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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第128号

◆技術のおもて側、生活のうら側 2019年10月31日 第128号 

 こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
 このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。

燃やすプラスティックごみのCO2を削減する~アクテイブ株式会社のN.V.C技術

 私たちの生活に必要不可欠なプラスティック製品。
 しかし、近年、海に流出したプラスティックごみによる海洋汚染を始めとしてプラスティックごみが国際的な問題となっています。
 日本でも使い捨てプラスティック製品自体の削減やリサイクルの取組が行われています。特に日本では、燃やしてその熱を発電や暖房として再利用するサーマルリサイクルが、プラスティックごみリサイクル全体の約6割と主流を占めます。
 ここで出てくる課題は、CO2の発生。
燃やせばその分だけCO2の排出は増え、地球温暖化につながります。
 「燃やせば増える」その常識を覆し、燃焼時のCO2の発生を抑える新技術を開発したベンチャー企業があります。しかも既に私たちの身近なところで実用化され始めています。
 実際に商品が並んでいるのは、大手スーパーの服飾売り場。プライベートブランドの下着のパッケージの裏側に「Green nano」というロゴが付いているのがそれです。
 中身の商品を取り出した後のパッケージは、ゴミになり焼却されます。
 今回ご紹介する新技術を使った「Green nano」のパッケージは、焼却時のCO2発生が通常のパッケージに比べて約60%削減と半分以下になります。
 
【大学発ベンチャー アクテイブ株式会社】
 この技術を開発したのは、東京理科大学発のベンチャー企業「アクテイブ株式会社」です。
 千葉県野田市の東京理科大キャンパス内に本社と研究所を構え、福島県西白河郡に製造工場を設置しています。
 2007年に大学発ベンチャーとして出発。入れ替わりの激しいベンチャーの世界の中でも長く続くベンチャー企業です。
 
【身近な素材を低コストでエコ素材に変える。ナノベクシルカプセル(N.V.C)技術】
 アクテイブ株式会社の技術を支えるのは、東京理科大学の阿部正彦教授(アクテイブ株式会社取締役副社長)の開発した「ナノベクシルカプセル(N.V.C)」です。
 ナノベクシルカプセルは、大きさ10ナノミリ~数100ナノミリのカプセルで、リン脂質という界面活性物質から出来ています。
 
 このカプセル内部に炭化促進剤とCO2化学吸着剤を封入し、商品パッケージなどのプラスティック商品に添加することで、焼却時のCO2が削減されるというもの。
 その仕組みは、「炭化反応」と「化学吸着」の組み合わせです。
 通常、ものを焼却した場合、発生した炭素が空気中の酸素と結びついてCO2が発生します。これに対し、ナノベクシルカプセルで炭化促進剤を添加したプラスティック製品を焼却した場合、炭化促進剤が炭素と酸素の結合を阻害 し、炭素と炭素が結合するように働きます。こうして出来た炭素の結合物は、グラフェン類似物となって、灰の中に残ります。
 グラフェン類似物は非常に強固な炭化物で、1,000度以上の熱を加えても燃えず、CO2が発生しません。このグラフェン類似物を埋め立てたり、セメントの材料としたりすることでCO2を固定化し、大気中への放出を抑えることが出来ます。
 また、グラフェン類似物とならずに酸素と結合して発生したCO2についても、グラフェン類似物の多孔体に吸着させることで炭化物として灰の中に留めるとのこと。
通常の地方自治体で使われる焼却炉と同じ条件下で検証実験を行ったところ、この技術を使った場合のCO2平均削減率は67.57%であったそうです。
 
 また、ナノベクシルカプセルの商品への添加量は全体の3%程度で済みます。実際に大手スーパーに並ぶ商品パッケージを手に取りましたが、見た目、透明度、手触りなど他のパッケージとの違いは分かりませんでした。
 添加量が少なくて済むということに加えて、製造ラインを大きく変える必要がないということも大きなアドバンテージです。例えば、プラスティック製品を植物由来原料のものに切り替えようとすると、原料だけでなく製造ラインの入れ替えも必要になります。しかし、ナノベクシルカプセルであれば、通常の製造ラインにナノベクシルカプセルを添加する工程を加えるだけで、エコ素材の製造ができるとのこと。コスト面では、材料費5%程度のアップですが、それでも製造ラインを入れ替えなくても良いというのは大きなメリットになるそうです。
 
【今後の展開】
 現在、ナノベクシルカプセル技術はアパレル製品のパッケージに採用されていますが、紡績に使用することで、服そのものもエコ製品とする開発も進めているとのこと。プラスティック製品をエコ素材に変えていく、それだけでも多くの製品への応用が考えられます。
 さらに、ナノベクシルカプセルに封入する材質を変えることで、CO2排出を抑制するプラスティック製品だけでなく、さまざまな特性を持った製品として応用することも可能とのことであり、既に大手印刷会社と連携して傷に極めて強い建装材向け化粧シートを開発していました。また、紫外線を遮蔽する材質を封入することで、紫外線による劣化を防ぐことができるとのことであり、例えば、医療現場の点滴薬等のパッケージに使用することで、薬品の変質を防ぐことなどが考えられるとのことです。
 
■取材後記
 アクテイブ株式会社によると、この様な焼却時のCO2を抑制する技術を持っているのは世界でもここだけだそうです。
 また、この新技術を使った素材は、来年東京で開かれるオリンピック・パラリンピックの大会スタッフや都市ボランティアに提供されるユニフォーム等の包装材にも採用されることが、大手スポーツメーカーのニュースリリースでも発表されています。
 海洋プラスティックごみや地球温暖化など、国際的に協力して解決すべき課題は日々深刻化しています。オリンピック・パラリンピックという世界中から注目を浴びる大きな舞台の中で、地球規模の課題を解決するための日本発のイノベーションを示すことが出来るのは素晴らしいことだと感じました。
 
 
<取材協力>(敬称略)
アクテイブ株式会社 取締役副社長(東京理科大学教授) 阿部 正彦
          取締役副社長           木戸 茂
          執行役員営業本部長        山室 博巳
アクテイブ株式会社 ホームページ https://acteiive.com/

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発行:経済産業省産業技術環境局総務課 執筆/担当 新川元康、松本智佐子
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