CONTENTS
1.諸外国における貿易救済措置の発動状況
2.各国の貿易政策の状況
①米国が中国産太陽光セルとモジュールに対するAD/CVD課税の迂回について最終決定を発表
②EUが中国産光ファイバーケーブルに対するAD措置を強化
③EUによるバイオディーゼルへの補助金相殺関税賦課に対し、インドネシアが二国間協議を要請
④ 大麦への関税措置を巡るオーストラリア・中国間紛争が解決に達する
3.「ADの調査対象となった場合の対応」シリーズ~第Ⅲ回 調査の一連の流れと政府のサポート~
4.相談窓口
5.FAQ
1.諸外国における貿易救済措置の発動状況
2023年8月の諸外国における貿易救済措置の発動状況をお伝えします。実施状況詳細
アンチダンピング(AD)
2023年8月は以下の調査が開始されました。
補助金相殺関税(CVD)
2023年8月に開始されたCVD調査はありませんでした。
2.各国の貿易政策の状況
①米国が中国産太陽光セルとモジュールに対するAD/CVD課税の迂回について最終決定を発表
米国商務省は、2023年8月18日、中国産の太陽光セルとモジュールが、米国のAD/CVD課税を回避して、東南アジアから迂回して輸入されているとされる問題について、最終決定を発表しました。1本件は、中国産の太陽光セルとモジュールについて、2022年4月より開始されたカンボジア、マレーシア、タイ又はベトナムを経由した迂回に関する調査2の最終決定になります。2022年12月には、調査対象企業8社のうち4社に対して、迂回を認定する仮決定を下していました。3今回の最終決定では仮決定での認定にもう1社を追加し、8社のうち合計5社で迂回が認定されています。
なお、2022年6月に発行された大統領布告4では、製品需要の観点から、これらの4か国から輸入される太陽光セルとモジュールについて、一定の条件下で2024年6月までの関税免除措置が講じられています。
1.https://www.commerce.gov/news/press-releases/2023/08/department-commerce-issues-final-determination-circumvention-inquiries
2.https://www.federalregister.gov/documents/2022/04/01/2022-06827/crystalline-silicon-photovoltaic-cells-whether-or-not-assembled-into-modules-from-the-peoples
3.https://www.commerce.gov/news/press-releases/2022/12/department-commerce-issues-preliminary-determination-circumvention
4.https://www.federalregister.gov/documents/2022/09/16/2022-19953/procedures-covering-suspension-of-liquidation-duties-and-estimated-duties-in-accord-with
②EUが中国産光ファイバーケーブルに対するAD措置を強化
欧州委員会は、中国の輸出業者がAD措置の効果を妨害する目的で光ファイバーケーブルの価格を意図的に引き下げていたことを受けて、同製品に対するAD措置を強化しました。これにより、税率は39.4%から88%に引き上げられています。52021年11月、欧州委員会は中国からの光ファイバーケーブルに対し19.7 % から 44 % の範囲でAD関税を賦課していました。6その後、2022年1月には同製品に対し5.1 % ~ 10.3 % の範囲で補助金相殺関税を課す措置を講じるとともに、ダンピングと補助金の効果が二重になることを避けるため、AD関税の税率についても調整していました。
しかし2022年10月には、中国の輸出業者が意図的に製品の輸出価格を引き下げて当初の是正効果を妨害したとして、業界団体「Europacable」がAD措置に関する再調査を要請したことから、同年12月、欧州委員会はAD措置に関する再調査を開始していました。7
5.https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=uriserv%3AOJ.C_.2022.467.01.0036.01.ENG&toc=OJ%3AC%3A2022%3A467%3ATOC
6.https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32021R2011&from=EN
7. https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=uriserv%3AOJ.C_.2022.467.01.0036.01.ENG&toc=OJ%3AC%3A2022%3A467%3ATOC
③EUによるバイオディーゼルへの補助金相殺関税賦課に対し、インドネシアが二国間協議を要請
インドネシアは、EUによるバイオディーゼルへの補助金相殺関税の賦課が「補助金及び相殺措置に関する協定(SCM協定)」及び「1994年の関税及び貿易に関する一般協定(1994年GATT)」に違反するとしてWTOに二国間協議を要請しました。8,9EUは、2019年8月に暫定的な補助金相殺関税措置発動10を、そして同年11月に措置発動の最終決定を下しており11、インドネシア側はそれら措置の両方と、措置発動に至った調査を協議の対象としています。
要請に従って正式に協議が開始された場合、当事国は相互に満足のいく紛争解決に向かって努力することとなっています。しかし、一定期間内(通常、協議要請を受けた日から60日以内)にこの協議によって紛争が解決できなかった場合、申立国はパネル(小委員会)に紛争を付託することができます。12
8.https://www.wto.org/english/news_e/news23_e/ds618rfc_15aug23_e.htm
9.https://docs.wto.org/dol2fe/Pages/FE_Search/FE_S_S009-DP.aspx?language=E&CatalogueIdList=297650&CurrentCatalogueIdIndex=0&FullTextHash=&HasEnglishRecord=True&HasFrenchRecord=True&HasSpanishRecord=True
10.https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/ALL/?uri=uriserv:OJ.L_.2019.212.01.0001.01.ENG
11.https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/ALL/?uri=CELEX:32019R2092
12.https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/wto/funso/seido.html
④大麦への関税措置を巡るオーストラリア・中国間紛争が合意に達する
2023年8月11日、オーストラリアと中国は、この紛争で提起された問題について解決する旨の合意に達したことを紛争解決機関に通知しました。それを受けて同月24日、紛争の概要と、紛争が解決に達した旨が記載されたパネル報告書が加盟国に回付されています。13オーストラリアは、2020年12月にオーストラリア産大麦に対する中国のAD及びCVD関税措置がAD協定、SCM協定及び1994年GATTに違反するとして協議を要請していました。14その後、オーストラリア側の要請に従い、2021年9月にパネルが設置されていました。
13.https://www.wto.org/english/tratop_e/dispu_e/cases_e/ds598_e.htm#bkmk598r
14.https://www.wto.org/english/news_e/news20_e/ds598rfc_21dec20_e.htm
3.「ADの調査対象となった場合の対応」シリーズ
~第Ⅲ回 調査の一連の流れと政府のサポート ~
Ⅲ.1 はじめに
AD調査開始から最終決定までは原則1年以内とされており、例外的に1年6か月まで延長可能です(AD協定5.10条)。この期間に、下図のとおり様々な手続に対応する必要があります。質問状に対する回答や意見陳述書の提出、追加質問に対する回答等、対象企業が行うべき作業は多く、時間的な余裕がないこともあります。また、初めてAD調査に対応する場合、どのタイミングで何をすればよいのか、政府にいつ相談できるのか分からない場合も多くあるかと思います。今回は、AD調査の一連の流れと政府のサポートの典型的なタイミング・内容について説明し、第Ⅳ回以降、各手続段階の対応について詳細な説明をしていきます。 Ⅲ.2 AD調査の一連の流れ
AD措置は、調査対象産品の取引を実際に行っている利害関係者(AD協定6.11条)の有する情報等に基づいて行われ、一連の調査(下図参照)は、この情報収集と利害関係者の利益を擁護する機会の付与のために行われます。利害関係者には、自らの利益を擁護するため証拠の提出及び意見の表明をする機会が与えられており(AD協定6.2条)、この利害関係者には対象企業の国の政府(輸出国政府)も含まれます(AD協定6.11条(ii))。上図①の通り、まず輸入国政府の国内産業の利害関係者(主に生産者)がAD税を課すよう調査当局に申請することから手続が始まります。調査当局は申請の内容や証拠を精査し、調査開始を正当とする十分な情報があると判断すれば調査を開始します(AD協定5.3条、5.8条)。
調査が開始(②)されると、対象企業及び輸出国政府を含む利害関係者に調査開始の通知が送られます(AD協定6.1.3条)が、この時に調査に対応するか否かを検討し、対応する場合は応訴登録をします。
調査当局は、輸出国の対象企業に対し、質問状を送付(③)(AD協定6.1.1条)し、それへの回答及び証拠・意見陳述書の提出などの反論の機会を与えます。また、多くの国で、調査当局は、公聴会(④)と呼ばれる利害関係者が口頭で意見表明をする機会を与えています(以上AD協定6.2条、6.3条)。調査当局は、これらの手続と並行して様々な手段で情報収集をおこない、それらの情報に基づき、AD税を賦課する要件を満たしているか(第Ⅰ回参照)を判断します。
必須の手続ではありませんが、調査当局は仮決定(⑤)として暫定的な判断内容を公表する場合があり、仮決定でAD税を賦課する要件を満たしていると判断した場合、最終決定前に暫定的な課税を開始(AD協定7条)したり(暫定措置(⑥))、輸入者が自主的に価格の変更等を行うことを約束することで調査を中断したりする(AD協定8条)場合もあります(価格約束(⑦))。仮決定は調査当局の調査で認定された事実が公表される重要な機会であり、必要に応じて反論を行うことができます。
調査当局の最終判断の基礎となる事実については、最終決定前に必ず公表され(AD協定6.9条、重要事実の通知(⑧))、利害関係者に最後の反論の機会が与えられます。
このような手続を経て、最終決定(⑨)が公告され(AD協定12.2条)、課税の要件を満たしているとされれば、課税が開始(⑩)されます。
なお、意見提出のタイミングについては質問状への回答提出後や仮決定後以外でも、対象企業も政府も基本的にいつでも意見表明することができますが、各国の制度によって期限が異なりますので、締切りについてはよく確認が必要です。
上記を踏まえ、以下Ⅲ.3では、日本政府がAD調査において対象企業を含む業界をサポートする典型的な場面・タイミングを紹介します。
Ⅲ.3 日本政府のサポート
まず調査開始(②)後に調査対象品目など詳細な内容が明らかになりますが、調査開始の理由及び対象範囲、また手続面等についてAD協定含めWTO協定との整合性に疑義があれば、これらの点について、日本政府としても意見表明を行うことがあります。意見表明の方法としては、政府意見書と呼ばれる書面を相手国政府に送付したり、AD委員会や政府関係者同士の会議の場を利用して相手国政府に直接懸念を伝えたりします。また、公聴会(④)では、日本政府としても現地大使館職員が出席し、口頭で意見表明のうえ、後日その内容を書面で相手国政府に提出するなどの対応を行うことがあります(AD協定6.3条)。
調査当局の判断内容を知る機会としては、仮決定(⑤)、最終決定の基礎となる事実を開示する重要事実開示(⑧)、最終決定(⑨)があり、これらの内容を確認のうえ、適切なタイミングで反論することも重要です。日本政府としても、第Ⅰ回で説明したとおり、相手国産品との競争関係、相手国国内産業が主張する損害との因果関係など、AD協定上疑義のある点のほか、AD税を課した場合に相手国産業に与える影響など、最終判断に向けて考慮すべき点を指摘することがあります。
以上のように、調査期間中に、政府が意見表明(政府意見書の送付や相手国政府への働きかけ)するタイミング・機会は複数あることがわかります。実際、一つの調査手続において複数回こういった働きかけを行うことが多いです。また、上記はあくまで典型的な(最も効果的と思われる)意見表明のタイミングであり、AD協定上、それ以外の時期での意見表明に特段の制限があるわけではありません。
Ⅲ.4 むすび
以上がAD調査の一連の流れと日本政府のサポートのタイミングですが、そもそもこれらの手続が適切に行われない場合や、質問状への回答や各決定に対してコメントをするための十分な日数が与えられない場合などは手続面に問題がある可能性もあり、調査当局に対して指摘できる場合もあります。こういった点についても、疑義がある場合にはご相談ください。【今回のポイント】
○AD調査に際して政府が意見表明の形で対象企業をサポートできる場合がある。
○サポートには、企業をサポートする内容の政府意見書の提出や、公聴会への政府関係者の出席等が挙げられるが、これに限られない。
○手続中、十分な反論の機会がないと思われる場合にも、日本政府へのコンタクトにより、意見・懸念の表明ができる可能性がある。
4.相談窓口
経済産業省では、皆様からのアンチダンピング調査に関する個別相談を常時承っております。アンチダンピング措置は、海外からの不要な安値輸出を是正するためWTOルールにおいて認められた制度です。公平な国際競争環境が担保された中で、日本企業の皆様が事業活動を展開できるようにするためにも、アンチダンピングを事業戦略の一つとして捉えていただき、積極的に御活用いただきたいと考えております。申請に向けた検討をどのように進めればよいのか、複数の事業者による共同申請はどのようにすればよいのかなど、相談したい事項がございましたら、まずは気兼ねなく経済産業省特殊関税等調査室まで御連絡ください。
また、7月から「ADの調査対象となった場合の対応」の連載を開始しておりますが、「日本企業がアンチダンピング調査の調査対象となった場合」の御相談は、経済産業省 国際経済紛争対策室まで御連絡ください。
経済産業省 貿易経済協力局 特殊関税等調査室
TEL:03-3501-1511(内線3256)
E-mail:bzl-qqfcbk@meti.go.jp
経済産業省 通商政策局 通商機構部 国際経済紛争対策室
TEL:03-3501-1511(内線 3056)
E-mail:bzl-wto-soudan@meti.go.jp
5.FAQ
最終更新日:2023年12月8日