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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第92号
◆技術のおもて側、生活のうら側 2016年1月28日 第92号
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
失われたコミュニケーションを聴き取りやすい音で取り戻す
人が、人とつながっていく上で、聴覚の果たす役割は大きい。
自分が難聴またはおそらく難聴だと思っている人は、一般社団法人日本補聴器工業会の2015年の調査結果から推計すると、約1,500万人、日本国民の10%以上を占める。高齢になると増えるが、若年層でも、突発性難聴などを患うことがあるし、外傷が原因となる場合もある。誰もが当事者になり得る。
難聴は、現在の医学でも解明できていない点が多く、完治が困難な疾患なのだそうだ。しかも、聴力が低下してくると、会話を通じた意思の疎通が難しくなり、社会的に孤立していく可能性がある。
聴力が低下している人とのつながりを助けてくれる小さな装置がある。ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社(東京都港区)の卓上型対話支援システム「コミューン」である。
本製品のコア技術は、人がしゃべる声を、聴き取りやすいクリアな音に変換して聴き手に届ける、一連の音の加工(デザイン)である。
基本構成は、マイク、スピーカーとコントロールドック(アンプ)である。
マイクは、ショットガンタイプで、雑音が多い環境でも目的の音を高い明瞭度で捉えることができる。
スピーカーは、ハニカム構造アルミフラットパネルの振動板とそれを納める筐体の形状や素材の採用により、言葉の明瞭度に影響する1,000Hz~10,000Hzの中高音域の音圧を高め、難聴者が聴き取りにくいことが多いk、t、sの子音を明確に発するよう調整されている。振動板の前に、カバーのような張出し部が設けてあり(フロントロードホーン型)、音に方向性(指向性)を持たせ、壁面での反射によるエコーを抑えている。
コントロールドックには、マイクが捉えたクリアな音を、難聴者が聴きやすい音に分解し、雑音を取り除き、ボリュームを上げても歪まない良い音質に変換する回路基板が、デザイン上必要な限られたスペースの中に納められている。
また、高いデザイン性も、本製品の特徴の一つとなっている。
スピーカー部とドック部は、デザイン上一体のものとして設計されており、使用時に一度分離し、合体させる。
開発者である中石代表取締役によると、製品名の由来は「コミュニケーション」+「コクーン(繭)」とのこと。使用していない状態では、カイコの繭が立ち上がったような、ゆで卵のとがっていない方を少しカットして平面を作り、立たせたような形をしている。
不使用時の高さは約15cm、幅は約10cm。下部の2cmがドックに当たり、その上に、端を1/4程度カットしたラグビーボールのような形状のスピーカーが、開口部を下に向けた形で載っている。この状態だと、一見アロマポットのようでもある。
使用時は、分離すると現れるドックから上に伸びた支柱にスピーカーを開口部が斜め上を向く状態で接続する。サーチライトのような形状になる。
不使用時にはスピーカーに見えないことが実は重要で、耳が不自由であることを他人に知られたくない難聴者にとっても受け入れやすいデザインとなっている。小型であることも、同様に重要だそうだ。
難聴者の多くは、音が小さくしか聴こえないのではなく、「音がこもって聴こえることで言葉として認識できない」状態にあるという。このような人に、大声で話しかけることは、良い解決法でない。
コミューンは、声の音量を上げるのではなく、発語の明瞭性を高めることで、難聴者とのコミュニケーションの質を高めている。補聴器のように、一方的に難聴者に努力を促すのではなく、話し手側も、聴こえの改善に関与すると共に努力し合うシステムを目指している。
本製品は、ユニバーサル・サウンドデザイン社が「良い音」を生み出せる国内外の開発会社や製造会社を集約して開発・生産している。
本製品の「音」を決めているのは中石代表の「耳」だ。苦労しながら難聴者の協力を得て研究を進める間に、難聴者が聴き取りやすい音の響きを聴き分けられるようになったという。
音の調整は極めてデリケートで、周波数特性だけを指標とするだけでは良い音をつくり出すことは出来ず、製造の場面で調整する部分が多いそうだ。現在、国内ではハイレゾリューション(音楽用CDを超える音質)化の波で高級ヘッドホンや音響機器の人気が再燃しているが、スピーカーユニット等の音響部品の製造は海外に外注されていることが多く、昔に比べると国内での音響関連の部材の調達が難しくなっている。
中石代表は、このような我が国の現状に大きな危惧を感じていると言う。音づくりに関する研究開発の現場を、国内はもちろん、世界で活躍するアーティストや音響技術者などの協力を仰ぎながらクオリティをとことんまで追求する場とし、「よいものは語り伝えられていく」という状況をつくりあげない限り、世界が認める一流の製品、ブランドは作れないのではないか。
同社は、現在は社員11名の小さな会社だが、このような状況に抗すべく活動している。今後、新しい製品の開発やサービスの提供、人材の育成などを通じて、事業の拡大を図っていく方針だそうだ。同社の「聴こえのユニバーサルデザインを実現していく」という大きな夢が、同社の「心に響く音を奏で、人を癒す」製品によって実現することを期待したい。
取材協力
ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社 代表取締役 中石 真一路
技術のおもて側、生活のうら側について
発行:経済産業省産業技術環境局産業技術政策課 担当/執筆:藤河、木村、田部井
〒100-8901東京都千代田区霞が関1-3-1
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