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- 概要 Ⅱ 分析編:大きく転換するグローバル経済
Ⅱ 分析編:大きく転換するグローバル経済
第1章 拡大するデジタル貿易
- 世界の越境EC市場規模は、2014年に2,360億ドルとなり、その後も拡大を続け、2020年には9,940億ドルに上る見込み。また、越境EC利用者数に関しては、2014年時点では約3億人程度だが、2020年には約3倍の9億人を超える見通し。
- デジタル貿易の拡大とともに存在感を増しているのが、ECやクラウドコンピューティングサービスのITプラットフォームを提供する世界的企業である。2008年時点の時価総額上位10位には、石油・ガス等の資源事業、銀行業に加えて、通信事業者が入っていたが、2018年1月時点では、上位10社の内6社が米中のITプラットフォーム企業になっている。
- 情報の自由な流通の促進は、新たな技術革新やビジネスモデルを生み出し、人々の生活の質を向上させるといった好循環を生み出している。他方、データの自由な越境流通を阻害するデータローカライゼーション規制、セキュリティ強制規格採用要求、ソースコード開示要求等、データ保護主義的な規制が過去20年ほどの間に急激に増えている。
- データに関する新規制が導入されると、自国GDPにマイナスの影響との試算もある。
- ITプラットフォーマーを巡る既存の業種との公正な競争環境の確保や、消費者保護・安全確保の扱いも課題になっている。
第2章 新興・途上国経済の台頭
- 世界の実質GDP成長率への各国・地域の寄与度を見てみると、2000年頃から先進国の寄与度は次第に低下してきているのに対し、新興・途上国の寄与度が上がってきている。世界の名目GDPに占める新興・途上国のシェアも2000年代半ば以降上昇傾向にあり、足下では40%を超える水準に達している。
- 新興・途上国は固定資本形成の伸びに合わせて素材産業の生産能力も大幅に伸ばしている。例えば、鉄鋼分野では先進国の鉄鋼生産能力は過去17年間約6億トンで推移しているのに対し、新興・途上国の鉄鋼生産能力は上昇を続け、2017年には2000年当時と比較して全世界で約2.3倍の23億トンに拡大している。新興・途上国の中でも中国の生産能力の拡大が著しい。
- 新興・途上国の過剰生産問題を中国鉄鋼産業を事例としてみてみると、その経緯は大きく4つの段階に分けられる。①まず、主に国有銀行が鉄鋼企業への低利融資を拡大し、鉄鋼企業は生産能力の拡大を進め、総資産営業利益率(ROA)は上昇。②続いて、国内供給過多となる一方で、鉄鋼企業の借入金と生産能力の拡大は続き、ROA低下。③さらに、多くの鉄鋼企業が営業赤字になる中で、政府補助が大きく拡大。④足下では中央政府が生産設備削減目標を設定し、厳格な執行管理を行った結果、削減目標を達成。ただし、固定資産総額は継続して増加。
- 国有銀行からの借入金や政府補助金等の支援措置は、相対的に経営効率の低い地方政府所管鉄鋼企業に多く投下されている。
- 政府支援による設備投資の急拡大は、中国の集積回路産業においてもみられ、同産業における将来的な過剰生産能力問題が懸念される。
第3章 急速に変化する中国経済
<新産業の躍進>
- 中国のGDPを需要面から見ると、リーマン・ショック後は輸出、4兆元の景気対策後は総資本形成がシェアを縮小させ、民間消費が緩やかにシェアを拡大させている。
- 2017年の中国の業種別の実質GDP成長率を見ると、情報通信・情報技術サービスが26.0%増と突出して高い成長を遂げている。
- 中国における電子商取引の規模は世界第1位。消費者向けインターネットサービス分野は多岐にわたるが、旅行予約、料理の出前、配車サービス、金融関係などは特に利用者数の伸びが高い。
- 中国政府が推進する創業支援策「大衆創業・万衆創新」が発表された2014年頃から、創業数は大幅に増加してきた。中国の創業率は、米国や日本と比較して、大幅に高い。ベンチャー企業に対するベンチャーファンドの投資金額をみても、中国は2.2兆円と米国の7.5兆円に次いで第2位の規模。
- 中国の国際特許出願数は2010年に韓国を、2013年にドイツを、2017年には日本をも抜き、米国に次ぐ2位となった。
- 「中国製造2025」の重点10産業分野について国際特許公開件数を見ると、特にIT関連技術については世界の主要国に並ぶのみならず、デジタル通信のようにリードする分野も出てきている。一方、バイオテクノロジー・医療関連では米国と、ロボット等を含む機械関連では日本と差が開いている。
- 中国での技術力向上・創業を支えている要因の1つに大量の高度人材の供給がある。毎年700万人以上に上る新卒大学生のうち約20万人が創業している。中国から米国への留学生の半数近くがSTEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)分野を専攻している。中国人留学生の帰国率は、2008年までは30%以下と低かったが、中国政府が帰国促進政策を累次打ち出した効果もあり、2013年には85%に上昇した。
- 中国における新産業の躍進、イノベーション力の向上、活発な創業活動の状況について認識を新たにし、国内産業の活性化のために一層の取組を進めることが必要。
<拡大する対外貿易・投資>
- 中国を最大の輸入相手国とする国が急激に増加し、2017年には世界の約30%(57か国)と第1位に。中国が最大の輸出相手国になっている国も、輸入と比べると少ないものの世界の約16%(30か国)と米国に次ぐ地位に。
- 中国の輸出を牽引する産業は、繊維産業から電機・光学機器産業へと変化している。
- 中国の輸出に占める自国創出付加価値の割合を産業別に見ると、2000年の時点では電機・光学機器産業の付加価値比率は約30%と低いが、2014年にかけて付加価値割合は約5割まで高まっており、部品の現地調達化・製品の高付加価値化が進展していることが伺える。
- WTO発足以降、1995年~2016年のAD措置の被発動件数は中国が1位(866件)であり、2位韓国(239件)以下を圧倒的に上回る。中国向けAD措置の発動件数を発動国・地域別で見ると、新興・途上国の発動件数が先進国の発動件数を上回る。
- 2010年代に入り、中国企業による先進国の工業・ハイテク企業の買収が活発になっている。これに対し、米国は、中国企業の米国企業買収案件を不承認とする等、対内直接投資規制を厳格化。
- EUは、域内直接投資に関する審査枠組新設を提案。ドイツ等加盟国レベルでも規制強化の動き。
<日本企業にとってのビジネスチャンス>
- 日本の対中輸出額は2017年に過去最高の約14.9兆円に達し、米国の約15.1兆円に次ぐ第2位の輸出先となっている。消費財、産業用機械等が大きく伸びている。
- 中国消費者による日本からの越境電子商取引購入額も急速に拡大し、2017年には1兆2978億円(前年比25.2%増)に達したと推定されている。
- 中国の一人当たり消費支出は、2013年から2017年の4年間に1万3千元から1万8千元へと4割増となっている。中でも、交通・通信、教育・文化・娯楽、健康・医療のシェアが上昇している。
- 中国では環境問題への対応が大きな課題となっている。環境汚染対策のための投資額は増加傾向にある。我が国企業にとっても環境規制の遵守が求められるとともに、優秀な環境技術を有する企業にとってはビジネスの機会ともなり得る。
- 在中国日系現地法人の売上高の推移を見ると、製造業の割合が多いのが特徴である。旺盛な中国内外の需要を捉え、売上・利益共に伸ばしている。個人消費関連サービスも伸びてきているものの、その売上高は製造業の約30兆円に対して約6千億円と相対的に小さな規模にとどまっている。
- 日米欧の現地法人の売上額を比較してみても、日本は個人消費関連サービスの売上高が欧米に比べて小さい。中間層・乳幼児・シルバー市場等成長する中国市場で更なる成長余地が存在する。
- 中国での日本企業の更なるビジネス展開や、第三国での日中企業協力により、成長を続ける中国の活力を日本の活力につなげていく必要がある。