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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第90号
◆技術のおもて側、生活のうら側 2015年11月26日 第90号
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
幼児の感性を伸ばすクレヨン
日本の絵画は、輪郭線がはっきりしているものが多い。
東京造形大学の石賀准教授によると、幼児に絵を描かせる場合にも、日本では、まず輪郭をかたどった上で、はみ出さないように色を塗らせることが多い。一方、欧米では、いきなり色を塗り、形を作っていくことが多いという。
輪郭線からはみ出さないという暗黙のルールの下では、はみ出してしまった子はダメということになってしまう。お絵かきが嫌いになるかもしれないし、その子の自由な創造力の芽を摘んでしまうかもしれない、とのことだ。
画用紙の上に一塗りで広範囲に色を載せることができる独特な形の幼児用クレヨンがある。株式会社あおぞら(東京都中央区)の「icicolor」(いしころーる)だ。
あおぞらは、自社工場を持たないいわゆるファブレス企業である。社員数5名。国内外の玩具や生活雑貨などを扱っているが、独自に製品開発も行っており、クレヨンや紙飛行機(組立キット)などを協力企業に製造してもらって販売している。
同社の現在の主力製品は、幼児の初めてのお絵かき用にデザインされた「Baby Color」(ベビーコロール)というクレヨン(対象年齢2歳以上)だ。年間20万個ほど売れているという。しかし、どのような製品にも寿命がある。同社は、3年ほど前に、次の主力製品を開発すべく、検討を開始した。
新商品のターゲットは、少し年齢層の高い3歳以上の幼児。Baby Colorを製造している株式会社ブンチョウに、手や服につきにくく口に入れても安全な高品質なクレヨンを製造してもらう。
では、どのようにデザインしていくか。ここで、同社の荒木代表取締役社長は、産学連携による社外の専門家との共同作業を選択した。たまたま、営業上関係があった東京造形大学の学生募集のパンフレットを見て、造形活動と遊びに関する研究を行っている石賀准教授を知り、2013年に同大学の研究支援システムを通じてアプローチした。
石賀准教授は、同社の意図を汲み取って、「誰もが好きだった描くことの喜びを感じられるクレヨン」を開発するというコンセプトを定め、約4ヶ月かけて新商品のアイデアをまとめ上げた。
准教授は、大学構内の玉砂利を日々眺める中で、子供の頃の経験を思い出したという。色のついた削れる小石を探しては、コンクリートなどにごしごし擦り付けて落書きした日々。なぜ、「石ころ」にあんなに惹きつけられたのだろう。
ここから、「石ころ」の形をした、クレヨンの原型が生まれた。2014年の春から冬にかけて、いろいろな形を造形し、保育園に持ち込み、子供たちに使ってもらいながら、握りやすい、描きやすい形を探った。最終的には、3種類の形に落ち着き、2015年の春に発売にこぎ着けた。
一見ただの小石のようだが、玉砂利のような滑らかな曲面で覆われた単純な形ではない。この形状が、本製品の肝である。
4cm位の角の取れた河原の石(川の河口付近のきれいに丸まった小石になるより前の状態)を、いびつな形状を保ちながら側面をグラインダーで削っていき、石自体のもとの曲面を少々残したまま大小8個ほど平らな面をつけた形、といったところか。
製品全体がクレヨンなので、どこを使っても色を塗ることができるのだが、紙に当てる部分を変えることで様々な太さの線を引くことができるし、面を使ってごしごしと擦り付け広い面積に色を載せることもできる。6色セットで、色を重ねることもできる。また、立てることができ、ドミノ倒しや積み木のような使い方も可能だ。
幼児用なので、安全面も考慮されている。万一口にしても安全な素材が使われており、さらに、かじっても、放り投げても簡単には欠けないように堅めに作られている。床などを汚すことも少ないし、服を汚しても洗えばきれいになる。
この製品は、ターゲットとする年齢層や提供するサービスの内容を、最初にデザインした上で開発されている。現在の主力製品の後継として位置づけるとともに、ターゲット層を微妙にずらし、まず「Baby Color」を使ってもらい、そこから新開発の製品に顧客を誘導し、できるだけ商品同士が競合しないようにする。
製品の具体化に際しては、敢えてコストや時間を割いて、自社内の知恵に閉じることなく、外部の専門家にコンセプトを伝えて共同作業を行い、そこで生まれたアイデアを形にしていく。出来たプロトタイプを、実際のターゲット層に使ってもらい、改良を重ねて最終形に仕上げる。
当たり前のことかもしれないが、ユーザーとなる幼児や、買い手になる保護者が欲しくなるようなものづくりを追求していると言えよう。
さらに、明瞭な開発のデザインと、石賀准教授が込めた思いと、クレヨンを製造するブンチョウの技術力が相まって、製品に物語性が生まれているのではないかと感じる。
何も技術をもつ企業が自社で作り上げることばかりがものづくりではない。我が国には、あまたの企業があり、大学や研究機関なども多い。海外にも面白い技術や知恵がある。いろいろな人や組織の結び付きから、斬新な製品が次々と生まれてくることを期待したい。
取材協力
株式会社あおぞら 代表取締役社長 荒木 敏彦
技術のおもて側、生活のうら側について
発行:経済産業省産業技術環境局産業技術政策課 担当/執筆:藤河、木村、田部井
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