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産業技術メールマガジン 技術のおもて側、生活のうら側

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◆技術のおもて側、生活のうら側  20131226 第66号

こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産
業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支え
る産業技術を身近に感じていただければ幸いです。

◆渦巻き型太陽電池が新たな付加価値を創出する

携帯電話の普及以降、時刻を確認するためのマストアイテムという
腕時計の立ち位置は、確実に弱まっている。その一方で、ファッシ
ョン性を重視した装身具としての位置付けはむしろ強まっている。
基本機能である正確な時刻表示については、もはや1,000円以下の製
品と、その100倍以上の価格の製品との間に、決定的な差異はない。

そのような中で、腕時計メーカーが着実に利益を上げていくために
は、高付加価値化やブランド力の確保が欠かせなくなっている。

日本人はブランドづくりが不得手と言われて久しいが、国際的に極
めて知名度の高いブランドを持つ腕時計メーカーが日本にある。
「G-SHOCK」を擁するカシオ計算機株式会社である。

同社は、時計は機械式が当然という時代に開業した同業他社と違い、
計算機で培った技術を活用し、デジタル時計で市場参入した後発企
業である。G-SHOCKの大ヒットもあって、デジタル時計の世界では揺
るぎない地位を得たものの、アナログ時計では先行する二社の牙城
は高く、新規ブランドを立ち上げても、容易に定着に至らなかった。

幾度かの挑戦と撤退を経て、市場で一定の地位を得るに至ったアナ
ログ時計のブランドが、来年で国内販売10周年になる「OCEANUS
(オシアナス)」である。

ブランド展開に当たり同社は、エレクトロニクス技術による高い機
能性と、伝統的なアナログウオッチの装飾性を満たす製品とするこ
とを基本戦略に据え、電波受信による誤差の自動修正と、電池交換
を不要とするソーラー充電機能を標準装備とした。

腕時計の太陽電池は、最も光を受けやすく、面積も確保できる文字
盤の下に敷かれている。現行技術では、電池セル一つ当たりの電圧
は約0.5Vが限界であり、充電に必要な電圧である約3Vを確保するた
めには6つのセルを直列につなぐ必要がある。一般的なソーラーウ
オッチでは、文字盤に合わせ、扇形のセルを円形に並べて使用して
いる。

電圧は6つのセルの合計値で成り立つが、発電量は、単位時間に通
過する電荷の量(電流)で決まるため、6つのセルのうち最も小さ
いセルの発電量が全体を制約する。文字盤の装飾用に光を透過しな
い金属部品を使用すると、その下のセルは発電量が低下するため、
各セルの受光面積が均等になるよう、セルの分割を工夫する必要が
生じる。

仮に、そこまで工夫を凝らしても、アナログ時計には必ず『針』が
存在する。分針などの大きな影によって特定のセルが大きく発電量
を損失すると、全体の発電量の低下は避けられない。

発電量を確保するために、文字盤上のパーツや針を細く小さいもの
にした場合、このブランドの特徴である、視認性に優れたエレガン
スなデザインは得られない。文字盤自体の光透過率を高めることも
できるが、それでは上品な漆黒色を文字盤に採用できなくなってし
まう。

本ブランドの機能上の特徴であるソーラー充電と、デザイン上の特
徴である装飾性を高いレベルで両立させようとする試みは、実は相
当ハードルが高い。

同社羽村技術センターで太陽電池を担当する斉藤さんは、針の影に
よる発電損失を何とかしたい、と、何年も前から考えていた。

シミュレーションとして、針の影を3分割して別々のセルに分散さ
せると、当然だが受光面積の減少は抑えられる。1本の針を3分割
することは現実には不可能だが、針の影を分散させる発想には可能
性があると考え、その着想が、針の影が一つのセルに集中して落ち
ないよう、セルの形状を複雑化させる発明につながった。

その発明とは、文字盤の中心から放射状に配置するという並びは従
来と同様だが、セルの形状は均一な扇形ではなく、台風の衛星画像
を見て思いついたという渦巻き型のセル形状だ。渦のように不定型
に湾曲した形状を成しているため、直線形状の針の影が差しても、
それが一枚のセルに集中することはない。

セルの加工はレーザーで機械的に処理してしまえるので、複雑な形
状であっても、製造コストに大きな差はないという。

この太陽電池を採用し10月末に発売された同ブランドの新モデルで
は、クロノグラフの基本装備であるストップウオッチ等のインダイ
ヤルの占有面積が、従来品に比べ大型化されている。併せて文字盤
の加飾面積や針の面積も拡大され、既存のラインナップ以上に力強
い、デザインリッチな仕上がりの製品となっている。

この新製品開発に当たり、当初から太陽電池の改良が計画に入って
いたのかと尋ねたところ、斉藤さんは「当然デザイン部や企画部か
らは常に改良を期待され続けていますが、正直言って、今回のよう
な手法は全く計画には入っていませんでした。設計中に突然閃いた
ものですから。」と笑う。

同社によると、今後、G-SHOCKを含むソーラータイプの腕時計の多く
に、この渦巻き型太陽電池を採用していく計画とのこと。他社に模
倣されないよう特許出願は済ませているが、斉藤さんは、この特許
の回避技術も見出したため、そちらも出願済みだという。

取材時点で、新モデルは発売から1か月半しか経過していなかった
が、市場の評価も気になる。広報部にその点を伺ったところ、カタ
ログモデルとほぼ同時に販売した限定モデル500個が短期のうちに完
売しており、この勢いをレギュラーモデルにも期待したい、とのお
話を聞かせていただいた。

カシオが新たな強みを手にしたことに、ライバル社も心穏やかでは
ないだろうが、当然、これに負けじと新技術や新製品を繰り出して
くるに違いない。各社が切磋琢磨を経て、日本発の魅力豊かな製品
群が登場してくることを、ユーザーの一人としても期待したい。

<取材協力>
カシオ計算機株式会社 羽村技術センター 時計事業部
           モジュール開発部 実装開発室 斉藤 雄太

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