CONTENTS
1.諸外国における貿易救済措置の発動状況
2.各国の貿易政策の状況
①EUが中国産PET素材プラスチック製品に対するAD措置の仮決定を発表
②インドネシア産バイオディーゼルへのEUのCVD措置に対してWTOがパネルを設置
③中国がオーストラリア産ワインに対する関税措置を見直しへ
3.「ADの調査対象となった場合の対応」シリーズ ~第Ⅵ回 質問状・現地調査への対応など~
4.相談窓口
5.FAQ
1.諸外国における貿易救済措置の発動状況
2023年11月の諸外国における貿易救済措置の発動状況をお伝えします。実施状況詳細
アンチダンピング(AD)
2023年11月は以下の調査が開始されました。
補助金相殺関税(CVD)
2023年11月に開始されたCVD調査はありませんでした。
2.各国の貿易政策の状況
①EUが中国産PET素材プラスチック製品に対するAD措置の仮決定を発表
欧州委員会は、2023年11月28日、中国から輸入される特定のポリエチレンテレフタレート(PET)素材プラスチック製品に対して暫定的にAD関税を賦課することを発表しました 1。対象となる製品には、輸出メーカーに応じて6.6%から24.2%の関税が課されることになります。今回の仮決定に至った調査は、欧州の業界団体であるPET Europeからの申請を受けて開始されました2。
欧州委員会は、PET素材プラスチック製品が中国から欧州にダンピングされた価格で輸入され、当該輸入により欧州の産業が悪影響を受けたことを認定しましたが、実質的な損害を被ったという程度には達していないとして実質的な損害が発生するおそれについて分析を行い、当該分析の結果、そのおそれがあると認定しました3。
1.https://policy.trade.ec.europa.eu/news/european-commission-acts-protect-eu-industry-pet-plastic-dumping-2023-11-28_en
2.https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=OJ:L_202302659
3.https://policy.trade.ec.europa.eu/news/european-commission-acts-protect-eu-industry-pet-plastic-dumping-2023-11-28_en
②インドネシア産バイオディーゼルへのEUのCVD措置に対してWTOがパネルを設置
紛争解決機関(DSB)は2023年11月27日の会合で、インドネシアからのバイオディーゼルの輸入に対してEUが課す補助金相殺関税(CVD)措置の正当性を検討するためのパネルの設置を発表しました4。2023年8月11日、インドネシアは、自国からのバイオディーゼルの輸入に対するEUのCVD措置と同措置につながる調査がSCM協定及び1994年GATTに整合していないとして、EUとの協議を要請していました5。両国の会合は10月4日に実施されましたが、相互に合意する解決策が得られなかったため、10月13日には、インドネシアはパネルの設置を求める要請を行っていました6。
EUは今回対象となっている措置はWTO協定に準拠しているとして、CVD措置の正当性を主張しています7。
4.https://www.wto.org/english/news_e/news23_e/dsb_27nov23_e.htm
5.下記webページ内「DS618:European Union — Countervailing duties on imports of biodiesel from Indonesia」項目参照
https://www.wto.org/english/news_e/news23_e/dsb_26oct23_e.htm
6.https://www.wto.org/english/tratop_e/dispu_e/cases_e/ds618_e.htm
7.前掲脚注5と同様、下記webページ内「DS618:European Union — Countervailing duties on imports of biodiesel from
Indonesia」項目参照
https://www.wto.org/english/news_e/news23_e/dsb_26oct23_e.htm
③中国がオーストラリア産ワインに対する関税措置を見直しへ
中国商務省は2023年11月30日、オーストラリア産ワインへのAD及びCVD措置に対する見直し調査の開始を正式に発表しました。調査期間は2023年11月30日から、最長で1年間とされています8。中国はオーストラリアから輸入されるワインに対して、2021年3月28日より5年間の期限で貿易救済措置を発動していました。オーストラリアはその措置がAD協定、SCM協定及び1994年GATTに違反するとの理由から中国に協議を要請したことで、紛争に発展していました9。
2023年10月22日、中国とオーストラリアは、ワインを含む両国間のWTO紛争について協議を実施し、適切に解決することで合意に達したと中国商務省の報道官により発表されています10。また発表があった談話の中で、中国とオーストラリアは互いに重要な貿易相手国であるとした上で、引き続き協議を通じて、二国間の経済及び貿易関係の安定的かつ健全な発展を共同で推進していきたいと関係改善の姿勢が示されました。両国は、パネルの作業の一時停止を求め、パネルは、2023年11月30日、作業を一時停止することを決定しました11。
今回の貿易救済措置の見直しも中国・オーストラリア間の関係改善に向けた取り組みの一環であり、2023年8月に決定された大麦への貿易救済措置の取り消しに続く動きです12。
8.http://trb.mofcom.gov.cn/article/cs/202311/20231103457521.shtml
9.https://www.wto.org/english/tratop_e/dispu_e/cases_e/ds602_e.htm
10.http://www.mofcom.gov.cn/article/xwfb/xwfyrth/202310/20231003448049.shtml
11.https://docs.wto.org/dol2fe/Pages/FE_Search/FE_S_S009-DP.aspx?language=E&CatalogueIdList=300605,288528,287506,282882,279649,277006,275074&CurrentCatalogueIdIndex=0&FullTextHash=&HasEnglishRecord=True&HasFrenchRecord=True&HasSpanishRecord=True
12. http://trb.mofcom.gov.cn/article/cs/202308/20230803425622.shtml
3.「ADの調査対象となった場合の対応」シリーズ
~第Ⅵ回 質問状・現地調査への対応など~
前回は、調査開始決定後に検討すべきポイント等をお伝えしました。この後、質問状の送付や現地調査など、調査当局とのやりとりが発生します。これらは、どういった制度で、どういった点に注意して対応すべきなのでしょうか。 Ⅵ.1 質問状について
質問状(questionnaire)とは、調査当局が通常調査開始直後に関係企業に送付する書面で、調査当局の質問事項・情報提供要請事項を羅列したものです。利害関係企業にとっては、多くの場合、質問状の受領と回答作業は、AD調査における最初の調査当局とのやり取りになります。Ⅵ.1.1 質問状の形式
質問状はあらゆるAD調査において送付されるものなので、各調査当局によって内容・書式はある程度定型化されています。同じ利害関係企業でも、生産者が有する情報、商社などの輸出者が有する情報、輸入国の国内生産者が有する情報はそれぞれ異なります。よって、各調査当局は、生産者向けの質問状、輸出者向けの質問状、国内生産者向け質問状等区別して用意していることが通常です。
質問状は、利害関係企業に書面で郵送されることもありますが、最近では、単にウェブサイト等に質問状を掲載し、利害関係企業にオンラインで回答を求めるだけの場合もあります。郵送される場合も、宛先はあくまで調査開始時に調査当局が把握している範囲にとどまるので、対象製品の生産や輸出を行っていても、必ず質問状が届くとは限りません。
後述のとおり、質問状にどこまで対応するかは企業ごとの判断になりますが、質問状の存在に気付かずに反論の機会を失うのは避けるべきです。AD調査開始の情報に接したら、調査当局のウェブサイトをチェックするか、直接調査当局に問い合わせて質問状の内容を把握することをお勧めします。調査当局によっては、質問状を受領しなかった利害関係企業も、調査当局のウェブサイトに公開された質問状を通じて回答できるようにしている場合もあるようです。
Ⅵ.1.2 質問状の内容
質問状の内容は案件ごとに異なりますが、一般的な記載事項は下記のとおりです。AD調査の調査事項として、「ダンピングが生じているか」と、「輸入国の国内産業に損害が生じているか」の2点があることは第Ⅰ回でもご説明しました。これに対応して、質問状にもダンピングに関連する質問と損害に関する質問が含まれます。米国のように、ダンピング調査を行う役所(米国商務省Department of Commerce)と損害調査を行う役所(国際貿易委員会International Trade Commission)が異なるため、質問状もそれぞれに回答する必要がある国もあります。
損害に関する質問においては、輸入国におけるダンピング輸入による影響を確認するため、まず輸入国の国内産業に宛てて、個々の企業の経済状態に関する指標(売上高、利潤、生産量等に関する情報)にかかる情報が要求されます。また、輸出者に対しても、損害の認定で考慮される、輸出量、在庫、輸出価格等の経営及び財務に関する情報等の質問がなされます。
Ⅵ.1.3 質問状への回答期限とその帰結(ファクツ・アベイラブル)
利害関係企業は指定された期限(少なくとも30日間(AD協定6.1.1条))までに回答する必要があります。ただし、回答期限の延長の要請に対して調査当局は「妥当な考慮」を払うべきで、かつ、理由が示されていれば、できるだけ延長を認めるべきとされています(AD協定6.1.1条)。具体的な延長申請の方法(書面によるか等)については、調査当局にご確認ください。第Ⅰ回で説明したとおり、利害関係企業が期限内に必要な情報を提供しない場合、調査当局は、申請書に記載の情報など、調査当局が知ることができた事実(「ファクツ・アベイラブル」)に基づいて、事実認定をすることができます(AD協定6.8条)。また、その旨質問状にも注意的に記載されている場合がほとんどです(AD協定附属書Ⅱパラ1)。
Ⅵ.1.4 追加質問状
質問状の回答は非常に多くの情報を含んでいるため、その情報に不備があったり、不明瞭な点があったりすることも珍しくありません。そのため、事案によっては、利害関係企業の回答を調査当局が検討した上で、さらに追加の質問や不備指摘の連絡がくることがあります。この場合も、回答期限が定められ、その期限内に必要な情報を提供しない場合には、ファクツ・アベイラブルを適用される可能性があることは同様です。Ⅵ.1.5 質問状にどう対応するか
すでに何度か言及していますが、質問状をはじめとした調査当局の情報提供要求にどこまで対応するかは、対応する場合のコストと、対応しない場合の不利益(主として、上記ファクツ・アベイラブルによる不利益認定)との比較によります。例えばダンピングに関する質問に対して期限内に回答しない場合、申請者が主張する高めの正常価額や過大なダンピング・マージンがそのまま最終決定で利用され、高いAD税が課されてしまう可能性もあります。他方で、取引ごとの販売価格や販売量、売上明細などをすべて社内で捜索し提出するのは大変な作業ですし、工場渡し価格を算出するため諸費用を算定・控除する作業も人的リソースを費やします。また、製品の価格情報は企業にとってセンシティブであり、調査当局によっては、その情報管理体制が問題となる場合もあります。対象製品の輸出量がさほど大きくない場合には、AD税を課された場合の不利益を考えても、上記調査対応のコストに見合わないと判断することもあり得ます。その場合は、質問状に回答しないか、または対応コストのより大きい質問(典型的にはダンピングに関する質問)には回答しない、といった対応が考えられます。
質問状に回答する場合は、Ⅵ.1.3の期限内に回答すること、そして、期限内の回答が難しい場合は延長申請を適切に行うことが、ファクツ・アベイラブルの回避のためには重要です。
Ⅵ.2 現地調査について(内容や日数、確認される情報等)
調査当局は、質問状で回答された情報の確認及び詳細な情報の入手を目的として、対象企業の本社や工場等の現地調査を行うことができます(AD協定6.7条、附属書Ⅰパラ7)。現地調査が行われる場合には、事前に対象企業の同意を求め、また、調査対象国の政府に通知がされます(AD協定付属書Ⅰパラ3・4)。対象企業としては現地調査に同意しないことも可能ですが、その場合にはファクツ・アベイラブルによる不利益な事実認定が行われうる点、質問状の対応と同様です。調査当局ごとに運用の違いはありますが、典型的な現地調査の態様は以下の通りです。
○通常、質問状回答受領後に、その回答を踏まえて行われる。調査手続の中盤にあたる時期になることが多い。
○現地調査に先だって、調査当局から、対象企業に対し確認したい情報の概要が事前に通知される(付属書Ⅰパラ7)。
○現地調査当日は、数名の調査官が対象企業の帳簿や伝票等を調査・閲覧し、質問状の回答として提出されたデータ等の正確性・完全性
を検証する。1社あたり数日かかることもある。
○場合により、調査官から対象企業担当者に対し、提出した資料の根拠等について口頭での説明や補充証拠の提出を求められる。
(口頭説明において通訳が必要な場合、企業側が準備することが多い。)
○企業の側からの新しい証拠の提出や、質問状回答の大幅な修正等は通常認められない。
よって、対象企業は、現地調査に対応する場合には、質問状に回答する段階からその根拠となるデータ等を整理しておくべきです。
さらに、調査当局からの調査前の通知を確認し、調査当局の問題意識をある程度予測します。また、当日、調査官からの細かい質問
にも答えられるよう、担当者や通訳をそろえておく必要があります。
Ⅵ.3 結び
質問状や現地調査については、ファクツ・アベイラブルで被る不利益と、質問状対応への負担のバランスを考えて対応を検討しましょう。また、期限など調査当局に配慮を求める点がある場合は、早めに調査当局の担当者に伝えることをお勧めします。上記は、一義的には利害関係企業で対処すべき問題ですが、判断に迷う場合や、手続きや調査当局の説明が不明確である場合等、政府による助言の余地もあります。また、調査当局の対応の問題点について、政府意見書等で問題提起することが有効である場合もあります(次回説明します)。
【今回のポイント】
○質問状は、利害関係企業にとっては調査当局との最初のやりとり。対応のコスト・ベネフィットをよく検討した上で、回答方針を
決めるべき。
○質問回答後も、追加質問や現地調査の可能性があり、回答内容が事後の検証に耐えうるよう、体制、資料を整えておく必要がある。
4.相談窓口
経済産業省では、皆様からのアンチダンピング調査に関する個別相談を常時承っております。アンチダンピング措置は、海外からの不要な安値輸出を是正するためWTOルールにおいて認められた制度です。公平な国際競争環境が担保された中で、日本企業の皆様が事業活動を展開できるようにするためにも、アンチダンピングを事業戦略の一つとして捉えていただき、積極的に御活用いただきたいと考えております。申請に向けた検討をどのように進めればよいのか、複数の事業者による共同申請はどのようにすればよいのかなど、相談したい事項がございましたら、まずは気兼ねなく経済産業省特殊関税等調査室まで御連絡ください。
また、7月から「ADの調査対象となった場合の対応」の連載を開始しておりますが、「日本企業がアンチダンピング調査の調査対象となった場合」の御相談は、経済産業省 国際経済紛争対策室まで御連絡ください。
経済産業省 貿易経済協力局 特殊関税等調査室
TEL:03-3501-1511(内線3256)
E-mail:bzl-qqfcbk@meti.go.jp
経済産業省 通商政策局 通商機構部 国際経済紛争対策室
TEL:03-3501-1511(内線 3056)
E-mail:bzl-wto-soudan@meti.go.jp
5.FAQ
最終更新日:2024年1月30日