン、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム、モンゴル、ミャンマー、バングラデシュ、日本)の16機関が加盟しています。
 今後は、国内の企業や大学、研究機関で個別に実施されてきた研究や取組みを結集し、世界的に競争力のあるものにしていくことも大事だと考えています。さらに、開発途上国を含む国際連携を推進し、衛星搭載観測機器など計測機器と解析手法の標準化することがビジネス展開の上でも大切です。

 

○最後に一言、何かありますか。


 衛星やロケットは、宇宙ステーションなどの例外を除き、地上の場合と違って打上げ後に修理ができないため、1回勝負で非常にリスクが高いです。衛星の場合は打ち上げが成功しても、一部の機能はトラブル発生ということも珍しくありません。民間企業のロケット打ち上げ失敗のニュースが繰り返されると、失望される方もいるかもしれません。
 しかし、多くの失敗を乗り越えてこそ技術力の向上があります。NASAもそれこそ数え切れない失敗の末に高度な技術を獲得しています。民間ベースの衛星打ち上げは世界的な動きであり、将来の宇宙ビジネス展開のためには不可欠と感じています。日本に芽生えた民間によるロケットや衛星への挑戦を、ぜひ暖かく、しかし、期待を持って見守っていただければと思います。

 

参考

○株式会社ポーラスター・スペースhttp://polarstarspace.com/外部リンク
○北海道大学 創成研究機構 宇宙ミッションセンター
   http://www.cris.hokudai.ac.jp/cris/smc/外部リンク
○北海道大学 大学院理学院 宇宙理学専攻 惑星宇宙グループ 
   探査・観測ユニット:https://eou.sci.hokudai.ac.jp/外部リンク
 

技術のおもて側、生活のうら側

発行:経済産業省産業技術環境局総務課 執筆/担当 小宮恵理子、松本智佐子
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