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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第97-2号
◆技術のおもて側、生活のうら側 2016年7月7日 第97-2号
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
社外からの知恵がドアを止める(その2)
先週に引き続き、株式会社三洋の「Door Cube」である。
2011年から、塩ビ工業・環境協会や日本ビニル工業会などの主催で、「PVC Design Award」が開催されている。軟質のポリ塩化ビニル(PVC)を使ったデザインや製品に対する賞で、新しいアイデアを持っている人は誰でも、「デザイン提案」の応募が可能だ。
「デザイン提案」に応募すると、まずそのアイデアについて選考が行われる。選定されると、三洋などの「作り手」とのマッチングが行われ、デザインの提案者と作り手が協力してプロトタイプを作る。これが、賞の審査の対象となる。
Door Cubeは、2015年の入選作品で、社外の個人のアイデアを基に、三洋が作り手として参加し、共同で仕上げた。はじめから商品化を狙っていたわけではないそうだ。
では、なぜこのような賞が設けられたのか。
まず、ポリ塩化ビニルが、デザイナーの創作意欲をかき立てる素材であることが挙げられよう。もともと透明で、着色すると発色が良い。加熱により形を自在に変えられる。表面の模様なども緻密に作り込むことができ、様々な見た目や肌触りが生み出せる。ビニル同士や他の素材と再加熱により溶着できる。有名ファッションブランドでもこの素材は使われている。
次に、用途が広いことだろう。硬質にも軟質にも加工できる。耐水性、耐酸・アルカリ性であり、きちんと加工すれば、かなりの耐候性を持たせることもできる。ビニール傘、浮き輪、バッグ、財布、クッション、雨樋、水道管、食品用のラップ、などなど。工夫次第で、何にでも化ける。
また、既にヨーロッパでは100年くらい使われている歴史のある樹脂なので、新しい可能性を外部から取り込みたいという業界全体としての強い想いがあったようだ。
そして、三洋は、この賞の創設以前から、社外のデザイナーを本社内にある加工機を揃えた試作室に招き、ポリ塩化ビニル加工の可能性を追求してきた。早くから、外部との共同作業が必要になっていくことに気付いていたようだ。
ポリ塩化ビニルは、過去に、悪者扱いされた歴史を持つ。石油が主原料であるポリエチレン等の他の樹脂と違い、この樹脂の原料は、主に食塩水を電気分解した際に発生する塩素である。樹脂重量の約6割が塩素という。他の樹脂に比べて、石油の消費量が少ない代わりに、燃やすと塩化水素が発生する。低い温度で焼却すると、ダイオキシンが発生する可能性がある。
近年、ダイオキシンが発生するしくみについての研究が進み、塩化ナトリウム(食塩)などが付着した有機物を低温で燃やしただけで発生することが明らかになり、ポリ塩化ビニルの焼却だけのせいではないことが分かってきた。
一方で、焼却炉の性能が上がり、ダイオキシンが生成しない高温での焼却が可能になっている。そもそも、ポリ塩化ビニルは、再生可能な資源であり、きちんとリサイクルすることにより焼却量を減らすことができる。
また、ポリ塩化ビニルの品質を高めるために使用する添加剤も、安全性の評価が進み、人や環境に害を与えにくいものが使われている。
ポリ塩化ビニルそれ自体は、燃えにくい素材で、火がついても、塩素の作用で火が拡がらない性質(自己消火性)を持つ。また、熱を伝導させにくい性質も持つ。近年、寒冷地の住宅のサッシ(窓枠として用いる建材)や、農業用ハウスのフィルムとしての機能が再評価されているという。
三洋の海渡社長に、ポリ塩化ビニルとは、どんな素材なのかと聞いたところ、「他の合成樹脂に比べて、重たい、常用耐熱温度が低いなど扱いにくい点もありますが、加工しやすい素材です。我々はその性質と加工方法を熟知しているので、上手く使いこなせる。素材の特徴を活かしきるのが我々の役割です。」という答えが返ってきた。
どのようなものにも、長所と短所がある。
これからも、この歴史ある素材の特性の探究を進め、更なる性能の向上に努めるとともに、外部からどんどん新しいアイデアを取り込んで、この樹脂の新たな活躍の途を拡げていってもらいたい。
<取材協力>
代表取締役社長 海渡 清
専務取締役 堀井 裕之
開発事業推進部長 三砂 仁
東京第二営業部第二課長 清水 敬祐
東京第二営業部第二課 佐渡 拓哉
技術のおもて側、生活のうら側について
発行:経済産業省産業技術環境局産業技術政策課 担当/執筆:藤河、大和田、天野
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