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- 概要 Ⅱ コロナショックとグローバリゼーション
Ⅱ コロナショックとグローバリゼーション
第1章 コロナショックが明らかにした世界の構造
- コロナショックは、グローバリゼーションの進展によって変貌してきた世界の構造を明らかにした。世界の人・物・資金・アイデアの交流が増加し、相互依存が進展する中でコロナショックが発生。サプライチェーンの途絶や感染の拡大、新興・途上国の資本流出などが生じ、経済性・効率性による集中とリスクの併存というグローバリゼーションに伴う世界の構造変化を示した。その中で、緊急時における自国中心主義という国際協調への遠心力が見られたが、デジタル化の加速やコロナテックの社会実装など今後に向けた世界の変化も見られる。
〈サプライチェーンの途絶:生産拠点の集中、物流、人の移動〉
- サプライチェーンの構成要素である、①効率的な生産体制(少ない在庫、コスト競争力のある海外での集中生産)、②陸海空の機動的な物流、③人の円滑な移動において、供給途絶リスクが顕在化。
- 生産拠点については世界的に一部の財の集中度の高まりが見られた。電気機械・電子部品は世界的に集中度が上昇していた。財に応じた特徴も見られ、自動車部品は世界的に生産拠点の集中度の上昇は見られていなかったが、自動車は部材が多く複雑な生産工程であり、一部の部品の生産が停止し、世界でサプライチェーンが途絶。
- 陸海空の物流の停滞の中で、マスクなど軽量品や高付加価値品の海運を空運で代替する動きが見られるなど補完と代替が見られ、物流の適切な把握の重要性も示されている。また、人の移動が停滞する中で農業の季節労働者の不足が指摘されるなど、人の円滑な移動と生産の関係も再認識されている。
- 地域統合に着目すると、経済連携協定もあり、地域統合がサプライチェーンの構築、国際分業を発展させてきた。ただし、地域統合においても国境を越えたサプライチェーン途絶のリスクは存在しており、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って明らかになったサプライチェーンにおける生産体制、物流、人の移動という要素は、経済性・効率性とリスクの両面を再認識させるものとなった。
〈国境を越える人の移動と都市への集積、感染の拡大と対面コミュニケーション〉
- 人の交流は財や資金の交流を伴い、生産性を高めてきた。国境を越えた人の移動は、貿易・投資を活性化させてきた。特に新興国・途上国において国境を越えた人の移動と貿易・投資活動の連動が見られてきた。国境を越える人の移動が制限されたことに伴って、近年、低下傾向にあった貿易コストが上昇し、貿易や投資が大幅に停滞。
- 新型コロナウイルスはサービス業が集積し、人が集積し、人が国際的に交流する都市において特に感染が拡大。これは、対面での交流を重視する産業でのコミュニケーションのコストを上昇させるもの。フェイス・トゥ・フェイスの必要性、在宅の勤務の容易さという二つの観点から評価すると、業種により影響に差が見られ、新型コロナウイルス感染拡大の影響を、人の交流のあり方の進化という観点から評価することの重要性が示された。
〈貿易制限的措置の増加〉
- 感染防止のためのマスク、防護服等の需要が爆発的に増加し、医療関連物資の不足が各地で深刻化。緊急時の自国優先策が見られ、国際協調に遠心力。この遠心力に伴って、感染が深刻化する地域において必要な物資が入手できないと世界での感染収束が見込めず、世界のリスクに。危機への備えや緊急時の国際協調が求められる。
- 米中貿易摩擦は米中双方の貿易・投資を縮小させたが、その中で東南アジアからの米国への輸出増や中国による周辺国への投資の多様化も見られた。その中で実施された貿易制限的措置は新型コロナウイルスへの対応の妨げにもなるものであり、物資を持続的に流通させることの重要性を改めて確認させた。しかし、多国間の枠組みへの不信は米中貿易摩擦に限定されるものではなく、英国のEU離脱やWTOの上級委員会の機能停止など、世界的に多国間枠組みへの不信が見られていた。
〈デジタル経済の拡大とプラットフォーマーへの集中、コロナテックの急速な社会実装〉
- 近年、経済社会のデジタル化が進み、越境電子商取引などのデジタル貿易の拡大や社会のIT化が加速。従来のバリューチェーン型からレイヤー構造化への変化が進展。ネットワーク効果も寄与し、プラットフォーマー企業の存在感が上昇。米国のプラットフォーマーの純利益は10年間で約5倍に拡大(シェアは6%から13%へ)。この企業の集中は、参入・退出の低下といった産業のダイナミズムの低下と重なっている。
- コロナショック以降、電子商取引やデジタルを活用したコミュニケーションの普及など、経済・社会のデジタル化が急速に加速。さらに、感染拡大防止に向けた感染者や接触者の情報の把握や、オンライン商談といった人同士の接触を避けながらも事業継続を図るコミュニケーション方策といったデジタル活用ニーズが増加し、コロナテックともいわれる技術革新とその社会実装が進展。その結果、プライバシーと公衆衛生の両立について議論が起こっている。
〈ドルへの集中と新興・途上国のリスク拡大〉
- 資金面では貿易や信用面で新興・途上国を中心にドルへの集中が進展。その結果、危機時においては、資源や観光に経済を依存し、ドル債務を抱える新興・途上国に経済的リスクが集中。新興・途上国からの資本流出が見られ、ドルへの集中のリスクが顕在化。
- 近年の特徴は、米国を介さない形でドル資金が流通する仕組みが構築されていること。その中で、アジア新興国はドル信用を拡大させており、一方で、裾野の広いサプライチェーンを構築してきた。そのため、ドルへの集中のリスクが拡大する中で、資金の支払いに滞りが生じるような場合には、結果としてサプライチェーンの停滞につながる恐れがある。
第2章 グローバリゼーションの過去・現在・未来
- グローバリゼーションの進展の中で、人、物、資金、アイデアの国境を越えた交流が行われることによって、世界経済は発展を遂げてきた。グローバリゼーションの展開をアンバンドリングという概念から捉え直し、過去・現在を踏まえ、未来を見据えていく。
〈3つのアンバンドリングから見るグローバリゼーションの過去・現在・未来〉
- アンバンドリング(分離)の観点から見ると、グローバリゼーションは、技術が進展していくにつれ、物、アイデア(技術・データ等)、人それぞれの移動コストを低下させてきた歴史と捉えることができる。この過程は一度に全てが進展したわけではなく、順次、異なる制約が克服されてきた。
- まず、第1のアンバンドリング(1820年-1990年)において、産業革命を発端とした輸送革命により物の移動コストが低下。これにより、国境を越えて生産地と消費地が分離されるようになった。比較優位に基づく国際分業が進展した一方、アイデアや人を移動させるためのコストはそれほど低下しなかったため、産業が先進国に集中することとなった。
- 次に第2のアンバンドリングにおいては、1990年頃のICT(情報通信)革命を背景に、アイデア(技術・データ等)の移動コストが低下。これにより、生産プロセスが分離され、物と同様に工場が国境を越えるようになった。この結果、部品の国際貿易が拡大し、グローバル・サプライチェーンが発展。先進国と新興・途上国の賃金の格差が収縮していくこととなった。
- 第3のアンバンドリングにおいては、2015年頃よりデジタル技術の進展が加速したことを背景に国境を越えたバーチャルな人の移動が可能となったことで、人の移動コストが低下してきている。これにより、個人単位での「タスク」の分離が可能となり、ロボットの活用も組み合わされることで、労働者が別の国でサービスを提供するなど、世界規模のバーチャルワークの時代が始まりつつある。
- この第3のアンバンドリングの過程で新型コロナウイルスの感染拡大が発生し、経済、社会のデジタル化が加速することとなった。
- その間に国家の役割も変化しており、自由貿易を支える国家から、福祉国家、小さな政府への変化が見られてきた。今後は、生活保障や個人の人的投資を支える役割、デジタル化の基盤整備などの役割に期待が高まる。
〈日本のグローバリゼーションとアンバンドリング〉
- 日本経済は、第二次世界大戦以降、20世紀後半にかけて、世界経済とのつながりを深める中で、グローバリゼーションの進展、自由貿易の恩恵を受けながら、急速に成長。特に第2のアンバンドリングの国際分業が進展する中で、経済連携協定網も相まって、日本は東アジアを中心とした国際的なサプライチェーンの構築に貢献。
- また、近年は、第一次所得収支(証券投資収益、配当など)が日本の経常黒字を支えており、「稼ぎ方」も変化。これは海外直接投資の拡大などにより、高成長を続けるアジアの成長を日本が取り込み、貿易による経常黒字から投資による経常黒字へ変化したことを示している(「貿易立国」から「投資立国」への転換)。
〈世界における第3のアンバンドリングに向けた移行の動きと我が国の課題〉
- 第3のアンバンドリングの局面においては、サービス業においても国際分業やAIとの分業という新しい状況に直面することが予想されている。これに対応していくためには、5GやAIのように社会基盤を支えるインフラが重要であり、世界では国をあげてのAI戦略の策定など環境整備や、欧州のGDPR(一般データ保護規則)など、デジタル関連の制度整備が進められている。
- 日本においても、第3のアンバンドリングによる産業変革に対応していくため、デジタルへの投資やその活用を促進するとともに、制度面での環境整備も重要。2019年のG20サミットの際、データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト(DFFT)としてデータ流通の国際ルール作りを進める「大阪トラック」の開始を主導し、データ流通の国際的なルールメイキングに取り組んでいる。
- また、サイバー空間を起点として技術やサービスが革新される中で、そのリスクをコントロールするガバナンス自体にも、革新的な方法が導入されることが必要である。このため、イノベーションの促進と社会的価値の実現を両立するガバナンスイノベーションの推進も重要。
第3章 目指すべき社会を実現するための世界と我が国の方向性
- 今般の危機の教訓を踏まえ、国際協調を強化し、レジリエントなサプライチェーンを構築し、人の交流のあり方を進化させることで、危機に柔軟に対応でき、持続可能な発展を可能とする強靱な経済社会システムへと進化させることが求められている。
〈グローバリゼーションのアップグレード〉
- 世界規模で感染が拡大するパンデミックは自国の対策のみでは収束しないものであり、世界規模での対応が求められるものである。しかし、その対応に当たっては、従前から存在する多国間の枠組への不信が増大する中で、緊急時における自国優先策も見られている。
- その一方、首脳・閣僚レベルで、国際協調の求心力維持に向けた動きもなされている。このように、国際協調への求心力を高め、世界規模の課題を解決するため、グローバリゼーションのアップグレードが求められている。
〈レジリエントなサプライチェーンの構築〉
- サプライチェーンについては生産活動がグローバル化する中で経済性・効率性による生産拠点の集中が進み、それが緊急時においては供給途絶リスクとして現れた。これを踏まえ、新たな危機にも柔軟に対応できる強靱(レジリエント)なサプライチェーンへの変革が求められている。
- そのためには、物資の類型に応じた対応、危機時の柔軟な対応を可能とする官民協力、そして、調達の多様化や在庫の適正化も含め、「効率最優先」型から「臨機応変」型へのサプライチェーンの転換を検討していくことが必要。
〈経済社会のデジタル化の加速と人の交流のあり方の進化〉
- 感染の拡大を抑制するためには対面の活動を制限せざるを得ず、その対面のコミュニケーションの制約を乗り越えるため、デジタルの技術開発と社会実装が急速に加速し、社会の不可逆的な変化に発展する可能性。
- 今後は真に必要なフェイス・トゥ・フェイス・コミュニケーションに選別される時代となる可能性が存在しており、現在の危機を社会変革の機会と捉え、リモートワークの促進といったデジタル技術の活用、人的投資の加速など、人の交流のあり方の進化につなげることが求められている。
〈世界の社会課題解決(SDGs)の促進に向けて〉
- 新型コロナウイルス感染拡大といったようなパンデミックや、環境問題のように地球規模の新たな危機やリスク要因に対処していくためには、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の実現が重要。
- 国家、企業、NGO、個人等の多様な主体が連携し、積極的な社会的投資を行うことで、国際協調を推進しながら世界の社会的な課題解決を実現し、世界の持続可能性を高めることが求められている。
〈世界のデジタル化の加速における新興国との共創を通じた新事業の創出〉
- 先進国の成長が鈍化傾向にある中、日本が今後も持続的な成長を実現するためには、成長ポテンシャルを有する新興国・途上国に積極的に関与し、共に成長するというメカニズムを強化・構築していくことが重要。
- 社会インフラが未整備の国においては、デジタル技術を活用し、社会的課題を解決するような成長企業の動きが加速。例えばアジア新興国では、感染者や接触者の情報を把握するアプリを開発するなど、一足飛びのデジタル化が進展。日本としてもアジア新興国へ資金・人材・技術・ノウハウを戦略的に投入し、新興国企業との連携による新事業創出を図る「アジア・デジタルトランスフォーメーション」(ADX)を進めることが重要。