経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第3節 価値創出に向けた Connected Industries の推進

4.分野ごとの事例

(1)生み出す、手に入れる〈1〉

①スマートに生み出す、スマートに手を入れる(スマート製造など)

ものづくりの現場では、人手不足が顕在化する一方、多品種少量生産を始め、顧客の高度かつ多様化したニーズに対して迅速に対応する必要性などに迫られている。

しかし、現状のものづくり企業の現場においては、機器間の連携が十分取られておらず、限られたパターンによる製造のみ対応が可能で柔軟なものづくりが困難である場合や、企業内の部門間の連携も十分できておらず、ましてや他企業との連携は一層困難である場合も多い。また、少子高齢化の進展による若手の減少を受け、これまで熟練技能者が培ってきたノウハウがうまく継承されていないなどの課題も抱えている。

そうした中、第四次産業革命により飛躍的に活用範囲が広がったデジタル技術を活用し、「機械×機械」(IoT)によるつながりに限らず、「人×機械」(IoTカイゼンで人手不足、人材育成など)、「人×人」(技能伝承など)、「部門×部門」(一貫したデジタルものづくりの実現など)、「工場×工場」(同業種間などによる町工場連携など)、「企業×企業」(他業種間での連携など)など様々なつながりにより、課題解決に向けた取組を推進することが考えられる。

このように、Connected Industriesのコンセプトの下、デジタル技術などを活用しつつ、様々なつながりを推進することを通じ、各工程間のデータ連携や、社内及び社外の組織間の連携を推し進め、高度化かつ多様化する顧客ニーズに対して迅速に対応できる仕組みづくりを行うことが期待される。併せて、技能人材を中心として人手不足が顕著となる中、デジタル技術などを活用して熟練技能者の知を形式知化し、組織の知として活用できる仕組みの構築など、人手不足対策を推進することも期待される。

図133-1に示すとおり、IoTやAIなどを活用し、Connected Industriesの考えの下で取組を進めることにより、対応可能な顧客価値は大幅に拡大し得る。この顧客価値を、スマート製造分野のバリューチェーンで、具体的な価値を生む「ソリューション」として考えたものが図134-1である。

このような具体的なソリューションに加え、これらソリューションを複数組み合わせて取り組む解決すべき課題として、「生産性の向上」や「新たな付加価値創出」、さらには「人手不足対策」や「バリューチェーンの最適化」などが考えられる。以下では、スマート製造分野における、Connected Industries の先進的な取組事例を、これら「解決すべき課題」や「ソリューション」を整理の軸として紹介する。

図134-1 スマート製造分野で想定しうるソリューション例

資料:経済産業省作成

<モノ売りからソリューション提供に向けたエッジ重視の製造プラットフォームの構築、産業機械メーカー各社>

「付加価値獲得」「生産性向上」など

【産業機械×通信×AI×ソフトウェアなど】

・現場で発生するデータを利活用したソリューションなどの提供に向けて、製造業の分野でもプラットフォーム構築の動きが活性化してる。取組方法は各社の持つリソースやポジションなどにより様々であるが、AIスタートアップや通信企業などとの連携や、ライバル関係の社も含めたコンソ-シアム形成など、これまでにない“つながり”方により実現を目指している。また、他社製機器もつながる、さらには、API(Application Program Interface)を公開しソフトウェアベンダーの参加を募るなど、オープンなプラットフォーム化を目指している点に特徴がある。

※コラム参照

コラム:現場に近い製造プラットフォーム(PF)構築の動きとPF間連携の取組

あらゆるモノがインターネットにつながるIoT(Internet of things)の普及により、サイバー世界がリアル世界と融合して「第四次産業革命」として社会全体を変革し、データに基づく自動制御や、個別ニーズに応じてカスタマイズされたサービスの低コストでの提供など、様々な分野で新たなイノベ―ションが生まれることが期待されている。

ものづくりの分野でもこのような動きが見られ、実世界のデータをサイバー空間のコンピューティング能力と結び付け、より効率的で高度な社会を実現するためには、センサーなどで取得するデータを蓄積して分析し、その知見を現場のプロセスに反映するデータ活用サイクルを構築しなければならない。データの分析や解析などを本格的に行うには、拡張が容易なクラウド環境で行うのが一般的に最適であると考えられるが、ものづくり分野の特性として(1)リアルタイム性の高い処理(ロボット・工作機械はミリ秒)、(2)高信頼性とセキュリティの確保(工場外にデータを出すことへの強い抵抗感)、(3)通信コストの削減(膨大なデータ量が日々発生)などの課題が存在する。

これらの課題を解決するべく、モノとクラウドの間のよりモノに近い位置にある処理基盤で得られたデータを選別・簡易処理を行ってからクラウドに送り、さらに、リアルタイム性が要求されるようなものに対しては、その場でフィードバックを返すような役割を担う「エッジコンピューティング」に注目が集まっており、例えば以下のような取組が始まっている。

〇 Edgecross

アドバンテック、オムロン、日本電気、日本アイ・ビー・エム、日本オラクル、三菱電機の6社が発起幹事会社となり2017年11月Edgecrossコンソーシアムを設立。2018年2月には、一般社団法人化するとともに日立製作所が幹事会社として加入。

Edgecrossは、生産現場(FAシステム)とバリューチェーン(ITシステム)の協調を実現する日本発のオープンなエッジコンピューティング領域のソフトウェアプラットフォームである。生産現場のあらゆるデータ収集を可能にし、生産現場でのリアルタイム診断とフィードバック、生産現場のモデル化、ITシステムとのシームレスな連携を実現、用途に応じた多種多様なエッジアプリケーションの品揃えや様々なメーカーの産業用PC上で動作できる、などの特長を持つ。

〇 FIELD system

ファナック、シスコシステムズ、ロックウェル・オートメーション、Preferred Networks、NTTグループ(日本電信電話、NTTコミュニケーションズ、NTTデータ)の7社が共同でFIELD systemを開発。

同システムは、製造業での更なる生産性向上と効率化を目指した、製造業向けオープンプラットフォームであり、製造現場の様々な機器を、世代やメーカーの壁を越えて接続可能とすることで、製造設備やデータの一元管理やデータ共有を促進する。また、人工知能とエッジコンピューティング技術を組み合わせることで分散型機械学習なども可能にする。機械から収集されたデータを、現場とクラウドの間のより現場に近い部分で処理し高度に活用することで、ラインや工場全体の最適化を図る、機械がお互いに柔軟かつ協調する、熟練者のスキルをデジタル化して自動化するなど、機器のドライブまで含めた高度な製造現場の実現を目指す。

〇 ADAMOS

DGM森精機、独カールツァイス、独デュル、香港ASMパシフィックテクノロジー、独ソフトウェアAGの5社によりドイツに合弁会社ADAMOSを設立し、IoTを使って機械の稼働データを一元管理できるシステム「ADAMOS」を開発。

同システムは、工作機器や計測器、自動装置などメーカーを問わず複数の機器のデータをまとめて管理できるシステムであり、使用状況を分析して部品交換時期を事前予測、ソフトを用いた生産計画策定などの用途で活用できる。パートナー企業はマシン・プロセスのネットワーク化のためのソリューションをADAMOSのデジタルマーケットプレース上で提供する。ユーザーは、従来複数のメーカーの工作機械や搬送装置などで構成される生産ラインのデータをまとめて管理・分析し、自社工場を見える化できる。

≪PF間連携の取組≫

このような工場などで発生するデータを利活用したPF構築の動きが各社・各グループで顕在化し、モノ単体ではなくサービス・ソリューション展開をも目指す方向に各社が舵を切る中、我が国現場の良質なリアルデータの強みを最大化する観点からは、PF間を横串でつなげるなどの仕組みの構築の検討が期待され、上記の3社も入れた検討が開始されている。

具体的には、経済産業省で2017年春以降3度にわたり開催された“Connected Industries”大臣懇談会での議論を踏まえ、2017年秋に重点分野の一つとして設置された“Connected Industries”「ものづくり・ロボティクス分科会」の下に、「製造プラットフォーム・オープン連携ワーキンググループ」(座長:西岡IVI理事長)が置かれ、2017年度後半にユースケースなどを作成しつつ議論を重ねてきた。今後、作成したユースケースなどを用いて実証を行うなど、さらなる展開を図る予定である。

<(株)ワールド山内>

「多品種少量生産」「予知保全」「工場全体の効率化」「省人化」(生産性向上)

【生産設備(+従業員)×IoT・AI】

※コラム参照

コラム:IoTを活用した工場稼働状況の「見える化」により生産性向上を実現・・・(株)ワールド山内

(株)ワールド山内(北海道北広島市)は、自動車、農業機械など様々な業界から発注を受けて部品を作る下請けの板金・プレス業者。日本や世界各地のユーザーニーズに応えるための仕組みを検討し、顧客に合わせた金属加工を行っている。同社のこだわりは、「高品質」「低価格」「短納期」であり、月20万点ほどの製品を日本各地、世界に供給している。

ステンレス製品の高度加工を始め、金属加工、レーザー加工、切削、溶接・組立、表面処理、塗装など、各種機器の国内トップクラスの設備を備え、多品種少量生産を効率的に行う独自の生産管理システムを構築。設計から検査まで3次元データの管理により生産の効率化を図った24時間自動運転を行い、高品質、低価格、短納期を徹底的に追及した信頼性の高い複合加工品を社内一貫生産して顧客ニーズに応えている。

同社では、生産工程の見える化が、将来必ず役に立つと考え、2003年から先進技術を取り入れ、すべての設備をネットワークで管理する生産管理システムを独自で開発し、「未来を見据えた、ものづくり」を行ってきた。独自開発したソフトウェアを工場内の機械に搭載し、作業の進捗や機械の不具合などをシステムが分析し、そのデータをタブレット端末やスマートフォンで社員全員が確認・共有できる体制を構築。これにより、機械のトラブルを早めに察知して適切なタイミングで対応し、稼働率を落とさず効率的に生産するとともに、作業進捗に合わせて最適な人員を当てることを可能とした。大規模な工場だと20人は必要な生産管理部門の人員をゼロにし、管理コストを大幅に削減した。

現在、同社が開発しているのは「従業員の動き」を分析するシステムである。工場内に18台のウェブカメラを設置して24時間体制で従業員の動きを観察し、さらに、従業員のスマートフォンから出る信号をセンサーで感知することにより、個人を識別し、動き方に無駄がないかを管理することで全体の作業効率の改善につなげる。

同社のシステムは、他社への販売は行っていないが、協力会社には無償で提供しており、協力会社の工場の状況も把握できている。北海道企業を元気にしたいという気持ちがあるため、今後道内企業に対してはシステムの販売を検討している。

図1 同社工場内の様子

図2 IoTシステムの加工機械の稼働状況確認画面

出所:(株)ワールド山内より提供

<旭鉄工(株)>

「カイゼン」「ビジネスモデル変革」「事業拡大」

【現場の課題×自社システム開発×ソリューション展開】

・自動車部品製造を行う同社は、下請け製造への閉塞感から、大きくビジネスモデルを転換。カイゼン活動を加速するIoTモニタリングシステムをトップダウンで自社開発し、i Smart Technologies(株)を設立し1年強で全国100社以上に展開。同システムは、生産設備に安価なセンサーを後付けし、製造ラインの問題点をスマートフォンなどで見える化(2017年版白書に詳細紹介)。現在は顧客データの分析による改善アドバイスレポート作成や各地で改善活動も実施する。さらに、東南アジアでの展開も開始。

<日進工業(株)>

「カイゼン」「ビジネスモデル変革」「事業拡大」

【現場の課題×自社システム開発×ソリューション展開】

※コラム参照

コラム:自社工場のIoT化に伴う、中小製造業向け設備稼働状況監視システムの外販によるビジネスモデル変革・・・日進工業(株)

自動車部品の樹脂成型加工などを主力事業とする自動車サプライヤーである同社(本社:愛知県碧南市)は、2013年頃に日本で第四次産業革命が騒がれ始めるかなり前から、製造業のIT・IoT化に着目し、自社工場のIoT化の取組とともに、(株)SunAdvanceというITソリューション展開を行う子会社を設立し、ITシステムの外販ビジネスにも取り組み始めた。

もともと自社工場のIoT化に取り組み始めたきっかけは、同社の中にある多品種少量のセル生産ラインにおいて発生していた大量の手書き伝票だった。手間とコストが掛かる手書き伝票をなくすために、スマートフォンで読み取った機械の稼働データなどをハンディプリンターで自動印刷をして伝票を作るシステムを開発することで製品管理の自動化を推し進めた。また、より生産性を高めていくためには、機械の稼働率などを見える化し、現場カイゼンを一層進めることが重要だと考え、センシング装置をメーカーを問わず機械設備に取り付けてデータを収集し、作業員が担当する個別工程ごとに設置されたモニター画面に稼働率や不具合の発生の有無などが表示されるシステムを作り上げた。また、複数工程が入っているフロアー全体から見えるような大型モニターも設置され、機械が停止(チョコ停)すると、画面と音声で指示が出るシステムも構築した。不具合が発生した場合、指示に従って従業員が原因となっている設備のもとまで駆け寄り不具合を解決するとともに、不具合の原因をスマートフォン上で選択肢から選んで入力する。そのようなデータを累積することで、チョコ停が生じる原因の分析ができるとともに、チェコ停解消のためにどのくらい時間を要しているのかなども明らかとなり、生産性を向上させる上での貴重な情報にもなっている。

このような各ラインや従業員の作業状況のデータ・生産性の水準が明確に出るシステム導入当初は、監視の意味合いが強いように受け取られ、従業員からは不満の声があがった。しかし、時間の経過とともに従業員も環境に慣れ、従業員間でのスキルの比較が容易になるなどいい意味での競争が生まれたという。同社は、これらのIoT化によって、機械の稼働率が導入前と比較して約7%程度向上したという。

さらに、同社は、既存のものづくりだけのビジネスモデル一辺倒ではこのデジタル時代に生き残っていけないという強い危機感から、自社内でのIoT化にとどまらず、上述の設備稼働状況の監視システムの外販を子会社である(株)SunAdvanceにおいて開始した。地元の愛知県のユーザー企業を中心に、中小製造業でも手軽に導入できることを意識して、1セット10万円という低価格で外販をしている。既に日本国内で1,000セット程度の実績を積んでいるという。まさに、自社でのIoT化の取組を新たなビジネスにつなげ始めている好事例と言えよう。

一連のIoT化の取組は同社の長田社長が主導している。長田社長自身は、製造業企業のトップでもありながらIT・ソフトウェアに造詣が深く、若いころに自社の生産システムを作り上げた経験もあるという。既存のビジネスの枠にとらわれずに、ソフトウェア販売まで事業領域を広げることができているのは、このような経営者の先導力の大きさと、それに応えようとする社員の思いが結実したものと言えよう。

図1 現場写真

図2 生産管理画面

出所:日進工業(株)より提供

<(株)島精機製作所>

「プロセス効率化」「生産管理」「トレーサビリティ確保」「設計支援」「企画支援」

【バリューチェーン全体のデジタル化×統合的なシステム開発】

※コラム参照

コラム:世界初の横編ニット業界専用のPLMソリューション・・・(株)島精機製作所

ファストファッションやeコマース(電子商取引)といった新しい小売形態の広がりにより、ファッション・アパレル業界は市場のグローバル化、多様化が進み、生産側はさらなる高速化、短サイクル化が求められている。

全自動手袋編機の開発を原点に、コンピュータ横編機、デザインシステムの世界トップメーカーとしてファッション・アパレル業界で高い存在感を発揮している(株)島精機製作所(和歌山県和歌山市)は、このような環境で持続的成長を実現するためには、多様なコンシューマニーズを川上から川下までトータルで捉えることにより、マーケティングから製品企画、生産から販売までのプロセスを無駄なく高速に行うシステムの提案が不可欠と考えている。

同社は2017年4月、このような考え方を具現化したシステムとして、横編ニットウェアの企画から生産に至る一連のプロセスを可視化することで生産効率を改善し、工場の自動化とIoT化を推進するための強力なツールとして、世界初の横編ニット専用PLM(製品ライフサイクル管理)システムShima KnitPLMを開発した。

同システムの強みは次の3点。

1つ目は、生産計画システムShima Production Planning(SPP)である。顧客のERP(統合基幹システム)の生産オーダー情報から、生産に割り当てる機械のスケジュールを管理するソフトウェアであり、SPPで作成された計画は生産管理システムに自動で読み込まれ、スケジュールに応じた進捗管理に利用できる。

2つ目は、SPPで作成した生産スケジュールを元に、生産に必要なデータを個別の横編機に自動転送するデータ配信システムShima Production Control(SPC)である。管理者の業務削減や使用するデータ転送の間違いなどをなくすことができる。

3つ目は、生産管理システムShima Production Report 3(SPR3)である。横編機側のソフトウェアを改良し、データベースの基本設計も大幅に見直すことで、ERPとの連携や機械オペレータの管理、そして万が一生産が停止した際の停止時間や原因の管理など、高次元のソリューション提供が可能となる。さらに、クラウドサービスを用いて、いつどこにいても工場の稼働状況やオーダーごとの生産進捗状況を確認できる。

これら3つのシステムをつなげることにより、社内でのデータの共有にとどまらず、顧客とのデータの共有も可能とすることで、全工程のトータルトレーサビリティを実現している。

Shima KnitPLMが有効にはたらく心臓部というべき機能が、デザインシステム「SDS-ONE APEX3」である。現物サンプルを作らなくても具体的なデザインイメージを企画側、生産側の双方で共有することができ、企画からサンプル作成までの時間とコストを削減するとともに、製品をビジュアル化することでより精度の高いサンプルが作成できる。また、同社が独自に開発したWebサービス「staf」を連携させることで、トレンド情報を反映したバーチャルシミュレーションを試せるようになり、現物サンプルの制作を最小限に抑えたクリエイティブで無駄のない企画のサポートを可能にした。

同社は、このような新技術の開発・提案をとおして、5年先、10年先の市場トレンドを先取りしたシステムを展開し続けることにより、ファッション・アパレル業界全体の発展に貢献していく方針である。

図 製品ライフサイクル管理システム:Shima KnitPLM

出所:(株)島精機製作所より提供

<(一社)西日本プラスチック製品工業協会、ムラテック情報システム(株)、池木プラスチック(株)>

「品質確保」

【業界団体をあげたデータフォーマット共通化×システムオープン化】

・多くのプラスチック成形加工メーカーでは複数のメーカーの成形機を用いて製造している。精密部品の製造には、成形条件情報などの把握、収集、活用が重要となるが、成形機からのデータフォーマットはメーカーごとに異なるため、情報を統一して一括管理できない状況にあった。この状況を打開するため、2016年度「IoT推進のための社会システム推進事業」(経済産業省)を活用し、(一社)西日本プラスチック製品工業協会とムラテック情報システム(株)は、関連機関の横断的な参加のもと、グローバル基準の規格に合わせたデータフォーマットの共通化とそのデータ統合システム(MiddleWare)を開発。2017年夏からは、全日本プラスチック製品工業連合会傘下団体の会員企業へのミドルウェア提供が始まり、遠隔工場の生産状況のリアルタイムでの把握など、活用の幅がより広がっている。

 同システムを、工芸部品、電気部品、半導体関連部品、自動車関連部品などの幅広いプラスチック製品を製造する池木プラスチック(株)が導入。これにより、メーカーの垣根を越えて自動的にすべての成形データを収集することが可能となり、不良品が発見された時に実績値を確認することによって、不良品の製造された時間帯や発生原因を突き止める手掛かりとすることができ、対処や再検査に要する時間も大幅に削減できるようになった。その他にも同社では、かつて生産計画の工程表や進捗状況を手書きで各部署に配信していたが、IoT化によりソフトウェア上で管理できるようになり大幅な労力の削減と正確な情報の共有を実現した。

<飯山精器(株)>

「工程進捗把握」「稼働状況把握」「ソリューション展開」「品質確保」(生産性向上)

【現場の課題×自社システム開発】

※コラム参照

コラム:独自のIoTシステムによる工程進捗状況と工作機器稼働状況の可視化・・・飯山精器(株)

飯山精器(株)(長野県中野市)は、創業から70年余りの油圧機器部品や情報通信機器部品の金属切削加工を行う製造業。旋削や研磨を強みとし、NC旋盤、センタレス研磨機などを用いて、丸物部品の加工を専業で行う。近年は建設用機械部品製造や難削材加工に注力している。

図1 生産管理システム「is-Look」

出所:飯山精器(株)より提供

 加工業界では多品種少量、工程数増、短納期、高精度への対応が求められており、社内の生産管理の煩雑化や管理負担が高まっていた。同社では、大手IT企業の生産管理システムを導入していたが、自社の生産工程に即したものではなく十分に使いこなせていなかったこともあり、自社でシステム開発を開始した。

 2011年頃には、生産管理の負荷の解消を目指した独自生産管理システム「is-PRO」を開発した。従来、現場作業員に作業進捗を確認したうえで事務作業員が作業状況を入力していたものを、同システムでは、現場作業員がタブレット端末を使って作業の着手・完了状況を入力する。現場作業員が作業状況を入力することで事務負担を大幅に減らすことができるとともに、工程進捗状況が可視化され、事務作業員が管理用PCから工程進捗を簡単に確認できる環境を構築した。同システムにより、在庫数、標準工程の情報をもとにした作業指示書が発行できるようになったことで納期に対する進捗管理をスムーズに行い、作業の遅れを防止することはもちろん、早めの対策が取れるようになった。

さらに、工程進捗状況に加えて、工作機械などの稼働状況を可視化したいという現場ニーズを踏まえ、2016年にIoTシステム「is-Look」を開発した。同システムは、三色灯の光をセンサーで読み取り、工作機械の稼働状況を取得し、管理PC上に稼働中の工作機械は緑色、電源が入っているが停止中の機械は黄色、アラームが出ている機械は赤色で可視化する仕組みである。同システムにより、工作機械の稼働状況をリアルタイムで監視して停止時間を減少させ、稼働率を向上させることにより、得意先への納期順守率を向上させた。また、設備稼働状況を映し出した大型モニターを工場内に配置し、休憩所に稼働率のグラフを作成するなど、作業員の現場担当者としての自覚や責任の醸成も行っている。

同社では、工場見学や、システム説明、セミナー講演など作業効率向上のための普及活動も行っており、上記2システムについては外販も開始している。今後、IoTを活用して検査データの収集、アラーム理由の収集をするなど新たなIoTの仕組みを開発し、品質と生産性のさらなる向上を目指す。

図2 稼働状況データ

出所:飯山精器(株)より提供

<HILLTOP(株)>

「事業拡大」「価値最大化」

【業務プロセス変革×海外進出】

・かつて油まみれの典型的な下請けの町工場だった同社では、積極的なIT化により職人の技のデータ・デジタル化を進め、24時間無人稼働での多品種・単品・短納期加工を実現し、若者が集まるこれまでとは一味違った工場に変貌を遂げている。同社では、日中に図面を見ながらデザインやプログラミングを行い、夜には機械がデータどおりの加工を行い、朝には加工品が仕上がる仕組みを構築。「新規5日リピート3日の短納期」「小ロット(1個から)対応」をアピールポイントにしながら、積極的にビジネスを展開。IT化により脱下請けを遂げるとともにビジネスモデルを大きく変革し、今やカリフォルニアにも進出。現地企業には超短納期かつ高品質の試作品開発が認められ、3年で400社の顧客を獲得。

<(株)ミラック光学>

「ビジネスモデル変革」「事業拡大」

【蓄積技術×AI】

※コラム参照

コラム:光学に関する経験や知見とAIによって生まれた画像検査システム「AIハヤブサ」・・・(株)ミラック光学

1963年創業の製造中小企業である(株)ミラック光学(東京都八王子市)には、自動車や半導体、食品、エネルギーなどの多種多様な業種から、同社が手掛ける画像検査システム「AIハヤブサ」を導入できないかという多くの相談が寄せられている。

「AIハヤブサ」は、これまでの同社の光学に関する経験や知見(光の当て方や波長、シャッタースピード、レンズ光学系など)とAIを組み合わせた画像検査システムである。これまでの検査では、特に人の目で確認することが困難な微細で複雑な製品において判断のばらつきが生じたり、微妙な色の違いや光沢物の細かなキズなどの識別に時間がかかるといった課題があったが、「AIハヤブサ」では、最先端の画像処理技術及び人工知能・機械学習を活用し、検査の高度化と高速化を実現する。また、これまでの検査工程では熟練した検査員が大勢必要であったが、AIハヤブサ導入によって、必要な人員を少人数の監督者に省人化することもできる。

このような検査工程の高度化・高速化を実現した背景には同社の村松社長の思いが強く関わっている。村松社長が先代から事業承継した当時、同社の強みでもあった顕微鏡の微調整部分の「アリ溝摺り合わせ技術」に着目し、事業を拡大・成長させてきたが、創業50周年を迎えた際「このままで良いのか、業績が良い時こそ新たな挑戦が必要ではないか」と考えるようになり、第二創業に取り組む決断をした。村松社長は「このデジタル化という波が押し寄せる新たな時代の中で、現状に安住することなく、常に新しいことに挑戦することにこそ企業の未来がある」と考えていた。そんな中、同社の画像認識用レンズを組み込んだ装置メーカーの外観検査装置を使う企業から、「汎用画像処理ソフトでは誤判定が多く、使いものにならない」、「システムチェック後に人間が目視検査している」という実態があることを耳にした。以前からAIに対する漠然とした関心があったこともあり、これまで培ってきた光学に関する経験や知見をAIと組み合わせることで、人手不足で困っている工場現場の助けになれないかと考えた。米国シリコンバレーにおけるAIの動向に関する現地調査などを経て、ニッチ領域でトップの地位を確立する戦略を立て、2016年に同社の光学に関する強みを生かしつつ、新たにAIを組み込んで品質管理や検品作業を自動化する画像検査システム「AIハヤブサ」をリリースした。

冒頭の通り「AIハヤブサ」に対する世の中の関心は高く、非常に多岐に渡るニーズが多数寄せられている。例えば、ドリル用材料の「キズ」「クラック」「カケ」を同時に検知したい、ゴーグルグラスの表面キズは乱反射するため検知しにくいが自動検知したい、人の目でも判断できない自動車部品のネジ穴の深さと方向を自動検査したいなどである。また、素人目には不良品と思われるものでも、その後の製造工程でカバーできるため良品であるケースなどもあり、同じ業種・製品でも良否判別の線引きが異なってくる。このため、一件ずつ個別にヒアリングを行い、これまで培ってきた経験や知見を活かした良質画像を顧客のニーズに合わせて取得し、AIによって自動化するソリューションの提案・コンサルティングを行っている。その際、同社の画像認識用レンズを販売するケースもあるというが、既に顧客が製品を持っている場合には他社製品でもできる限り生かすことでコストを抑えており、より多くの中小企業の課題解決に役立ちたいと考えている。

このように、光学に関する経験や知見を活用したコンサルティングを行っている同社だが、相談や引き合いが非常に多いこともあり、これまでは協業していたAI・ソフトウェアを内製化する目的で、AIの学術的権威であるはこだて未来大学の松原仁教授と共同で北海道函館市に(株)AIハヤブサを2017年に設立した。村松社長は、(株)AIハヤブサが、AI・ソフトウェア技術に長けたはこだて未来大学と、ロボット・ハードウェア技術に長けた函館高専の橋渡しとなり、函館をハード・ソフト技術のハイブリッド人材の輩出拠点にする構想を描いており、「ハイブリッド人材を函館から日本各地のものづくり現場に派遣し、函館から日本全体を盛り上げていきたい」と意欲をみせる。(株)AIハヤブサには、松原教授の教え子も入社しており、今後AI技術開発の加速も見込まれる。

同社の取組は、経済・社会のデジタル化やサービス化などビジネス環境が変化する中で、新たなビジネス領域へと踏み込み、変化に対してうまく事業展開している事例と言える。社長のリーダーシップのもと、同社は野心的な挑戦を今後も続けていく予定である。

図1 AI化する外観検査ロボット

出所:(株)ミラック光学より提供

図2 AIハヤブサによる画像検査

<ダイキン工業(株)、(株)日立製作所>

「技能継承」

【匠の技×デジタル化技術】

・ダイキン工業(株)と(株)日立製作所は、2017年10月よりIoTを活用し、熟練技術者の技能伝承を支援する次世代生産モデルの確立に向けた協創を開始。ダイキン工業(株)では、国内外の各拠点における品質の向上・平準化のため、空調機の製造に欠かせないろう付けや旋盤・板金加工などを基幹技能として、技術者の育成や熟練技能の伝承に長期にわたり取り組んできた。一方、(株)日立製作所では、自ら製造業として培ってきた経験・ノウハウを基に、OT(制御・運用技術)とIT(情報技術)を融合したIoTプラットフォーム「Lumada」や先進の研究開発を活用した製造現場のデジタル化により、日本の製造業の強みであるものづくり力を高めるソリューションの創出に取り組んできた。このような中、(株)日立製作所は、現場作業員の逸脱動作や設備不具合の予兆を検出する画像解析技術を応用し、熟練技術者と訓練者の技能を定量的にデジタル化し、比較・評価することで、熟練者の技能をより多くの技術者に効率的に伝承するための支援ができると考え、ダイキン工業(株)の協力の下、空調機の製造におけるろう付けのプロセスにおいて、作業者の動作や工具の使い方などをデジタル化、モデル化する検証を行った。

<オリンパス(株)>

「技能継承(暗黙知の可視化)」

【匠の技×デジタル化】

・同社は、内視鏡や顕微鏡などの生産技術をIoTツールなどを活用してデジタル化する「デジタルものづくり」の活動に着手。高度技能者の持つ「匠の技」を数値化して、機械化・自動化を推進する。これにより、生産効率の向上や若手技能者の育成に活かす。国内拠点を始め、アジアなど海外拠点にも展開予定。デジタルものづくりとは、人の五感に当たるセンシング技術や人の頭脳に当たるデータ処理・解析技術、人の手に当たるアクチュエーション(運動系)技術について、デジタル技術を取り入れ、技能者の暗黙知を機械化・自動化するもの。先行例として、顕微鏡の対物レンズを高精度に自動組み立て・調整する機械を開発。従来、高度技能者を育成するには、10~20年近くかかった。その高度技能者が手作業で行ってきた対物レンズの組み立て、調整・評価作業を数値化し、サブミクロン(1万分の1ミリメートル)単位で微細駆動する調整装置との組み合わせで、手作業でなければ不可能だった高度な組み立てを自動化した。

<(株)エクセディ>

「技能継承(暗黙知の形式知化)」「品質確保」「予知保全」「遠隔監視」

【匠の技×デジタル化(AIなど)】

・同社は、マニュアルトランスミッションに搭載されるクラッチ、オートマチックトランスミッション(AT)及び無段変速機(CVT)に搭載されるトルクコンバータの開発から生産までを手掛けるサプライヤー。同社では、これまで熟練技術・技能者が勘と経験に依存していた設備や金型の不具合への対応を情報システムで支援する仕組み(暗黙知の形式知化)を構築。プレス機において、荷重センサー、電流センサー、振動センサーなどのセンサーを配置し、わずかな変化を捉えることにより、ベテラン技術者が判断していた品質に影響する変化、あるいは設備故障につながる変化をシステムにより分析することにまで導く。さらに、蓄積されたビッグデータから様々な事象を時系列的に分析するなどして不良品検知や設備などの故障予兆をリアルタイムに検出し、不良品発生を未然に防ぐことや、設備の故障を未然に防ぐことを可能とした。

<富士通(株)>

「技能継承(熟練技術者などの暗黙知の可視化・自動化)」

【熟練技能×AI】

・過去の熟練技術者の製品設計データに含まれる知識やルールを活用できるように整理を行い、再利用する際の最適解の抽出にAIを活用。通常、スキルの高い設計者が製品の要求仕様や回路構成などを考慮し、要素の優先度を総合的に判断しながら数百時間かけて作成。回路設計から基板設計へ移行する際、基板の層数(製造コストに影響)を何層にするかの判断があり、部品の配置や配線経路、目標とする装置サイズなどから制約される基板許容サイズなど様々な要因を考慮する必要がある。熟練技術者が過去の経験に基づいて行っていたプリント基板の層数判断を含む基板設計を、AIを活用することにより製造期間を20%短縮する。

<(株)川田製麺>

「人材不足対策」「品質確保」

【検査工程×デジタル技術(AI、IoT)】

・乾麺、半生麺、生麺の製麺業である同社は、検査工程に人工知能(AI)機能を搭載した検知器やIoT技術を製麺業界で初導入。食品製造業者を対象に、食品衛生管理の手続きを定めた国際基準のHACCPが段階的に導入されるなど検査基準が厳しくなる中、人手不足により熟練検査要員の確保が難しくなり、これまで目視で行っていた点検に限界を感じていた。AI機能で、包装のシール部分に一部の麺が入り込み、密封を妨げる「麺がみ」と呼ばれる不良品を検知する。さらに、IoTによって、従来手書きで行っていた検査記録の収集を自動化するのに加え、金属探知器や重量チェッカー、X線麺がみ検知装置をネットワーク化し、全データを管理端末で監視・分析する仕組みを構築。AIやIoTを活用することによって、包装不良の出荷は減少し、不良品発生の原因特定や改善措置の迅速化が可能となった。

<月井精密(株)>

「技能継承」「省人化」「ソリューション展開」

【暗黙知×デジタル化】

※コラム参照

コラム:切削加工業がクラウド見積サービスで新会社を設立・・・月井精密(株)

月井精密(株)(東京都八王子市)は、小惑星探査機「はやぶさ」に使用されるコンピュータボックスを製造するなど、技術力に強みを持つ精密機械部品メーカー。CAD/CAMソフトやNC工作機械などの情報技術を活用した製品加工を行う。

適切な見積作成には、相場感や時期ごとの価格変動、見積り依頼した顧客層など、社内外の状況を経験的に熟知している必要があるため、長年の現場経験と経営的な知見のある経営者などが対応する必要があるが、1日に複数の見積依頼が舞い込むと、他の業務ができないという課題があった。また、同社では、先代から事業承継した2年間は、工作機械の操作と同様、見積についても暗黙知の承継が困難であり、値頃感がわからず、どんぶり勘定になりがちであった。

このような課題を解決するため、同社では、見積作成のノウハウをデジタル化(見積に必要なすべての要素を係数として設定)することで、見積作成を誰もが容易に行えるシステム「Terminal Q」を開発した。同システムは、見積作成者が図面記載データを入力するだけで、自動的に見積額を計算する仕組みである。また同システムは、顧客からの見積依頼、担当者による見積作成、経営者などによる見積承認、データの保存など、すべての作業をシステム内で完結する仕組みとして構築した。

同システムを導入している企業に(株)栗原精機(埼玉県川口市)がある。精密機械加工として、削り出し加工を行う切削加工事業者であるが、切削加工は、特に相応の業務経験がないと見積作業を行えない分野であるため、同システムの導入により、通常の事務職員でも見積作業が可能になることに大きな期待を寄せている。また、見積依頼は依頼件数の変動が激しく、数日で数百件の見積依頼がたまることもある。見積作業はこれまで負荷の掛かる作業であったため、同システムによって、図面の情報などを項目別に入力するという単純作業で見積額が算定できれば、見積作業の大幅な省力化につながる。さらに、同システムの活用を進め、自動見積結果にフィードバックをかけることにより、より精度の高い見積が可能になるなど、見積実績データを蓄積することが同社のさらなる作業効率化につながると期待している。

図1 TerminalQについて

図2 TerminalQの活用例

出所:月井精密(株)より提供

<長島鋳物(株)>

「品質確保」「省人化」「遠隔監視」「技能継承」

【匠の技×IoT】

※コラム参照

コラム:設備更新に併せて、自らの創意工夫で鋳物工場をIoT化・・・長島鋳物(株)

長島鋳物(株)は、1945年に鋳物のまちとして知られる埼玉県川口市で創業して以来、日本の上下水道の歴史とともに歩んできた国内有数のマンホール蓋枠のメーカー。長年培ってきた高度な鋳造技術と最新鋭の鋳造機器を融合させ、高品質な製品を供給している。また、業界のトップランナーとして、簡便で短時間にマンホール蓋の交換ができる工法の普及や、下水道を利用した災害用トイレの普及、液状化しないマンホール補強工法の普及など、時代に対応した事業を展開している。

マンホール蓋の仕様は多種多様であることもあり、同社の生産方式は多品種少量生産となっている。納期を守りつつ、製品品質を担保するには、熟練作業者の勘やスピードなどの経験知やノウハウが不可欠であり、その経験知やノウハウをいかに継承・改善していくかについて課題を感じていた。また、マンホール蓋の製造の際に使用する多種類の金型は、人の手で管理されていたことから、費用と労力がかかっており課題となっていた。そこで、同業他社との差別化を図るという点で、さらなる製品品質の向上を目指すために、ITなどを活用した製品の製造工程にかかるトレーサビリティが実現できないかと考え、同社に在籍していた電気関係の資格を持つ社員や、過去にIT関連企業に在籍していた社員などIT/IoTに精通する人材とともに、自社でIoTの仕組みを開発。

制御機器であるPLCなどから取得できる各生産設備の動作データなどを取得し、生産管理上の注文情報などと紐づけることで、情報を一元管理する仕組みを開発した。これにより、モバイル端末や大型ディスプレイなどで稼働状況、生産履歴、注文状況などをリアルタイムで把握可能となるとともに、これまで人が行っていたシステム入力を自動化した。また、電気炉や注湯機にセンサーを設置し、温度や重量などのデータを取得・管理可能としつつ、自動的に最適に注湯される仕組みを構築した。

このように機械情報と生産管理がつながることによって、現場で生産数などの情報を紙に記録し、作業終了後PCに入力する作業など様々な工程でのタイムロスや作業負荷を減らすことができた。また、これまで人手に頼っていた電気炉の温度計測は、遠隔でのリアルタイムな温度管理が実現したことにより、各工程を踏まえた細かな温度設定が可能になり、過度な高温状態による電気炉の損傷軽減や電気代削減を可能にした。さらに、PLCで蓄積した砂の温度や水分量などの記録をデータ分析することで、今まで熟練作業者が指先で判断し限られた社員のみしか行えなかった技術の継承を可能とし、これまでの品質を保持したまま自動化を実現した。

図1 鋳造ラインに設置したディスプレイ

出所:長島鋳物(株)より提供

図2 モバイル端末による進捗確認

<(株)フクル>

「マスカスタマイゼーション」

【複数企業とのネットワーク×顧客ニーズ】

・縫製業を営む同社では、複数の企業の生地や副資材などの在庫データ、デザインパターン、縫製工場などをデータベース化し、世界で1着だけの服をオンデマンドで製造・購入できるシステムを開発した。同システムでは、縫製の手前までの工程をIT技術で自動連携させることでマスカスタマイゼーションを可能にしている。同社のシステムで顧客と生産者をつなぐことにより、海外製品との価格競争や人材不足などの問題を抱える繊維業界の活性化を目指す。

<山中漆器産地 >

「生産最適化」

【地域内連携×管理システム】

・伝統工芸品である山中漆器(石川県)の産地で、産地全体で情報を共有する共通基盤を設けることで、産地内事業者間の連携をより密接し、全体で最適化を図る取組を推進している。生産の各工程は分業制であることから、発注する問屋にとって各職人の進捗状況は把握しにくく、また、受発注の業務も手作業で行っており時間と手間がかかっていた。生産工程や事務処理にICT(情報通信技術)を活用し、受発注業務や請求支払などの情報をクラウドで共有し、産地全体の効率化につなげる。

<LANDLOG、(コマツ、(株)NTTドコモ、SAPジャパン(株)、(株)オプティム)>

「人手不足(生産性の向上)」「安全性の向上」

【全体最適化に向けた協業:建機メーカー×通信×PF支援×AI・IoT企業】

・建設業界の深刻な人手不足の課題解決に向けては、建設生産プロセス全体の最適化により生産性向上や安全性向上を図る必要があるとの認識の下、コマツ、(株)NTTドコモ、SAPジャパン(株)、(株)オプティムは建設業務における生産プロセスに関与する土・機械・材料などあらゆる「モノ」のデータをつなぐ新プラットフォーム「LANDLOG」の企画・運用を開始した。これまで、コマツが建設現場向けに展開するソリューション事業「スマートコンストラクション」で運用しているプラットフォーム「KomConnect」は建設機械による施工プロセスを中心に構築されたものであったのに対し、「LANDLOG」は建設生産プロセス全体を包含する新プラットフォーム。情報の収集・蓄積・解析の機能について、施工会社などの要望に応じて様々なアプリケーションプロバイダーにデータを提供していく。これにより、建設生産プロセス全体のあらゆる「モノ」のデータを集め、そのデータを適切な権限管理の下に多くのプロバイダーがソリューション・アプリケーションを提供し、建設現場のユーザーがそれを活用することで、安全で生産性の高い現場の実現を図ることを目指す。

<(株)クボタ>

「農作業の無人化」

【農機×自動運転】

・同社では業界に先駆けて、有人監視下で無人自動運転作業を可能にするトラクタ「アグリロボトラクタ」を開発した。同トラクタには、高精度GPSやオートステアリング(自動操舵)、自動旋回機能、安全装置を搭載しており高精度な作業を可能にする。付属リモコンによる作業開始・停止などの遠隔指示ができ、無人での耕うん、代かき作業を実現する。

<カゴメ(株)、日本電気(株)>

「農作物生産の最適化」

【環境データ×地形データ×シミュレーション】

・圃場に設置した気象・土壌などの各種センサーや人工衛星・ドローンなどから得られるデータと、農場から得られる実際の生育データをもとにPC上に仮想の農園を作る。仮想農園での育成シミュレーションから、当該圃場に応じた最適な営農アドバイスや将来の収穫量、最適な収穫時期などの予測を行い、農薬や肥料などの使用量の最適化、収穫量の最大化を目指す。

<JAFIC(漁業情報サービスセンター)>

「熟練者の勘や経験の見える化」「生産性向上」「エネルギー消費削減」

【衛星データ・現場データ×データ分析】

・同法人が提供する漁場探索システム「エビスくん」は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の人工衛星GCOM-W「しずく」を始め、各種人工衛星から海色、海面水温、海面高度データを収集し、分析することで、漁労長の勘や経験でしか判断できなかった漁場の把握を一般的なものにした。また、現場の漁船から水温データを収集・解析し、高精度の水温図や潮流図を漁船や漁業関係者、試験研究機関に提供している。同システムを活用することにより、従来と比較して漁場探索時間は15~33%の幅で短縮(平均29%短縮)、給油量は4~23%の幅で削減(平均13%削減)、漁獲量は10~25%の幅で増加(平均21%増加)した。

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