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産業技術メールマガジン 技術のおもて側、生活のうら側

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◆技術のおもて側、生活のうら側  2015年4月30日 第82号

こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産
業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支え
る産業技術を身近に感じていただければ幸いです。

◆放射性物質を通さないマスク

今、主に女性をターゲットにした、とある通販サイトで、PM2.5、
黄砂、花粉、ハウスダスト等の粒子状物質だけでなく、ガス状の放
射性物質(ヨウ化メチル)を通さないマスクが販売されている。

これは、通信販売会社が、株式会社ワカイダ・エンジニアリングが
東洋紡績株式会社、東京大学との産学連携で開発した特許製品を使
って、毎日の生活の中で気軽に使える「かしこくて かわいい」商
品に仕立てたものである。

この商品の最大の特徴は、活性炭素繊維を使った特殊なフィルタだ。

空気中に漂う放射性ヨウ化メチルガスを、繊維に空いた微細な穴の
表面にコーティング(添着)した化学物質で捕集する。使用後のフ
ィルタは、通常の焼却処分が可能である。

従来、放射性物質の捕集には、ヤシガラを原料とした粒状活性炭が
使われてきた。安価で、医療機関、製薬会社、研究機関や大学、原
子力関連施設等の換気装置や空気清浄装置のフィルタ材料として幅
広く利用されているが、十分な吸着力を確保するためには大量の活
性炭が必要で、交換・処分が大変であった。

営業で全国の研究機関や医療機関などに頻繁に出入りしていたワカ
イダ・エンジニアリングの若井田社長は、たまたまある病院で粒状
活性炭製フィルタの交換を手伝った際に、その重さを身をもって体
感したという。水分を含めば100㎏にもなり、大人数人がかりでの
対応が必要である。

簡単に交換できる軽いフィルタができないかと考えたが、粒状活性
炭を使った放射性物質吸収の技術は既に半世紀以上前に確立し、進
化の余地はないとされていた。そんな中、若井田社長は、家庭用の
浄水器から、活性炭素繊維をフィルタに使うことを着想したという。
2000年頃のことだ。

当初は、パートナー探しが難航、繊維会社の協力を得て開発は始ま
った。放射性物質捕集効率のデータ取得には東京大学に協力を依頼
した。さらに、海外の試験機関でのデータ取得も必要となり、かな
りの投資が必要となった。当然、社内の反対もあった。

一方で、活性炭素繊維フィルタのメリットが次第に明らかになって
きた。繊維を原料にすることにより、軽量で、放射性物質等を吸着
する細穴の大きさを微細かつ均一にできる。穴が小さいと水分の侵
入を防げるので高湿度下でも使用でき、放射性物質の捕集効果が高
く長期間性能を維持できる。フェルトのような手触りで、簡単に折
り曲げることができ、自在に加工もできる。中小企業基盤整備機構
の助成を受けられたことが、資金確保の上で大きな後押しとなった
という。

これらの成果は、2010年の特許取得につながり、公的研究機関、大
学や原子力関連施設等への納品が始まっている。

このフィルタの潜在能力は、これだけではないようだ。

もともとは研究機関や産業界向けに開発されたフィルタであるが、
その性能から、一般消費者向けのマスクや家庭用の空気清浄機にも
使用されている。今後もこのフィルタを使用した新しい分野も検討
しているとのこと。今後どのような活躍の場が与えられるのだろう
か。

ワカイダ・エンジニアリングは、東京都板橋区にある、社員16名の
小さな会社である。医薬品の研究等に使われた放射性物質を含む廃
液の焼却装置などを開発、自社工場で製造し、保守管理も含めて取
り扱っている会社である。

その分野ではシェアの過半を占めているが、取引先の研究所の統廃
合が進み、先細りすることが予見されたため、新たな営業品目を開
発する必要に駆られた。様々な分野の開拓を試みたが、そのうちの
1つが、フィルタの開発につながったという。

フィルタの製造は、当初は自社で行うことを検討したそうだが、最
終的には、共同で技術開発した繊維会社に任せ、設計や開発、販売
管理は自社で行っている。扱う商材によって対応を変え、リスクに
対応する柔軟な経営判断といえよう。

若井田社長は、実は文系出身である。若い頃から商材の関係で頻繁
に大学等へ出入りしていたのだが、専門家ではないので、かえって
大学の先生や研究者に、基本的なことを含めて、何でも聞けたし、
様々なアドバイスも受けられたという。夜に来てくれと言われるこ
とが多かったそうだが。

この専門分野に縛られない広い視野と、多くの人とのつながりが、
枠にはまらない、柔軟な発想を生んだのではないだろうか。

交換が大変な重いフィルタを、軽量化できないかという着想が、成
熟したと思われていた活性炭活用技術に革新をもたらし、さらに幅
広い分野での活用につながる。このような新しい発想から生まれた
好循環が、我が国のいたるところで起動し、技術立国日本の復活に
つながっていくことを期待してやまない。

<取材協力>
 株式会社ワカイダ・エンジニアリング 代表取締役社長 若井田 靖夫
                     営業開発部長  大塚 正秀

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