- 政策について
- 白書・報告書
- 製造基盤白書(ものづくり白書)
- 2018年版
- HTML版
- 第1部第1章第3節 価値創出に向けた Connected Industries の推進
- 4.分野ごとの事例
- (1)生み出す、手に入れる〈1〉
第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望第3節 価値創出に向けた Connected Industries の推進
4.分野ごとの事例
(1)生み出す、手に入れる〈1〉
①スマートに生み出す、スマートに手を入れる(スマート製造など)
ものづくりの現場では、人手不足が顕在化する一方、多品種少量生産を始め、顧客の高度かつ多様化したニーズに対して迅速に対応する必要性などに迫られている。
しかし、現状のものづくり企業の現場においては、機器間の連携が十分取られておらず、限られたパターンによる製造のみ対応が可能で柔軟なものづくりが困難である場合や、企業内の部門間の連携も十分できておらず、ましてや他企業との連携は一層困難である場合も多い。また、少子高齢化の進展による若手の減少を受け、これまで熟練技能者が培ってきたノウハウがうまく継承されていないなどの課題も抱えている。
そうした中、第四次産業革命により飛躍的に活用範囲が広がったデジタル技術を活用し、「機械×機械」(IoT)によるつながりに限らず、「人×機械」(IoTカイゼンで人手不足、人材育成など)、「人×人」(技能伝承など)、「部門×部門」(一貫したデジタルものづくりの実現など)、「工場×工場」(同業種間などによる町工場連携など)、「企業×企業」(他業種間での連携など)など様々なつながりにより、課題解決に向けた取組を推進することが考えられる。
このように、Connected Industriesのコンセプトの下、デジタル技術などを活用しつつ、様々なつながりを推進することを通じ、各工程間のデータ連携や、社内及び社外の組織間の連携を推し進め、高度化かつ多様化する顧客ニーズに対して迅速に対応できる仕組みづくりを行うことが期待される。併せて、技能人材を中心として人手不足が顕著となる中、デジタル技術などを活用して熟練技能者の知を形式知化し、組織の知として活用できる仕組みの構築など、人手不足対策を推進することも期待される。
図133-1に示すとおり、IoTやAIなどを活用し、Connected Industriesの考えの下で取組を進めることにより、対応可能な顧客価値は大幅に拡大し得る。この顧客価値を、スマート製造分野のバリューチェーンで、具体的な価値を生む「ソリューション」として考えたものが図134-1である。
このような具体的なソリューションに加え、これらソリューションを複数組み合わせて取り組む解決すべき課題として、「生産性の向上」や「新たな付加価値創出」、さらには「人手不足対策」や「バリューチェーンの最適化」などが考えられる。以下では、スマート製造分野における、Connected Industries の先進的な取組事例を、これら「解決すべき課題」や「ソリューション」を整理の軸として紹介する。
図134-1 スマート製造分野で想定しうるソリューション例
資料:経済産業省作成
<モノ売りからソリューション提供に向けたエッジ重視の製造プラットフォームの構築、産業機械メーカー各社>
「付加価値獲得」「生産性向上」など
【産業機械×通信×AI×ソフトウェアなど】
・現場で発生するデータを利活用したソリューションなどの提供に向けて、製造業の分野でもプラットフォーム構築の動きが活性化してる。取組方法は各社の持つリソースやポジションなどにより様々であるが、AIスタートアップや通信企業などとの連携や、ライバル関係の社も含めたコンソ-シアム形成など、これまでにない“つながり”方により実現を目指している。また、他社製機器もつながる、さらには、API(Application Program Interface)を公開しソフトウェアベンダーの参加を募るなど、オープンなプラットフォーム化を目指している点に特徴がある。
※コラム参照
<(株)ワールド山内>
「多品種少量生産」「予知保全」「工場全体の効率化」「省人化」(生産性向上)
【生産設備(+従業員)×IoT・AI】
※コラム参照
<旭鉄工(株)>
「カイゼン」「ビジネスモデル変革」「事業拡大」
【現場の課題×自社システム開発×ソリューション展開】
・自動車部品製造を行う同社は、下請け製造への閉塞感から、大きくビジネスモデルを転換。カイゼン活動を加速するIoTモニタリングシステムをトップダウンで自社開発し、i Smart Technologies(株)を設立し1年強で全国100社以上に展開。同システムは、生産設備に安価なセンサーを後付けし、製造ラインの問題点をスマートフォンなどで見える化(2017年版白書に詳細紹介)。現在は顧客データの分析による改善アドバイスレポート作成や各地で改善活動も実施する。さらに、東南アジアでの展開も開始。
<日進工業(株)>
「カイゼン」「ビジネスモデル変革」「事業拡大」
【現場の課題×自社システム開発×ソリューション展開】
※コラム参照
<(株)島精機製作所>
「プロセス効率化」「生産管理」「トレーサビリティ確保」「設計支援」「企画支援」
【バリューチェーン全体のデジタル化×統合的なシステム開発】
※コラム参照
<(一社)西日本プラスチック製品工業協会、ムラテック情報システム(株)、池木プラスチック(株)>
「品質確保」
【業界団体をあげたデータフォーマット共通化×システムオープン化】
・多くのプラスチック成形加工メーカーでは複数のメーカーの成形機を用いて製造している。精密部品の製造には、成形条件情報などの把握、収集、活用が重要となるが、成形機からのデータフォーマットはメーカーごとに異なるため、情報を統一して一括管理できない状況にあった。この状況を打開するため、2016年度「IoT推進のための社会システム推進事業」(経済産業省)を活用し、(一社)西日本プラスチック製品工業協会とムラテック情報システム(株)は、関連機関の横断的な参加のもと、グローバル基準の規格に合わせたデータフォーマットの共通化とそのデータ統合システム(MiddleWare)を開発。2017年夏からは、全日本プラスチック製品工業連合会傘下団体の会員企業へのミドルウェア提供が始まり、遠隔工場の生産状況のリアルタイムでの把握など、活用の幅がより広がっている。
同システムを、工芸部品、電気部品、半導体関連部品、自動車関連部品などの幅広いプラスチック製品を製造する池木プラスチック(株)が導入。これにより、メーカーの垣根を越えて自動的にすべての成形データを収集することが可能となり、不良品が発見された時に実績値を確認することによって、不良品の製造された時間帯や発生原因を突き止める手掛かりとすることができ、対処や再検査に要する時間も大幅に削減できるようになった。その他にも同社では、かつて生産計画の工程表や進捗状況を手書きで各部署に配信していたが、IoT化によりソフトウェア上で管理できるようになり大幅な労力の削減と正確な情報の共有を実現した。
<飯山精器(株)>
「工程進捗把握」「稼働状況把握」「ソリューション展開」「品質確保」(生産性向上)
【現場の課題×自社システム開発】
※コラム参照
<HILLTOP(株)>
「事業拡大」「価値最大化」
【業務プロセス変革×海外進出】
・かつて油まみれの典型的な下請けの町工場だった同社では、積極的なIT化により職人の技のデータ・デジタル化を進め、24時間無人稼働での多品種・単品・短納期加工を実現し、若者が集まるこれまでとは一味違った工場に変貌を遂げている。同社では、日中に図面を見ながらデザインやプログラミングを行い、夜には機械がデータどおりの加工を行い、朝には加工品が仕上がる仕組みを構築。「新規5日リピート3日の短納期」「小ロット(1個から)対応」をアピールポイントにしながら、積極的にビジネスを展開。IT化により脱下請けを遂げるとともにビジネスモデルを大きく変革し、今やカリフォルニアにも進出。現地企業には超短納期かつ高品質の試作品開発が認められ、3年で400社の顧客を獲得。
<(株)ミラック光学>
「ビジネスモデル変革」「事業拡大」
【蓄積技術×AI】
※コラム参照
<ダイキン工業(株)、(株)日立製作所>
「技能継承」
【匠の技×デジタル化技術】
・ダイキン工業(株)と(株)日立製作所は、2017年10月よりIoTを活用し、熟練技術者の技能伝承を支援する次世代生産モデルの確立に向けた協創を開始。ダイキン工業(株)では、国内外の各拠点における品質の向上・平準化のため、空調機の製造に欠かせないろう付けや旋盤・板金加工などを基幹技能として、技術者の育成や熟練技能の伝承に長期にわたり取り組んできた。一方、(株)日立製作所では、自ら製造業として培ってきた経験・ノウハウを基に、OT(制御・運用技術)とIT(情報技術)を融合したIoTプラットフォーム「Lumada」や先進の研究開発を活用した製造現場のデジタル化により、日本の製造業の強みであるものづくり力を高めるソリューションの創出に取り組んできた。このような中、(株)日立製作所は、現場作業員の逸脱動作や設備不具合の予兆を検出する画像解析技術を応用し、熟練技術者と訓練者の技能を定量的にデジタル化し、比較・評価することで、熟練者の技能をより多くの技術者に効率的に伝承するための支援ができると考え、ダイキン工業(株)の協力の下、空調機の製造におけるろう付けのプロセスにおいて、作業者の動作や工具の使い方などをデジタル化、モデル化する検証を行った。
<オリンパス(株)>
「技能継承(暗黙知の可視化)」
【匠の技×デジタル化】
・同社は、内視鏡や顕微鏡などの生産技術をIoTツールなどを活用してデジタル化する「デジタルものづくり」の活動に着手。高度技能者の持つ「匠の技」を数値化して、機械化・自動化を推進する。これにより、生産効率の向上や若手技能者の育成に活かす。国内拠点を始め、アジアなど海外拠点にも展開予定。デジタルものづくりとは、人の五感に当たるセンシング技術や人の頭脳に当たるデータ処理・解析技術、人の手に当たるアクチュエーション(運動系)技術について、デジタル技術を取り入れ、技能者の暗黙知を機械化・自動化するもの。先行例として、顕微鏡の対物レンズを高精度に自動組み立て・調整する機械を開発。従来、高度技能者を育成するには、10~20年近くかかった。その高度技能者が手作業で行ってきた対物レンズの組み立て、調整・評価作業を数値化し、サブミクロン(1万分の1ミリメートル)単位で微細駆動する調整装置との組み合わせで、手作業でなければ不可能だった高度な組み立てを自動化した。
<(株)エクセディ>
「技能継承(暗黙知の形式知化)」「品質確保」「予知保全」「遠隔監視」
【匠の技×デジタル化(AIなど)】
・同社は、マニュアルトランスミッションに搭載されるクラッチ、オートマチックトランスミッション(AT)及び無段変速機(CVT)に搭載されるトルクコンバータの開発から生産までを手掛けるサプライヤー。同社では、これまで熟練技術・技能者が勘と経験に依存していた設備や金型の不具合への対応を情報システムで支援する仕組み(暗黙知の形式知化)を構築。プレス機において、荷重センサー、電流センサー、振動センサーなどのセンサーを配置し、わずかな変化を捉えることにより、ベテラン技術者が判断していた品質に影響する変化、あるいは設備故障につながる変化をシステムにより分析することにまで導く。さらに、蓄積されたビッグデータから様々な事象を時系列的に分析するなどして不良品検知や設備などの故障予兆をリアルタイムに検出し、不良品発生を未然に防ぐことや、設備の故障を未然に防ぐことを可能とした。
<富士通(株)>
「技能継承(熟練技術者などの暗黙知の可視化・自動化)」
【熟練技能×AI】
・過去の熟練技術者の製品設計データに含まれる知識やルールを活用できるように整理を行い、再利用する際の最適解の抽出にAIを活用。通常、スキルの高い設計者が製品の要求仕様や回路構成などを考慮し、要素の優先度を総合的に判断しながら数百時間かけて作成。回路設計から基板設計へ移行する際、基板の層数(製造コストに影響)を何層にするかの判断があり、部品の配置や配線経路、目標とする装置サイズなどから制約される基板許容サイズなど様々な要因を考慮する必要がある。熟練技術者が過去の経験に基づいて行っていたプリント基板の層数判断を含む基板設計を、AIを活用することにより製造期間を20%短縮する。
<(株)川田製麺>
「人材不足対策」「品質確保」
【検査工程×デジタル技術(AI、IoT)】
・乾麺、半生麺、生麺の製麺業である同社は、検査工程に人工知能(AI)機能を搭載した検知器やIoT技術を製麺業界で初導入。食品製造業者を対象に、食品衛生管理の手続きを定めた国際基準のHACCPが段階的に導入されるなど検査基準が厳しくなる中、人手不足により熟練検査要員の確保が難しくなり、これまで目視で行っていた点検に限界を感じていた。AI機能で、包装のシール部分に一部の麺が入り込み、密封を妨げる「麺がみ」と呼ばれる不良品を検知する。さらに、IoTによって、従来手書きで行っていた検査記録の収集を自動化するのに加え、金属探知器や重量チェッカー、X線麺がみ検知装置をネットワーク化し、全データを管理端末で監視・分析する仕組みを構築。AIやIoTを活用することによって、包装不良の出荷は減少し、不良品発生の原因特定や改善措置の迅速化が可能となった。
<月井精密(株)>
「技能継承」「省人化」「ソリューション展開」
【暗黙知×デジタル化】
※コラム参照
<長島鋳物(株)>
「品質確保」「省人化」「遠隔監視」「技能継承」
【匠の技×IoT】
※コラム参照
<(株)フクル>
「マスカスタマイゼーション」
【複数企業とのネットワーク×顧客ニーズ】
・縫製業を営む同社では、複数の企業の生地や副資材などの在庫データ、デザインパターン、縫製工場などをデータベース化し、世界で1着だけの服をオンデマンドで製造・購入できるシステムを開発した。同システムでは、縫製の手前までの工程をIT技術で自動連携させることでマスカスタマイゼーションを可能にしている。同社のシステムで顧客と生産者をつなぐことにより、海外製品との価格競争や人材不足などの問題を抱える繊維業界の活性化を目指す。
<山中漆器産地 >
「生産最適化」
【地域内連携×管理システム】
・伝統工芸品である山中漆器(石川県)の産地で、産地全体で情報を共有する共通基盤を設けることで、産地内事業者間の連携をより密接し、全体で最適化を図る取組を推進している。生産の各工程は分業制であることから、発注する問屋にとって各職人の進捗状況は把握しにくく、また、受発注の業務も手作業で行っており時間と手間がかかっていた。生産工程や事務処理にICT(情報通信技術)を活用し、受発注業務や請求支払などの情報をクラウドで共有し、産地全体の効率化につなげる。
<LANDLOG、(コマツ、(株)NTTドコモ、SAPジャパン(株)、(株)オプティム)>
「人手不足(生産性の向上)」「安全性の向上」
【全体最適化に向けた協業:建機メーカー×通信×PF支援×AI・IoT企業】
・建設業界の深刻な人手不足の課題解決に向けては、建設生産プロセス全体の最適化により生産性向上や安全性向上を図る必要があるとの認識の下、コマツ、(株)NTTドコモ、SAPジャパン(株)、(株)オプティムは建設業務における生産プロセスに関与する土・機械・材料などあらゆる「モノ」のデータをつなぐ新プラットフォーム「LANDLOG」の企画・運用を開始した。これまで、コマツが建設現場向けに展開するソリューション事業「スマートコンストラクション」で運用しているプラットフォーム「KomConnect」は建設機械による施工プロセスを中心に構築されたものであったのに対し、「LANDLOG」は建設生産プロセス全体を包含する新プラットフォーム。情報の収集・蓄積・解析の機能について、施工会社などの要望に応じて様々なアプリケーションプロバイダーにデータを提供していく。これにより、建設生産プロセス全体のあらゆる「モノ」のデータを集め、そのデータを適切な権限管理の下に多くのプロバイダーがソリューション・アプリケーションを提供し、建設現場のユーザーがそれを活用することで、安全で生産性の高い現場の実現を図ることを目指す。
<(株)クボタ>
「農作業の無人化」
【農機×自動運転】
・同社では業界に先駆けて、有人監視下で無人自動運転作業を可能にするトラクタ「アグリロボトラクタ」を開発した。同トラクタには、高精度GPSやオートステアリング(自動操舵)、自動旋回機能、安全装置を搭載しており高精度な作業を可能にする。付属リモコンによる作業開始・停止などの遠隔指示ができ、無人での耕うん、代かき作業を実現する。
<カゴメ(株)、日本電気(株)>
「農作物生産の最適化」
【環境データ×地形データ×シミュレーション】
・圃場に設置した気象・土壌などの各種センサーや人工衛星・ドローンなどから得られるデータと、農場から得られる実際の生育データをもとにPC上に仮想の農園を作る。仮想農園での育成シミュレーションから、当該圃場に応じた最適な営農アドバイスや将来の収穫量、最適な収穫時期などの予測を行い、農薬や肥料などの使用量の最適化、収穫量の最大化を目指す。
<JAFIC(漁業情報サービスセンター)>
「熟練者の勘や経験の見える化」「生産性向上」「エネルギー消費削減」
【衛星データ・現場データ×データ分析】
・同法人が提供する漁場探索システム「エビスくん」は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の人工衛星GCOM-W「しずく」を始め、各種人工衛星から海色、海面水温、海面高度データを収集し、分析することで、漁労長の勘や経験でしか判断できなかった漁場の把握を一般的なものにした。また、現場の漁船から水温データを収集・解析し、高精度の水温図や潮流図を漁船や漁業関係者、試験研究機関に提供している。同システムを活用することにより、従来と比較して漁場探索時間は15~33%の幅で短縮(平均29%短縮)、給油量は4~23%の幅で削減(平均13%削減)、漁獲量は10~25%の幅で増加(平均21%増加)した。