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産業技術メールマガジン 技術のおもて側、生活のうら側
◆技術のおもて側、生活のうら側 2011年8月25日 第38号
こんにちは。ご愛読頂き、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産
業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支え
る産業技術を身近に感じて頂ければ幸いです。
◆目指すは自分達の体
高齢の御夫婦が手をつないで一緒に歩いている姿は、何とも言えず
微笑ましいものだが、大病を患わなくとも、体の様々な場所で問題
が起きてくることがある。
人間の体は、多くの関節で骨と骨をつなぎ、これらを動かすことで、
まげたり、つかんだりと言った動きを行っている。最も大きいのは、
足の付け根にある股関節で、歩く動作には欠かせないものだが、加
齢による変形性股関節症や骨折等により、機能が損失したり、痛み
が発生したりすることもあるのだ。
こういった場合の治療法の1つに、人工股関節への置換手術がある。
1960年代には、現在の人工股関節システムの原型が既に実用化
されており、今では人工骨頭も含めて年間10万件も手術が行われ
るようになった。
この度、東京大学、財団法人ファインセラミックスセンター、日本
メディカルマテリアル株式会社による共同研究で、世界初となる長
寿命型人工股関節の開発に成功したそうだ。秋以降には、販売を予
定していると聞き、開発チームに籍を置く同社研究部生体材料研究
課の京本氏にお話をうかがった。
国内市場の8割を占める外資系メーカーの中で奮闘する同社は、人
工関節等の整形外科分野以外にも、インプラントに使用する人工歯
根や循環器等も手がける医療機器メーカーだ。
既存の人工股関節は、大腿骨の頭の部分にセラミックス又は金属、
受け手の骨盤側はポリエチレンを用いるのが一般的だ。しかし、可
動部にかかる負荷により生じるポリエチレンの摩耗粉を生体が排除
する際に、土台となっている骨を吸収する反応も起こるため、10
年以上使っていると弛みが生じることがあり、この分野での世界的
な問題となっていた。
そこで、取り替えの再手術の必要がない長寿命型を目指し、1999
年に東大で研究が始まり、同社(前身である神戸製鋼)も、2年後
からこのプロジェクトに加わったそうだ。
当時、生物を模倣するバイオミメティック技術への関心が高まって
おり、プロジェクトでは、ポリエチレンの表面に、人の関節軟骨と
同様の構造を作ることで弛みを抑える研究が始められていた。
初期段階から、ソフトコンタクトレンズ等で保湿成分として使われ
ていたMPCポリマーを用い、関節軟骨の最表面を構成するリン脂
質をポリエチレンの表面上に再現することが計画された。しかし、
股関節には体重の何倍もの負荷がかかるため、コーティングしただ
けではすぐに剥がれてしまうことが想定された。
そこで、光照射技術により、MPCポリマーとポリエチレンを分子
レベルで結合させて表面改質を行う画期的な方法が考え出されたそ
うだ。
これにより、15年の使用に相当するシミュレーション試験終了後
の結果においても、ポリエチレンの形状に全く変化はなく、摩耗粉
も見られなかった。
「一番苦労した点は、実はこのポリマーの結合を評価する部分なの
です。表面構造にしてもナノメートルスケールの話なので、まだ十
分な分析方法が確立されていません。また、シミュレーション試験
機も日本で数台しかないもので、様々な試験を行う十分なキャパが
足りない状況でした。」と当時を思い出して話してくれた。
超高齢社会を迎えた日本では、老後の日常生活を同じように続けら
れるかという不安を抱えている人は少なくない。その多くは、人工
股関節等に関わらずに一生を過ごすのだろうが、問題が少ない治療
方法が確立したという事実は、これから年を重ねていく私達にとっ
ても心強い味方になってくれるのではないだろうか。
<取材協力> 日本メディカルマテリアル株式会社研究部生体材料
研究課 京本 政之
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