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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第124号
◆技術のおもて側、生活のうら側 2019年2月28日 第124号
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
■誰もが創造性を最大限発揮できる可能性を!
近年は、既存の学術分野や単一の業種にとらわれない、異分野融合が革新的なイノベーションを生むことが期待されています。
今回は、工学と医療を組み合わせ、人と機械を融合させることにより、誰もが創造性を最大限発揮できる社会を実現する「サイボーグ技術」の研究開発および事業化に挑む「株式会社メルティンMMI(以下MELTIN)」をご紹介いたします。
【起業により目指したもの】
同社の粕谷CEOおよびMELTINは、Forbes 30 under 30 Asia healthcare & science や、ADIPEC Best International Pavilion(アブダビ)等数々の受賞歴があり、BBCやCNNでも取り上げられ世界中で注目されています。
同氏が、サイボーグ技術を開発し始めたきっかけは、人間はすばらしい創造性を持っている一方で、その身体はその創造性を存分に発揮できるように構成されていないと感じたためだそう。サイボーグ技術であれば自分を望む形に変化させられるため、可能性を感じ研究を開始しました。人類は、知能によって環境を変化させ、機械や道具を発明し活動領域を拡大してきました。例えば、マイクを通じて遠くまで声を届けたり、乗り物を使って速く遠くまで移動したりすることができます。しかし、いくら想像力が豊かでも、機械や道具の操作には身体を用いるため、活動には一定の制約が生じてしまいます。だからこそ、同社は、生体信号から意味を抽出する技術を応用し、リアルタイムに機械とつなげることで「身体の制限を超える」ことを目指しています。
また、同氏は、重度訪問介護士の資格も取得されており、自分の思いが偏ることがないよう、人とのつながり、コミュニティーを大事にしながら、医療機器開発とアバター事業を並行しながら進め、将来のサイボーグ技術の完成へつなげる意思です。
大学における研究から起業を決断したのは、今動かなければサイボーグ技術の完成は果たせないと感じたからです。ベンチャーであれば資金調達により大学に比べ資金を自由に使うことができ、研究開発に完全に集中することができるため、最も完成が早いと考えました。また、実際に人の役に立つ機器を社会に出していきたかったことも関係します。例えば、生体信号でロボットハンドを動かす場合、生体信号が出てからロボットハンドが動くまでに何秒かかったとしても、そのアルゴリズムの精度を主張する研究であった場合は学術的には成り立つこととなりますが、実用的にはおそらく用いることが難しくなります。ベンチャーでは、常に社会実装を意識しながらも高いクオリティのアウトプットとスピードが求められるため、サイボーグ技術の実用化という意味では最適な形態と考えました。
【2つの転機】
2013年に起業したときは、ビジネスの知識は全くありませんでしたが、翌年の2014年に、NEDO-SVVRプログラムで起業家研修に参加しました。研修は座学とピッチコンテストが何度も交互に行われ、勝ち残ったMELTINはシリコンバレーにあるSRIに派遣され、技術面だけでなく、事業計画の構築やプレゼン技術のブラッシュアップを集中的に行うことができ、現地の連続起業家や投資家から、経営のイロハを直接学び、チームとしての結束力を高める大変貴重な機会になったそうです。また、シードラウンドとして投資を受けたリアルテックファンドからのハンズオン支援もあり、MELTINは急速に会社としての力を蓄えていくこととなりました。
また、2017年にチーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)を置いたことも大きな転換点になりました。サイボーグ技術のように一般にイメージされにくい題材を事業化するには、CEOやCTOの頭の中にある未来をプレゼンで投資家に見せなければなりません。アイデアを社内で共有するためにも、チームで何ヶ月も思考実験を重ね、意識共有を行いました。思いを語ったり、付せんに書いて構造をまとめたり、イメージに合う写真を提示し合いながらイメージのすりあわせをしたりして、CEOやCTOの頭にあるものが可視化され、結果的に資金獲得につながったと思います。
【世界最高性能レベルの技術】
同社の技術の特徴は、生体信号をリアルタイムかつ高精度に解析するアルゴリズムと、人の体に近い性能の身体を人工的に作り出すハードウェアおよび制御技術、その2つを兼ね備えることです。このうち、ハードウェアおよび制御技術の応用によって生み出されたのが、世界初のパワフルかつ器用な手を持つアバターロボットです。これは、実用化に最も近い、世界最高レベルで人間の「手作業」を再現(小型軽量、パワフル、リアルタイム性、複雑な動作、耐久性を兼ね備える)することのできる唯一のソリューションとなり得ます。現在、3本の指で2リットルのペットボトルをつまんで持ち上げることができ、これだけ多くの関節を備え、人の手と同じサイズ・プロポーションを維持しているロボットハンドとしては極めて難しいことです。現在は成人女性と同等のパワーを持ち、事業化までには成人男性と同じくらいのパワーを実現する見込みです。
この結果として、将来的には、災害、警備・点検、メンテナンス、インフラ・建築、海中・宇宙での活動など、様々な場面での事業化を想定することができるようになりました。
さらに、従来、計測できていても十分活用できていなかった生体信号を高速・高精度で意味を理解できる生体信号処理アルゴリズムとロボット技術を融合させることで、運動機能障害や欠損などの医療・福祉用途、その他外部機器の制御などの幅広い応用先が考えられています。
【新たな産業の創出】
2021年に、アバターロボットMELTANTを市場投入するために、導入現場のパートナーを募集しています。これから全世界で人材不足、作業の危険低減や負担軽減が急務となっていきます。これらは人類発展の上での大きな問題であり、アバターロボットがその解決策になりうると考えています。人類としてこういった課題を前にした中では、ロボットというものをエンターテイメントやSFとして捉えるのではなく、本当に社会に変革をもたらす重要な要素として捉え、本気で社会実装に向けて「産業をつくる」ことが必要であると考えています。そのために、まずは危険な作業や過酷な環境に従事する労働者から危険を取り除き安全に就労できるよう、そういった現場を持つ各社との現場実証を経て、MELTANTを真の意味で実用的なものとなるよう完成させます。そのためには導入現場のパートナーが必要であり、暗い未来を案じるのではなく、明るい未来を産業の当事者自身の力で共に創っていく必要があります。
【実現したい未来】
同社は、人間が本来持つすばらしい創造性を、誰でも最大限活かすことのできる社会の実現に向けて、最終的には「脳さえあれば、あらゆる身体行動を可能にするサイボーグ技術の実現」を目指しているそうです。同氏によれば、人間は無意識のうちに「自分にできること」と「身体を使ってできること」を同一のものとして捉え、自らの可能性を知らず知らずのうちに制限してしまう傾向にあると言います。そのため、人類の創造性を最大化させるために3つの制限の突破を推進していきます。
- 身体的制約の突破(手足の衰えや欠損を補完、3本目の手の装着等):創造性を発揮する過程において、自らの身体機能を自らで決定できることにより、誰でも自己実現を可能とする。
- 空間的制約の突破(身体の遠隔化):遠方の体へのログインや危険環境における安全な作業が実現される。
- 意思疎通への拡張(脳とコンピューターの接続):記憶や感覚の共有、アイデアをそのままディスプレイに投影するなど、言語では成し得ないスピードと精度でのコミュニケーションを可能とする。
これらの未来は決して夢物語ではなく、MELTINの持つ生体信号処理技術とロボット技術の延長線上にあるものである。しかしながら当然簡単に実現できるものではなく、自分自身の寿命とも戦わなくてはならないため、MELTINはベンチャーとしての道を選択し、シリーズBラウンドで大日本住友製薬、SBI Investment、第一生命から、合計20.2億円を調達して、実用化の加速を進めています。
<取材協力>
株式会社メルティンMMI 代表取締役 粕谷昌宏
株式会社メルティンMMI ホームページ https://www.meltin.jp/
技術のおもて側、生活のうら側
発行:経済産業省産業技術環境局総務課 執筆/担当 小宮恵理子、松本智佐子
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