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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第89号増刊
◆技術のおもて側、生活のうら側 2015年11月12日 第89号増刊
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介しています。今回は、産業技術とは少々趣が違うかもしれませんが、同じく私たちの暮らしを支える文系の(?)技術について紹介します。
転ばぬ先の「校正」
新聞に折り込まれているスーパーなどのチラシ。どのように制作されているかご存知だろうか。例えば、金曜日の朝刊に配られる場合に、2日前の水曜日の夜には新聞の販売店に運び込まれる。その印刷などに2日程度はかかるので、印刷原稿は、月曜日頃に仕上げなければならない。
出来上がったチラシに、ミスがあったりすると、店の売り上げに重大な影響が出る。客とのトラブルになるかもしれない。このような事態を防ぐために行われるのが「校正」という情報の確認作業である。
チラシの場合、最終的な印刷原稿を仕上げるまで、校正を3~4回行うという。これに1週間費やすとすると、今朝見たチラシの制作開始時期は、2週間ほど前ということになる。
チラシ、カタログなどの広告印刷物制作の世界では、校正は専門の業者に外注されることが多いという。ミスが無くなるだけでなく、外部の目でチェックすることにより、消費者目線などを意識したより分かりやすいものになる。校正技術を持つ社員を自社内で養成・確保するよりは、コスト面で有利なこともあるようだ。
「校正」業界は、校正を行う能力を持った人と契約を結び、依頼主の元に派遣する営業形態が多い。このような中で、「校正」技術者を自ら育成して営業している会社がある。株式会社ダンク(東京都台東区)だ。
校正を行うには、様々な技術や能力が必要である。
誤字・脱字や文法のチェック、送り仮名、外国語のカタカナ表記や表現の揺れの修正、数字の桁数や単位の確認、文字情報・数字と写真・イラストが示す情報の間に矛盾がないかを照らし合わせる技術などがまず必要となる。
人の脳は、無意識のうちに、これまでの経験に基づきちょっとした文面のミスを勝手に修正してしまう。このため意外に大きなミスを見過ごしてしまうことがあるそうだ。このような罠に陥らないように、様々な工夫が必要となる。
原稿と印刷物を読み合わせで校正する際に、わざと読み間違って文字照合者の集中度を確認したり、数字を逆から読み上げることもあるそうだ。ひらがなやカタカナが多い文章は、特に注意が必要という。
このような確認作業だけでなく、文面等に関する常識チェック、消費者目線から不整合を見つけ指摘する技術や、視覚的なチェックの仕方(修正前後の原稿を重ねて上の方をパタパタと煽(あお)り違いを確認する等)など校正特有の技術も身につける必要がある。さらに、原稿作成者との意思の疎通の仕方(作成者の意図を最大限に理解して指摘するなど)にもコツがある。
社内研修や就業体験を通じてスキルアップを図っており、早い人は、約半年で校正に必要な技術を一通り身につけるという。
校正の精度を上げていくためには、ヒヤリ・ハットや過去の校正漏れなどの表示ミス事例を集め、その要因を分析することが重要だそうだ。
「校正の理想は、間違いを見つけることではなく、間違いをなくすシステムをつくること。そしてクライアントの意向が適切に表現されているかについて確認することだ」と、岡崎取締役社長は言う。厳しい目で見て、優しく指摘することが、ダンクの方針だそうだ。
同社は、広告制作会社や一般企業を対象に、広告校正のセミナーも行っている。校正の知恵を、いろいろな業務に応用できるよう、敢えて公開しているのだという。校正のプロを自認する自信の表れと言えよう。
実際の校正作業は、必ず複数のメンバーで行う。スキルに応じて作業を分担しており、多い場合は10名ほどのチームを組むこともある。
校正作業そのものだけでなく、作業の進行管理や、発注者との交渉なども必要だ。丁寧に細かいところまでチェックする能力を持つ人ばかりでなく、俯瞰的に作業全体を眺めることのできる、ある意味細かいことを気にしない人材も必要なのだとか。そのためかどうかは分からないが、社員の男女比は、ほぼ半々とのこと。
インタビューの最後に、今後発展が見込まれるICTや人工知能により、いずれ機械が人の行う校正に取って代わってしまうのではないかと問うたところ、その機械を操作しているのが人間である以上、ヒューマンエラーはつきもので、自分たちの出番は無くならないと思う、との答えが返ってきた。
これから年末に向けて、数多くの華やかなチラシが各家庭に舞い込んでくる季節となる。クリスマスプレゼントを選ぶために、カタログに首っ引きとなる人もいるだろう。これらに載っている膨大な情報が、校正の技術や仕事に支えられていることに、しばし思いを馳せてみてはいかがだろうか。
取材協力
株式会社 ダンク 取締役社長 岡崎 聡
取締役事業部長 加藤 靖成
営業推進部マネージャー 田沼 純
技術のおもて側、生活のうら側について
発行:経済産業省産業技術環境局産業技術政策課 担当/執筆:藤河、木村、田部井
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