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- 概要 Ⅰ 世界経済編
Ⅰ 世界経済編
第1章 足下の世界経済及び我が国の対外貿易投資の動向
- IMFによれば、2017年の世界の実質GDP成長率は、世界貿易の回復が大きく寄与し2011年以来最も高い3.8%となった。IMFは今後の世界経済のリスクについて、保護主義的な措置の導入による貿易・投資活動へのマイナスの影響を懸念している。
- WTOによれば、2011年から2016年にかけて世界の財貿易の伸びが実質GDP成長率を下回る「スロー・トレード」と言われる状況が続いてきたが、2017年にはこれが解消し、2018年も財貿易の伸びが実質GDP成長率を上回る見通し。
- 米欧の金融政策の正常化に伴う米国と新興国の金利差縮小により、新興国からの資金流出が加速し、新興国景気を減速させることが懸念される。しかし、今回は、2013年のテーパータントラムの時と違い市場の急激な変化は起こっていない。その理由としては、①テーパータントラムの教訓を踏まえ、FRBは市場とのコミュニケーションを十分に図りながら慎重に金融政策を実施していること、②新興国のファンダメンタルズが安定的に推移していることが挙げられる。ただし、今後の動向には注視が必要。
- 2017年の我が国の経常収支は21兆9,514億円の黒字で、2007年に次いで過去2番目に大きな額となった。黒字幅拡大の主な要因は、第一次所得収支の黒字幅が大幅に拡大したことと、サービス収支が過去最少の赤字額となったこと。
第2章 主要国・地域の経済動向及び対外経済政策の動き
<米国>
- 米国の2017年の実質GDP成長率は前年比2.3%と2016年から加速するなど、景気は着実に回復が続いている。
- 米国経済の着実な回復と世界経済の緩やかな回復により、米国の貿易額は輸出入ともに増加し、2017年の財及びサービスの貿易赤字額は2008年以降で最大となった。米国が財貿易赤字となった相手国は、中国、メキシコ、日本、ドイツ、ベトナムなど。米国の貿易赤字の約半分を占める対中赤字は、過去最大に。
- 米国通商代表部は、2018年2月に「2018年通商政策課題」を公表。①国家安全保障を支える通商政策、②米国経済の強化、③全ての米国人にとって役立つ通商協定の交渉(NAFTA再交渉等)、④米国通商法のアグレッシブな執行(通商法301条、通商拡大法232条等)、⑤多国間通商システムの改革の5つを柱として掲げている。
<欧州>
- ユーロ圏経済は、好調な内需と世界経済を背景に堅調に拡大している。2017年に関しては、欧州主要国の実質GDP成長率は軒並み1%を上回る水準に至り、ユーロ圏全体では、通年で2.4%増と前年を上回った。
- BREXITで生じる関税・非関税障壁による影響を軽減するため、各国の産業界が英国及び他のEU加盟国政府に対して声をあげている。在欧州の日系企業に対するアンケート調査によると、8割以上もの製造業企業が、関税による影響を懸念している。また、非関税障壁については約4割、基準・認証については3割前後の製造企業が懸念している。
- EUは欧州域外との通商協定の締結に積極的に取り組んでいる。その中で、2017年9月に暫定適用が開始したEU・カナダ包括的経済貿易協定と、同年12月に交渉が妥結した日EU・EPAは、相互の関税・非関税障壁について高いレベルで自由化を図り、かつ、労働者の人権及び環境の保護にコミットした内容となっており、保護主義の動きが広まる中で、開かれた公正な貿易・投資ルールのモデルとなることが期待されている。
- EUは自由貿易を重視するとともに、対内直接投資に対してもオープンな姿勢が基本だが、域内の重要な技術やインフラに対する域外国からの投資拡大を背景として、2017年9月、欧州委員会は、域内向けの外国直接投資について加盟国間の情報交換や意見提出等をする枠組を設立するための規則を提案した。
<ASEAN、インド>
- 2017年に設立50周年を迎えたASEANは、競争力ある地域経済としての存在感を維持、拡大すべく、一層の経済統合へ向けた制度・政策を推進している。域内の貿易や直接投資は堅調に推移するものの、伸び悩む一面も見える。
- ASEANと中国との間の貿易パターンとしては「垂直型貿易(分業)」の割合が高いが、2000年代に入りIT関連製品の「水平型貿易(分業)」が急速に発展した。特にASEANの対中国輸出は電気機械の部品に大きく偏っており、今後中国の内製化が進むと貿易構造が大きく変化する可能性がある。
- インドのモディ政権は、構造改革の中心としてICT政策「デジタル・インディア」を推進。高額紙幣の廃止に伴い、国民にキャッシュレス化が浸透し、多様な電子決済手段が急速に普及している。
また、モバイル機器を利用したMコマースが特徴の電子商取引の市場は急拡大しており、2024年には日本を抜いてアジア太平洋で第2位、世界で第4位になる見込み。
<中南米>
- 中南米地域の地域経済統合体である「太平洋同盟」と「メルコスール」は、この二つで中南米地域の人口の約8割、GDP及び輸出額の約9割を占める。
- 太平洋同盟の特徴として、加盟国の自由貿易志向の高さが挙げられる。2017年3月、太平洋同盟はアジア太平洋諸国との連携強化のため、太平洋同盟と早期かつ高水準な協定締結を望む国を「準加盟国」と位置づける方針を示し、TPP11加盟国であるカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールとの間で交渉が開始された。
- メルコスールは、域外国・地域との自由貿易協定の締結等では、太平洋同盟に遅れをとっていたが、2015年末のアルゼンチンに続き、2016年にブラジルで左派から中道右派に政権が交代したことから、EUとの自由貿易協定交渉が2016年10月に再開されるなど、通商関係を拡大・深化する動きが見られる。
<ロシア及び中央アジア>
- 2017年のロシア経済は、油価の回復を主因として+1.5%と3年ぶりのプラス成長となった。ロシア経済は、油価によって経済動向が左右されやすく、また、輸出の約5割を鉱物性燃料が占める。そのため、ロシアは、外交政策上の観点に加え、鉱物性燃料の販路拡大を市場が成熟した欧州から経済成長が続くアジア太平洋諸国に求める等の観点から、当該地域との経済関係を強化している。
- 中央アジア諸国の対ロシア・中国輸出依存度を見ると、2000年の対ロシア輸出依存度は約2割と、ロシアとの関係が強い貿易構造であったが、2009年以降、対中国輸出依存度が対ロシア輸出依存度を上回っている。中央アジア諸国の対内直接投資についても、中国からの投資が大きく増加している。
<中東及びアフリカ>
- 鉱物性燃料に依存した経済構造が続く中東の産油国では、原油価格が大幅下落した2014年以降、貿易収支の黒字幅の急激な減少と軌を一にして、大幅な財政赤字を抱えることとなった。2016年以降、OPECの減産合意等により徐々に原油価格は回復傾向であるものの、財政黒字化には至っていない国・地域が多い。サウジアラビアの「サウジ・ビジョン2030」をはじめとして、中東の産油国は、持続可能な経済・社会体制の構築のため、石油だけに依存しない産業構造を目指し、改革を進めている。
- アフリカでは域内貿易を推進する動きが活発化している。この動きを象徴するのがアフリカ連合加盟55か国・地域による「アフリカ大陸自由貿易圏(AFCFTA)」設立に向けた取組である。2015年に交渉が開始され、2018年3月の第10回交渉フォーラムで発足が合意され、2018年末までの発効を目指すこととなった。