- 政策について
- 政策一覧
- 経済産業
- 技術革新の促進・環境整備
- 産業技術政策全般/イノベーション政策
- 産業技術メールマガジン
医療ビジネスは一日にして成らず
産業技術メールマガジン 技術のおもて側、生活のうら側
◆技術のおもて側、生活のうら側 2014年9月25日 第75号
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産
業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支え
る産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
◆医療ビジネスは一日にして成らず
ヘルスケア関連産業と言えば、今も昔も医薬関連の経済規模が最も
大きいが、近年は、健康維持サービスや医療機器の分野におけるビ
ジネスの可能性にも注目が集まっている。
医療機器にもいろいろある中、株式会社高山医療機械製作所は、脳
外科手術に使用する器具で国内9割のシェアを有することで知られ、
その精度の良さから、現在は世界中で使われるなど他社の追随を許
さないブランド力を誇る。
「匠の手」と賞賛される著名医師の指導の下で開発し、その医師の
名を冠し「上山式」と名付けられた脳外科手術用器具一式は、器具
としての造りや動きの精度に加え、先端を微妙にカーブさせた形状
の工夫が、製品の肝となっている。
脳外科手術は、脳内の血管を相手にする細かな作業であり、手術は
顕微鏡下で行われる。細い血管を着実にホールドし、円滑な外科処
置を施していくことが必須であり、処置対象である血管が器具の刃
先で隠れてしまうような事態は、文字通り致命的になる。先端形状
の工夫は、執刀医の視界を器具自身によって遮らせないために生ま
れた上山医師の発明だ。
もちろん、単に曲げればよいというものではない。左右の刃先をず
れなく正確にそろえた上で、指先に加えた力が平易かつ確実に先端
まで伝わり刃先の感覚が指に伝わる構造を成立させなければ役に立
たない。製品の品質が人の命を左右することになるので、製造工程
に手は抜けない。
こう書くと、この道何十年のベテランが、器具の一本一本を仕上げ
ているような印象を与えるかもしれないが、拝見させていただいた
工場内で作業していたのは、いずれも20~30代の若い方々ばかりだ
った。ベテラン社員もいないわけではないが、実は高山医療機械製
作所は、同業者の中では例外的に若手社員の多い、特異な存在であ
る。
「最後は人手で仕上げて完成させる。それ以前の工程に、どこまで
機械を入れられるか、手作業と機械加工の見極めが肝心」と高山社
長は語る。
国内の医療器具製造技術は、江戸時代の始祖から連なる徒弟制度で
維持されてきた。職人技を引き継いだうえで見本品から手仕上げで
仕上げる世界から、試行錯誤の中、図面化をはかり治具を工夫し切
削条件を探し難削材の加工法を確立した。海外も含め需要が拡大す
る現状を考えれば、早くから機械化を進めたことが功を奏した。
過去のメディアの記事をみると、下請けの立場から脱却し、医師の
ニーズを直接くみ取った自社ブランドの展開が企業としての転機と
書かれている。医師と接点のあった医療機器卸の営業西改氏から紹
介されて、著名医師との交流を持ったことが始まりではあるが、ニ
ーズを聞き出せるほどの関係が一朝一夕に築かれたわけではない。
「脳外科医は多忙を極め。自分の言葉を理解できない一業者の相手
などしてくれない。外科医の話が理解できるよう解剖と手術手技の
知識を猛勉強して身につけ、足繁く通った。今日はこういう症例の
手術、と聞けば手術手技と道具立てを具体的に聞き返せる力量を持
つぐらいにならないと、信頼関係は作れない。」
と高山社長は言う。ただし、ニーズを直接反映させた製品を作るだ
けでは不十分で、むしろニーズのさらに先を行き、医師のニーズを
超えた機能を持たせた製品を用意して初めて需要創造につながるの
だと指摘する。
医師の足下まで踏み込み、需要につながる情報を引き出すのは、こ
れまで西改氏と高山社長の二人三脚で担ってきた。職人技を脈々と
つなぎ機器の営業としての立場を西改氏から学んできたように、今
後は、それを次代に引き継いでいかねばならない。医師を訪問する
際には必ず若手社員を同行させるなど、徐々にビジネスの引き継ぎ
も図っているという。
一般に中小企業となると、若手の人材確保に苦慮することが往々に
してあるが、高山社長によれば、同社は幸い、旧帝大工学部の学生
から入社希望があるほどで、人材確保上の悩みは少ない。製品の海
外展開が拡大している上、医師に同伴して海外の実験や海外の展示
会に参加する機会もあり近年は米国の大手医療機器メーカーの試作
開発を請け負ううえで、採用に当たっては語学も必須だと意気込む。
結局、技術もビジネスも「人」がつなぐ。
高山社長は、「医工連携の成功には、情熱をもって『患者に向き合
う医師の役に立ちたい』という気持ちが第一でそれがpatient first
につながります。ビジネスになるかは経営者の才覚です」と主張す
る。自社製品が人の命に関わるのだから、当然の認識かもしれない
が、手術手技を学習して医師との対話を重ねるなどを通じ、医師と
同じ術野の共有を持つに至った高山社長なりの実感でもある。工学
側としては、高山社長に続く人材育成を図ることが重要だが、「地
道な取組には、なかなか目が向けられていない」とも指摘する。
ずっと高山社長のお話を聞いて、よく言われる「最後は人」という
言葉が胸に染みた。
<取材協力>
株式会社高山医療機械製作所 代表取締役社長 高山 隆志
■バックナンバー
http://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/innovation_policy/mmagazine.htm
■PCからの配信登録
https://wwws.meti.go.jp/honsho/policy/innovation_policy/merumaga/index.html
■携帯からの配信登録
https://wwws.meti.go.jp/honsho/policy/innovation_policy/merumaga/k_index.html
■PCからの配信中止
https://wwws.meti.go.jp/honsho/policy/innovation_policy/merumaga/kaiyaku.html
■携帯からの配信中止
https://wwws.meti.go.jp/honsho/policy/innovation_policy/merumaga/k_kaiyaku.html
■記事へのご意見
innovation-policy@meti.go.jp
発行:経済産業省産業技術環境局産業技術政策課 担当/執筆:島津、木村
〒100-8901東京都千代田区霞が関1-3-1
電話:03-3501-1511(代表)
お問合せ先
本ぺージに対するご意見、ご質問は、産業技術環境局 産業技術政策課
電話 03-3501-1773 FAX 03-3501-7908 までお寄せ下さい。