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産業技術メールマガジン 技術のおもて側、生活のうら側

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◆技術のおもて側、生活のうら側  2014327 第69号

こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産
業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支え
る産業技術を身近に感じていただければ幸いです。

◆産総研発ベンチャーは、電子部品製造の常識を変えられるか

電子機器の高性能化と小型化が日進月歩で進んでいる。そのニーズ
に応えるため、先人は、より小さな面積の中に、より細かく密に配
線や電極を落とし込む努力を重ねてきた。

例えば現在のICチップ製造には、写真の現像手法を応用した「フォ
トリソグラフィ」という技術が使われている。紫外線に反応する材
料を活用し、シリコンウエハー上に描きたい回路の「型」を転写し
た上でエッチング加工する仕組みで、32~45nmの精度を再現できる
ところまで実用化されている。

超微細構造を高精度で再現する上では重要な技術だが、大規模なク
リーンルーム等の高額の設備投資を要するほか、極少量の回路を作
製するために貴金属を含め材料の大半が無駄になるなど、資源やエ
ネルギーの損失が大きいという問題点を抱える。

株式会社SIJテクノロジの村田和広代表取締役社長は、「半導体
チップ内の配線が微細化していく中で、チップと基板の接続や、基
板自体の配線の高密度化要請も高まってきた。5~20μmの線幅の回
路を作製するのに、フォトリソグラフィを使うのは無駄が多く、一
方で通常の印刷技術による対応は限界との認識が広まり、当社への
問合せも再び増えてきた。」と語る。

同社は、独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)の現役研究者
である村田氏が、自身の発明である「超微細インクジェット技術」
(SIJ)を広く普及させていくことを目的に起業した産総研発ベン
チャーだ。

通常のインクジェットプリンタの液滴が1ピコ(1兆分の1)リッ
トル程度であるのに、SIJでは、独自開発の方式により1フェム
ト(1,000兆分の1)リットル以下の液滴を吐出できる。低粘度から
高粘度まで幅広い粘度範囲のインクが吐出可能という特徴もあり、
現在はフォトリソグラフィが用いられている製造工程を簡素化する
ことなど、様々な応用が期待されている。

同社は2005年の創業以来、試作受託で収益を確保しつつ、研究開発
や試作用の機器販売を重ねてきた。他社との共同研究の成果として、
SIJ用に開発した銅インクを用いて、基板上に配線幅3μm、ピッチ
6μmの銅線を直接形成することにも成功している。

村田社長も、最初から起業指向を持っていたわけではない。

「特に注目もされず細々と進めていた基礎研究の成果」と御本人は
謙遜するが、発表の場として選んだ「第1回国際ナノテクノロジー
総合展」(2002年)では、見事にナノテック大賞(超微細加工技術
部門)に輝き、一気に注目を集めた。以降、数々の受賞歴を重ねて
いくとともに多くの企業と共同研究を進めるに至ったものの、実用
化に踏み込むパートナー企業が出てこない状況に、発明者として忸
怩たる思いも抱いていた。

そのような中、2001年に着任した吉川弘之理事長(現最高顧問)の
方針により、産総研において、自社開発技術のベンチャー起業が積
極的に推奨されることになった。支援の仕組みが充実されたからこ
そ起業できたと、村田社長は吉川最高顧問への謝意を口にする。

産総研に起業の指南役として招かれていた増田一之氏(現取締役会
長)が、自ら経営に参画したことも大きい。金融機関でIT部門長
等を務めた後、複数のベンチャー創業に携わった増田氏が代表取締
役として経営を担う一方、村田氏は取締役に就任し、企業としての
核である技術の商品力を高める研究開発を担う、という役割分担が
できた。

そのおかげもあってか、SIJテクノロジは、通常は需要の掘り起
こしから始めなければならない、先端技術を商品とする企業である
にもかかわらず、創業後間もない頃から黒字経営を続けられている。

村田社長が目指すのは、自身の発明を、電子部品等の量産工程に貢
献させていくことだ。コスト削減効果が明確でも、既存のラインと
は全く異なるメカニズムの導入に踏み込んでもらうには、相当な魅
力が必要になる。量産への適用を考えれば、よりスピードがほしい、
との声もあるため、複数のヘッドで作業効率を上げる方法にも着手
している。

産総研に対し、周囲の期待は「実用化」に集まる。発明者として、
自ら橋渡しの先陣を切る村田社長の奮闘に、心からエールを送りた
い。

<取材協力>
   株式会社SIJテクノロジ 代表取締役社長 村田 和広

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