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産業技術メールマガジン 技術のおもて側、生活のうら側

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◆技術のおもて側、生活のうら側  2014年12月25日 第78号

こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産
業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支え
る産業技術を身近に感じていただければ幸いです。

◆ワインを美味しく美しく

日本は現在、第7次ワインブームと言われている。最近の国内市場
は、原産国が一層多様化し、国産ワイナリーの評価も向上するなど、
極めてバラエティに富んだワインを楽しめる環境にある。クリスマ
スに、家庭でワインを召された方もいることだろう。

アルコールへの耐性が比較的弱い日本人として困るのは、必ずしも
一晩で1本飲み干してしまえないこと。一度栓を開けてしまえば、
時間の経過とともに酸化が進む。とある週末に飲み干せなかった残
りを次の週末に味わっても、本来の美味は変化してしまう。

酸化防止のため、ビンの内部から空気を抜くポンプが市販されてい
るが、この市場に新規参入したのが、自動車部品大手として知られ
る株式会社デンソーだ。

後発商品を世に出す際は、先行する他社の商品群を上回る魅力を持
たせるのが、ビジネスのセオリーである。まずは、デンソーが車内
空調等で培った技術を活用し、真空度を7日間維持できる性能を持
つ試作品を作り上げた。

同時に重要なのはデザイン。無骨な筒でしかなかった試作品を、消
費者に「欲しい!」と言わせる商品にするために採用されたのは、
ワインのコルク抜きを優雅な曲線でくるんだイメージのT字型デザ
インだった。

扱う際の持ちやすさも採用する上でのポイントだが、商品の開発コ
ンセプトに、用品にも凝るワイン愛好家向けという視点もあったた
め、ワインボトルの曲線にフィットする嗜好性の高い美観が、当然
のこととして重視されたという背景もある。

個人的な見解だが、ブルゴーニュ産ワインに使われる“なで肩”ボ
トルとの親和性がより高いという印象で、ボトルやグラスと並べて
も全く違和感を覚えない。グッドデザイン大賞を受賞した同社製産
業用ロボットにも通じる曲線美が特徴だ。

デザインが決まったところから、開発部門の仕事が再開した。試作
時点にはなかった「このデザイン、このサイズ内に内部構造を収め
る」という制約が生じたためだ。しかも、やり繰りしてとにかく収
めればいい、というものでもない。

この商品は、ワインボトルに専用の栓を差し込んだ後、その上に装
置本体を乗せるだけで自動的に空気を抜き始める仕掛けになってい
る。このため、栓の上に安定的に乗る構造と、手で支えなくても倒
れない重量バランスの確保も要求された。

さらに、せっかくのデザインを崩すことなく、真空化作業の完了を
どのようにユーザーに表示するかも課題になった。滑らかなシェイ
プの一画に表示用の小窓を設けるような野暮はできない。熟慮の結
果、電池収納部の蓋と本体の境界線の、本体を一周する隙間に薄く
ライトを設置し、その点滅で真空度を知らせる仕組みにしたが、ど
の方角からも確認できる構造づくりとコスト抑制の両立に苦慮した
という。

それにしても、なぜデンソーがワインなのか。

聞けば、同社の空調技術を応用した製品として、20年近く前から関
係会社にて一定の温度に保つワインセラーを製造・販売し続けてい
るという。また、多数の諸外国で事業活動を行なっているデンソー
として、活動拠点のある地元への貢献もできないかとの観点から、
デンソーセールスを介してワインを輸入し、社内外関係者へ紹介す
るなど、もともとワインには馴染みがあった。

自社技術を自動車関連以外にも展開させる取組の一環でもあるが、
売上げの98%以上が業務用という同社が、敢えて消費者向け商品を
手がけたのは、消費者との接点を創ることを重んじた結果でもある。

また、分業体制が基本の自動車部品の開発と異なり、消費者向け商
品の開発に携わる技術者は、工程の一から十まで関わることになる。
モニター販売したユーザーからクレームが寄せられた時、開発責任
者がすべきことは、担当部署への改善依頼でなく、自身の頭で改善
策を考え、手を動かすことだ。

デンソーでは、主力の自動車部品の開発では得られない経験をさせ
ることが、組織や人材を一層強くすると認識している、という。

余裕のある大企業でしかできないこと、との指摘はあるかもしれな
いが、古来、イノベーションは異分野との接点から生まれると言わ
れる。思わず引き込まれる優美な本製品をみると、デンソーの“次”
に期待したくなる。

この製品が家にあれば、クリスマスに楽しんだワインを、フレッシ
ュさを落とさずお正月にも味わえる。ワイン愛好家の皆様、味わい
方の幅を広げられそうですよ。

<取材協力>
株式会社デンソー 
 取締役専務役員                         伊藤 正彦
 アフターマーケット事業部自動車部品部技術・調達室長     佐々木繁久
 アフターマーケット事業部自動車部品部技術・調達室 担当課長 奥村 弘幸
 東京支社技術渉外担当次長             武馬 圭一
 デザイン部市場開発室デザイン推進課        金  智慧
株式会社デンソーセールス
 住設事業部販売推進室販売推進1課 課長      近藤 崇央

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