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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第99号
◆技術のおもて側、生活のうら側 2016年9月29日 第99号
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
性能と美しさを兼ね備えた新世代の卓球台
今年の夏は、リオオリンピックで盛り上がったという人も多いだろう。日本選手の活躍には目を見張るものがあり、メダルの数も過去最多。4年後の東京大会に向けて、ますます期待がもてそうだ。
選手だけでなく、実はその選手達が使う道具にも、様々な技術、デザインの工夫や進歩が行われている。そんな観点でリオオリンピックを振り返って見たとき、何が印象に残っただろうか。
その反響が大きかったものの一つが「卓球台」である。
卓球は、男女ともに今大会で大活躍。特に、日本人シングル初のメダル(銅メダル)を水谷隼選手が獲得するなど、その活躍や激しいラリー戦が大きくメディアにも取り上げられた。その時、選手の活躍とともに、プレーに映し出される卓球台の脚部の造形の美しさがひときわ目を引いたのではないだろうか。
実はこの卓球台、メイド・イン・ジャパンである。その名も「インフィニティー(Infinity)」。千葉県流山市に本社を置く株式会社三英が開発したものだ。三英は卓球台のほか、フィールドアスレチック用具などを販売している会社である。
まず、その造形の美しさについて。このデザインを担当したのは、ウォークマンを手がけた澄川伸一氏とのこと。その形状は、2つのアルファベットのエックスがその中心部でつながり、それぞれが反対方向に大きく湾曲した形をしている。最初のデザインの段階では、もっと細いラインで構成されていたが、細さ故とその形状から天板に選手の体が触れた際などの振動の収まりが悪かったそうだ。
このため、振動が起こりにくいよう脚部の形状を工夫するとともに、線を太くする改良が行われた。一方で、線を太くすることによるデザインへの影響をなくすため、テーパー加工(角付け)と二色に脚部を色づけすることでシャープさをキープした。
この脚部は卓球台には珍しく、木材でできている。日本らしさの「和」へのこだわりと、東日本大震災の復興への思いも込め、岩手県宮古市産の「ブナ材」を使用している。その美しい曲線加工は、成形合板技術で国内外に有名な山形県天童市に本社を持つ「天童木工」が手がけた。
次に、天板であるが、これにもたくさんの技術が詰まっている。
元々材木店からスタートした三英は、後に卓球台の天板製造も行うようになった。製造当初はどのメーカーも天板の表面が今よりも平坦に加工できずにいたが、先代が今の天板の製造技術の基礎となる「ランバーコア構造」で特許を取得。
卓球選手にとって、天板の「性能」は何より重要であることから、その平坦さや均質性が高度に確保されなければならない。
競技用の天板は「木材」で製造することが好ましいとされている。木材のため、気温、湿度、経年による「反り」などのわずかではあるが変形が生じやすく、ミリ単位で均質性を確保することは至難の業である。
三英では、天板の大きさに合わせた額縁の中に、12のブロックに小割した積層材を配置。積層材には堅くて変形の少ない木材を選定。そしてこの上下に表面材(カツラ材を使用)を貼り合わせてプレスし、天板の表面を厳しくチェック。このようにして、三英では培われてきた伝統と現在の技術で、世界最高水準の卓球の天板としての「性能」を確保している。
また、リオオリンピックに際しては、冷蔵コンテナで気温や湿度を一定に保ち、天板の変形が生じないよう船便で輸送するなど配慮を怠らなかった。これには、過去の経験が生かされている。1992年に開催されたバルセロナオリンピックに初めて同社の卓球台が採用された際、常温コンテナで輸送した結果、天板の多くにひずみが生じた苦い経験をふまえたものだ。
こうした苦労の末、最高の舞台で、日本の技術と美と関係者の熱い思いが詰まった三英の「インフィニティー」が注目を浴びることとなった。インフィニティーは、オリンピックでは4台、そしてパラリンピックでは8台利用されており、車いすの選手にも配慮されたデザインとなっている。
最後に、この「インフィニティー」、実はすでにカタログ販売されている。価格は75万円プラス消費税。国内外からすでに注文があるという。
次はいよいよ東京。パラリンピック終了後に、次期東京大会で採用される卓球台メーカーが決定・公表されるとのこと。東京大会でも、さらに進化した三英の卓球台が見られることを期待したい。
<取材協力>
株式会社三英 代表取締役社長 三浦 慎
技術のおもて側、生活のうら側について
発行:経済産業省産業技術環境局産業技術政策課 執筆/担当 松本、大和田
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