- 政策について
- 政策一覧
- 経済産業
- 技術革新の促進・環境整備
- 産業技術政策全般/イノベーション政策
- 産業技術メールマガジン
- 可視光で硬化するギプス
産業技術メールマガジン 技術のおもて側、生活のうら側
◆技術のおもて側、生活のうら側 2012年4月26日 第46号
こんにちは。ご愛読頂き、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産
業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支え
る産業技術を身近に感じて頂ければ幸いです。
◆20年後のスタンダード
ギプスは、骨折や捻挫等の際に患部を固定するためのもので、オラ
ンダ語の石膏と言う言葉が語源になっている。このように、初めは
石膏を使って固定していたのだが、現在は、水硬化性ウレタン樹脂
を用いたギプスが一般的だそうだ。しかし、最近、更に進化したギ
プスが開発された。
開発したのは1955年に国産初の石膏ギプス量産技術を開発した
医療用品を扱うアルケア株式会社だ。東京スカイツリーにほど近い
同社医工学研究所で、2010年に発売した光硬化型のギプスにつ
いて、開発に携わった松本氏に話をうかがった。
現在、一般的に使われている水硬化型のギプスは、ガラス繊維の編
み物に水硬化性樹脂が塗布されたもので、樹脂が水と反応すると固
まるため、水に浸して絞ったギプスを患部に巻いて固定する仕組み
となっている。しかし、石膏に比べて硬く、軽くて通気性の良い水
硬化型のギプスも、水を使用するが故に発生する問題点があるの
だった。
それは、ギプスの樹脂が固まるまでの時間に制約があることだ。水
に浸してから約90秒の間に巻いて、固定したい形を作らないと
思ったとおりの形状に固定出来なくなってしまう。その後、最終的
に硬化が完了するまで10分位は押さえていなければならず、万が
一変形してしまうと患部を的確に固定出来なくなってしまう場合も
ある。
また、患者が装着する際、濡れたギプスが直接肌に装着されるとと
もに包帯部分にまで水分が染みてきて、不快に感じる人が多かった
ようだ。更に、手術後などの場合には、傷口が水に触れることで感
染の恐れも高かったという。
これらの問題点を解決すべく、光で硬化するギプスを作ろうと考え、
まずは光で硬化する樹脂を作り出すことから始めたという。既に、
紫外線で固まる樹脂が歯科治療に用いられていたが、ギプスとして
使用するには強度が足りない上、紫外線そのものが生体に害があり
直視出来ないという問題点もあった。
そこで、紫外線よりも安全な可視光線による硬化に絞って開発を進
めていくこととしたそうだ。可視光線は、紫外線と異なり特別な光
源が不要で、新たな設備等を整えることなく、現在の医療現場でそ
のまま使用できることも選定要因の1つとなったらしい。
そこから、可視光で硬化する樹脂の分子構造のデザインとその反応
を起こさせる方法を完成させるまでに約3年が過ぎ去ったという。
しかし、これで樹脂が完成という訳ではなく、ここから分子を構成
するパーツ選定に2年、それらをどのように組み立てるかの検討に
1年、安全性等の確認のためにまた1年、更に、その他の検討を含
めるとギプスの形態を完成するまでに約10年もの月日を費やすこ
ととなったそうだ。
開発チ-ムが心血を注いで作り上げた光硬化性ギプスは、水硬化型
の問題点が全てクリアされており、ゆっくりと患部に巻くことがで
き、包帯の上から光を数十秒間照射することで硬化のコントロール
ができるそうだ。加えて、これまでできなかった滅菌処理や親水性
の高い繊維の使用が可能となったことで衛生面や快適性も更にアッ
プしたという。
昨年の東日本大震災では、支援に向かった医師達が現地で使用し、
非常に好評だったそうだ。病院自体がなくなっている状況で、現場
で応急処置をしてもその後の治療が難しい中、光硬化性ギプスを使
えば、かなり本格的な処置が可能になったという。その後、直ぐに
治療に通えない場合でも、症状が悪化するようなこともなかったよ
うだ。
短いとは言えない完成までの道のりを支え続けたのは、技術に対す
る信頼と誇りではないだろうか。そして、それこそが同社の持つ強
さのような気がしたのだった。
<取材協力> アルケア株式会社医工学研究所取締役常務執行役員
岩嵜 徹治、開発部フラクチャーグループリーダー副主任研究員
松本 義和、経営企画部 長井 弘子
■PCからの配信登録
https://wwws.meti.go.jp/honsho/policy/innovation_policy/merumaga/index.html
■PCからの配信中止
https://wwws.meti.go.jp/honsho/policy/innovation_policy/merumaga/kaiyaku.html
■携帯からの配信登録
https://wwws.meti.go.jp/honsho/policy/innovation_policy/merumaga/k_index.html
■携帯からの配信中止
https://wwws.meti.go.jp/honsho/policy/innovation_policy/merumaga/k_kaiyaku.html
■記事へのご意見
innovation-policy@meti.go.jp
発行:経済産業省産業技術政策課 担当/執筆:白井、金子
http://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/innovation_policy/index.html
〒100-8901東京都千代田区霞が関1-3-1
電話:03-3501-1511(代表)
問い合わせ先
本ぺージに対するご意見、ご質問は、産業技術環境局 産業技術政策課
TEL 03-3501-1773 FAX 03-3501-7908 までお寄せ下さい。