- 政策について
- 政策一覧
- 経済産業
- 技術革新の促進・環境整備
- 産業技術政策全般/イノベーション政策
- 産業技術メールマガジン
コンクリートと鉄のジャングルを木の森に変える
産業技術メールマガジン 技術のおもて側、生活のうら側
◆技術のおもて側、生活のうら側 2013年9月26日 第63号
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産
業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支え
る産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
◆コンクリートと鉄のジャングルを木の森に変える
日本の国土の大半は山林である。人は、比較的条件の良い限られた
土地に密集して家屋を作ることになり、ひとたび火災が発生すれば、
たちまち広く延焼する。地震国日本では、予期せぬ天災が火事を引
き起こすこともある。このため近代日本では、昭和25年の建築基準
法制定以降、高層・大型建築は耐火建築物とすることが必須となっ
た。
ところが、木造建築物における基準は長らく策定されていなかった
ため、耐火性のある建築(耐火建築物)は、事実上の禁止措置が続
いていた。
そのような中、建築基準法に基づく木造耐火建築の性能規定化が行
われ、木造大型建築を実現できる法的環境が整ったのが平成12(20
00)年である。
竹中工務店では、1990年代から木造建築のスタディを実施していた
というが、デザイン的な要素が中心で、その時点で法整備を見込ん
でいたわけではない。同社の事業対象である大型建築物は、基本的
に一品生産であり、その建設に新技術を要するかどうかは、顧客か
らどのようなオーダーがあるかにかかっている。このため技術部門
では、様々な要求があり得ると想定し、日頃から多様な技術開発を
手がけているという。
この法整備は、検討が先行していた木造建築の耐火性研究に、同社
が本格着手するきっかけとなり、平成13年から、基準に適合する耐
火部材開発に向けた基礎研究が始められた。
木造耐火集成材としては、鉄骨の周囲を木材で覆った「鉄骨内蔵型」
や、木柱を人工資材で耐火被覆した「メンブレン(=膜)型」等が
あるが、これらの手法では木造でなかったり、木の質感を十分生か
せなかったりする。同社が開発した技術は、荷重を支持できる木柱
の周囲を耐火性に優れるモルタルで囲んだ上、その外側にも木材を
貼り付けて木の質感を見せる複層構造とする手法。火災が起きると、
最も外側の層は燃えて炭化するが、中間に挟まれたモルタル層が熱
を遮断・吸収し、内部の荷重支持部の温度を、炭化が始まる260℃
未満に維持する。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や国土交通省からの
資金援助も得て、平成17年には部材認定試験に持ち込めるまでに開
発が進み、同年のうちに合格、翌18年には大臣認定を取得した。以
降、より大きな大断面部材の認定、耐火性を低めずに構造強度と施
工性を確保した柱・梁の接合技術の開発を重ね、製品化に至ってい
る。接合部の開発においては、耐火性等を確保しつつ、金具やナッ
トが露出して美観を損ねないよう気も配った。
木の質感にこだわるのは、先行検討がデザイン的な観点だった影響
もあるが、加えて、大手建設会社の中では最も創業時期が古く(織
田信長家臣だった竹中藤兵衛正高が、宮大工として1610年に創業)、
現在も寺社建設や歴史的建築物の保存・復元で実績が多い企業とし
ての自負もあるという。
請負業であるがゆえに新技術の活用も顧客次第、という同社だが、
この技術を用いた大型木造建築が既に3件施工されている。ひとつ
は、来月にオープンを予定する横浜の商業施設で、地下1階地上4
階建、延べ面積は1万㎡を超える。2件目は大阪にある地上3階建
の事務所ビルで、建築主は、木材仲買業者の組合である。3件目も
延べ床面積約5千㎡の商業施設であるが、ここではこれまで2件の
事例と比較し、かなり部分的に活用されている。これらの建設に先
立つ平成22年には、公共建築物木材利用促進法が施行され、関連す
る助成事業が用意されたことも1~2件目の建設の後押しとなった。
同社によると、国内人工林は、比較的CO2吸収量の少ない50年以上
の高齢木が4割を占め、現状のまま推移すればそれが6割にまで達
するおそれがある(林野庁 森林および林業の動向 H23版より推測)。
大型木造建築物の増加によりコンクリートと鉄のジャングルを木の
森に変える実績が増えれば、森林サイクルの活性化を通じた環境へ
の貢献が期待できるのではないか-同社はそう期待している。
大阪のビルは正面に桜の老木がある。開花に影響を与えず建設する
のに相当な苦労があったと聞く。苦労の甲斐あって、満開の桜の背
後に立つ、“木の塊”の建物は大変美しい。3階テラスには、旧い
建物から移設したお稲荷様もある。まさに都会の中の鎮守の森であ
る。
<取材協力>
株式会社竹中工務店 先進構造エンジニアリング本部 五十嵐 信哉
技術研究所 構造部 防火グループ
大橋 宏和
技術研究所 構造部 防火グループ 永盛 洋樹
広報部
橋本 尚子
■バックナンバー
http://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/innovation_policy/mmagazine.htm
■PCからの配信登録
https://wwws.meti.go.jp/honsho/policy/innovation_policy/merumaga/index.html
■携帯からの配信登録
https://wwws.meti.go.jp/honsho/policy/innovation_policy/merumaga/k_index.html
■PCからの配信中止
https://wwws.meti.go.jp/honsho/policy/innovation_policy/merumaga/kaiyaku.html
■携帯からの配信中止
https://wwws.meti.go.jp/honsho/policy/innovation_policy/merumaga/k_kaiyaku.html
■記事へのご意見
innovation-policy@meti.go.jp
発行:経済産業省産業技術環境局産業技術政策課 担当/執筆:島津、小金澤、木村
〒100-8901東京都千代田区霞が関1-3-1
電話:03-3501-1511(代表)
問い合わせ先
本ぺージに対するご意見、ご質問は、産業技術環境局 産業技術政策課
電話 03-3501-1773 FAX 03-3501-7908 までお寄せ下さい。