- 政策について
- 政策一覧
- 経済産業
- 技術革新の促進・環境整備
- 産業技術政策全般/イノベーション政策
- 産業技術メールマガジン
“飛ばテン”は農業のスタイルを変えてくれるか
産業技術メールマガジン 技術のおもて側、生活のうら側
◆技術のおもて側、生活のうら側 2014年11月27日 第77号
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産
業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支え
る産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
◆“飛ばテン”は農業のスタイルを変えてくれるか
100mを9秒台で駆け抜けられる人もいれば、その倍の時間をかけても
無理という人がいるように、同じ人間でも得手不得手がある。人間
のみではない。一寸の虫にも得手不得手というものがある。
「テントウムシ」と聞くと、指や枝の先端から飛び立つイメージを
浮かべる方がいるかもしれない。それほど軽やかに飛ぶことが印象
的な昆虫であるが、世の中には、先端まで登り切っても決して飛ば
ない、飛ぶこと自体が不得手という「個性」を持ったテントウムシ
がいる。
仲間達が軽い足取りで枝の先まで歩みを進め、パッと羽を開いて飛
び立っていくのに、その個体は、羽を広げいかにも飛びそうなのに、
落ちる。微笑ましくもあり、哀れでもある。
農林水産省所管の独立行政法人「農業・食品産業技術総合研究機構」
(略称:農研機構)の世古主任研究員は、周囲の示唆も得ながら、
この虫の「個性」を農業利用するための研究を進めた。
生態系上の「食う・食われる」の関係を利用し、天敵とされる生物
によって病害虫を駆除する技術は、「生物農薬」や「天敵製剤」と
いう呼び方で知られ、既に実用化も進んでいる。テントウムシの場
合、アブラムシ駆除効率が高い(要するに大食漢)ナミテントウを
商品化したものが国内外で市販されているが、やはり課題となるの
は、飛んで逃げてしまうというロスにどう対処するか、だ。
これまでの例では、万、十万といった膨大な数のテントウムシを使
うことにより飛んで逃げるロスを相殺する物量作戦や、狭い空間で
羽化をさせることにより、羽を損傷して飛べない個体を量産すると
いう方法も試みられている。
世古さんが研究対象に選んだ「飛ばないテントウムシ」(通称“飛
ばテン”)は、野生にも確実に存在するものの、絶対数はごくわず
かである。なぜなら、飛翔能力が劣るということは、新しい餌や交
尾相手を探す上で圧倒的に不利で、越冬に適した場所にたどり着く
ことも難しい。テントウムシが生きていく上では致命的な個性と言
え、生き残る可能性、次世代に遺伝子をつなぐ可能性が極めて低い
からだ。
世古さんが取り組んだのは、野生動物を人が利用しやすいように家
畜として品種改良した先人達の成果と同じ試みだ(昆虫でも、カイ
コという先例がある。)。基礎研究における昆虫の飛翔能力の分析
用に使われる道具を活用して「飛ばない」個体を選抜し、その個体
同士を30世代以上交配させることにより、その個性を持った個体を
安定的に産出するプロセスを確立した。
商品として量産する上では、周年供給できる人工飼料の開発も欠か
せない。そのため、天敵製剤の取扱実績があり独自のノウハウを持
つ株式会社アグリ総研がその部分を担当した。
飛ばないテントウムシを作出するプロセスは特許登録され公開され
ているが、この人工飼料は、成分も飼料そのものも社外秘とする知
財戦略がとられている。
農研機構内の研究から始まったこの取組は、国の競争的資金を活用
した研究開発プロジェクト(「“飛ばテン”プロジェクト」と通称
された。)において、民間企業も参画する形で、人工飼料や量産プ
ロセスの開発が行われており、国プロが実用化に至る橋渡しの役割
を担った形になっている。
この“飛ばテン”は本年6月から既に市販されている。現時点では、
ビニールハウス内など閉じた空間での使用しか認可されていないが、
「飛ばないこと」が利点としてより有効に働くのは、やはりオープ
ンな空間での利用だろう。
開放空間でも使える農薬登録を得ること、スケールメリットが出せ
ないため高額になってしまう現在の価格水準を下げ、利用のハード
ルを下げることが次の課題だという。
生物を利用した病害虫の防除は、農地への化学資材の投入量を減ら
すことに加え、農薬への耐性を持った害虫の出現を回避する効果も
期待される。
皆さんも、猫の手ならぬテントウムシの手を借りて育てた野菜と聞
けば、ちょっと食べてみたくなる気になりませんか?
<取材協力>
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
近畿中国四国農業研究センター 主任研究員 世古 智一
■バックナンバー
http://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/innovation_policy/mmagazine.htm
■PCからの配信登録
https://wwws.meti.go.jp/honsho/policy/innovation_policy/merumaga/index.html
■携帯からの配信登録
https://wwws.meti.go.jp/honsho/policy/innovation_policy/merumaga/k_index.html
■PCからの配信中止
https://wwws.meti.go.jp/honsho/policy/innovation_policy/merumaga/kaiyaku.html
■携帯からの配信中止
https://wwws.meti.go.jp/honsho/policy/innovation_policy/merumaga/k_kaiyaku.html
■記事へのご意見
innovation-policy@meti.go.jp
発行:経済産業省産業技術環境局産業技術政策課 担当/執筆:島津、木村、田部井
〒100-8901東京都千代田区霞が関1-3-1
電話:03-3501-1511(代表)
お問合せ先
本ぺージに対するご意見、ご質問は、産業技術環境局 産業技術政策課
電話 03-3501-1773 FAX 03-3501-7908 までお寄せ下さい。