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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第86号
◆技術のおもて側、生活のうら側 2015年8月27日 第86号
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
ミクロの霧が虫よけ空間をつくる
最適期は過ぎてしまったのかもしれないが、まだまだ野外でキャンプやバーベキュー、ガーデニングなどを楽しむには良い季節だ。暑さは和らいでくるし、秋の農作物も実ってくる。
このような野外活動を快適にしてくれる製品がある。
虫が嫌がって近づかなくなる効果を持つ薬剤を一定間隔で自動的に噴霧し、空気中の濃度をあるレベル以上にすることで、一定範囲の虫よけ空間をつくる。
風などの環境の影響を受けるので一概には言えないようだが、有効範囲は半径約3.6m、40㎡程度。たたみ約24畳分、バトミントン(ダブルス)のコートの半分くらいのイメージになる。屋外用であり、室内やテントの中といった密閉空間では使えない。
大きさは、縦、横、高さそれぞれ10cmを少々上回る程度で、小型の植木鉢を逆さにしたような形状のコンパクトな装置である。機能は、霧状にした薬液を一定量、一定間隔で吹き上げるというシンプルなものだ。乾電池2本で作動し、交換式の薬液のボトル(カートリッジ)には、30時間分の薬液がセットされる。
この薬液を吹き上げる仕組みが、本製品の技術の核である。
必要十分な濃度の有効成分を、一定の空間に効果的に行き渡らせるために、薬液を、直径20μm(マイクロメートル、千分の1ミリメートル)程度の霧状にして吹き上げ、空中で気化させ空気中に拡散させていく。これより粒子のサイズが大きいと、気化する時間がかかりすぎ、上手く空気中に拡散しない。小さいと、風に流される。
薬液を吹き上げる機構には、電圧を加えると変形するピエゾ素子が使われている。日本語では圧電素子。インクジェットプリンターのインクの噴射装置や携帯電話のスピーカーなどに使われている技術である。
(余談だが、本技術は、素子に外部から加えられた力や振動を電圧に変換することも可能で、エレキギターのピックアップや様々なセンサーにも使われている。)
本製品には、リング状に成型された特殊なセラミック製のピエゾ素子が使われており、穴の内側に配した金属板(直径5mm程度)を高速振動させ、薬液を空中に弾き出している。電圧、電流、通電時間により、金属板の振動を制御し、薬液の霧の到達点の高さや広がりを調整しているそうだ。
薬液は、金属板の裏側から供給される。薬液を収めたボトル内から伸びた芯が金属板に接しており、金属板の微細な穴を通じてにじみ出すようになっている。芯の材質や金属板の穴の開け方により、吹き上げる薬液粒子の大きさや量をコントロールしているという。
この製品を開発したのは、住友化学株式会社。化学メーカーとして、ピレスロイド系の殺虫成分であるメトフルトリンを製造し、家庭用殺虫剤メーカーに供給している。この剤を使って、これまで無かった、電源コードが要らない屋外用の虫よけを作れないかと開発を始めたそうだ。
屋外用のため、省電力で作動させる必要がある。複数の技術を試したが、最終的に、乾電池の電力で動かせ、小型化が可能なピエゾ素子の活用が決まった。
薬液ボトルの芯や、ピエゾ素子を製造しているグループ外の企業と組んで、薬液を吹き上げるコア技術を詰めていくとともに、社内でも化学系メンバーと構造設計系メンバーが組んで、人体への安全性を考慮した虫よけ効果、野外での使いやすさや少々手荒く扱われても壊れない耐久性を持たせるためのデザインを固めていった。
このシンプルな製品も、オープンイノベーションの成果と言えよう。
また、少々意外であったのだが、住友化学では、これまで企業向けの素材や原材料の開発を中心に取り組んできたため、本製品のような家庭用製品の開発は、専門の異なるメンバーの協力の下で最終製品を開発する貴重な機会だったようである。
我が国では、あまたの企業や研究機関などが、膨大な数のユニークな技術やアイデアを、日々生み出し続けている。
これらが、企業内の異なる組織間での協業や、企業間や大学等とのオープンイノベーションを通じて結びつき、我々が見たことの無いような素敵な製品やサービスとして次々と生み出されていくことを期待したい。
取材協力
住友化学株式会社 生活環境事業部 開発部 部長 石渡 多賀男
生活環境事業部 開発部 チームリーダー 中田 一英
生活環境事業部 事業企画部 国内販売チーム 坂本 知奈美
コーポレートコミュニケーション室(広報) 石黒 道亮
技術のおもて側、生活のうら側について
発行:経済産業省産業技術環境局産業技術政策課 担当/執筆:藤河、木村、田部井
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