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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第95号
◆技術のおもて側、生活のうら側 2016年4月28日 第95号
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
唯一人のための商品を安価に
春、はじまりの季節。小さなお子さんを、保育園で預かってもらうことになったご家庭も多いのではないだろうか。持ち物に名前を書く機会が増える、特に、毎日かなりの数が必要となるおむつに。
この手間を、省いてくれるお役立ちグッズがある。シヤチハタ株式会社(愛知県名古屋市)の「おなまえスタンプ おむつポン」である。
ホルダー(持ち手)がついたゴム印、スタンプ台、使わないときはこれらを1つにまとめられそれぞれの表面を保護するキャップ、黒のインキがセットされた製品で、大きさ(インキを除く)は、約12cm×6cm×7cm(高さ)。
8cm×2cmの範囲(印面)に、最大12個までの文字(イラストも選択可)を入れることができる。
スタンプ台にインキを適量含ませ、ゴム印を押しつけて凸状(陽刻)の文字の表面にインキを載せ、おむつにポンとひと捺(お)し。
おむつには細かな凹凸があるので、捺した時に文字の一部が欠けても分かりやすいよう、文字の大きさ、線の太さ(1mm前後)が工夫されており、書体(フォント)は、シヤチハタが開発した独自の丸ゴシック体。
紙おむつや布おむつに捺してもにじみやかすれが出にくいよう、速乾性の油性インキが使われている。一方、スタンプ台は、キャップで蓋をすれば半年程度はインキが乾かないよう、嵌(は)め合わせの部分が作り込まれている。また、表面の綿布を2重構造とし、適量のインキがしみ出してくるよう調整されている。
本製品開発の大きな課題は、コストをどのように抑えるかだったという。販売価格を、千円台後半には収めたい。
見やすい大きさの文字を捺すため、ゴム印としてはかなり大型で、おのずと材料費がかさむ。ゴム印、スタンプ台、インキのボトルの3点は、商品の性質上必ず提供する必要がある。
しかも、この製品の核心部であるゴム印は、受注生産が必須となる。
それぞれの子供に親の愛情が詰まった唯一の名前。その想いに応えていかなければならない。
本製品は、文具売り場などで販売されている。パッケージの中に、ゴム印の注文書が入っており、インターネットサイトか専用はがきに名前を記入して申し込む。シヤチハタは、これを受けてゴムの印面を製造し、注文者に送付する。注文者は、そのゴム印を、ホルダーに貼り付けて、使用する。
ゴム印の製造にも、手間がかかっている。小さなゴム印であれば、個々の文字の金型(かながた)を作りそれを組み合わせてプレスすることも可能だが、名前の文字数は様々で、それぞれ最適なサイズのものを揃えると金型の種類が増えるし、管理することが難しい。そもそも大量の注文をさばくには向かない。
このため、それぞれの注文ごとに型を作る方法が採用されている。
まず、注文ごとにコンピューターでなまえの版下を作り、フィルムに印刷する。このフィルムを感光性の樹脂に密着させ、露光することで樹脂型を作る。この型は、ゴムを成形する際の熱(130~150℃)で変形してしまうので、ゴムの印面を作るための型をもう一つ作る。つまり、まず感光性樹脂で凸版の型を作り、これを基に耐熱性のある素材で凹版の型を作り、ゴムを載せてプレス加工し、陽刻の印面を実現している。
シヤチハタが得意とするインキ浸透技術(ゴムに塩の微細な粉末を混ぜて成形させた後、塩を洗い流してスポンジ状にし、インキをゴム内部に蓄え、スタンプ台がなくても使える技術)はコストが増すので敢えて使用していない。
年間数万件ある注文を、個人情報の保護に留意しながらデータ化し、印面を製造し、注文主に確実に発送する。受注から発送までにかかる日数は約8日間。受注生産の多いネーム印を長年取り扱うなかで培ってきたデータ処理技術も、本製品の実現に一役買っているようだ。
シヤチハタは、インキ浸透印を中心に印章に関する技術を磨くと共に、これから印章と触れ合う子供たちに早くからその魅力を伝えたいと、子供向けの製品の開発・提供に力を入れているという。また、油性マーカー事業を中心に、海外展開も進めているそうだ。
個人個人のニーズに合わせた特注品を、安価に提供できるという独特の技術をさらに活かして、今後も、ユニークなお役立ちグッズの数々を我々に提供してくれることを期待したい。
<取材協力>
シヤチハタ株式会社 広報室 室長 山口 高正
国内営業本部 統括部長 加藤 哲也
技術のおもて側、生活のうら側について
発行:経済産業省産業技術環境局産業技術政策課 担当/執筆:藤河、木村、天野
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