産業技術メールマガジン 技術のおもて側、生活のうら側
◆技術のおもて側、生活のうら側 2009年6月25日 第13号
こんにちは。ご愛読頂き、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産
業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支え
る産業技術を身近に感じて頂ければ幸いです。
◆空飛ぶ黒い糸
わたしが小学生の頃、小さな夢を乗せて飛ばしたのは風船だった。
東レ技術者の夢は炭素繊維を使った飛行機を飛ばすことだったと同
社の吉永氏はいう。
飛行機の翼はしなる。ある時は引っ張られある時は縮み、-50度
の雲の上でも、+50度の砂漠の街でも、何十年飛んでも絶対安心
でなくてはならない。
鉄の10倍強いという炭素繊維。最近耳にする機会が増えたが、実物
がどんなものかご存知だろうか。繊維と言うのは名ばかりで金属の
ようなものだろうと勝手に思っていたのだが…それは紛れもなくし
なやかな糸だった!
炭素繊維はアクリル糸から作られる。アクリル糸といえば、セータ
ーや毛布の素材として身近な繊維。この糸を蒸し焼きにし、炭素以
外を焼き飛ばして残った黒い糸が炭素繊維なのだ。
この炭素繊維は鉄の10倍の強さを持つ。それでいて重さは鉄の4分
の1しかない。軽くてとても強い材料だからこそ飛行機の素材に相
応しい。「技術の最先端に常にいたい。世界最高性能の航空機素材
を創り出すのは我々だ」という、技術者の“誇り”が本当にしなや
かな黒い糸を飛行機素材に仕上げてしまった。飛行機に使われると
いう事は最先端技術であることの証しなのだ。
炭素繊維の歴史は古く、エジソンの時代に遡る。本メルマガでも以
前登場した八幡竹のフィラメント。しかし、工業化の可能性が芽生
えたのは戦後になってからだ。
1961年になって大阪工業技術院の研究者が、夢の素材「炭素繊維」
とアクリル糸の化学構造の関係にヒントを見いだし、アクリル糸か
ら炭素繊維を得る基本原理を発見。
夢の素材といわれ、ロケットやエンジンの材料として開発すべく基
礎研究が始まっていた炭素繊維の工業化の可能性は、実は日本から
生まれたのだ。けれども、飛行機の素材に求められる高性能、安全
性を達成するためには数多くの壁があり、多くの企業が参入し、そ
して撤退していったという。
「日本の企業がこの壁を乗り越えることが出来た要因の一つは、実
は品質世界一を誇る日本のスポーツ市場だった」と吉永氏はいう。
例えば、日本の高級鮎竿は世界で最も軽量で剛性が高い。絶え間な
く芸術品に近い性能を市場が要求し続ける、まさに「極み」の世界
らしい。
軽量高強度の炭素繊維は日本市場で厳しく育てられ、高性能化・安
全性の改善が積み上げられた結果、遂には飛行機の構造材料に選ば
れる。全国の鮎ハンターやゴルフ愛好家の方々はぜひ、自分たちの
要求ニーズがこの材料の性能を高め、次世代飛行機の先端素材を生
んだと知ってプレイを楽しんでいただきたい。
ところで、炭素繊維は繊維として単独で使われることはない。炭素
繊維をエポキシと呼ばれる樹脂(プラスチック)と組み合わせて焼
き固めて使われる。樹脂で繊維を一体化することで、炭素繊維一本
一本の強度と弾性率が材料特性に反映される。
また、炭素繊維は繊維方向に強い。強くしたい方向に沿って炭素繊
維のシートを縦・横・斜めに重ね合わせれば自由に強度を設計でき
る。それぞれの箇所に無駄なく適切な強度をもたせることができる
というわけだ。それに対して金属はどの方向に引っ張っても全部同
じ強度だ。究極の軽量エコ素材として設計者の意匠性をフルに活か
せるのが炭素繊維複合材料だ。
日本の炭素繊維が世界を制覇した理由は、日本の繊維技術力を抜き
には語れない。より細く、より均一に、より高強度を求め続ける繊
維技術力が炭素繊維の高性能化を実現した原動力になっている。
世界が注目する、機体全体に炭素繊維複合材料を使った次世代航空
機ボーイング787は2010年に就航予定だ。一方で炭素繊維の次なる舞
台は自動車軽量化市場へと進みつつある。
炭素繊維が空を飛ぶ。技術者の夢と誇りを乗せて!
次の夢を尋ねてくるのをうっかり忘れてしまったけれど、
まさか「空飛ぶ車」ではないだろうな?
<取材協力>東レ株式会社
生産本部参事(複合材料技術、ACM技術部)担当 吉永稔氏、
広報室 山縣義孝氏
◆ご案内 日本初!「新エネ百選」の公表
「新エネ百選」として選定された全国100件の新エネルギー等導入事
例を経済産業省ロビーにて展示中。ぜひお立ち寄りください!
http://www.enecho.meti.go.jp/index_topics.htm
■PCからの配信登録・配信中止
/policy/economy/gijutsu_kakushin/innovation_policy/m-magazine.html
■携帯からの配信登録
https://wwws.meti.go.jp/honsho/policy/innovation_policy/merumaga/k_index.html
■携帯からの配信中止
https://wwws.meti.go.jp/honsho/policy/innovation_policy/merumaga/k_kaiyaku.html
■記事へのご意見
innovation-policy@meti.go.jp
発行:経済産業省産業技術政策課
/policy/economy/gijutsu_kakushin/innovation_policy/index.html
〒100-8901東京都千代田区霞が関1-3-1
電話:03-3501-1511(代表)
問い合わせ先
本ぺージに対するご意見、ご質問は、産業技術環境局 産業技術政策課
TEL 03-3501-1773 FAX 03-3501-7908 までお寄せ下さい。