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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第96号

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◆技術のおもて側、生活のうら側 2016年5月26日 第96号

こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。

手作りのばねが世界を羽ばたく

弾力があるものを変形させると、もとの形に戻ろうとする。この力を利用するのが「ばね」(スプリング)である。飛込競技の飛び板、時計やおもちゃなどに使われるぜんまいもばねの一種である(前者は「板ばね」、後者は「ぜんまいばね」または「うずまきばね」という)。弓も、ばねの仲間と言えるかもしれない。

ばねは、様々な工業製品に使われている。多くの種類があるが、一番イメージしやすいのは、ステンレスなどの線材を「らせん」状に加工した、圧縮ばね(つるまきばね、コイルスプリング)ではないだろうか。

圧縮ばねは、押し縮めると反発し、引っ張るともとの状態に縮もうとする。あらかじめ変形させ蓄えた力を瞬間的に解放させる用途で使うことが出来るし、変形させた状態のままで使うと、一定の力をかけ続けることができる。
外部からの圧力や衝撃を吸収する緩衝材になるし、掛かる力に比例して伸び縮みする性質を利用して、「はかり」にも使われる。

圧縮ばねの用途は広いが、航空機の着陸装置の駆動部、多段式宇宙ロケットのそれぞれの「段」や人工衛星の切り離し部など、過酷な使用条件の下で高い信頼性が求められる部分にも使われている。構造が単純で、作動安定性が高い。一般的なばねは機械生産されているが、高い精度が求められ、多品種・少量生産の場合は職人により手作りされている。

このような特殊な用途に使われる特注の圧縮ばねを含む各種ばねを数多く生産している会社がある。相互発條(そうごはつじょう)株式会社(神奈川県川崎市)である。

手作りばねの巻き工程は極めてシンプルである。
まず、ばね状に線材を加工する。モーターで芯金(しんがね)という円柱状の部材を回転させ、その上に線材を一定の間隔で巻き付けていき、必要な長さになるとニッパーなどで切断する。成形に必要な時間は、長さにもよるが、数秒。その後、必要に応じて、両サイドの線材を削って円柱形の底面と側面を直角に調整するなどの成形を行う。

ばね状に成形された線材(コイル)は、巻く際に生じるひずみを除去し、強度(弾性)を増すための熱処理(応力除去・析出硬化)が施される。最後に、要求されている強度や性能を満たすかの検査を経て、ばねが完成する。

相互発條では、9名の職人が、日々、特注ばねのための線材加工に当たっている。その道60年の誰もがあこがれる職人が1名いて、残りの8名が、その技を伝承すべく技術を磨いているそうだ。ある程度の加工を任せられるようになるまで、5年位はかかるという。

図面要求書(発注書)に基づき、内径の大きさを決める芯金(0.1mm刻みで用意されている)を選び、指定された線材をモーターの回転速度と指先の力のかけ方を調整し、巻き付けていく。線材と線材の間隔(ピッチ)は、図面要求書に要求されている性能を出すため、職人が経験に基づき決める。

その道15年の荒谷主任に、巻付けの工程を見せてもらった。太さ2mm弱のステンレス線材(人力では簡単には曲げられないほど固い)を、いとも簡単そうに加工していく。芯金の表面には、目盛りなどは無い。目印も無しに、決まった長さの、必要なピッチを持つコイルを生み出していく。

様々な材質、太さ、固さが異なる線材が原材料になる。同じ工場の同じラインで作られる線材であっても、ロット(製造日別など違う製品として扱う単位のこと)により固さが微妙に異なることがある。以前と同じ注文であっても、同じ性能を実現するために内径やピッチを変えることがあるという。

相互発條が、航空機メーカー等にばねを納品できるのは、同社の技術力に加えて、Nadcap(ナドキャップ)という航空宇宙産業に関する国際的な認証を受けているためである。米国の非営利団体(NPO)が定めた枠組みで、欧州や日本なども含めた主要航空機メーカーが採用している。

Nadcap認証は、検査対象の工場等が航空機メーカーの定めた特定の製造工程に関して適切な管理を行っていることを、認証を行う検査機関が確認し、合格すると認証を取得することが出来る。国内では、中小企業の取得はまだあまり進んでいないが、これを持たないと、商談ができない。

同社は、ばねの取引のため、熱処理(熱処理工程:コイルの応力除去・析出硬化)、非破壊検査(磁粉探傷:ばねの表面や内部の傷を検出)、特殊機械加工および表面強化(ショットピーニング:ばねの表面に無数の鋼鉄等からなる小さな球体を高速で衝突させ微細な凹みをつけ強度や耐久性を強化)と3種類の認証を取得している。

基本的に、1年ごとに認証の更新が必要であり、主に海外の認証機関検査員が工場に査察に入るなど、コストや手間がかかる。(良好な実績を積み重ねると最大2年間まで有効期限が延長される。)しかし、認証に裏付けられた高品質の製品は、高い単価での取引を可能としている。

海外を相手に勝負しようとする製造業者は、このような国際認証への対応を進めていく必要があるだろう。特に、海外に負けない高い技術力を自負するなら、その技術力を、客観的に示す手段を手に入れる必要があるのではないか。

今年は、昨年初飛行した三菱リージョナルジェット(MRJ)の試験飛行が加速していく年である。数多くの部品が、それぞれの場所で性能を発揮し、就航に向けた試験飛行を支えていくのだろう。

相互発條のばねをはじめとする多くの部品が、我が国の製造業から供給され、世界の空を羽ばたくことを期待したい。

<取材協力>
相互発條株式会社
 専務取締役 経営管理部部長 和田 真司
 航空特機事業部 特殊工程管理部部長 今橋 新一
 航空特機事業部 品質保証部次長 山口 彰
 航空特機事業部 生産管理部主任 荒谷 拓司

技術のおもて側、生活のうら側について

発行:経済産業省産業技術環境局産業技術政策課 担当/執筆:藤河、大和田、天野
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