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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第93号

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◆技術のおもて側、生活のうら側 2016年2月25日 第93号

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つなぎ合わせるのはものだけでなく

導電性を持たせた樹脂で布に電気回路を描き、LEDランプを装着して光らせる。樹脂は布への接着・追随性に優れており、固まってもゴムのような柔軟性(弾性)を失わず、多少折り曲げたりしても剥離や断線は起こらない。舞踏家が、この技術を用いて製作された振り袖を着て、光を纏って舞う。

2016年1月に開催された第2回ウェアラブルEXPOで発表された、「着るセメダイン」である。

セメダイン株式会社(東京都品川区)が、電子回路などを接着する導電性接着剤「セメダイン SX-ECAシリーズ」の可能性を、ウェアラブル・エレクトロニクスへの適用例として示したものである。

接着剤に使われる樹脂は、一般的に、硬化する際に含まれる分子同士が連結して網のような構造(架橋構造)を作る。SX-ECAシリーズは、絶縁体である樹脂(ポリエーテル系)に、導電体である銀の微粉末が加えられている。架橋構造に銀粒子が絡みつき、互いに接触する状態でつながると電気が通るようになる。

樹脂の組成により硬化後の架橋構造の強さを調整し、曲げても導電性の保持が可能な弾性を与え、着物を光らせている。スマートフォンのバッテリーを電源としており、電源コードは必要ない。

接着剤は、2つの物体の面を、つなぎ合わせる物質である。

昔は、でんぷん、漆や「にかわ」などの自然素材を使って、紙と紙や紙と布といった似た性質の素材を接着していた。

接着剤の原料として合成樹脂が使われるようになると、金属、プラスチックなど従来接着が難しかった素材にも接着性を持ち、異なる素材からなる物体同士を接着できるものの開発が可能となった。

素材が違うと、それぞれ温度や湿度等の変化による膨張や収縮の程度やスピードが異なる。接着面には、このような変化の違いに由来する力(歪み)がかかる。接着剤として機能するためには、歪みに耐えて「はがれない」性能が必要になる。

一昔前の接着剤は、それ自体が固く硬化することにより、強い接着力を生み出していた。この場合、接着面にかかる力を受け流すことができず、時間とともに劣化による接着力の低下が起こってしまう。

近年は、接着剤の原料となる樹脂の更なる進化により、弾性を持った接着剤が開発され、硬化(接着効果を発揮するために必要)後も柔軟性を維持し、接着面にかかる力を吸収し、接着力の低下のスピードを緩やかにすることが可能となった。

着るセメダインには、この弾性接着剤の技術が応用されている。

セメダイン社の河野課長によると、接着剤の活躍する場面は、近年増えているという。従来、強度が求められる金属などをつなぎ合わせるためには、溶接やリベット止めが用いられてきたが、接着剤の進歩で、代替が可能になってきている。面全体に塗布できるので、強度が出せるし、加工が容易で大量生産に向く。

家電、オーディオやエレクトロニクスの分野などで、軽量化、小型化に貢献しているそうだ。自動車など、安全性確保のために高い信頼性を求められるものにも次第に使われるようになってきている。

接着剤の長所は、接着の強度、硬化が完了するまでの時間、接着のプロセス(加熱するか、光を当てるか、常温のまま空気中の水分などと化学反応させるかなど)をコントロールできることにあるようである。

例えば、硬化時間については、短時間で硬化するものばかりでなく、塗布後一定の時間は液体のままで、その後急速に硬化するもの、塗布後一定の時間は弱い粘性を持ち、仮止めをすることが可能で、その後硬化して強い接着力を獲得するものなどもあるそうだ。

望遠鏡のレンズの接着など、微調整をした上で固定する必要があるものや、曲面など複雑な形状のものを段階的に接着する場合などに力を発揮するという。

一度接着しても、物体の表面を傷つけることなくはがすことができ、さらに、再度押しつけると接着(粘着)できる、貼ってはがせるタイプのものもある。ねじなどを使わなくても、部品の交換や修理が可能になる。さらに、接着だけでなく、シーリング(充填)剤として防水性能を併せ持つものもある。スマートフォンなどに使われている。

着るセメダインに使われた樹脂は、必ずしも衣類を対象としたウェアラブル・エレクトロニクスのみへの活用を狙っているわけではないという。

今後のIoT(Internet of Things:様々なもの(製品、工場、生活や産業の基盤となる設備等)やこと(サービス、社会の仕組み・制度等)がインターネットでつながる)の発展に向けて、様々なものにセンサーなどを貼り付け、電気でつなぐ、「ものやことの接着」に取り組んでいくそうだ。

このため、新たなイノベーションに向けて、導電性銀インクを使った印刷による電気回路制作技術などを開発しているベンチャー企業AgIC株式会社と資本提携するなどにより、更なる技術開発に取り組んで行くという。

接着剤の新たな活躍に期待したい。

取材協力

セメダイン株式会社  営業本部 事業戦略室 マーケティンググループ  課長 河野 良行

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