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震災経験から生まれた画期的な非常用電源
産業技術メールマガジン 技術のおもて側、生活のうら側
◆技術のおもて側、生活のうら側 2015年3月26日 第81号
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産
業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支え
る産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
◆震災経験から生まれた画期的な非常用電源
我々の日常生活が、スマートフォンをはじめとするモバイル端末の
機能に相当依存していることは否めない。
その機能を維持するには電力が必須であり、日本は時間をかけて、
電力を安定的に供給する世界有数のシステムを築いてきた。一方、
その信頼性高い仕組みも、度重なる自然災害の前では保証の限りで
ないことに気づかされたここ数年でもあった。
そのようなところに、スマートフォンへ最大30回分の充電を可能
とする非常用電源-しかも水を入れるだけで発電できる非常に便利
なもの-が古河電池株式会社から市販された時は、大いに関心を集
めた。
この製品は、負極にマグネシウム合金、正極に空気中の酸素、電子
の受け渡しを行う電解液に食塩水を使う構造で、マグネシウムが水
と反応して水酸化マグネシウムに変わる際に放出される電子を取り
出し、電力として外部に供給する仕組みだ。
所定の箇所に水を加えると食塩水が作られる。その段階で初めて電
池として必要なパーツが全てそろい、発電が始まる。逆に言えば、
水を添加しない限り何も起こらず、自然放電もないため、長期間の
保存が可能になる。
添加する水がきれいな真水である必要はなく、川や池の水、海水で
も発電できる。緊急時に使われる事態も考慮し、尿でも発電できる
ことが確認済みである。
マグネシウムと聞くと、水に触れて発熱・発火のおそれはないかと
気になるが、カルシウムとの化合物である難燃性の素材を使うこと
により、穏やかな反応と安全性が確保されている。
その現物は約23cm角の立方体である。目の前で見るとそれなりの大
きさがあり、重そうな印象を受けるが、液状の電解質が含まれない
状態なので1個1.6kgと十分に軽い。この軽さは、保存・使用の容易
さにもつながる。
防水シールが施された包装を解き蓋を開けると、電池本体とコード
でつながったUSB出力端子が引き出せる。この端子を介して機器への
充電ができるわけだ。
保証期間は5年に設定されているが、これはUSB端子など電子部品が
腐食する可能性を考慮した期間設定であり、電池本体のマグネシウ
ム合金は、保存が適正であれば数十年維持することもできる。
古河電池は、自動車や鉄道向けの産業用蓄電池を主力とする電池メ
ーカーである。電池技術の実績を買われ、小濱泰昭・東北大学名誉
教授が提唱するプロジェクトに参加する中で、この非常用電源の共
同開発者となった凸版印刷と出会い、製品化にこぎ着けた。
電源としての基本性能以外で注目されるのは、使用後は「燃やせる
ごみ」として廃棄できること。例えば同社が得意とする産業用蓄電
池は、使用後は特別管理産業廃棄物として、有資格者でなければ処
理できない廃棄物になる。この非常用電源では、環境負荷やユーザ
ーの保管/更新コストを下げる観点から容器は紙製になっており、
これは凸版印刷とのコラボなしには達成し得なかった点である。
容器の外観や製品名のロゴもきちんとデザインされており、本製品
を担当した同社の熊谷企画部長も「事業者が顧客の当社のみでは決
してできなかった」と笑う。
電池メーカーとして、マグネシウム電池の可能性は以前から承知し
ていた同社だが、製品化を目指すきっかけとなったのは、東日本大
震災だ。
研究開発部門を含む事業所がいわき市にあり、被災時に同社の従業
員は、充電切れで安否連絡も情報入手もできない事態に見舞われた。
当時、仙台市にある東北支店に在籍していた熊谷部長は、東北に比
べれば被害の少なかった栃木県の工場から物資を運ばせたり、自動
車のバッテリーを活用した非常電源を仕立てたりと大変な苦労をさ
れた。
これらの様々な経験が、今回の製品づくりに帰結している。
本製品は、同社製品として初めての一次電池だという。市場性の見
通しも困難なものの製品化に、社内に異論はなかったのかと尋ねる
と「その点、当社は寛容なところがあります」とお答えいただいた。
イノベーションは、挑戦や他との接点・融合点からしか生まれない
とされる。挑戦に臆さない社風と異業種との接点を今後も大事にし
ていただき、さらなるイノベーションの創出を期待するとしよう。
<取材協力>
古河電池株式会社 経営戦略企画室 企画部 部長 熊谷 枝折
担当課長 前屋敷 紀彦
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発行:経済産業省産業技術環境局産業技術政策課 担当/執筆:島津、木村、田部井
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