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コンクリートと鉄のジャングルを木の森に変える
産業技術メールマガジン 技術のおもて側、生活のうら側
◆技術のおもて側、生活のうら側 2013年10月31日 第64号
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産
業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支え
る産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
◆いぶし銀の技術者集団が創る自然な音
ビフレステック株式会社は、ソニーをはじめ国内大手家電メーカー
への在籍経験を持つ技術者で構成された研究開発型企業であり、ソ
ニーと太陽誘電との合弁による記録メディア販売会社「スタート・
ラボ」からスピンアウトする形で、2006年に設立された。太陽誘電
が筆頭株主であるため子会社に位置づけられるものの、一般的な分
類に照らせば「技術ベンチャー」に類する。
ベンチャー企業と聞けば、一般には「若い経営者が才覚と情熱で新
規事業を行う会社」という印象が強いが、同社は、音響関係でこの
道何十年という蓄積のある技術者ぞろいの組織である。失礼ながら、
平均年齢は60歳ぐらいかと尋ねたところ、「まだ50代」と笑う。
我が国産業技術史において「CDの父」と称される、ソニー出身の
中島会長を筆頭に、重鎮級の技術者集団が生み出した同社の自信作
が、“恐竜の卵サイズ”を標榜する異形のスピーカーである。
「スピーカー」という単語から、我々はまず直方体の箱をイメージ
する。直方体でない製品を見た記憶がほとんどないため、この形は
外せない基本かと思いきや、単に生産性や設置上の観点からの要求
だという。
箱形は音の反射や回折の要因となり、良い音を追求する観点からは、
球形の方が望ましい。ただし、完全な球形では、最中心部の音圧が
高くなり、制御が困難になる。これらを踏まえた理想型を追求した
結果、寸法に黄金分割比(1:0.618:0.382)を反映させた卵形を採用
することになった。
このスピーカーから発生した音は、卵形の曲面に沿って放射状に広
がる。滑らかな球面波として音が周囲に均質に拡散するため、左右
のスピーカーから等距離のとある一点のみがベスト・ポジション、
ということはない。部屋のどの場所に立っても、良質で自然な音が
耳に届く。
電気信号を音に変えるコア部品である振動板も、通常は凹型となる
ところを、外形に合わせた曲面形状とすることにより、不要な付帯
音の原因となる共振の発生を抑えている。また、振動板の材料には、
弾性率が高く内部損失は大きいという相反しがちな特性が求められ
るが、日産自動車・東京大学等が開発した高分子素材を塗布するこ
とでこれを両立させ、良音質化を確保している。
この新素材は、傷修復性がある上、塗装が剥がれ難く表面の美観を
長期維持させる特徴があるため、自動車や携帯電話で実用化されて
いる。40年に亘る音響素材の開発経験がある同社エンジニアたち又
は技術者たちが、論文を調べる中で「これは使えるのではないか?」
と可能性を見いだし、検討を経てスピーカーへの採用に至ったとい
う。
こうしてできあがった製品は、長辺22cm・短辺14cmと極めてコンパ
クトである。見た目の印象からは意外なほど迫力のある、ただし加
工された感のない自然な音を紡ぎ出す。同社によると、特にヴォー
カルの再現性に優れるという。実際にCD音源で聞かせていただい
た「我が心のジョージア」は、ライブ会場で聴いているかのような
印象だった。
製品として最大の課題は、「聴かなければ(製品の魅力を)理解し
てもらえないこと」だそうだ。スピーカーは箱形で大きくて重厚な
ものが高級、という消費側の固定概念が、売上げ拡大の障害になっ
ているが、評判が評判を呼び、徐々に市場に浸透しつつある。
現在、スピーカーの売上げによる業績への貢献は、全体の2割弱程
度。残りの8割強には、30年以上を保証した長寿命記録メデイアの
販売収入があるほか、ベテラン技術者集団であることの強みを生か
した研究開発受託も柱となっている。
同社はアナログ技術における知見が強みとはいえ、例えば井橋社長
の御専門が光ディスクであるように、デジタル技術にも明るい。音
響関係の専門性の高さを応用し、建築物の老朽化程度を把握する試
みや、人の脈拍をリアルタイムで正確に捉えるための装置開発も行
っている(よく知られる「心電図」は、約15秒前のデータを整理し
て表示するものであり、医療の現場からリアルタイムの情報表示も
求められているという。)。
井橋社長は、いずれはより若い技術者を社員として迎え、これら技
術の蓄積を伝えていくことが必要、と語る。
多くのことがデジタルデータで動く時代になったが、現実に存在す
るものは、すべてアナログデータである。我々人間が、端末から出
力される映像や音声を価値として評価するのも、アナログデータと
しての認識がベースである。
たとえ高度なICT技術が用意されていても、世にあるアナログデ
ータを正確に捉え入力できる技術と、人間の感性への訴求力が高い
アナログデータの出力技術が伴わなければ、魅力的な製品は生み出
せない。井橋社長は、日本の若い世代に、高度なアナログ技術を扱
える人材が育っていないのではないかと懸念もする。
最近の我が国製造業では、主力製品の変遷により一部で技術系人材
の余剰が生じ、その処遇策が課題の一つとなっている。そのような
中で、ビフレステック社の方々は、出身元企業における音響機器の
売上げは最盛期の1割以下だと嘆く一方で、現在の職場を心から楽
しんでいるように見えた。
これまでに培った技術上の知見と人脈を生かせる場を新たに見いだ
し、経済社会に貢献しつつ次世代への継承を模索する。日本株式会
社が育ててきた「人」という財産を生かせる、一つの道ではないだ
ろうか。
<取材協力>
ビフレステック株式会社 代表取締役社長 井橋 孝夫
ソリューション技術開発部長 服部 克己
開発推進部長 高田 寛太郎
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