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特殊関税等調査室ウェブページコンテンツを活用してダンピング輸入リスクを分析しよう(鉄鋼編)

CONTENTS


1.特殊関税等調査室 ウェブページコンテンツの紹介(動画解説付き!)
2.【連載】特殊関税等調査室ウェブページコンテンツを活用したダンピング輸入リスク分析の視点(第1回 鉄鋼編)
3.FAQ
4.室長 三輪田祐子 よりご挨拶
-相談窓口(アンチダンピング申請のご相談はこちら)


 

 2021年度もADニュースレターを宜しくお願いします

 2020年度のADニュースレターでは、アンチダンピング(AD)の申請書作成に向けた具体的な解説を隔月でお伝えしました。
 2021年度は、これまでに説明した情報を踏まえて、海外からの安値輸入の動向のモニタリングを日々の業務に取り入れていただくことを目的に、皆さまの経営課題の解決のヒントとなる情報をお届けしたいと考えております。
今年度の連載企画として、WTO加盟国においてAD調査開始件数が多い分野のダンピング輸入に関する分析を掲載します。初回配信にあたる本号では、AD発動件数が最も多い産品分野である(鉄鋼編)のダンピング輸入リスク分析のモデルケースを紹介します。

 
 

1.特殊関税等調査室 ウェブページコンテンツの紹介

 当室では、「輸入モニタリングシステム」、「生産動態統計モニタリングシステム」、「他国発動事例リスト」の3点を毎月更新しています。

 輸入モニタリングシステムは、財務省が毎月公表する貿易統計データを基に、海外からの輸入金額、輸入数量、輸入単価を国別・品目別にグラフ形式で可視化するコンテンツです。調べたい品目や国を選択することで、海外からの輸入状況を把握することができます。

 
動画が表示されない場合はこちらからご覧ください。



 生産動態統計モニタリングシステムは、経済産業省が毎月公表する生産動態統計データを基に、日本国内の品目別の内需統計をグラフ形式で可視化するコンテンツです。調べたい品目や指標を選択することで、国内動向(生産・販売・在庫状況)を把握することができます。

 

 

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 他国発動事例リストは、品目別、AD措置発動国別、AD措置対象国別の貿易救済措置発動事例を調査するコンテンツです。調べたい品目や国を選択することで、安値輸入が気になる品目や国について他国での発動事例を調べることができます。

 
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 他国でAD措置対象となり行き場を失った産品が日本に流入する場合、他国の発動事例における被対象国からの日本への輸入動向と生産動態統計を見比べてモニタリングすることで日本への輸入量の増加や国内企業への生産・販売量への影響等の大まかな実態を把握することが可能になります。
   
 

2. 【連載】第1回
  特殊関税等調査室ウェブページコンテンツを活用したダンピング輸入リスク分析の視点 鉄鋼編

 鉄鋼製品はWTO加盟国におけるAD調査開始件数のうち、およそ3割を占めます。(※WTOによる1995年~2020年上期までのAD調査開始件数の集計結果に基づく)

 図1では、鉄鋼製品について世界各国の措置対象品目数(HS6桁ベース)を示しております。オレンジ色が濃いほど、多くの品目がAD調査対象となっている国であることを示しています。

 2011年以降の世界的な傾向として、幅広い品目や国・地域が措置の対象となっておりますが、その中でも特に棒鋼や線材のAD調査対象国数が多く、日本の近隣諸国である中国や韓国、台湾ほか東南アジア諸国が調査対象となる事例が多いことが特徴です。

 

図1 世界のAD調査対象鉄鋼製品 品目数(HS6桁ベース)
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 本号では、AD調査対象国数が多い品目のうち、近年の輸入数量のトレンドに大きな変化があった「無方向性電磁鋼板(HSコード:722619類)」を事例として取り上げます。

 それでは、実際に当室のモニタリングコンテンツを使ってみましょう。


 
■ 他国のAD調査事例を調べる

 まず、他国発動事例リストを確認すると2011年以降に調査開始されたAD措置案件のうち、無方向性電磁鋼板(HSコード:722619類)を調査対象としている国が多いことがわかります。(図2)
 当室が、他国発動事例リストで取り扱っている米国、カナダ、EU、豪州、中国、韓国のうち、米国、EU が、中国や韓国をはじめ、合計15か国 に対してAD調査を実施しています。

 
図2 他国発動事例リスト(HS:722619類)
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■ 他国のAD調査開始及び措置発動と日本への輸入動向との連関を調べる

 次に、輸入モニタリングシステムで、対象製品(HSコード:722519類・722619類 [※1])の日本への輸入動向を見ます。2014年以降のグラフを見ると、中国から日本への輸入数量は2020年に急増しています。(図3)


 

図3 輸入モニタリングシステム(中国、HS:722519類・722619類)
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 ここで、米国の中国製無方向性電磁鋼板へのAD措置発動状況を確認します。米国の調査当局(USITC)のウェブページを確認すると [※2]、中国からの輸入品(HSコード:722519類・722619類、他)に対して、2013年にAD調査を開始し、2014年にAD措置を発動したことが分かります。また、2019年には措置継続調査(サンセット見直し調査)が開始され、翌年に措置継続が決定しています。(表1)
 米国の輸入量は初回措置開始後の2014年以降に急速に輸入量が減少し、2019年では僅か年間25トン(short tons)となっています。(図4)

 
表1 米国の中国製無方向性電磁鋼板へのAD措置発動状況 対象企業とダンピングマージン
画像が表示できません
出典:USITC [※2]
注:本件調査対象HSコードは7225.19, 7226.19



 
図4 米国の中国製無方向性電磁鋼板の輸入数量の推移(単位:short tons)
画像が表示できません
出典:USITC [※2]
注:HSコード:7225.19, 7226.19


 さらに、USITCの調査による中国製無方向性電磁鋼板の輸出統計をみると、2014年から2019年にかけて、輸出先のうち、米国やイタリア(EU)向けの輸出数量が大幅に減少する一方で、ベトナムやインド、タイ、バングラデシュといったアジア向け輸出が大幅に増加しています。(表2)

 
表2 中国製無方向性電磁鋼板 国別輸出の推移(延長調査時)
画像が表示できません
出典:USITC [※2]


 先ほど(図3)で確認したとおり、日本では中国製無方向性電磁鋼板の輸入が2020年以降急増していることから、今後、日本への中国製無方向性電磁鋼板の輸入動向について、他国発動事例及びそれに伴う輸入統計を注視していく必要があると考えられます。
他国のAD措置発動及び措置延長と日本への輸入量増加の直接的な因果関係は慎重に見定める必要がありますが、安値輸入のモニタリングの観点においては、他国のAD措置発動状況により行き場を失った製品が日本市場に流入する可能性があるという視点を持つことは重要です。




[※1]米国による中国製無方向性電磁鋼板へのAD調査の内容と揃えて確認するため、HS722519類を追加しています。

[※2]USITCによる出典は以下のリンクのとおり。
・初回調査結果(Non-oriented electrical steel from China, Germany, Japan, Korea, Sweden, and Taiwan | USITC
・継続調査結果(Non-oriented electrical steel from China, Germany, Japan, Korea, Sweden, and Taiwan | USITC




■ 日本国内の需給動向

 最後に、生産動態統計モニタリングシステムを用いて、日本国内の製造業産品における内需(国内生産量や販売量、販売金額、在庫等)を把握します。安値輸入品による国内産業への影響の観点において、国内産品の需給動向を見てみましょう。

 貿易統計のHSコード(722619類)に紐づく品目は、「冷延電気鋼帯(普通鋼)」に含まれます。2016年以降の冷延電気鋼帯(普通鋼)の需給動向を生産動態統計で確認すると、国内企業による生産数量(国内)及び販売数量(国内)が2018年にかけて前年比プラスの基調であること、月末在庫が前年比マイナス基調であることから、当該製品の内需が拡大している様子がうかがえます。(棒グラフの色は対前年同月比のプラス(赤)とマイナス(青)を示します。)

 また、2019年から2020年第一四半期にかけては生産・販売ともにマイナス基調に転じ、月末在庫が前年比横ばい~プラス傾向でしたが、第二四半期以降は減少基調となっています。(図5)


 
図5 生産動態統計モニタリングシステム(冷延電気帯鋼(普通鋼))
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■ 分析のまとめ

 2014年に米国が中国製無方向性電磁鋼板へのAD措置を発動して以降、米国への輸入は激減(図4)する一方で、ベトナムやインド、タイ、バングラデシュといったアジアへの輸出が増加している(表2)ことが貿易統計からわかりました。これらのアジアへの輸出増加量は、米国への輸出減少量を上回るものであり、米国によるAD措置により米国への輸出が激減しても中国の輸出が増加してきたことがわかります。また、数量はまだ少ないですが、2020年以降、日本向けの輸出も急増傾向(図3)にあります。

 日本国内の生産・販売の縮小基調は2019年から始まっており、また増加した輸入の数量も少ない(図5)ことから、輸入増が国内生産・販売の落ち込みの原因であるとは言いがたいですが、現在のトレンドが継続した場合、ダンピング輸入による国内産業への損害につながりかねないため、将来的なリスクとして輸入と国内生産・販売の動向を注視していく必要があります。

当室が月次で更新している他国発動事例リスト輸入モニタリングシステム生産動態統計モニタリングシステムを日々の業務に活用することで、ダンピング輸入による国内産業の衰退及び自社利益への損害リスクを早期に感知することが可能となります。企業の経営戦略における重要なツールとして、ぜひとも当室のコンテンツを積極的にご活用ください。
 
 

3.FAQ

 以下のURLから、アンチダンピング申請等について、皆様からよく寄せられるご質問及び回答情報をご参照いただけます。ご活用いただけますと幸いです。
  よくある質問

 

 

4.室長 三輪田祐子 よりご挨拶

 ADニュースレターをお読み頂きありがとうございます。2021年3月より経済産業省特殊関税等調査室長に着任しました三輪田祐子です。どうぞよろしくお願いします。

 長期化するウィズコロナ時代に、引き続き「自国優先」の動きが継続する中、デジタル・グリーン・レジリエンスを軸とした各国政府の積極的な関与のもと、サプライチェーンは大きな変化に直面しております。こうした動きを背景に、米国のバイデン政権は、前政権により課された対中国関税措置を当面維持するとともに、中国の不公正な貿易慣行に対して貿易救済措置を積極的に活用する姿勢を表明しました。また、欧州においては、新しい形の補助金についても相殺関税措置の対象とすると表明しており、各国はグローバルサプライチェーンに対応し、効果的に貿易救済措置を活用していく方針を示しています。世界経済の不確実性が高まる中、厳しい状況に直面されている企業の皆様が、「アンチダンピング(AD)措置」や「相殺関税(CVD)措置」などの貿易救済措置をより活用しやすく、少しでも公平な国際競争環境の中で事業活動を展開できるような環境を整備することが、当室の使命であると考えております。
 AD措置は、海外からの不当な安値輸出により国内産業に被害がある場合、その価格差を相殺する関税を賦課することで不公正な競争環境を是正することができる、WTOルールにおいて認められた制度です。世界ではAD措置が積極的に活用されており、日本でも近年、措置発動が活発化しています。企業の皆様におかれましても、こうした措置を事業戦略の一つの手段としてとらえていただき、是非積極的に活用していただきたいと期待しております。
 中小企業や業界団体による申請事例や、課税期間を延長した事例など、過去9件の日本のAD措置案件について、詳しくは当室ウェブページをご覧下さい。

 AD措置の対象製品に制限はありません。農林水産物から鉱工業製品に至るまで、幅広い製品が措置発動対象となりますが、世界的には鉄鋼等金属製品関係と化学工業製品関係の案件が約6割を占めており、今年度のADニュースレターの連載企画として「鉄鋼編」から順に、WTO加盟国におけるAD調査開始件数が多い分野のダンピング輸入に関する分析を掲載致します。今年度も引き続き、皆様の経営課題の解決のヒントとなる情報をADニュースレターにてお届けしたいと考えております。
【連載】特殊関税等調査室ウェブページコンテンツを活用したダンピング輸入リスク分析の視点

 また、今年度も8月頃に「貿易救済セミナー」を開催予定です。今年度はAD措置の概要と効果の説明に加え、有識者の方によるディスカッションや、実際に当室の輸入モニタリングシステムを利用して下さっている業界団体・企業の方による活用体験談などをお届けします。6月末には参加登録の受け付けを開始予定ですので、是非積極的にご参加下さい。

 最後に、経済産業省特殊関税等調査室ではアンチダンピング措置の申請に向けた個別相談を随時受け付けています。相談は電話やオンライン会議形式でも可能でございますので、気兼ねなく当室までご連絡下さい。

 
三輪田 祐子 | 経済産業省 特殊関税等調査室 室長

2005年、経済産業省入省。製造産業局繊維課課長補佐、資源エネルギー庁調査広報室・エネルギー需給政策室総括補佐、大臣官房調査統計グループ政策企画委員などを歴任。2021年3月より現職。



 

最終更新日:2022年9月12日