経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第3節 価値創出に向けたConnected Industriesの推進

4.分野ごとの事例

(1)生み出す、手に入れる〈2〉

①スマートに生み出す、スマートに手を入れる(スマート製造など)

●海外事例

<Bossard>

「スマート在庫管理」「ソリューション展開」

【顧客起点×デジタル技術×プラットフォーム】

※コラム参照

コラム:自社の強みを活かしたスマートロジスティクスの展開・・・Bossard(スイス)

1831年にスイスで設立された同社は、ねじ・ナットなどの締結部品の設計・開発と調達・販売を行ってきた。顧客の様々な要望に応えるため、約5万点の標準的な製品については世界中のサプライヤーから調達し、約20万点の特注品については社内で設計・開発を行っている。欧州、アジア、北米地域を中心に世界26カ国で事業を展開している。

他企業がIndustry4.0に取り組み出すよりも早く、同社は1990年代後半から「スマートロジスティクス」の構想に取り組んでいた。「顧客のために」という考えを大事にしており、どのようにすれば顧客企業がより生産性を高められるか、そのために自社ができることは何かということを常に会社全体で考えている。

2018年1月から同社のCTOに就任したUrs Güttinger氏は、同社の「スマートロジスティクスプロジェクト」に立ち上げ期から参画し、18年間プロジェクトを率いてきた。このプロジェクトは、顧客企業における在庫管理・発注業務の効率化、在庫水準の最適化によるコスト削減を目的とした新ソリューションを開発することにある。本格的にスマートロジスティクスをソリューションとして顧客に提供し始めたのは、無線技術の進化や安価なデバイスが入手可能になった約5年前からである。同社のスマートロジスティクスの主力サービスである「SmartBin(スマートビン)」は、在庫製品の重量を計測し在庫管理を行い、あらかじめ設定した最低在庫量に達すれば、事前に設定した数量で自動的に製品の発注をするシステムである。このサービスを活用すれば、ヒトの手による在庫の確認や、必要な部品数の把握・発注、さらに、棚卸作業が不要となる。センサーなどデバイスの小型化に伴い、工場の様々な場所に柔軟に設置可能であり、どの場所にどのように設置すれば、作業員がより効率的に作業を行えるかといった点を考慮し、同社の担当者がSmartBinの導入時の設計を行う。

本事業の開発・販売から運用まで長年リードしてきたUrs氏は、SmartBinの顧客への提供価値は3つあると話す。1つ目は、業務オペレーションコストの削減である。SmartBinの導入に当たり、顧客企業の在庫管理における業務オペレーションを一から見直すことで、ロジスティクス周りの業務を改善することができる。人件費などの業務オペレーションコストを、平均して50~70%削減することができる点は、多くの企業にとって魅力的であろう。2つ目は、在庫水準の最適化である。SmartBinソリューションは、日本が誇る「カンバン」システムの考え方に近く、必要なものを、必要なタイミングで、必要な分量だけ届けることをコンセプトとしている。その結果、余分な在庫を抱える必要がなくなり、約10~50%の在庫コスト削減を実現している。3つ目は、顧客企業の信頼性を向上させることにある。顧客企業にとって、在庫の欠品は大きな機会損失であるとともに、顧客の信頼を失うことにもつながる。顧客の信頼に応え、常に必要な在庫を保有し、納期遅れなどを防ぐことは、ビジネスを行う上で非常に大切なポイントである。Urs氏は、自社のスマートロジスティクス事業について「我々のビジネスは、顧客の事業が成長することを支援することである。そのために自社ができることに取り組んでいる」と語る。

同社がスマートロジスティクスソリューションを自社主導で開発し、世界中の顧客に届けられるまでに成功した秘訣は、人材にあると考える。スマートロジスティクスソリューションには、センサーを活用したハードウェアの開発から、収集したデータを管理し自動発注を行うソフトウェアの開発、顧客企業への導入時の設計など、多岐にわたる知見と技術が必要であった。当時のUrs氏はまだまだ若手であったが、電子工学と情報処理に知見があったためプロジェクトリーダーとして抜擢された。ただし、同社はすべてに関し十分な知見やリソースは保有していなかったため、外部の事業者にも協力を依頼した。しかし、そこですべての開発を丸投げすることはなく、自社内に知見を貯め、ハードウェア・ソフトウェアとも社内で管理できる体制を整えることが重要であると考えた。Urs氏は、社内に3名のソフトウェアエンジニアを確保し、そのメンバーが社内で知見を蓄積し、自社として何が必要か何をすべきかといった判断ができる状態を用意した。自社の経営方針に基づいた判断は、社内の人間にしかできないからである。

すでにSmartBinソリューションは、他のサプライヤーが使用できるようプラットフォームとして各国で展開を始めている。顧客企業は、同社の製品だけでなく、様々なサプライヤーから仕入れているすべての部品の在庫管理をSmartBin一つで管理することができる。場合によっては他サプライヤーの製品の輸送・補充も同社で担当することもあるという。SmartBinは同社と顧客企業をつなげるにとどまらず、複数のサプライヤー間での情報連携も実現している。同社の「顧客のために」という精神はここでも見られる。SmartBinソリューションは、製造業を生業とする顧客にとどまらず、病院やオフィス用品を多数取り扱う企業にも導入している。病院では看護師が発注時に、ナースステーションと倉庫を何度も行き来し、どの医薬品をどれだけ注文するかを決めている。SmartBinを活用することで、ナースステーションにいながら在庫状況を確認、自動発注可能な点が最大の強みである。

このように、同社はビジネスモデルを「モノの販売」から、在庫管理・調達の「ソリューション販売」へ、さらに、自社の強みを「締結部品の販売」から「重さのある製品の在庫管理」へとシフトさせることで、製造業にとどまらず新しい分野においても順調に成果を上げている。「顧客のために」という本質を失わず、顧客ニーズに応じ柔軟に対応してきたことが、同社の事業成功の要因であろう。これからのものづくり企業が、進むべき道の一例を示しているのではないだろうか。

図1 SmartBin(センサーを活用した自動在庫管理・発注システム)

出所:Bossardより提供

図2 スマートフォンによる在庫の確認

<MADER>

「エネルギー利用効率化」「省人化」「ソリューション展開」

【コア分野知見×顧客起点×デジタル化×プラットフォーム展開】

※コラム参照

コラム:足下のデジタル化から事業のグローバル展開へ・・・MADER(ドイツ)

IoT化や企業のデジタル化への必要性は理解していても、なかなかビジネスモデルを一気に転換させるような取組に着手するのは難しい。何も事業全体を今すぐ方向転換するという話ではない。大きなビジネス環境の潮流を踏まえながら、まずは自分達にできることから取り組むことが先決である。ドイツに拠点を置く同社のアプローチは参考となるだろう。

同社は80年以上、空気圧関連事業を手掛けてきた従業員数約90名の中小企業である。同社は、主要事業である空気圧機器や関連部品の製造・販売に加え、顧客企業の業務効率化を支援するアプリケーションである「MADERヤ Leakage App」の提供を開始した。Leakage Appは、コンプレッサー周りのエアー漏れ点検をより効率的に実施できるよう開発したアプリである。数年前から、ドイツ政府は産業界におけるエネルギー利用の効率化を優先課題として取り組んできた。その影響を受け、ドイツ国内の大手企業から中小企業まで工場内のエアー漏れ改善に本腰を入れている。産業用電力の20~30%が圧縮空気を作るために使用されていると言われており、エアー漏れが改善されることで、コンプレッサーの負荷率を下げ電力削減ができる。コンプレッサーから送られるエアーを届けるためのパイプラインは、工場内の至るところに設置されており、エアー漏れも多いという。

同社のエネルギー部門のリーダーであるMarina Griesinger氏は、Leakage Appを開発した背景をこう語る。「我々のチームは、どうすれば顧客の従業員が簡単に素早くエアー漏れ点検を終え、適切な次のステップを認識できるかについて何度も検討を重ねてきた。常に“顧客ファースト”の視点を忘れないようにしている。」エアー漏れ点検は時間の掛かる作業であるが、その多くは点検後のデータ入力とレポートの作成に費やされている。これまでは、エアー漏れ探知機で点検した内容を現場で用紙に記載し、その後、オフィスに戻り用紙に記録した内容をPCに入力しており、二度手間となっていた。エアー漏れ点検のレポートを作成するために1日以上費やす場合もある。Leakage Appは、エアー漏れ探知機で点検した内容をタブレット上のアプリに簡単に入力することが可能。さらに、工場内のどの位置の、どのパイプラインにエアー漏れがあるかという情報は、パイプラインに取り付けたQRコードを読み取ることで入力できる仕組みである。アプリを使うことで、点検後すぐにレポートを作成することも可能である。修理が必要な箇所を可視化し、従業員に修理指示を出したり、アプリ上から同社の専門家に修理を依頼したりすることもできる。

Leakage Appは、同社の空気圧関連機器を使用している顧客だけでなく、コンプレッサーを使用しエアー漏れ検知を行う企業や工場であれば、どこでも使用可能である。Leakage Appは、物理的な制限がないため、世界中の企業に対し提供可能である。同社の顧客は一気にグローバルに広がったという。特にドイツ国内に本社を置く大手製造業を狙い目としている。そのような企業は、まずドイツ国内の工場でLeakage Appを導入し、その後、世界各国の工場でも同様に導入する。顧客企業は、同一のプラットフォーム上で、世界中の工場のデータをつなぎ、一元管理することができる。タブレットやアプリを活用した業務のデジタル化は、すでに様々な業界で導入が進んでいるが、このようにまずは自分たちが取り組める領域から確実に取り組むことで、同社は顧客への提供価値を高めている。

同社の取組はアプリのみにとどまらない。Leakage Appで収集したデータを活用し、「AirXpert」というサービスを同時に展開させている。アプリで多くの顧客をつかみ顧客データを取集し、より高度なサービスを有償で提供するという戦略である。Leakage Appを通じて収集された各企業のコンプレッサーに関するデータは、アプリ上で可視化され、一元管理が可能となる。このデータを用いて、顧客企業は同社に「Leakage Detection as a service(専門家による高度なエアー漏れ検知・分析サービス)」を依頼することができる。このサービスの特徴についてMarina氏は、「圧縮空気に関する知識や所管部門の予算、企業規模によって顧客企業が我々に求めるニーズは多岐にわたる。顧客のニーズに応じたサービスを提供できるようAirXpertはカスタマイズして利用できる仕組みを採用している。」と話す。

同社が、顧客業務のデジタル化を支援し、そこで得たデータを元に新しいソリューションを展開することができた成功のポイントは、ひとえにこれまで空気圧機器や関連部品の製造で培ってきた知見や経験にある。空気圧のことであれば何でも知っているという強い自負を持っている。ただし、これからの社会の中で生き残っていくためには、モノの製造だけに特化していては難しい。モノの製造の強みを活かし、顧客の課題を解決できるソリューションを生み出していくことが求められる。

最後にMarina氏はこう締めくくる。「我々は常に“顧客ファースト”のポリシーに沿って行動するだけ。」同社のようにまずは自分たちが実現できる取組からIoT化やデジタル化に取り組み、新しいソリューションを生み出してみることも大切であるだろう。

図1 「Leakage App」の使用イメージ

図2 「Leakage App」の表示画面

出所:MADERより提供

<SEW-EURODRIVE>

「工場自動化」「ソリューション展開」(生産性向上)

【コア技術×積極開発投資×オープンイノベーション】

※コラム参照

コラム:スマートファクトリーにおける人とロボットの協働、その先に目指す世界とは・・・SEW-EURODRIVE(ドイツ)

ドイツにも日本企業と同じようにヒトとロボットの協働を目指している企業がある。1931年に創業した家族経営の企業SEW-EURODRIVEである。同社は、ドイツで2011年から開催されているTV局“n-tv”が主催するHiddene Champions(知名度が低く規模も比較的小さいものの、世界市場または各地域市場においてシェア上位に位置し世界をリードする企業)に選出されており、持続的な事業を手掛けることを目指しビジネスモデルを構築している。

同社のコアビジネスは、85年間続けてきたギヤモーターの製造・販売である。同社は製品をドイツ国内外に展開しており、現在に至るまで国際的に高いシェアを誇っている。1990年代に他国企業との競争に打ち勝ち事業を拡大させるため、当時のオーナーが国際社会で生き残っていくために下した英断が、後のIndustry M 4.0につながる「最新テクノロジーを活用した開発への投資」であった。ギヤモーターとは別に、コントローラーに使われる周波数インバータや、変速機、モバイルコントローラーなどの新たなエレクトロニック製品のデバイス製造に着手した。これらの製品は、自社内の組立作業を効率化させるために製造されたものであるが、社内での有効性が認められると即座に外販も始めている。

「私たちは、“Doing by ourselves”をフィロソフィーとして掲げており、自分たちで製品やソリューションを手掛けることを重要視している。短期的に見ると、アウトソーシングで作ってしまったほうが安くて早いかもしれないが、長期的に見ると自社にナレッジが残らない。作業を効率化するような分散型の機器製造に将来的な可能性があると考えていたので、今後の自社の強みとすることを想定し、自社で開発することを選んだ。」と東南・東アジアを担当するマネージャーのAndreas Appel氏は話す。自社開発とはいえ、もちろん近隣の大学やサプライヤーと共同開発も進めていた。近年はIndustry 4.0について「全バリューチェーンをデジタル化し統合すること」だと自社なりの定義を明確化させたうえで、何に取り組むかを綿密に検討してきた。まず、全バリューチェーンのうちの生産部分であるスマートファクトリーに着手し実用化させた。同社のドイツ工場では、物流・組立・ハンドリングを支援する3つのロボットが活躍している。1つ目は工場内の運搬を担うAGV(無人搬送機)である。倉庫と組立ユニット間や各組立ユニット間の原料・製品の移動は、このAGVが行っている。AGVは周辺をスキャニングする仕組みと自ら情報を処理し判断する機能を持っているため、機器同士が互いにつながり、コミュニケーションをとっている。ヒトを認識すると自動で減速する、移動方向を変えるなどの判断も可能だという。2つ目は、組立アシスタントロボットである。組立工程ではヒトを中心に作業を行うが、各ステップにおける機器移動や作業に合わせた作業台の高さ調節などはマシンが自動で行う。3つ目は、ハンドリングを担うロボットで簡単なピッキングと配置作業を担う。さらに、VR(VirtualーReality、仮想現実)などの先進技術も実用化している。作業員はVRを使用し組み立て作業の順序を確認、完成品のシミュレーションができる。スマートファクトリーは様々な企業が実用化させているが、一つのソリューションに限らず、AGV、組立ロボット、AR(Augmented Reality、拡張現実)・VRなど、複数の先端技術を組み合わせ、最適なスマートファクトリーを実現している点が同社の特徴である。これらのソリューションは自社内にとどまらず、培ってきたノウハウを活かし、AGVや組立アシスタントロボットの外販を含め、顧客企業のスマートファクトリーの構想やレイアウト設計を請け負う事業も新たに展開している。今後、ソリューション販売にも注力していく予定。

同社がスマートファクトリーを促進する背景には、カスタマイズ製造への需要の高まりがある。今後の社会では大量生産ではなく、それぞれの顧客の要望に応じたきめ細かなカスタマイズをいかに素早く実現できるかが成功のポイントとなる。カスタマイズ製造を実現させるうえで重要なのが「One piece flow production(個別製品の生産)」だ。数秒ごとに製品に関する情報を収集し組み立てる必要がある。例えば、ある製品を組み立てるときにどの組立ユニットでどのカラー、サイズ、ランクの部品を取り付けるのか、そのあとどのような処理をすべきか、という情報が基幹システム上の注文情報と工場内のリアルタイムな製造情報に紐づいている必要がある。各ロボットや製造機器、システム同士がリアルタイムにコミュニケーションできる環境が必要不可欠であり、さらに、カスタマイズに関する意思決定部分については、ヒトの判断を要するため、ロボットとヒトのシームレスなコミュニケーションも求められる。同社のスマートファクトリー内では、AGVなどの機器・マシン同士、あるいは製造機器とERPなどのシステム間、さらに、ヒトと組立ロボットがお互いに連携し合い、カスタマイズ製造を実現させているのだ。

同社のドイツ工場は、一部をスマートファクトリー化することにより生産性が約30%も向上した。一方で、ロボットはあくまでも原料や製品の移動を担い、カスタマイズに関する意思決定はヒトが担うという考えが根本にあるため、人件費削減を目標にしているわけではないという。将来的には、製造だけでなく物流までを対象としたスマートロジスティクスを自社で手掛けたいと検討している。2016年のドイツ・ハノーファーの展示会で「Mobile logistics capsule(カプセル型自動走行車両)」をコンセプト製品として発表した。これは、トラックの荷台に格納可能なカプセル型自動走行車両で、最終製品を工場でピックアップし、このカプセル型車両自体がトラックに格納される。トラックが都市間の移動を担当し、都市部に到着した後、カプセル型車両がトラックから出て顧客の家まで一般道を通りながら走行するという構想である。Andreas氏は、「私たちはこのような構想を踏まえ、将来のロジスティクスがどうあるべきか、我々がどう世界を変えていくことができるのかを考えている」と壮大な夢を語る。さらに、Andreas氏はこう続ける。「日本は市場規模がある程度大きく、地理的・文化的に各地域から距離があるため、国内市場は比較的守られてきた。また、30年以上にわたり独自の方法で工場の高度化に取り組んできたため、グローバル市場と距離ができてしまっている。これから先の将来は、国際社会と実際に戦っていかなければならないので、日本の中小企業も手遅れになる前に動き出す必要がある。」同社のような、夢のある構想を掲げ、国際社会をリードしていく企業の登場が期待される。

図1 無人搬送機AGV

図2 工場内の状況をリアルタイムにモニタリング

出所: SEW-EURODRIVEより提供

<Optimal Plus>

「(サプライチェーン上のデータ連携による)品質担保」「テスト工程の最適化」

【産業(デバイス)の知見×データ分析力】

※コラム参照

コラム:サプライチェーンにおける企業間データ連携の実現に向けたサードパーティの取組・・・Optimal Plus(イスラエル)

イスラエルにサプライチェーン上における複数企業間でのデータ連携の実現を目指す企業がある。電子機器・半導体産業に特化しビッグデータの解析を行うソフトウェア会社、Optimal Plusである。同社は、Fortune500に選出されるような優良企業を多く顧客に抱えており、直近では、Forbesによる「15 Technology Companies To Watch In 2018」や、Gartnerが発表している「Cool Vender in IoT Analytics in 2017」に選出されている新進気鋭の企業である。

同社は、産業界において既存のビジネスモデルの限界を感じたメンバーが、新しいビジョンを掲げ集結した組織である。既存のサイロ型モデル(生産プロセスが縦割りで進行するため、企業間の情報共有や連携を欠いており、各企業が独自に業務を遂行し孤立している状態)から脱却し、次世代のサプライチェーンの在り方として各企業が緊密に連携するエコシステムを構想している。

同社の強みは何といっても、ビッグデータのアナリティクス技術と半導体・電子機器産業における深い知見である。この二つの掛け合わせにより、市場の中でも独自の地位を築いている。事業を率いるディレクターのYaacov De Russo氏は「アナリティクスができる人材は多数いるが、産業に知見を持ち本当に意味のあるインサイトを生み出せる人材は数少ない。アナリティクスにおいて非常に重要な点は、データを収集し、分析し、現場にフィードバックすること。収集されたデータは、現場の製造ラインにフィードバックされ実行されることで初めて価値を生む。我々のソリューションは、その実行までを含め自動化したオペレーションを運用している」と話す。その信念に沿う形で、同社のソフトウェアは24時間365日、世界中の工場からデータを吸い上げ、分析し、現場に実行指示を自動で出しているという。

このオペレーションを実現するに当たり、同社は従来の「The voice of the machine(製造におけるプロセスデータ)」を収集・分析するモデルに加え、業界では新しい「The voice of the product(製品自体のデータ)」の分析に注力している。各チップやCPUボード、製品がどの工場のどのマシンをいつ通過して、どのような加工がされているのか、機能テストの結果はどうだったかというデータを、異なる工程から収集し、それぞれの製品個体に紐づけ、「プロダクトDNA」として管理している。プロダクトDNAの価値を高めるためには、1社だけのデータでは不十分であり、サプライチェーン上の複数の企業間でのデータ連携が不可欠となる。Yaacov氏は「我々の顧客は、サプライヤーやTier1(メーカーに直接納入する一次サプライヤー)のOEMであり、彼らが販売しているのは、高い効率性を実現する製造機器ではなく、高品質な製品自体である。だからこそプロダクト自体のデータから価値のあるインサイトを生み出すことが重要である。企業はたった5%の欠陥品のために95%の優良品を危険にさらしてしまう。我々は、プロダクトDNAの分析によりその95%の利益を保護している」という。

同社のソリューションである、QPaaS(Quality Protection as a Service/品質保護サービス)は、これまで有効性が認められつつもデータ連携が進んでこなかった半導体サプライヤーなどとOEM間でのデータ連携を支援するソリューションであり、各市場のアーリーアダプター企業と共同で構築する。部品メーカーや組立企業などのサプライチェーン上の複数企業から品質に関するデータを収集、分析し、各企業に実行可能なインサイトをフィードバックすることで最終製品の品質を向上させるソリューションだ。QPaaSは、サプライチェーン上の企業を仲介する信頼性のおけるサードパーティとしてデータハブを担っている。すでに欧州の自動車業界のTier1企業とその上流のサプライヤー企業とPoC(the Proof of concept、コンセプト検証)を行い、高品質かつ歩留まりの改善を達成している。各企業から収集されるデータを統合して分析を行う際には、データハーモナイゼーション(データ同士の調和)が重要となる。データのフォーマットを統一するだけでは不十分であり、産業上の文脈や前後のプロセス、データ内容への深い理解を持ち合わせた上での分析が必要不可欠となる。そのため、同社のビッグデータ技術とエキスパートの経験・知見が最大限に活かされる。今後、遅からずサプライチェーン全体にわたるデータ連携が実現されていくが、多くの企業同士が個別に連携し1対1の関係を構築するのは非効率であり、現実性が低い。そこで多対多のネットワークを構築し全体のエコシステムを形成していく役割を担うサードパーティが重要になってくる。

QPaaSは品質保証の観点からみると、RMA(Return Merchandise Authorization/返品保証)に掛かるコストを約50%削減することができ、さらに、RCA(Root Cause Analytics/欠陥原因の特定分析)に掛かる日数を平均1週間以下に短縮、不要な部品テストの80%を削減することでテスト工程の最適化ができるという。

自社のコア領域のデータを他社と連携することに対して、流出・悪用といった観点から抵抗感がある企業も少なくないだろう。同社は、QPaaSの導入時に、どのデータをデータハブに送信するか、どのようなアルゴリズムによってインサイトを生成するか、誰にそのインサイトを提供するかという内容について各社と事前に合意する。各工場の製造機器から生成された生データは、他社に公開されることはない。このように細部にわたり顧客のコア領域を保護する手法を講じている。

Yaacov氏は日本への展開も積極的に見据えている。「日本において、サプライチェーン上のデータ連携にはポテンシャルがあると考えている。自動車産業を始め、先進的な技術を活用している企業が多く、QPaaSを展開していく素地がある。ただ、自らが積極的に動くような日本企業は少なく、社会が動き出すのを待っているように感じる。これからはいかに早く動くことができるかが重要である。」とYaacov氏は日本の市場に対する見解を述べる。Connected Industriesによるデータ駆動型社会は、もうすぐそこまで来ている。ものづくり企業がいかに早く動くことができるかが、勝負どころとなるものと思われる。

図1 Optimal Plusが提供するQPaaSの連携イメージ

図2 QPaaSを使用した分析のイメージ

出所:Optimal Plusより提供

<Uhlmann Pac-Systeme>

「保守効率化」「ソリューション展開」

【顧客起点×デジタル化×社内教育】

※コラム参照

コラム:AR(Augmented reality/拡張現実)を活用したスマートグラスによる機器メンテナンスで新しいビジネスモデルへ挑戦・・・Uhlmann Pac-systeme(ドイツ)

同社は、1948年に設立されたドイツに拠点を置く医薬品の包装機器製造におけるリーディングカンパニーである。同社は、長年この包装機器の製造と販売を主軸事業としてきたが、近年では、「モノの販売」に加え新技術を活用した「ソリューションの提供」にも力を入れている。全社的に、デジタライゼーションを志向しており、社内に新規デジタルソリューションの企画・開発部門を設置し、先端技術の活用を視野に入れた検討を常日頃から積極的に行っている点が同社の大きな特徴である。定期的にワークショップを行い、展示会などの外部イベントに参加するなど、情報収集やネットワーキング活動にも余念がない。

ドイツ・デュッセルドルフで開催された展示会"Interpack 2017"において、同社は新しいソリューションである、「スマートグラスを活用した遠隔メンテナンスアプリケーション」を発表した。もちろんこのソリューションも、社内のスタッフによるディスカッションから生まれたサービスである。スマートグラスを活用することで、製造機器のメンテナンス作業を誰でも簡単に行えるよう標準化し、作業工程自体も効率化することができる。作業員が、AR技術を用いたスマートグラスをかけて包装機器を見ることで、瞬時に機器の温度や湿度といったメンテナンスに必要な情報を閲覧することができ、メンテナンス方法や機器の詳細情報のドキュメントにもボタン一つでアクセスすることができる。つまり、AR技術を活用し既存世界にデジタル情報を付加することで、製造機器とヒトの間におけるコミュニケーションを実現しているのだ。

デジタライゼーション部門の主任であるKathrin Günther氏は、大きく2つの観点からデジタライゼーションに取り組んできたと話す。1つ目は、経営的視点である。会社としてビジネスを、デジタル環境に適合させていく必要があると認識していた。リーディングカンパニーといえども、急速に変化するグローバル社会の中で勝ち残っていくためには、会社のあり方を変革しなければならないのである。2つ目の視点としては、顧客志向的視点である。顧客企業の業務プロセスのどこに課題や問題があるのかを特定し、作業の効率化や顧客満足度の向上ができないかを検討していた。この2つの視点から、将来の「Human machine interface (人間と機械の間の伝達を行う機器やコンピュータプログラムのインターフェース)」のあるべき姿を具体的にイメージし、マシンが人間にどのように作業を指示することができれば、現場の作業を効率よく、安全に行うことができるかということに日々考えを巡らせていたという。

本プロジェクトには顧客企業のメンバーも参加し、幾度となくディスカッションを繰り返しプロトタイプの改善を図ってきた。「一部の作業員は、新しいテクノロジーを恐れ、スマートグラスをかけながら作業することに違和感を抱いていた。顧客の現場スタッフに受け入れてもらい、安全に使用してもらうため、工場でユースケースを用いてプロセスを説明し、シミュレーションを繰り返した」とKathrin氏は振り返る。新技術に対し内向的な企業には、根気よくサービスのメリットを説明し、実際に使用してもらうことで価値を理解してもらったそうだ。顧客とのディスカッションでは、セキュリティ面についても検討がなされていた。通常、医薬品関連の機器は外部ネットワークと接続されていないため、ネットワークに接続する際には、サイバーセキュリティ上のリスクを考慮する必要があった。顧客企業と詳細に接続要件を話し合い、責任の所在を明確化することでネットワーク上のリスク管理を実現している。

同社は従来の固定価格で製品を販売するビジネスモデルに加え、スマートグラスを活用したメンテナンスサービスを継続的に販売するビジネスモデルを新たに立ち上げた。ソフトウェアの更新料やライセンス契約での課金体系となり、安定的な収入を確保することができる。ビジネスモデルの転換において最も難しいのは、既存スタッフの教育である。現場で求められるスキルや能力が変わっていくなかで、従来の業務から脱却し新しい思考やスキルを短期間で身に着けることは非常に困難なため、チェンジマネジメント(業務や組織に関する様々な変革を推進・加速し、成功に導くためのマネジメント手法)を導入し、現場のスタッフだけでなく経営陣にも教育を提供することで、会社の在り方自体を変革させる必要がある。Kathrin氏は、「ドイツ政府は積極的にIndustry4.0に対して取組を行っている。しかし、Industry4.0の取組は本来、政府が行うものではなく、最終的な実行責任は各企業にある。私たち、企業が動かなければIndustry4.0は意味をなさない」と話す。将来の社会を見据え、自社に何ができるのか、何をしなければならないのかを考え、実際に行動に移してきた事業リーダーとしての、責任感と力強さを感じさせる意見である。

図 AR技術を活用したスマートグラスによる機器メンテナンスのイメージ

出所:Uhlmann Pac-systemeより提供

<YOU MAWO>

「マスカスタマイゼーション」

【3Dプリンター×地域の販売店】

※コラム参照

コラム:世界に一つだけのメガネフレームを届ける(3Dプリンターによる地元メガネ販売店の活性化)・・・YOU MAWO(ドイツ)

ドイツに拠点を置く同社は、1人ひとりの顔の形に応じたメガネフレームのカスタマイゼーションを行うスタートアップである。2015年に設立され、2016年から本格的に事業を展開している。既製品ではなく、それぞれの顧客の顔に合わせカスタマイズされたメガネフレームを3Dプリンターで製造し提供する。カスタマイズされたメガネフレームは、欧州地域の地元のメガネ販売店を通じて顧客に提供されるため、最終顧客と地元のメガネ販売店のつながりを生んでいる。このビジョンが評価され2017年にthe SME Award Hidden Champions(知名度が低く規模も比較的小さいものの、世界市場または各地域市場においてシェア上位に位置し世界をリードする企業に対し贈られる賞)のInnovation and Vision部門を受賞した。

メガネ販売店と最終顧客をつなげる仕組みに特徴がある。同社はまず、タブレットで使用可能な3Dフェイススキャン用のアプリケーションをメガネ販売店に提供する。このアプリはWeb上で入手可能となっている。メガネ販売店のスタッフはこのアプリを使い、店頭で来店した顧客の顔をスキャンする。赤外線を使用した3Dスキャナーにより、顔全体の立体データを作成。作成された顔データは、顧客の選んだ色やフレームの形などの情報とともに同社に送信される。その後、顔の3Dデータを元にそれぞれの顔の形・サイズ・ゆがみに応じたメガネフレームを設計し、3Dプリンターで製造する。出来上がった製品は、検品を経てメガネ販売店に配送され、最終顧客の手にわたる。

欧州、北米、アジア地域に展開する大手メガネメーカーは、社内でメガネフレームをデザインし、イタリアや中国を中心としたサプライヤーに生産を委託するため、製品の注文から納品まで約3~6か月を要する。在庫切れの場合、再納品に3~6か月掛かるため、欠品を起こさないよう大量の在庫を抱える傾向にある。また、大量生産方式であるためカスタマイズはほぼ行われていない。一方、同社のビジネスモデルでは、最終顧客のニーズに応じたカスタマイズ製造を実現しているほか、オーダーが入ってから製造するため、在庫量を少なくすることが可能。同社のソリューションは、地元のメガネ販売店にとって、オンラインショップや大型チェーン店などの競合企業との差別化を可能にしている。同社の事業ターゲットは、大型チェーン店やオンラインショップではなく、欧州市場の約2割を占める独立系の高級志向のメガネ販売店である。メガネ1点あたり400~800ユーロ(1ユーロ=130円換算で約5~10万円)の層を狙っているという。これらの層は、安価な商品に比べ、カスタマイズに対する顧客ニーズも高い。

同社の共同創立者たちは、2004年頃から既に3Dプリンターでカスタマイズされたメガネフレームを製造する事業構想を考え始めていた。共同創立者の1人であるDaniel Szabo氏は、「メガネフレームは比較的小さく、カスタマイズに向いている製品であるため、3Dプリンターでの製造には適していた。しかし2004年当時の3Dプリンターはコストも高く品質も良くなかった。そのため、ビジネスモデルをじっくり検討し、適切なパートナー企業を探すことに時間をかけてきた。」と当時を振り返る。近年、ようやく3Dプリンターも安価になり、品質も向上してきたため満を持して事業に乗り出した。同社は2年間で売り上げを実に10倍に伸ばしている。

同社の急激な成長を支えているのは、創立前から一緒にビジネスを作り上げてきた3Dプリンターやカスタマイゼーションに知見を持つパートナー企業たちである。同社の社員数は35名であるが、協業関係にあるスタートアップのメンバーを合わせると、60~70名程度になるという。

「我々のビジネスの本質は、様々なテクノロジーのピースを組み合わせ、顧客が抱えている課題を解決するソリューションを生み出すこと。世界には、AI・ビッグデータ・3Dプリンター・IoTなどの先端テクノロジーとそれらを使いこなす人材が多数存在する。ビジネス領域では、それらの技術や人材を組み合わせ、ソリューション化し、顧客に価値を提供できる役割が必要だ。我々は、実現しようとするソリューションを構築する上で、足りないピースを埋めてくれるような企業がいないかどうか、常にアンテナを張って探している。」とDaniel氏は述べる。

急激にビジネス環境が変化する時代において、一社のみで事業を展開しようとすると技術的な困難に直面し、多くの顧客の個別の希望に最適なソリューションを提供するには時間がかかり過ぎる事態を招く。事業展開にこれまで以上にスピードが求められる今日、自らのビジネスに必要なパートナー企業を見つけ、関係性を構築することがいかに重要かということが同社の成功からもいえるのではないだろうか。

図1 3Dプリンターにより製造されたメガネフレーム

図2 タブレットを使用し顔の3Dデータを撮影している様子

出所:YOU MAWOより提供

<Adidas、Carbon>

「マスカスタマイゼーション」「短納期」

【3Dプリンター×革新技術】

・Adidasはシリコンバレーに拠点を置く3Dプリント企業Carbonと協力し、従来の3Dプリンター技術を上回る技術を用い、3Dプリントスニーカーを製造。これまでの3Dプリンターのように上から素材のレイヤーを重ねていく積層造形法でなく、印刷面から上に向かって連続的にプリントしていくDigital Light Synthesis(デジタルライト合成)と呼ばれる手法により、既存のものと比べて10倍以上の速さでの製造を可能にしている。短納期化以外にも、3Dプリンターで作成するので、格子構造の配列を決定しているデータを少し変えるだけで、最適なミッドソールが作成できる。2018年中に10万足以上の生産を予定している。

<LAP Laser Applikationen>

「新たなソリューション展開」

【コア技術×他用途展開】

・ドイツで主に製造・建築・医療関連の業種へレーザー出力機器の製造・販売を行う同社は、レーザーを「測定」以外にも応用し、レーザーによる組立アシスタントシステム「Assembly Assistance System ASSEMBLY PRO」を提供している。同システムは、製品の組み立てに必要な作業情報データと顧客からの注文データをリアルタイムに紐づけることで、より効率的な組立指示をレーザーで投影し、組立作業をサポートする仕組みである。クライアントの様々な製品からデータを収集し指示するため、カスタマイズ製造に向いている。組み立て作業をする企業であれば規模の小さな工場でも比較的安価で導入可能であり、中小企業を含む新たな業種の顧客獲得に成功している。

②スマート物流

物流のスマート化に関しては、配送業者同士の連携・情報共有が少なく、また、人手の掛かる業務も依然多いなど、低い生産性を始め様々な課題が存在する。具体的には、倉庫業務・運搬業務の多くが人の手によって行われており、荷量の増加や労働人口の減少に対応しきれておらず、人手不足による倉庫業務の生産性低下やドライバー不足による輸送業務への支障などを引き起こしている。また、配送業者同士の連携・情報共有が少なく、それぞれの配送に使用可能な手段の選択肢が限定的であり、不必要なCO2を排出するとともに、Eコマース市場拡大による荷物の小ロット化・多頻度化などに対応できなくなっている。

このような状況の中、Connected Industriesのコンセプトの下でデータの利活用を積極的に進め、多くの事業者が互いに連携し、取組の可視化を図るとともに配送業務を極力自動化することなどにより、顧客の個別ニーズに対して最大限の対応を図ることが可能となることが期待される。

例えば、全体最適化を図るべく配送の全体的な流れを可視化して統合的な管理を実施することや、倉庫業務のあらゆる過程を自動化することで省人倉庫・無人倉庫を実現することなどが考えられる。さらには、より早く・安く・あらゆる場所に届けるためには、多くの事業者・手段を巻き込んだ配送の実現が重要となる。複数の事業者間でデータ連携を図り、サプライチェーンのデータをリアルタイムで分析することで、最適な配送手段やルートの選択、正確な配送予測などがリアルタイムで行えるスマート物流の実現が期待される(図134-2)。

図134-2 「スマート物流」のイメージ

資料:経済産業省作成

以下ではこのような社会に向けた先進的な事例を紹介する。

<アスクル(株)、(株)MUJIN>

「省人化」

【物流システム×ロボット】

・インターネット通信販売会社であるアスクル(株)は、知能ロボットコントローラを開発する(株)MUJINと協力し、物流センターのピッキング工程に導入するシステムを共同で開発。商品の置かれている状況や大きさ、形状を高速かつ正確に3次元で認識するシステムと、得られた情報を踏まえ、状況に応じて最適なロボットアーム軌道や動作を瞬時に生成するモーションプランニングAI技術により、多品種多様な商品の種類を認識し、その形状や大きさに合わせた商品のピッキングを可能にしている。同システムの導入により、最も多くの人員を必要とする商品のピッキング工程の省人化を進めている。

<Amazon>

「最新ロボットシステムと人との共存」

【可動式商品棚×自動搬送ロボット】

・同社では、ポッドとよばれる可動式の商品棚と、それを運ぶドライブとよばれる自動搬送ロボットからなる「Amazon Robotics」を一部物流拠点に導入している。ドライブが商品棚を作業員の前まで運ぶことで、作業者が移動する必要がなくなり、入荷した商品の棚入れ時間と、顧客の注文商品を取り出す時間の削減につながっている。また、作業者が入荷商品を適切な棚の空きスペースに入れられるようモニター上でガイドし、出荷時も注文商品が棚のどの場所にあるのか商品画像とともにガイドされるため、品揃えスピード向上と在庫保管効率の向上、さらに出荷スピードの向上にも寄与している。最新のテクノロジーと人とが業務を分担することで、間違いがなく正確で、迅速な出荷ができるシステムが構築されている。

<(株)ウェザーニューズ>

「物流経路や運航の最適化」「安全性向上」

【物流航路×船舶性能情報×気象・海上データ】

・同社は、船舶の安全性に加え経済性、環境性、定時制など多様化するニーズに応えるためのサービス「Optimum Ship Routeing(OSR)」を提供している。海運会社のニーズが多様化する中、同サービスでは、船舶ごとの燃料とスピードのパフォーマンス特性を解析し、航海で要求される到着時間、燃料節減目標を実現するための最適航路、最適エンジン回転数、予測される気象海上状況の情報と他の選択肢の検討とリスク情報を船長、陸上の運航担当者、そして同社が共有することで、航海の最適化を行う。現在、同サービスは、コンテナ船、自動車船、ばら積み船、タンカー船などあらゆる船種に対応し、約4,000隻にサービスを提供しているが、将来的には約10,000隻にサービスを展開する予定。

<豊田通商(株)>

「省人化」「安全性向上」「燃費向上」

【トラック×自動運転】

・同社では、通信及びセンサーなどにより、物理的に牽引することなく、後続車両が先行車両に追従することを可能にする電子連結システムの開発に取り組んでいる。同システムにより、2台目以降の後続車両は無人で隊列走行が可能となる。物流業界のドライバー不足は深刻化しており、同システムの活用により省人化、安全性向上が期待される。また、隊列走行時の空気抵抗は単独走行時より減少し、燃費改善による省エネルギー効果も期待されている。2018年1月、高速道路における後続有人隊列走行の実証実験を実施。

<楽天(株)、(株)ローソン>

「無人配達」

【配送×ドローン】

・2017年10月より半年間、福島県南相馬市で小型無人機「ドローン」を使った商品配送の試験運用を実施。同市内のローソン南相馬小高店が移動販売を行う際、楽天のドローン配送と連携し、移動販売車両に積み込めない温度帯の商品である、店内調理の唐揚げなどを店舗から2.7km先の移動販売先まで運ぶ。同店舗は東京電力福島第1原発事故による避難指示区域の指定が2016年7月に解除された同市小高区内において最初に営業を再開したコンビニエンスストア。専用車両のスタッフがドローン配送を対象とした商品の注文を受けると、連絡を受けた店舗スタッフが商品を専用の箱に詰め込む。楽天ドローンのスタッフは箱を受け取ってドローンに搭載し、移動販売先に向けてドローンを飛ばす。

<KDDI(株)、(株)プロドローン、テラドローン(株)、(株)ゼンリン、(株)ウェザーニューズ>

「モバイル通信を用いた自律飛行ドローン」

【モバイル通信×ドローン×運航管理×空の3次元地図×空の気象情報】

・KDDI(株)、(株)プロドローン、テラドローン(株)、(株)ゼンリン、(株)ウェザーニューズの5社はモバイル通信ネットワークを活用したドローン専用基盤「スマートドローンプラットフォーム」の商品化に向け、業務提携を実施。ドローン機体、運航管理システム、モバイル通信、空の3次元地図、空の気象情報を活用し、ドローンの長距離自律飛行を実現する。このプラットフォームにより、遠隔でのドローンの飛行指示、飛行状況監視、衝突回避に加え、ドローンが取得したビッグデータの蓄積、分析が可能となる。今後、インフラ検査や農業支援、配送、警備、災害救助などのソリューションの提供が見込まれている。

<ヤマト運輸(株)、(株)ディー・エヌ・エー>

「希望の場所・時間帯での荷物の受取」

【自動運転×保管ボックス】

・2017年ラストワンマイル配送の実用実験を実施。自動運転社会を見据えた次世代物流サービスの実現を目指した実験であり、神奈川県藤沢市の一部地区で実験的にサービスを開始。将来の自動運転車(無人)によるオペレーションを見据えている(現在の実験では自動運転車ではなく、ドライバーが運転)。サービス内容としては以下の2つ。①ロボネコデリバリー:対象地区のユーザーに宅急便を届けるサービスで、クロネコメンバーズの会員限定。最寄り駅や会社など、対象エリア内であれば、自宅以外の場所でも受け取りが指定可能で受取時間を10分単位で指定でき、指定可能な時間帯は他の顧客の配達予約状況によってリアルタイムに変化。Webから空いている時間帯を選択し、配送車が到着する3分前には、ユーザーの携帯電話に連絡が入る。車が到着すると、ユーザーは配送車に搭載された保管ボックスに、あらかじめメールで受信した2次元コードをかざすと扉が自動開錠し、ユーザーが自ら荷物を受領する。②ロボネコストア:対象地区の商店の商品を買い物代行するサービスで、ネットの専用ページから注文し、最短40分後に受取が可能。対象地区内で受取ることができれば、地区外から訪れたユーザーでも利用が可能。

<(株)ZMP、日本郵便(株)>

「自動走行宅配ロボット」

【自動走行×配送】

・自動運転の実用化で、安全で楽しく便利なライフスタイルの創造を目指す(株)ZMPは日本郵便(株)と連携し、自動走行宅配ロボット「CarriRo® Delivery」を用いた実証実験を福島県南相馬市で実施。CarriRo Deliveryは宅配ボックスを搭載し、カメラやレーザーセンサーで周囲環境を360度認識しながら最大時速6kmで自動走行する。郵便局やコンビニエンスストア、住宅などの拠点に荷物を配達し、遠隔監視・遠隔操作も可能。

海外事例

<Pirelli、Schrader Electronics>

「フリートマネジメント(業務用車両監視・管理)」

【タイヤ×センサー×ソリューション展開】

・イタリアのタイヤメーカーであるPirelliと英国の部品メーカーのSchrader Electronicsは、内部に空気圧や温度を検知するセンサーを設置したタイヤを開発。センサーから得られたデータを活用し、タイヤの保守サービスに加え、フリートマネジメント(業務用車両監視・管理)サービスを提供している。フリートマネジメントサービスにおいては、車両管理者・ドライバーにモバイルアプリを通じた走行データなどをリアルタイムで提供するとともに、Pirelli内にて技術者やマーケティング担当者がリアルタイムで異常情報や予測情報を監視する。リアルタイム監視による安全性の向上、車両の稼働率向上(ダウンタイムの削減)、TCO(総保有コスト)の最適化、タイヤメンテナンスコストの削減、燃料コスト・CO2排出量の低下など幅広い価値を実現している。

<Google X、Virginia Tech>

「無人配達」

【ドローン×配送】

・2017年6月ドローンを使った無人配達のプロジェクト「Project Wing」が、無人航空機システム(Unmanned Aircraft Systems, UAS)の航行管理に関するFAAとNASAが制定した一連のテスト(人間の操縦者のいない機が、荷物やそのほかの品物を大規模に自動化されているネットワークの一部として配達できるために欠かせない要件)を完了した。Project× Wingとは、Google Xやそのほかの企業が、数千機から成るドローンの編隊を運用し、荷物の配達などを実施するドローン宅配便計画。バージニア工科大学のテストサイトにて、1人の地上操縦士が3台のWingドローンを同時にコントロールし、それぞれのドローンが、別々の集荷と配達を行った。

<DHL、Polygon>

「無人自動配達」

【配送×ドローン】

・ドイツの輸送物流大手のDHLはドイツの設計エンジニアリング企業のPolygonの協力を得て、2016年5月、山岳地帯での3か月にわたる配達ドローンの実地試験を完了。自動配送ステーションを開設し、車では30分掛かる場所へ8分以内に荷物を届けた。標高1,200mの高山地帯にあるライト・イム・ヴィンクル地域とアルムという2か所に「スカイポート」を設置。スカイポートとは、同社が開発した「ドローン用の自動宅配ステーション」で、荷物を挿入すると、配送システムが起動し、ドローンが離陸。8km離れた他のスカイポートへと向かう仕組み。これらの地域に住む個人顧客は、ここで荷物を受け取ったり、ここから荷物を送ったりすることが可能となる。同様の実験をスイスポストやフランスのGEOポストも実施。

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