CONTENTS
1.諸外国における貿易救済措置の発動状況
2.各国の貿易政策の状況
①米国とインド、係争中のWTO紛争の終結に合意
②EUの鉄鋼セーフガード措置、早期の終了なしと結論付けられる
3.「ADの調査対象となった場合の対応」シリーズ~第Ⅰ回 総論vol.1 「ADを打たれる」とは?~ "new"
4.相談窓口
5.FAQ
1.諸外国における貿易救済措置の発動状況
2023年6月の諸外国における貿易救済措置の発動状況をお伝えします。実施状況詳細
アンチダンピング(AD)
2023年6月は以下の調査が開始されました。
補助金相殺関税(CVD)
2023年6月は以下の調査が開始されました。
2.各国の貿易政策の状況
①米国とインド、係争中のWTO紛争の終結に合意
米国通商代表部は2023年6月22日、米国とインドがWTOにおける6件の紛争を終結することで合意したと発表しました。1今回、焦点となっている紛争はインドが提起する3件と米国が提起する3件を含む以下の6件です。
・米国:インドからの特定の熱間圧延炭素鋼平板製品に対する相殺措置 (DS436)
・インド:太陽電池および太陽電池モジュールに関する特定の措置 (DS456)
・米国:再生可能エネルギー分野に関する特定の措置 (DS510)
・インド:輸出関連措置 (DS541)
・米国:鉄鋼およびアルミニウム製品に対する特定の措置 (DS547)
・インド:米国からの特定の製品に対する追加関税 (DS585)
また、本取り決めと同時にインドは、鉄鋼とアルミニウムに対する米国通商拡大法第232条の関税に対抗して賦課していた、ひよこ豆、レンズ豆、アーモンド、クルミ、リンゴ、ホウ酸、診断薬などの一部の米国製品に対する報復関税を撤廃することにも同意しています。キャサリン・タイ米国通商代表からインド商工大臣ピユシュ・ゴヤルに宛てた6月21日付の書簡2によると、米国は、232条に基づき大統領が許可した、インドから輸入される鉄鋼・アルミニウム製品に対する232条関税措置を引き続き維持するとしながらも、既に係属中の措置適用除外の申請および新たな措置適用除外の申請を引き続き審査するとしています。
インド・モディ首相との会談後に発表された声明3においてバイデン大統領は、米国インド間の貿易額は過去10年間でほぼ2倍の1,910 億ドル以上に増加しており、経済・貿易関係が活況にあるとして、両国の良好関係を強調しました。
1.https://ustr.gov/about-us/policy-offices/press-office/press-releases/2023/june/united-states-announces-major-resolution-key-trade-issues-india
2.https://ustr.gov/sites/default/files/2023%2006%20US%20India%20Letter%20Exchange_USTR%20website.pdf
3.https://www.whitehouse.gov/briefing-room/speeches-remarks/2023/06/22/remarks-by-president-biden-and-prime-minister-modi-of-the-republic-of-india-in-joint-press-conference/
②EUの鉄鋼セーフガード措置、早期の終了なしと結論付けられる
2023年6月27日、欧州委員会は、EUの鉄鋼セーフガード措置を2024年6月30日の期限切れまで維持する実施規則を発表4し、措置の見直し調査を終了しました。併せて、鉄鋼セーフガード措置で課されるすべての関税割当は、2023年7月1日時点で4%の引き上げ(緩和)が継続されます。欧州委員会は、鉄鋼製品26品目について関税割当枠を設定し、割当枠を超過すると25%の関税を課すセーフガード措置を、2018年7月に暫定的に施行し、2019年2月に正式発動していました。5措置発動当初は2021年6月末が措置の期限とされていましたが、2021年2月にセーフガード措置の見直しに関する調査が開始されました。6米国通商拡大法232条措置の変更により貿易状況に大きな変動があった場合等、状況に応じて適宜見直しが実施される可能性があるとの付言はありましたが7、見直しに関する調査の結果、2021年6月、セーフガード措置は、2024年6月まで延長されると決められました。8
今回の決定にかかる見直し調査9ではEUにおける鉄鋼ユーザーと鉄鋼生産者、第三国政府と輸出国の生産者から意見を聴取し、2023年6月30日までにセーフガード措置を終了することが正当化されるかどうかを判断するための調査を行っていましたが、結果として2024年6月30日までの継続が決まっています。
4. https://policy.trade.ec.europa.eu/news/no-early-termination-eu-steel-safeguard-review-concludes-2023-06-27_en
5.https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=uriserv%3AOJ.L_.2019.031.01.0027.01.ENG&toc=OJ%3AL%3A2019%3A031%3ATOC
6. https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=uriserv%3AOJ.C_.2021.066.01.0050.01.ENG&toc=OJ%3AC%3A2021%3A066%3ATOC
7. https://policy.trade.ec.europa.eu/news/eu-prolongs-steel-safeguard-three-years-2021-06-25_enx
8.https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32021R1029
9.https://policy.trade.ec.europa.eu/news/commission-initiates-review-eu-steel-safeguard-2022-12-02_en
3.「ADの調査対象となった場合の対応」シリーズ
~第Ⅰ回総論vol.1「ADを打たれる」とは?~ "new"
今回から「ADの調査対象となった場合の対応」シリーズとして、全10回にわたり、AD措置を打たれる場合の対応に関する情報をご紹介していきます。第1回目である今回のテーマは、「『ADを打たれる』とは?」です。
Ⅰ.1 (改めておさらい)ADとは
日本から輸出している産品について、日本国内で販売している価格より安い価格で輸出していると、輸出先の国から「不当に安値で輸出している」として、追加的な関税を課される場合があります。「(国内販売価格より低い)不当な安値での輸出」はダンピング(不当廉売)と呼ばれますが、これに対応する関税措置であるため、アンチダンピング関税、または不当廉売関税と呼ばれます。その略称として、AD税、AD措置などとも呼ばれています。AD税・措置は調査当局による調査を経て賦課が決定されますが、調査・課税対象になった企業にとって、AD税を賦課されることを「ADを打たれる」と呼ぶこともあります。AD措置は、不当に安値で輸出された外国産品に対し追加関税を課すことで、公正な競争関係を取り戻すことを目的としたもので、一般に、ダンピングの存否やその影響等について各国調査当局が調査を行い、それに基づいて課税される仕組みです。基本的に各国の国内法に基づいて行われる手続・措置ですが、WTO加盟国は、アンチダンピング協定(1994年の関税及び貿易に関する一般協定第六条の実施に関する協定。以下「AD協定」と言います。)の定める義務・手続を遵守してAD調査を行う義務を負っており、その意味で各国の制度には、一定の共通性があります。Ⅰ.2 日本企業へのAD調査と、その対応の必要性
日本企業に対するAD措置の現状ですが、課税中の案件はWTOの統計によると、2022年12月時点で米国が最も多く21件、続いて中国20件、インド、カナダ、韓国、メキシコはそれぞれ3件と続きます。国によっては、しばしばそのAD調査の方法や、AD調査における事実認定に、AD協定に整合しない点が見受けられることがあります。しかも、ADの課税期間は原則5年とされていますが(AD協定第11.3条)、一度課税が開始すると長期化する傾向にあります。よって、調査内容に疑義がある場合は、初期調査の段階(詳しくは第3回以降にご紹介します。)で対応することが大切です。
ところが、AD調査対象となった企業が対応すべき作業は相当複雑かつ量も多く、時間的な余裕がないことがほとんどです。短い調査期間内で、効率よく調査に対応するためには、AD措置の要件や、手続の流れ、その際に日本政府に支援を要請できる点などを事前に確認しておくことがとても重要です。
Ⅰ.3 AD税賦課の要件
AD税を課すための実体的要件は、一般に次の3つに整理されます。① ダンピングが生じているか(AD協定第2条)
② 輸入国の国内産業に損害が生じているか(AD協定第3.1、3.2、3.4条)
③ ①及び②の間に因果関係があるか(AD協定第3.5条)
輸入国の調査当局は、上記①②③を適正な調査手続により認定する(AD協定第6条等)必要があります。以下、これらの要件に沿って、AD調査に対応する際の留意点を概観していきましょう。
Ⅰ.3.1 ①ダンピングの有無
まず①の要件について、正常価額(通常は輸出国の国内販売価格)より安い価格で輸出を行っている場合にダンピングと認定されます。AD調査は、通常申請者が提出した情報を調査当局が検証し、調査開始を正当とする十分な情報があると判断した場合に調査開始が決定されます。その後、調査当局から輸出企業に対してダンピングに関する質問状が送付され、国内販売価格や輸出価格についての回答が求められます。ダンピングを行っていない場合には、質問状に対して正確な回答を提出することでダンピングを行っていないことを自ら立証する必要があります。ダンピングが存在する場合、調査当局は企業ごとにダンピング・マージン(正常価額と輸出価格の差)を算出しますが、仮決定後の反論等で調査当局の算出方法に対して意見を述べることも可能なため、調査当局の算出方法に問題がないか、反論のタイミングがいつかをよく確認をすることが必要です。また、ダンピング・マージンは企業による調査対応の有無によって、結果が変わってくることに留意が必要です。対応しない場合、ファクツ・アベイラブル(通常、申請者が提出した情報)を用いた認定がされ、輸出企業にとって非常に不利な結果となる可能性があります。
Ⅰ.3.2 ②損害の有無
次に②の要件について、損害の認定に当たって、ダンピング輸入の量の著しい増加(数量効果)及びダンピング輸入による輸入国の産品価格に対する影響(価格効果)を考慮する必要があります(AD協定第3.2条)。また、国内産業に対する影響について、調査当局は関係のあるすべての経済的指標(販売、利潤、生産高、市場シェア、生産性、投資収益の低下、資金流出入、在庫、雇用、賃金、成長、資本調達能力又は投資に及ぼす悪影響、国内価格への影響、ダンピング・マージンの大きさを含む)を総合的に評価する必要があります(AD協定第3.4条)。これらの指標についても、日本産品の輸入量に著しい増加が見られない、日本産品の価格が輸入国における国内産品よりも高い価格帯である、輸入国の国内産業の経済指標が悪化しておらずむしろ改善している傾向がある等、実は損害を認定するには証拠が不十分である場合もあり、企業側において確認し必要に応じて指摘することが重要です。
Ⅰ.3.3 ③因果関係
③の要件については、調査当局は、ダンピング輸入が輸入国の国内産業に損害を及ぼしていることを認定する必要がありますが、例えば輸入国内での過剰生産や生産能力の低下、国内事業者間の競争激化、関連規制の強化等、ダンピング輸入以外の事象が国内産業の損害の真の原因であると指摘できる場合もあり、輸入国の国内産業の事業実態を把握することも重要になります。
Ⅰ.3.4 調査手続
AD調査の手続的な面においても留意すべき事項があります。AD協定上、調査当局は、調査対象企業をはじめとする利害関係者から、質問状や現地調査などを通じて必要な情報(当該企業に関する一般的情報、輸出取引及び国内販売取引に関する情報等)を収集するとともに、利害関係者には、自らの利益を擁護するため証拠の提出及び意見の表明をする機会が与えられます。具体的には、調査当局から送付される質問状への回答だけでなく、意見陳述書の提出、公聴会への参加、各決定書へのコメントの機会等において、調査当局に対し自らの利益を防御するために積極的に主張・立証を行うことができます。 調査対象企業が提出する情報は、調査当局がAD調査で依拠する情報の代表的なものです。もっとも、調査対象企業にとっては、AD調査に対応して各種情報を提出するのは金銭的・時間的・人的な面で大きな負担です。これらを考慮すると、調査対応を行わず、情報も提供しない、という対応も考慮する余地があります。ただし、その場合には、上述のとおり、ファクツ・アベイラブルを用いた認定がされる、また、措置が長期化してしまう等の不利益を受ける可能性があります。よって、調査対象企業としては、このような不利益の可能性と、調査対応の諸負担とを比較検討して、AD調査に応じるか、また応じるとしてもどの程度まで対応するかを決めることになるでしょう。
Ⅰ.4 日本企業へのAD調査と、日本政府との関わり
AD調査は輸入国の国内法に基づく手続であるため、調査過程で主張・立証を行っていく際、輸入国の国内法においてAD協定より詳細な手続を定めている場合は、当該国内法に従う必要があります。その意味で、輸入国の国内法の知識が必要な場合もあり、現地の弁護士に代理や助言を依頼することもあります。しかし同時に、1.1で上述したとおり、WTO加盟国はAD協定の定めに従って調査を行う義務を負っていることから、調査当局の手続や決定内容が、国内法のみならず、AD協定に違反するとの主張も有効なことがあります。また、特に、この協定整合性の観点については、日本政府から調査当局に対し政府意見書を提出したり、WTOの委員会や二国間協議で働きかけを行ったりすることで、企業の主張・立証を政府がサポートすることが可能です。調査手続過程で、そのような観点からの主張が可能かどうかもご検討ください。特に、後に WTO の紛争解決手続を利用する可能性があるならば、協定整合性に関する問題点の立証を容易にするという観点からも、調査段階から政府と連携し、一貫した主張ができるよう工夫することも考えられます。Ⅰ.5 まとめ
「ADの調査対象となった場合の対応シリーズ」全10回の初回として、「ADを打たれる」とは何かを概説し、あわせて調査手続における全般的な注意点をご説明しました。次回は、対日AD措置の傾向、及び日本の製品が他国のAD調査の対象となり、そして実際にAD税が賦課され、結果的に二国間での働きかけやWTOの紛争解決手続の活用などで解決に至った例をご紹介し、AD調査の対応方法についてさらに考えていきたいと思います。
4.相談窓口
経済産業省では、皆様からのアンチダンピング調査に関する個別相談を常時承っております。アンチダンビング措置は、海外からの不要な安値輸出を是正するためWTOルールにおいて認められた制度です。公平な国際競争環境が担保された中で、日本企業の皆様が事業活動を展開できるようにするためにも、アンチダンビングを事業戦略の一つとして捉えていただき、積極的に御活用いただきたいと考えております。申請に向けた検討をどのように進めればよいのか、複数の事業者による共同申請はどのようにすればよいのかなど、相談したい事項がございましたら、まずは気兼ねなく経済産業省特殊関税等調査室まで御連絡ください。
また、今月から「ADの調査対象となった場合の対応」の連載を開始しておりますが、「日本企業がアンチダンピング調査の調査対象となった場合」の御相談は、経済産業省 国際経済紛争対策室まで御連絡ください。
経済産業省 貿易経済協力局 特殊関税等調査室
TEL:03-3501-1511(内線3256)
E-mail:bzl-qqfcbk@meti.go.jp
経済産業省 通商政策局 通商機構部 国際経済紛争対策室
TEL:03-3501-1511(内線 3056)
E-mail:bzl-wto-soudan@meti.go.jp
5.FAQ

最終更新日:2023年7月31日