産業技術メールマガジン 技術のおもて側、生活のうら側
◆技術のおもて側、生活のうら側 2010年12月22日 第31号
私こんにちは。ご愛読頂き、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産
業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支え
る産業技術を身近に感じて頂ければ幸いです。
◆5mm四方の外科手術
誰もが、日々を健康に過ごしたいと考えている。しかし、不慮の事
故に遭い、ケガを負ってしまうようなことが起きないとも限らない。
そんな時に、手術を受ける患者の負担を減らし、かつ、完治に貢献
できるような医療器具が開発されているのをご存じだろうか。
千葉県市川市に会社を構える河野製作所株式会社に伺い、髪の毛程
の太さの組織を縫合することが出来る微細針についてお話を聞いた。
開発のきっかけは、平成12年に河野社長が出席した学会で、久し
ぶりに会った知り合いの整形外科医の、再生手術をより小さな範囲
で行えるよう、0.5mm以下の血管や神経組織を縫合する微細な針が
できないかという話からだった。当時、0.5mm以下の組織を縫合す
る外科手術というのは、使用できる器具がないため、全く治療がで
きない領域だった。
医療器具の中でもマイクロサージャ-リー(微細な外科手術)分野
のパイオニアである同社は、この微細針が開発されれば患者への負
担も減り、組織の小さな小児の手術も行えるようになると考えた。
また、生体間移植等、今後の医療に必ず貢献するに違いないと思い、
先の先を見据えて開発に取りかかることにした。
平成14年度から2年間、地域の産学官コンソーシアムが行う研究
開発に対する政府の支援措置を受け、開発を依頼した帝京大学医学
部の教授を中心に、顕微鏡を開発する会社と針を開発する河野製作
所が連携し開発を行うこととなったが、その道のりは楽なものでは
なかった。
「今まで使用していた装置や冶具は全く使えず、もちろん市販され
ている訳でもないため、それらを考案・設計し、製造することも自
社で行いました。全てが手探りの状況で、まさにゼロからの出発で
した。」と河野社長は当時のことを語ってくれた。
素材についても一から検討し直し、針は、より堅くて弾力のある特
殊なステンレス、糸はナイロンを用いることとしたが、何よりも苦
労したのは、針と糸をつなげる「かしめ」という工程だったという。
通常、針の根本部分の内部を削り、中に糸の端を入れ、外側から締
めることでかしめが完成するが、この微細すぎる針は、レーザーを
用いても同様の作業は出来なかった。そこで、針の根本を同社が開
発した特殊な器具を用いて縦に割り、そこに糸の端を挟み込んで締
めるというかしめ方法にたどり着いた。
こうして完成した針の直径はわずか0.03mm、繋げられた糸は
0.012mmという細さだが、組織の損傷を最小限に押さえ、一度の
手術で行われる数回の運針に耐えうる強度と切れ味を保持している。
同社が微細針を世の中に送り出し、はや6年が過ぎた。この間、そ
の存在は徐々に浸透し、現在は、主に整形外科や形成外科といった
分野で微細針を用いた治療が行われているが、これを使いこなすこ
とは医師にとっても簡単なことではない。
今後、経験が少ない医師でも手術で使えるよう、縫合終了時に糸を
結ばないで止める方法についても研究を行い、より扱いやすい微細
針の開発にも取り組んでいる。
確かに、患者を治療するのは医師だが、同社が開発した微細針によ
り、多くの患者を今までより軽い負担で治療することができている
だろう。そんな陰の功労者に心から敬意を表したい。
<取材協力> 株式会社河野製作所 代表取締役社長 河野 淳一、
技術開発課長 岩立 力
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