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- 概要 Ⅰ 世界経済の動向編
Ⅰ 世界経済の動向編
第1章 世界経済の動向
- 国際通貨基金(IMF)によれば、2018年の世界の実質GDP成長率は前年比3.6%と、2017年の3.8%から低下。特に2018年後半からは、ユーロ圏や一部新興国で成長の勢いに弱さが見られたことに加え、米中貿易摩擦の激化等が要因となり、世界的に成長の勢いが弱まった。
- 世界貿易機関(WTO)によれば、2018年の世界の財貿易量の伸び率は前年比3.0%と、6年ぶりの高成長だった2017年の4.6%から大幅に低下。今後の世界貿易量の見通しについて同機関は、米中貿易の緊張と経済の不安定性の高まりから、2019年の貿易量の伸びは前年比2.6%と更に低下するが、2020年には貿易の緊張が和らぐことを前提に3.0%まで回復すると見込んでいる。
第2章 世界経済の先行きに迫るリスク要因
- 国際的な金融環境は、総じて緩和的に推移し、国際的なリスク選好の高まりを背景に主要市場の資産価格は上昇し、各国経済の成長を支えてきた。
- 2018年には、堅調な経済を背景とした米国の政策金利の引上げやインフレ期待の高まりが、米国の長期金利上昇やドル高をもたらした。その影響により、一部新興国では、通貨下落や物価の上昇、資金流出が発生し、その対応策として政策金利が引き上げられる等、金融環境に厳しさが見られた。
- 2018年第4四半期には、株価や石油価格の下落等、金融市場に動揺が見られたが、2019年に入り、米中貿易交渉の先行きに対する楽観論の広まりや、先進国が金融引き締めに慎重になったこと等を背景として、力強い回復を示している。
- 資源(一次産品)価格は、2017年半ばから2018年前半までは、世界的な景気拡大に伴う資源需要増加への期待から上昇。2018年後半には、中国を始めとする世界経済の減速による需給の緩和、米中貿易摩擦による通商問題の先行きへの懸念等により、資源価格の動きは不安定となっている。資源価格の動向は、資源の輸出国・輸入国双方の貿易収支、生産、物価等、経済活動に重大な影響を与えることから、世界経済の安定的な成長・発展のために、動向を注視していく必要がある。
第3章 各国経済動向とリスク要因
〈米国〉
- 米国の2018年の実質GDP成長率は、前年比2.9%と2017年の2.2%から加速。一方、市場関係者等の間では、貿易摩擦や中国の景気減速が経済を下押しし、2017年12月に成立した税制改革法の影響が剥落しているとの見方が多い。2018年の米国の財貿易収支は、過去最大の▲8,787億ドルの赤字。貿易赤字の約5割を占める中国に対する赤字が拡大したことが主な要因となった。
- 中国との技術覇権争いを背景として、米国では、2018年8月に2019年度国防授権法が成立。外国投資リスク審査近代化法(FIRRMA法)が成立し、外国投資委員会(CFIUS)による対米投資審査が強化された。また、同時に輸出管理改革法(ECRA)が成立し、輸出管理も強化されている。
〈欧州〉
- ユーロ圏では、自動車の新燃費測定基準への対応や河川の水位低下による物流遮断といった一時的要因が製造業の生産を下押ししたほか、新興国経済の減速や米国を巡る貿易摩擦、英国のEU離脱を巡る先行き不透明感が企業マインドに影響し、2018年の実質GDP成長率は1.8%と前年より鈍化した。
- 財政健全化の重要性が認識される一方で、2018年に成立したイタリアの新政権は財政拡張型の政策を掲げ、金融市場では同国の財政に対する懸念が高まった。英国では、EU離脱期限が2019年10月末に延期されたものの、合意なき離脱の可能性が排除されていない。
〈中国〉
- 2018年の中国経済は、政府の金融リスク対策が進行する中で、経済成長率、小売売上高、固定資産投資等の経済指標が減速し、年央からは政策の方針が金融リスク等構造改革重視から景気重視に変更された。その結果、小売売上高は自動車販売の落ち込みが小売全体を引き下げたものの、固定資産投資は秋以降に伸び率が上昇に転じ、実質GDP成長率は2019年第1四半期に下げ止まった。
- 米中双方が関税引上げを行った結果、中国の対米輸入は年後半に突出して悪化、対米輸出も年末から急速に悪化。金融リスクについては、2018年はシャドーバンキングを含め社会融資総量の残高伸び率が鈍化しており、一定の効果があったと考えられるが、景気刺激のための金融緩和が金融リスクの先延ばしになることを懸念する見方もある。
〈南西アジア、東南アジア〉
- インドネシアの2018年実質GDP成長率は5.2%と3年連続で拡大したが、ジョコ大統領の選挙公約の7%は未達。政権第1期で高評価を得たインフラ開発が2019年の再選後も継続するか注目される。
- タイの2018年実質GDP成長率は4.1%と軍事政権の下4年連続で拡大したが、米中貿易摩擦の影響で輸出が伸び悩み6年ぶりに純輸出がマイナスとなった。2019年の民政移管に向けた総選挙後の政局の透明性・安定性が懸念される。
- インドの実質GVA成長率はモディ政権の下、総じて高水準で推移したが、2018年に入り3四半期連続で鈍化。選挙後も雇用創出、農村と都会の格差解消が大きな課題であり、2019年には所得減税や農家への所得支援策が実施される予定。
〈中南米〉
- 中南米地域の実質GDP成長率は、2018年は前年比1.0%と2017年の1.3%からやや減速したが、緩やかな回復を続けている。世界経済の減速や政策の不確実性の高まりが、同地域の成長の勢いを弱めている。
- メキシコは、2018年の実質GDP成長率が前年比2.0%と緩やかな経済成長を維持している。安定的な雇用や所得環境が個人消費主導の成長を支えているものの、オブラドール新政権の政策運営の先行きの不透明性が、民間投資を抑制させるリスクとなっている。
- ブラジルは、2018年の実質GDP成長率が前年比1.1%と緩やかな回復を維持しているものの、失業率が依然として高く、内需が勢いを欠いている。トラック運転手のストライキによる物流や生産活動への影響や大統領選挙を巡る政治の不透明性により回復のペースが抑制されたが、ボルソナーロ新政権の政策運営への期待を背景に、企業や消費者マインドの回復が期待されている。
- アルゼンチンは、2018年の実質GDP成長率は▲2.5%と、干ばつによる農業生産の落ち込みや輸出の低迷、通貨下落と高インフレが経済活動に打撃を与え、マイナス成長に転じた。現マクリ政権は、アルゼンチン経済の信認回復のため、物価や為替の安定を優先させる必要があるが、現政権の改革路線に対する国民の反発は強く、厳しい政策運営を迫られている。
〈ロシア〉
- 通算4期目となるプーチン政権は、「2024年までの国家目標と戦略的成長課題に関する大統領令」に署名し、人口増や平均寿命の伸長、デジタル技術の加速化、非資源分野での輸出の増加を始めとする国家目標を掲げた。背景には、人口減少や資源依存型経済構造等ロシアが抱える課題がある。
- 2018年のロシア経済は、原油価格の上昇やルーブル安が追い風となり、わずかに成長が加速。しかし、年金改革を始めとする政府の進める政策の影響や原油価格の動向、欧米からの制裁の行方については今後も注視が必要である。
〈中東、アフリカ〉
- 2018年の中東主要国の実質GDP成長率は、2.0%と2017年の1.8%から緩やかに加速しており、トルコ発の金融市場の動揺による他の中東諸国への影響は限定的であったと考えられる。トルコでは、2018年8月の米国制裁を契機に通貨が暴落(トルコ・ショック)、その後の経済に大きな打撃となった。トルコ経済を牽引してきた民間消費や固定資産形成が大きく減少したほか、消費者信頼感指数の大幅下落や失業率の上昇等、実態経済に大きく影響し、実質GDP成長率は、第1四半期の7.4%から第4四半期の▲3.0%まで縮小。
- サブサハラ・アフリカ地域の2018年実質GDP成長率は3.0%と推計されており、2017年からほぼ横ばい。南アフリカの2018年の実質GDP成長率は0.7%と、2017年の1.4%から減速。世界金融危機以降、総じて鈍化傾向。