産業技術メールマガジン 技術のおもて側、生活のうら側
◆技術のおもて側、生活のうら側 2012年10月25日 第52号
こんにちは。ご愛読頂き、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産
業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支え
る産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
◆こだわりの一品
理容師、美容師にとって大切な道具であるハサミ。そのハサミには、
お客様の髪を痛めず、きれいな仕上がりを作ることが要求される。
また、1日に何時間ものカットをするため、理容師にストレスがな
く、手に負担がかからない、長さ、重量などのバランスがハサミに
は必要である。
ダイヤモンドとグラファイトでできているタイル状の膜をハサミに
コーティングすることにより、摩耗を大幅に防ぎ、切れ味が格段に
長続きする最先端の理美容師向けハサミが誕生した。今回、このハ
サミを製作した株式会社iMott(アイモット)のCEO代表取締役社長
の松尾氏にお話を伺った。
金属表面のコーティング膜は、摩耗や、温度による金属自身の収縮
などによって剥がれてしまう問題を抱えている。東京工業大学の大
竹尚登教授は、これを何とか解決しようと考え、金属より硬いダイ
ヤモンドを微細加工し、それを金属表面の上にタイル状に貼り付け
ていく、セグメント構造ダイヤモンド状炭素膜(S―DLC)の技
術を開発した。
コーティング膜を広く貼らず、分離したタイル状にしておけば、摩
耗や収縮が生じてもタイル内に衝撃が収まり、膜全体が破壊されな
い。また、剥がれたタイルだけを修復すればまた同じような機能も
発揮できる。
大竹教授の非常に優れたS―DLCの技術を何とか社会に広められ
ないかとの想いから、株式会社松尾工業所の松尾社長が中心となり、
40番目の東工大発ベンチャー企業として、2007年2月に起業
した同社は、東工大から特許も譲り受け、わかりやすいハサミ、し
かも一般用ではなく理容師や美容師が使うプロ用ハサミにこの膜を
コーティングし、製作した。
通常のハサミだと定期的に研ぐ手間が必要になるが、このハサミは
5年間研ぎ不要という。価格は従来品の2~3倍とかなり高価な価
格設定にしたが、コーティング補修や、メインテナンス中の代替ハ
サミの貸し出しなど、売りっぱなしでないビジネスモデルを展開し
ようとしている。実際の販売は11月からとのことであるが、今年
開催された東京都の美容師や理容師の競技会には、業者の一つとし
て出店し、理容師、美容師に無料で貸し出したところ反応は上々と
いう。
この技術、元々は、ボルトの固定に使われる平ワッシャーに応用し
たのが始まりという。見たところ何の変哲もないが、このタイル状
の膜を貼ったワッシャーを1枚入れると摩耗を1/20に落とせ、
ボルトの緩みも激減する。
この平ワッシャーは、様々な用途が期待できるが、例えば送電鉄塔
で採用されれば、定期的に頻繁に行われているネジの締め直しが不
要となるので、過酷な自然環境での作業が大幅に軽減できるなど、
今後大きな可能性があるとみている。
松尾社長は、社会の底辺で使えるような機械要素を開発していくこ
とが当社の役割だと思っており、平ワッシャーは重厚長大で困った
ところを何とかしようと考えたもの。ネックは価格というが、使用
用途は身近なところでは、自動車のホイールなど、振動にさらされ
ているあらゆるものに取り付けが見込まれると考えている。
非常に精密でしかもシルエットの綺麗なハサミの陰には、最終段階
における職人の匠の技が欠かせない。この職人さんの確保にも相当
力を入れているという。このハサミに、オタクを意味する“geek”
のロゴとともに“made in Tokyo”と刻んで、東京ブランドにこだわ
っている姿勢には、東京下町の町工場が大学発先端技術を使いこな
す、我が国製造業の一つの未来像を感じた。
<取材協力>
株式会社 iMott CEO 代表取締役 松尾 誠、取締役 岩本 喜直
株式会社 iQubiq 取締役副社長 成川 年正
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