経済産業省
文字サイズ変更
アクセシビリティ閲覧支援ツール

産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第94号

めるまが登録

◆技術のおもて側、生活のうら側 2016年3月31日 第94号

こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。

本場ピッツァの味を電気で

今年の夏頃から、喫茶店、カフェや居酒屋などで、本格的なピッツァを味わう機会が増えるかもしれない。

本格ナポリピッツァを、通常の家庭用100V電源で稼働する電気式の窯(かま)で提供できないか。これを実現したのが、タイガー魔法瓶株式会社(大阪府門真市)が初夏にリリースを予定している業務用電気式コンパクトピッツァ窯である。

本場イタリアでは、ピッツァは、ピッツァ窯を擁する専門店で提供される。

ナポリピッツァをはじめとするイタリアンピッツァは、高温・短時間(1分半程度)で焼き上げられる。表にも裏にも焦げ目がつき、縁がふっくらと膨らむ。香りが立ち、表面はカリッと中はもちっと。しかし具材などの水分は失わずジューシーに。

通常ピッツァ窯は、耐火性のレンガやセメント、粘土や海砂、塩、耐熱タイルなどを用いて作られる。窯の中の空間(炉(ろ))を薪やガス火を使って加熱し、400~500℃超の熱で一気に焼き上げる。窯の蓄熱・保温性能が重要で、温度を一定に保つために、炉を覆う壁は肉厚に作られている。重く、大きな設備になる。煙突も必要だ。

日本でも、ピッツァ窯とピッツァ職人を配した店が増えてきているが、一般的にオーブンを使用するアメリカンピザと違って、どの店にでも設置できる訳ではない。

イタリアンピッツァを焼くための電気式の業務用ピッツァ窯は既に市販されている。ただし、それらは、200Vの電源が必要であり、大型でそれなりのスペースや設備が必要となる。

タイガー魔法瓶は、100Vの通常電源で稼働させることにこだわり、業務用だが、一般の家庭でも導入可能なものを実現したいと開発を進めてきた。

100V電源で、短時間でピッツァの表も裏も焦げ目がつくまで焼けるよう工夫されている。炉の上面には1200Wのカーボンヒーターが設置されているが、炉の床面(炉床(ろしょう))の下にも、200Wのヒーターが置かれ、上下から加熱している。総消費電力は1420Wで、ヘアドライヤー程度。

炉床には、本製品のコア技術が使われている。炭の粉末に5万トンの圧力と3000℃の熱を加え、90日かけて圧縮し、7.5mmの板状に削り出した高密度炭プレート。鉄と比べて、熱を蓄える性能が2.5倍、伝える性能が2倍。ヒーターの熱を効率的に蓄え、伝え、短時間で焦げ目がつくまで加熱する。

薄い生地を均一に焼くには、炉内の温度ムラを減らすことも重要となる。しかし、熱風による乾燥を防ぐため、ファンで気流を作り温度ムラを防ぐコンベクションシステムは敢えて採用していない。ジューシーさを生み出すために、ヒーターの熱のみの対流式構造を採用し、さらに炉の形状や炉を囲む壁の構造に工夫を凝らした。

炉を囲む壁には、これまでタイガー魔法瓶が培ってきた保温の技術が注ぎ込まれている。

本製品の外観は、ドーム状の構造から円筒形が少し突き出したような、太めの首がついた壷を縦に輪切りにしたような形である。突き出した円筒の先端に、ピッツァなどを出し入れする扉がついている。

ドームの中の炉の周囲の壁は厚さ5cm以上あり、6層構造になっているという。さらに空気の層と、ドーム状の構造が、ヒーターの熱を吸収・蓄積し、予熱25分で、炉内の温度をむらなく320℃まで上げ、壁面からの輻射熱も含めて2分半程で直径30cm弱のナポリピッツァを焼き上げる。2分間隔で連続的に焼くことも可能だ。

一方、最外層は、赤いクラッシュタイプの耐熱タイルが白いモルタルで貼られている。連続でピッツァを焼いても、熱が十分に封じ込められているため、最外層はそれほど熱くはならず、触ることができる。色や形から、さながらテントウムシのようだ。

本製品の企画開発の発端は、いつか別荘を持ったときに、ホームパーティーでおいしいピッツァを出せないかという思いつきから始まったそうだ。

社の幹部が、ピッツァ窯の製造業者とピッツァを広めていく夢を語り合い、協力を取り付けた。「ピッツァとは何か」を探るため、開発担当者をその業者に弟子入りさせ、その知見をもとに、約3年かけて製品の完成度を高めてきたという。

タイガー魔法瓶は、「世界中に幸せな団らんを広める。」というコンセプトのもと、新しい調理法、今までにない価値の創造を目指して製品開発に取り組んでいるという。

「素材」にこだわる社風を持ち、主力製品である炊飯器では、土鍋で炊くごはんの味を再現したいとの思いから、本物の土鍋を内釜に採用しているものもある。土鍋は成形時焼くと収縮するため大きさを揃えるのが難しく、当初歩留まりは半分だったそうだ。本製品に使われている高密度炭プレートも、新しい「素材」好きの社員が見つけてきた技術だという。

これからも、大手電機メーカーなどが扱わない新しいコンセプトの製品開発を進めていくという。これらの製品群が、これまで味わったことのない「新しいおいしさ」を提供してくれることに期待したい。

取材協力

タイガー魔法瓶株式会社
 ソリューショングループ SPチーム マネージャー     冨永  正
  ソリューショングループ 商品企画チーム マネージャー  北山  浩
 営業統括グループ 営業開発チーム                           山本 剛行
 ソリューショングループ SPチーム             結城  咲

技術のおもて側、生活のうら側について

発行:経済産業省産業技術環境局産業技術政策課 担当/執筆:藤河、木村、田部井
〒100-8901東京都千代田区霞が関1-3-1
電話:03-3501-1511(代表)

お問合せ先

本ぺージに対するご意見、ご質問は、産業技術環境局 産業技術政策課
電話 03-3501-1773 FAX 03-3501-7908 までお寄せ下さい。

経済産業省 〒100-8901 東京都千代田区霞が関1-3-1 代表電話 03-3501-1511
Copyright Ministry of Economy, Trade and Industry. All Rights Reserved.