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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第130号

◆技術のおもて側、生活のうら側 2020年1月30日 第130号 

 こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
 このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。

五感と直感~アースアイズ株式会社のAI技術

 年末年始になると、警察や防犯を特集した番組がよく放送されますね。ベテラン警察官が、巡回中に不審者を見つけて、職質、逮捕!といった場面も定番です。一見普通の人と変わらないように見えるのに、すれ違う一瞬で視線の動きなど不審な行動を見分ける。それは、長年の職務経験や知識に裏打ちされたまさに直感です。
  今回、防犯カメラの2次元の映像を「人の目」で見るように立体的に捉え、ベテラン警察官の「直感」のように不審行動を見極めるAI技術を使って、小売業界の万引き被害を軽減している会社をご紹介します。
 
【万引き被害を半減~アースアイズ株式会社】
 この不審行動を見極めるAI搭載カメラ開発しているのは、東京都港区浜松町にある「アースアイズ株式会社」です。
   アースアイズ株式会社は、山内三郎代表取締役が2015年に立ち上げたベンチャー企業です。山内氏は、アースアイズ株式会社を立ち上げる前に、小売店等を対象とした警備コンサルティングに25年間携わってきました。アースアイズ株式会社では、NEDO(国立開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「五感AIカメラ開発」プロジェクトで行動データの収集を行い、自社製品であるAI搭載カメラの精度向上に努めました。山内氏の長年培ってきた防犯に関する知識や経験を背景に、このカメラを活用した万引き被害を軽減する自動監視システムを展開しています。
 昨年からNTT東日本と連携して、「AIガードマン」というサービスとしてドラッグストアやスーパーマーケット等に提供しています。導入した店舗によっては60%も商品ロス率が下がったところもあるそうです。
 
【AI搭載カメラを使ったAIガードマン】
  AI搭載カメラによる万引き被害軽減システム「AIガードマン」は、店内を撮影したカメラが、通常のお客と異なる不審な動きをする人物(例えば、必要以上にきょろきょろする、棚の周りをうろうろするなど)を自動で認識し、店員の持っているスマートフォンに通知が届く仕組みとなっています。
 もちろん、「不審な動き」=「万引き」ではありませんので、通知があった時点で捕まえるわけではありません。通知を受け取った店員は、状況に応じて対象のお客に声かけをします。これによって、仮に万引きをしようと思っていた人がいた場合に万引きを断念させることで、被害を抑止しようとするものです。
 
 技術的な仕組みに関しては、まず、不審行動を検知する前提として、カメラに映っている人物がどのような動きをしているのかを把握・分析する必要があります。AIガードマンは、次の3つの技術で人の動きを把握します。
 (1)骨格化:
   カメラに映った人の映像を単純化して認識します。具体的には、頭、右腕、左腕、右足、左足を捉えます。顔を認識して、体の前後の向きも検知しますので、人がその場で回転しても体の右半身なのか左半身なのか(右腕、左腕など)を追随して把握し続けます。
 (2)視線検知技術:
   カメラに映っている人がどこを見ているかを検知します。
 (3)3D化技術:
    カメラに映っている空間(2次元データ)を20センチ四方に区割りしてデータ処理することで、カメラに映っている人の立っている位置(距離)や背の高さなどを3次元的に認識します。
      これらの3つの技術により、1つのカメラの映像だけで、映っている人が、どの棚の位置で、どのような動きをしているのか、どこを見ているのかを正確に把握することが出来ます。複数の人物が映っている場合も、それぞれ個別に判別できます。
 
 次に重要になるのは、認識した人の動きが怪しいのか、怪しくないのかの判定です。アースアイズ株式会社では、これまでの警備コンサルティング時代のものも含め、多くの万引きに関する映像を保有しているとのこと。これを基に、不審行動をAIに学習させています。この膨大なデータが、システム構築において他社にはない強みとなっています。また、大学の行動心理学の研究室の協力を得て、万引きをしようとしている人の心理状況下における特有な行動もインプットしたのだそうです。
 さらに、実際に店舗に設置された後もAIは学習を重ねます。従業員のスマートフォンの画面には(1)声かけ完了、(2)従業員検知、(3)目的外検知の3つのボタンがあり、不審行動の通知が届くと、従業員はその通知の後に取った行動等に応じて該当するボタンを押します。お客の不審行動の通知を受け取って従業員が声かけをしたら、「声かけ完了」のボタンを押します。
 しかしながら、お客の不審行動ではなく従業員の行動を不審行動として検知してしまった場合(例えば、従業員が棚に商品出しをしている姿勢を通常のお客と異なる不審行動と捉えた場合など)は、「従業員検知」のボタンを押します。また、人物写真のポスターがエアコンなどの風で動いて、それを検知してしまった場合は「目的外検知」のボタンを押します。このように、従業員の動きや、ポスター、マネキンなどの情報を設置したカメラのAIに学習させていくことで、検知精度が上がっていきます。
 
【目的は、万引き犯を捕まえることではない】
 話を聞いている中でふと疑問に感じたのは、どの程度正確に万引き犯の検知が可能なのかということ。お客が「これにしようか、あれにしようか」と迷っていたら棚(商品)の前をうろうろします。従業員を呼ぼうとして店内をきょろきょろ探すこともあります。こういった行動との違いをどのように見分けるのか、との疑問がありました。こういった行動は外見上、不審行動とまったく同じです。
 この疑問を聞いてみたところ、実際にそのような動きも検知してしまうとのことでした。しかしながら、検知・通知の目的は、万引き犯を捕まえることではなく、あくまで被害の予防であり、更には従業員に積極的にお客とコミュニケーションをとってもらうことにあるのだとのお答えを聞き、納得がいきました。声かけにより万引きを断念させる目的もありますが、そういった予防に加え、従業員が声かけする習慣を作り、活気のある売り場を作ることも導入の効果になっています。
 
【今後の展開】
 現在、アースアイズ株式会社では、万引き被害軽減という目的以外に、現在介護業界向けにAI搭載カメラによる見守りサービスの実証実験も行っています。例えば、要介護者の転倒やベッドからの起き上がりなどの行動を把握し、介護スタッフに通知するシステムです。
 さらに、NEDOの「五感AIカメラ開発」プロジェクトの成果を更に活用し、小売店舗の防犯カメラ録画映像から、お客や店員の行動などをAIで高速で検索・分析するサービスも開始するとのこと。
 このサービスを使えば、一定期間の間に特定の商品の商品棚を訪れたお客の属性、人数、滞在時間などを録画映像から数値データに変換して表示することが可能となります。オンラインショップの世界では、web閲覧者の購入履歴やページ滞在時間等をデータとして情報分析して販売戦略に反映する手法が採られていますが、それを既存の防犯カメラの映像を活用してリアル店舗でも簡便に行うことができるようになります。また、工場での従業員の動きを分析することで、効率的な作業ラインの構築やマニュアル策定をすること等にも活用可能です。
 カメラの認識能力とAIの高速分析・検索能力を生かして、リアルタイムの不審行動検知から一定期間蓄積されたストックデータの分析に至るまで、サービスの幅を更に広げようとしているとのことでした。
 
■取材後記
 今回は、取材で話を伺うだけでなく、実際のAIガードマンをアースアイズ株式会社のショールームで体験することもできました。ドラッグストアにあるような商品棚が置いてあり、そこを天井に設置された防犯カメラが撮影しています。カメラの前でうろうろしたり、手を挙げたり、通常お店でしない動きをすると、不審行動として近くのスマートフォンに連絡が飛びました。
ショールームの防犯カメラはAIを搭載した専用のカメラでしたが、AIガードマンのサービスは、この専用カメラを店舗に設置するだけでなく、既にお店に設置されている防犯カメラにAIシステムを組み込んだサーバーをつなげることでも導入できるのだそうです。防犯カメラの設置が相当程度進んでいる中、既存の防犯カメラを活用して導入できることもアドバンテージだと感じます。
 人の目と熟練者の勘を併せ持ったAI。人口減少が進み、熟練者自体も減っていく中、今後も私たちの生活の中にさまざまな形で浸透していくのだろうと思います。
 
<取材協力>(敬称略)
アースアイズ株式会社 代表取締役社長 山内 三郎
           営業部     高橋 塁、鵜瀬 一樹
           社長室 澤登 舞美
PR事務局       佐藤 美惠 (ブリッジ株式会社)
 
アースアイズ株式会社ホームページ https://earth-eyes.co.jp/

技術のおもて側、生活のうら側

発行:経済産業省産業技術環境局総務課 執筆/担当 新川元康、松本智佐子
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