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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第85号

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◆技術のおもて側、生活のうら側 2015年7月30日 第85号

こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。

木の年輪を布に写す

「木」という素材そのものを織り込んだ「木の布」がある。

いすの座面、財布やカードケースの素材、ランプシェードや壁面装飾などとして利用されている。

この「木の布」は、株式会社東栄工業(東京都豊島区)が二十数年前から開発を進めてきたものだ。近年、ようやく用途に応じた耐久性の確保などにより製品化のメドがついたそうだ。名を、boisette(ボワゼット(木肌))という。

これまでイベント向けなどに特注品として制作してきたが、現在、受注生産に応じられるよう生産性向上によるコスト低減などについて検討中とのこと。

作り方は、伐採した生木などから幅及び厚さ12cm、長さ130cm程度の角材をとり、厚さ0.1mm以下の薄さにスライスする。腕の良い職人によるかんなくずのような極薄木板ができる。
これに水溶性ウレタンを含浸させ、薄く丈夫な和紙で裏貼りする。薄片の左右両端を残した状態で0.6mm幅に裁断する。これにより、木目を残した状態の木の糸ができる。

この木の糸を横糸として、縦糸に絹糸を用いて木織り専用織機で幅90cmの反物に織り上げていく。
古来、金箔や銀箔を反物に仕上げる際に使われてきた「引箔織り」という西陣織の技法が使われている。

こうして、木が刻んできた生の証である「木目」が、布に写されていく。
木目を乱さないように、0.6mm幅の木の糸が途中よじれたりしないよう細心の注意が払われている。

極薄木板に染色等の加工を加えることによって織り上がった布は、さらに表情豊かになる。ジャガード織り(ネクタイの柄などを織る
際に使われる)により複雑な模様を加えることもできる。
木のぬくもりと布のぬくもりを合わせて提供したいという開発目標が、実現しつつあるように思う。

この優雅な布を生み出すにまでには、様々な苦労があったようだ。
木を薄く均一にスライスすることがそもそも難しい。厚すぎると手触りが悪くなり、薄すぎると強度が下がる。木の種類だけでなく、同じ種類の木であっても、木目の詰まり具合で固さが変わるので、削りの厚さを微妙に調整するそうだ。

柔軟性を持たせるため加工も重要だ。薄くスライスし糸状に切り出した木は、そのままでは柔軟性もなく弱い素材にすぎない。
プラスチックなどの樹脂により表面を覆ってしまうと木の質感や香りが失われる。
とはいえ、曲げるとすぐに折れてしまうようでは、布状に加工する意味が無い。

布としての強度を持たせるため、わざわざ絹糸を使わず丈夫な合成繊維を使えば良いのではと聞いたところ、合成繊維だと、木の糸の
角に当たると、切れてしまうのだそうだ。
絹糸は柔軟性もあり、大丈夫なのだという。

東栄工業は、これまで自社内で開発を進めてきたが、昨年末から、生産性向上に向けて、日本各地の伝統産地の協力を得て開発を進め
る方針に転換したそうだ。
木を糸にする技術は「西陣織」、織りの技術は「博多織」、木の染色技術は横浜の「濱染め」。

部外者は、技術の流出を防ぐために伝統産地からの協力を得られないことも多いそうだが、「木の布」に関しては、良好な関係が築けているようだ。

東栄工業は、ゴムや樹脂の加工技術を背景として、高層・超高層ビルの大規模空調システムや工場や発電所などでの排水管からの防臭・防虫を目的とした樹脂製の弁トラップ(メカニカルトラップ)や、老人ホームなどのオゾン脱臭装置を主に扱っている。

臭い、汚れ、騒音が避けられない分野で活躍している会社であるため、暮らしの中に「木のぬくもりと、木のかおり」を導入しようという事業に強い想いがあるのだという。

「木の布」は、木目をそのまま織り込むため、二度と同じものはできない。オンリーワン商品を目指すという同社の基本姿勢に通じている。
伝統工芸との連携を通じて、伝統産地の衰退を止めたいという想いもあるそうだ。

1本の角材から、50m程の反物が得られる。埋設木や古材などからも作ることができる。
枯死してしまった木や、伐採せざるをえなかった木でも、朽ちていない部分が残っていれば、加工可能だ。

1本の木が生きてきた証を、布に写し取る。このいかにも日本的な製品が、暮らしの中に浸透し、さらに海外にも拡がっていく日を期待したい。

取材協力

株式会社東栄工業 取締役 第一営業部長 大橋 和哉
技術部 部長 加藤 英司

技術のおもて側、生活のうら側について

発行:経済産業省産業技術環境局産業技術政策課 担当/執筆:藤河、木村、田部井
〒100-8901東京都千代田区霞が関1-3-1
電話:03-3501-1511(代表)

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