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半導体素子が冬の生活をホットに変える
産業技術メールマガジン 技術のおもて側、生活のうら側
◆技術のおもて側、生活のうら側 2014年2月27日 第68号
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産
業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支え
る産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
◆半導体素子が冬の生活をホットに変える
先日の大雪は、太平洋側の各地に多大な被害と混乱をもたらした。
交通インフラも大打撃を受け、今後の対策も課題となっているが、
幸い、南北に長い日本は雪国にお手本がある。
役立つかもしれない例の一つが、朝日電子工業株式会社が鉄道施設
・設備の融雪対策用に施工している、半導体の性質を利用した発熱
体だ。JR東日本が運行する新幹線用車両の乗員乗客搭乗扉の凍結防
止装置として、E5系(はやぶさ)以降の全車両に採用されている
ほか、札幌市電(路面電車)では、車内暖房に採用、レール切替ポ
イントの融雪装置への採用を検討している。
この発熱体は、半導体と金属酸化物を組み合わせて整列させた構造
の素子で、外観は黒く薄い、カーボン紙を連想させるフィルム状。
これに電極を接続し、ポリアミドのフィルムでラミネート加工した
ものが製品となる。製造工程にノウハウがあり、上市から16年目に
なるが、コピー商品は出回っていない。
これに通電すると、内部で電子の衝突が生じ、熱エネルギーが発生
する。
ニクロム線を使用する従来の発熱装置に比べ、熱変換効率が50%以
上高い上、起動の際に一瞬大きな電流が流れ込む「突入電流」が生
じない半導体ならではの特徴により、ニクロム線の10倍以上の製品
寿命が見込まれる(LEDの長寿命と同じ理屈。)。
また、鉄道車両に採用されるに至った重要な特徴が、不燃性という
点である。車両火災等万が一の事態に備え、鉄道会社は、車両に採
用する素材に厳しい基準を適用しており、着雪防止装置にも、不燃
性素材の使用が求められた。百聞は一見にしかずと、目の前でライ
ターの火を切片に当てていただいたが、ぼろぼろと炭化片が落ちる
ばかりで、炎はまったく上がらない。穴が空くような破損が生じて
も、それが燃焼につながることはないという。
低圧の3Vから400Vまで様々な電源が利用でき、温度設定も30℃から
数百度まで調整可能だ。理論上、400℃を優に超える高さまで発熱さ
せられるが、ラミネート材の耐熱性を考慮し、現時点では200℃を上
限に設定している。
開発を手がけた朝日電子工業は、セキュリティ設備をはじめ電子制
御装置の設計・施工で多くの実績を有する企業で、1998年以降、こ
の発熱体事業を第二の柱として、ビジネスを展開している。
各種制御システムの顧客から、より省エネ型の装置が望ましいとの
声があったことをきっかけに、現在同社の代表取締役を務める美澤
尚氏が、電子機器から発生する熱を有効利用しようという発想を具
体化させた。
当初は、発熱体フィルムそのものを顧客に供給するやり方も進めた
が、不適切な使い方をする例も見られたため、現在は、顧客から仕
様を確認した上で電極設置とラミネート加工を施し、部品として供
給する手法を徹底している。
発熱体を事業化した当初は、先に紹介した鉄道車両の例など業務需
要が主だったが、最近は、床暖房パネルやホットカーペット、防寒
具など、高い省エネ性能と加工適性を活用した民生品への応用に積
極的に応じている。電磁波の発生がほぼないという特長を生かした、
医療機関向けのベッドといった応用例もある。
美澤社長は、「にわかに信じてもらえないこと」が普及上の障害の
一つだと笑う。とは言え、2000年に開催された第1回CEATEC JAPANに
出展した際、専門家からまがい物呼ばわりされたことを思えば、隔
世の感がある。
この展示会で関心を示した数少ない企業の一つが、現在も取引のあ
るJR東日本だ。同社との取引をきっかけに、鉄道会社における朝日
電子工業の知名度は高まり、今回の大雪でも新たなビジネスチャン
スが広がっている。フランスのTGVに採用されているのも、鉄道関
係の公益財団法人から「フランス国鉄が困っているらしい。御社の
技術で何とかなるのでは?」と照会があったことから始まっている。
聞けば聞くほど、なぜこの程度の普及にとどまっているのかと疑問
が湧くほどの技術である。このhidden championが、今よりもっと
注目される日も近いのではないか。
<取材協力>
朝日電子工業株式会社 代表取締役 美澤 尚
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