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産業技術メールマガジン 技術のおもて側、生活のうら側

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◆技術のおもて側、生活のうら側  2014130 第67号

こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産
業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支え
る産業技術を身近に感じていただければ幸いです。

◆容量3倍!のリチウムイオン電池が未来を拓く

化石燃料が枯渇する可能性が取り沙汰されて以降、多種多様なエコ
カーが商品展開されている。これほど多様化した一因として、早期
のうちから本命視されていた電気自動車が、航続距離の制約から伸
び悩んでいる点を指摘する声もある。

例えば、日産自動車が製造するリーフは、フル充電時の航続距離と
して228km(JC08モード)という性能をカタログに掲載している。
しかし、停車と発進の繰り返しを余儀なくされる都市交通環境下で
の走行や、空調を多用する盛夏期の運転など、いかなる動力機関で
あれ良好な燃費が期待できないような状況では、この数値を達成す
るのは厳しい。

そのような中、積水化学工業株式会社は、従来比で容量3倍のフィ
ルム型リチウムイオン電池を開発したと発表した。

電気自動車に関心のある消費者が購入を迷う場面があるとすれば、
航続距離に対する不安が最大の要因になると推察される。3倍とい
う数字には、その不安を吹き飛ばす力があるのではないだろうか。

エコプロダクツ2013((一社)産業環境管理協会・日本経済新聞社
主催、経済産業省ほか後援)において、同社R&Dセンター先進エネ
ルギーグループの加納グループ長にお話をお伺いしたところ、高性
能を実現させたキーテクノロジーのひとつは、リチウムイオン伝導
性の高い素材(従来比10倍)を電解質に採用したことだという。

正極(+)と負極(-)の間をリチウムイオンが移動することによ
り充電や放電を行うというのが、リチウムイオン電池の仕組みであ
る。主に正極にはリチウム酸化物、負極には炭素素材が用いられ、
これを幾層にも重ねた全体を、有機溶媒の電解質で満たした構造と
しているのが一般的だ。

電解質に伝導性の高い素材を活用すればイオンの移動がより促進さ
れ、電池の性能を上げることができる、という発想は、専門家であ
れば容易に着想できるのではないかと思える。なぜこれまで実現で
きなかったのかを加納グループ長に伺ったところ、「性能を高める
には、単にイオン伝導性が高ければよいというものではありません。
リチウムイオンのみを選択的に流すことができる、指向性を持った
素材の発明があってこそ実現できた技術です。」との答えをいただ
いた。

さらに、一般的な炭素素材の負極に換えて、新たなケイ素系負極材
料を開発し採用したことも、容量の3倍増に貢献している。

新発明のもう一つのポイントは、この電解質がゲル状であること。

これまでのリチウムイオン電池の製造場面では、電解質が液状であ
ることから、密閉度の高い容器に真空注入する工程が必須だった。
新素材はゲル状であり、液体に比べ流動性が低いため塗工プロセス
の適用が可能になる。

同社では、連続塗工プロセスを採用することにより、従来の10倍
の速度での連続生産が可能になると見通している。

伝導性が高いことから、充電時間も短縮できるのではないかと期待
してしまうが、その点は、今後電池メーカーや充電器メーカーをパ
ートナーとした取組の中で明確にしていくとのことだった。

同社では、2014年夏をめどに新型電池のサンプル提供を始め、試作
・評価を経て2015年度には市場投入すると明言している。

ここまで、電気自動車への適用を想定して紹介してきたが、リチウ
ムイオン電池の用途は、電子機器や住宅用蓄電池など多様である。
容量の大きさを生かせば小型軽量化が実現できるし、電解質がゲル
状であるため形状の自由度は高く、これまで適用できなかった狭い
空間などへの設置・搭載が期待できる。また、同社の住宅事業にて
積極的に進めている蓄電池付戸建住宅への展開も期待できる。

同じエコプロダクツ2013において同社は、(独)産業技術総合研究所
等と共同で、従来の高温焼成を用いず、世界で初めて室温プロセス
でフィルム型色素増感太陽電池を試作することに成功したと発表し
ている。

産業技術総合研究所が開発したエアロゾルデポジション法(セラミ
ック材料を常温高速コーティングする技術)と、積水化学の微粒子
制御技術等を組み合わせ、有機フィルム上に光電変換層を形成する
ことに成功したというものだ。有機フィルム上の色素増感太陽電池
としては、8%という世界最高水準の変換効率も得られている。

室温環境下で製造できるため、製造負荷を減らせるほか、耐熱性の
低い汎用フィルムにも太陽電池膜を形成できる。製造プロセスでは
ロール・ツー・ロール方式(ロール状に巻かれた基材を用いて連続
的な製造を行うプロセス)の採用が可能になるため、製造コストの
低減も期待できる。

「世界初」と聞くと、実用化にはまだ遠いのかと連想してしまうが、
同社は2015年に太陽電池市場への参入を目指すとしており、実現の
めどが十分立っていることが伺える。

近い将来、これらの電池技術を採用し、省エネ性能を向上させたス
マートハウスの登場も期待される。そのときガレージに収まってい
るのは、おそらく電気自動車だ。

<取材協力>
積水化学工業株式会社 R&Dセンター開発推進センター
   先進エネルギーグループ   グループ長     加納 正史

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