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産業技術メールマガジン 技術のおもて側、生活のうら側
◆技術のおもて側、生活のうら側 2014年5月29日 第71号
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産
業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支え
る産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
◆「見えないガラス」からガラスの将来が見える
ガラスは無色透明だが、そこにガラスがあることを我々が感知し、
ぶつからずに済んでいるのは、わずかながら光を反射するからであ
る。
通常のガラスの場合、視感反射率は約4%。これが反射光や映り込
みとなって我々の目にガラスの存在を知らせてくれるが、日本電気
硝子株式会社が開発した「見えないガラス」は、これを0.08~0.3%
にまで低減し、まさに触るまで認識できない透明度を達成している。
御存じの方もいるとは思うが、光の実態は波である。ガラス表面に
膜をつけることにより反射界面を作り、この界面から反射してくる
光の波が打ち消しあうように膜厚を調整することにより反射率を低
減することが出来る。同社ではこの原理を活用し、ナノメートルレ
ベルの薄膜を幾重にもコーティングすることによって複数の可視光
を次々と打ち消し、視感反射率を極力ゼロに近づけた。
お話を伺った同社の金井執行役員は、「この視感反射率を下げる技
術は、特別新しいものではありません。3層程度ですが、眼鏡のレ
ンズにもよく使われています。」と謙遜気味に説明されるが、この
見えないガラスでは、最もハイスペックなもので片面約15層もコー
ティングされている。これで通常の50分の1まで反射率を抑えられ
る。
既に美術館や宝石店、高級時計店等で使用実績があり、鑑賞者と展
示物の間を遮るものは空気しか存在しないかのような展示スタイル
を実現している。
量産レベルでこの透明度を実現する上での難しさは多々あるが、1
点は、製造工程における正確なコーティングの再現。膜の厚みも光
の波長もナノレベルであり、わずかなムラが打ち消し効果を台無し
にする。
使用場面における最大の敵は指紋。透明度が桁違いに高い分、付着
した指紋はよく目立つ。この課題は、光の波長を打ち消す薄膜の上
に、人の脂が付着しづらい薄膜を更にコーティングすることにより
克服した。
「見えないガラス」を、最初に一般に「見せた」のは2011年の展示
会。その直後から問合せが殺到し、とりわけ、映り込みの少なさを
生かしスマホやタブレットに利用できないかとの要請が多く寄せら
れた。
直ちに商品化できなかったのは、その時点で耐久性が十分検証され
ていなかったからだ。透明感を作り出しているのは、ナノメートル
レベルの薄膜。指やタッチペンによる何千回、何万回の接触が繰り
返されても性能を維持できるかという課題もあれば、屋外での使用
を排除できないスマホは、太陽光や風雨にさらされることも前提と
考えなければならない。
顧客の中には、耐久性の例として『金だわしで千回こすっても大丈
夫な強さ』を求める者もいたという。
これらの課題をクリアし、2015年には、この「見えないガラス」を
活用した製品が上市される予定だ。
発表から製品化まで時間を要したと聞き、やはりコストの問題かと
最初は考えてしまったが、「我が社は、新製品の研究開発を行う際
も、量産に用いる機械装置を使って進めるぐらいで、コストは最初
から織り込み済み」とのこと。
では、開発に至る着想も具体的な見通しに基づいていたのかと思い、
開発のきっかけを金井執行役員に尋ねたところ、「担当者が、どこ
まで膜を重ねれば、どれほど見えなくなるか試したくてやってみた
結果」だと笑う。ニーズありきの計画的な開発だけでなく、自由な
発想を許容する柔軟さもあるようだ。
帰り際に金井執行役員から「これも期待の新製品」として一枚のガ
ラスを紹介いただいた。指で触れると、上質な紙か、きめ細やかな
布を思わせるガラスらしからぬ触感があり、指先は何の抵抗も覚え
ずスムーズにガラス面を移動する。薄膜を活用して人間の目には見
えない凹凸を構築することで、この触感を作り出しているそうだ。
「これをスマホのパネルに使ったら、いいと思いませんか?」にこ
やかな笑顔の裏から自信が垣間見えた。
<取材協力>
日本電気硝子株式会社 執行役員 薄膜事業部長 金井 敏正
総務部 広報・IR担当課長 千坂 貴
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